モン×モン
心のままに、自由に生きるとはどのような感覚なのだろう。オメガモンは一人、考える。考えて考えて、けれどこれまでずっと、ただの一度も答えに辿り着いたことなどなかった。そしてこの先も、答えを見つけることがないことだって、オメガモンはよく知っていた。
自由に生きるための強さも知識も、全て彼は持ち合わせている。きっと望めば、彼はすぐに自由になれる。だけれど彼の生まれた経緯が、それを許さない。いや、どうなのだろう。もしかしたら彼の主は、望めば許してくれるのかもしれない。だけれどオメガモンは、今以外の生き方を知らなかった。自由になりたいとも思ったことがないし、自由になったとして、何がしたいとも思わなかった。だから望まない。望んだ先の世界が分からないから。彼を自由から遠ざけるのは、いつだって彼自身だった。
けれどいつからだっただろうか。そんなオメガモンの手を引いて、先の世界を見せてくれる、真紅の赤。デュークモンは、いつもオメガモンの都合など何も考えず、その手を引いてしまう。強引で、ウイルス種らしい傲慢さがあった。けれどそれに苦言を呈したことすらあれど、嫌うことは終ぞなかった。誰にも気を許さなかった彼の中へ、いとも簡単にするりと入ってきてそこに居座った。どれだけオメガモンが彼を邪見に扱おうと、デュークモンは決してそこから動こうとはしなかった。いつも嬉しそうにオメガモンを見て、嬉しそうにその名を紡ぐ。そんな感情を、今まで一度だって向けられたことなどなかったから、オメガモンは困惑した。好かれる理由が見つからない。あるはずがない。他者を傷つけることしかできないような自分に、何故と。しかしだからこそ、デュークモンはオメガモンの側にいようとした。オメガモンは知らないのだ。彼という存在が、いかに相手を惹き付けるのかを。彼という存在が、どれほどの生き物に希望を与えているかなど。彼だけが知らない、彼だけの魅力だ。デュークモンはオメガモンがどう思おうと、何よりも彼のことを好いていた。コアの奥底から、彼を愛していた。本来デジモンとして抱くはずのないその感情を、デュークモンは一等大切にしていた。他者を愛せることの、なんと美しいことか。だからその手を引く。この広い世界を、彼の海のように透き通った瞳に映す。自己満足だと分かっていた。けれどそれの何がいけない?だって自分はウイルス種なのだ。欲に忠実でいることの、何がいけないというのだろう。どうせ主にだって咎められていないのだから、何をしてもいいはずだ。彼が嫌がらないうちは。
「.......お前はいつも自由気ままだな」
「羨ましいか?お前だってなれるというのに」
「…俺はいい」
早く、早く、自由を望んでほしいと思う。そうすればもっと、共にいられる時間だって増えるのに。自由の先が見えなくて不安なら、自分を無理やりにでも連れて行けばいいとさえ思う。デュークモンはそのために彼の隣にいるのだから。
それでもやはり、オメガモンは自由を望めない。先が怖いというだけではない、自身を側に置く主を裏切るような行為を、オメガモンは実行できない。まるでそうプログラムされているかのように、その根幹は揺らいではくれない。そしてそれこそ、オメガモンは怖かった。自由に生きるデュークモンと、自由を望まない自分は、いつかぶつかり合ってはしまわないだろうか。それだけは、避けて通りたかった。最初のころはあんなに迷惑だとすら思っていたのに、気付けば隣にデュークモンがいるのが当たり前になってしまった。そんな風に誰かを特別にすることなんて、ないと思っていた。もし進む道が違う時、彼はどうするのだろう。自身の前に立ち、そのグラムを向けるのだろうか。その時自分は、この剣を彼に向けるのだろうか。
(なんて、思っているんだろうなぁ)
俯くオメガモンに、デュークモンは苦笑を返す。彼は何事も難しく考えすぎる傾向がある。ただ目の前にある事実や感情だけを頼りに答えを探してみてもいいだろうに。だけれどデュークモンにとってはオメガモンのそんなところでさえ愛おしく思えてしまうのだ。彼と己が今の生き方をどちらも変えなければ、きっと彼が危惧しているようにいつか対立する日が来る。その時オメガモンは間違いなくデュークモンにその剣を向けるだろう。そんな未来が容易く想像できる。けれど自分はグラムを向けることもなければ、イージスを構えることさえしないだろう。デュークモンが思うままに生きる上で主が敵になるというなら、喜んで主の敵として前に立とう。けれどそれは相手が主の時の話であって、その相手は決してオメガモンではない。彼の敵になることだけは、絶対にない。デュークモンはそう断言できた。
「なぁオメガモン、お前が望まないうちは、私がいつまでも、この手を引こう」
お前がそれを許すなら、いくらでも連れ出してやろう。同じロイヤルナイツという肩書きだからではない。そんなものは建前に過ぎない。例えどちらかの立場が今と違うものだったとしても、デュークモンはオメガモンに出会っていた。そして同じように、その存在に魅入られて、手を引いてしまうのだ。だって運命だから。オメガモンという存在は、デュークモンにとってそれほどに大きい。もし彼が世界を拒めば、それこそ世界を消してしまえるほど。彼以上に大切で守りたいものなどどこにもなくて、デュークモンの世界など、オメガモンとそれ以外というくくりしかなかった。誰かはそれをウイルス種と呼んで危険視するのだろう。実際に他のロイヤルナイツからは、何度か言われたことがあるほどだ。オメガモンが世界を拒絶することないだろうになと思いながらデュークモンはその都度聞き流しているのだが。
「何も怖がらなくていい。何も、心配しなくていい。お前はそのままでいてくれれば、私はそれだけでいいのだ」
いつだって私という存在はお前と共にいる。いつの世でも、きっとデュークモンはオメガモンを見つけ出す。そうしてまた隣に図々しくも居座り続ける。どれだけのことを言われようと、他人に否定されようと。オメガモンの敵になってしまう未来だけは、絶対に来ないから。そんな未来は、心配するだけ無駄なのだ。
「私の正義は、お前のためだけにあるのだから」
お前以外のものなど、どうなってしまおうと、どうだっていい。
オメガモンはその言葉に何も返さない。その危うさを理解すれど、否定する言葉を持たない。全ての正義を自分のために捧げるというその言葉を、どうやって否定できようか。どこまでも無垢で、どこまでも残酷だ。だって彼は、ウイルス種だ。感情の根底が、自分とは違うのだ。
(…けれど、その言葉に安心してしまうのだから)
種族の違いなど些細なことでしかないのだなと、オメガモンは小さく息を吐いてその場をやり過ごすしかなかった。
自由に生きるための強さも知識も、全て彼は持ち合わせている。きっと望めば、彼はすぐに自由になれる。だけれど彼の生まれた経緯が、それを許さない。いや、どうなのだろう。もしかしたら彼の主は、望めば許してくれるのかもしれない。だけれどオメガモンは、今以外の生き方を知らなかった。自由になりたいとも思ったことがないし、自由になったとして、何がしたいとも思わなかった。だから望まない。望んだ先の世界が分からないから。彼を自由から遠ざけるのは、いつだって彼自身だった。
けれどいつからだっただろうか。そんなオメガモンの手を引いて、先の世界を見せてくれる、真紅の赤。デュークモンは、いつもオメガモンの都合など何も考えず、その手を引いてしまう。強引で、ウイルス種らしい傲慢さがあった。けれどそれに苦言を呈したことすらあれど、嫌うことは終ぞなかった。誰にも気を許さなかった彼の中へ、いとも簡単にするりと入ってきてそこに居座った。どれだけオメガモンが彼を邪見に扱おうと、デュークモンは決してそこから動こうとはしなかった。いつも嬉しそうにオメガモンを見て、嬉しそうにその名を紡ぐ。そんな感情を、今まで一度だって向けられたことなどなかったから、オメガモンは困惑した。好かれる理由が見つからない。あるはずがない。他者を傷つけることしかできないような自分に、何故と。しかしだからこそ、デュークモンはオメガモンの側にいようとした。オメガモンは知らないのだ。彼という存在が、いかに相手を惹き付けるのかを。彼という存在が、どれほどの生き物に希望を与えているかなど。彼だけが知らない、彼だけの魅力だ。デュークモンはオメガモンがどう思おうと、何よりも彼のことを好いていた。コアの奥底から、彼を愛していた。本来デジモンとして抱くはずのないその感情を、デュークモンは一等大切にしていた。他者を愛せることの、なんと美しいことか。だからその手を引く。この広い世界を、彼の海のように透き通った瞳に映す。自己満足だと分かっていた。けれどそれの何がいけない?だって自分はウイルス種なのだ。欲に忠実でいることの、何がいけないというのだろう。どうせ主にだって咎められていないのだから、何をしてもいいはずだ。彼が嫌がらないうちは。
「.......お前はいつも自由気ままだな」
「羨ましいか?お前だってなれるというのに」
「…俺はいい」
早く、早く、自由を望んでほしいと思う。そうすればもっと、共にいられる時間だって増えるのに。自由の先が見えなくて不安なら、自分を無理やりにでも連れて行けばいいとさえ思う。デュークモンはそのために彼の隣にいるのだから。
それでもやはり、オメガモンは自由を望めない。先が怖いというだけではない、自身を側に置く主を裏切るような行為を、オメガモンは実行できない。まるでそうプログラムされているかのように、その根幹は揺らいではくれない。そしてそれこそ、オメガモンは怖かった。自由に生きるデュークモンと、自由を望まない自分は、いつかぶつかり合ってはしまわないだろうか。それだけは、避けて通りたかった。最初のころはあんなに迷惑だとすら思っていたのに、気付けば隣にデュークモンがいるのが当たり前になってしまった。そんな風に誰かを特別にすることなんて、ないと思っていた。もし進む道が違う時、彼はどうするのだろう。自身の前に立ち、そのグラムを向けるのだろうか。その時自分は、この剣を彼に向けるのだろうか。
(なんて、思っているんだろうなぁ)
俯くオメガモンに、デュークモンは苦笑を返す。彼は何事も難しく考えすぎる傾向がある。ただ目の前にある事実や感情だけを頼りに答えを探してみてもいいだろうに。だけれどデュークモンにとってはオメガモンのそんなところでさえ愛おしく思えてしまうのだ。彼と己が今の生き方をどちらも変えなければ、きっと彼が危惧しているようにいつか対立する日が来る。その時オメガモンは間違いなくデュークモンにその剣を向けるだろう。そんな未来が容易く想像できる。けれど自分はグラムを向けることもなければ、イージスを構えることさえしないだろう。デュークモンが思うままに生きる上で主が敵になるというなら、喜んで主の敵として前に立とう。けれどそれは相手が主の時の話であって、その相手は決してオメガモンではない。彼の敵になることだけは、絶対にない。デュークモンはそう断言できた。
「なぁオメガモン、お前が望まないうちは、私がいつまでも、この手を引こう」
お前がそれを許すなら、いくらでも連れ出してやろう。同じロイヤルナイツという肩書きだからではない。そんなものは建前に過ぎない。例えどちらかの立場が今と違うものだったとしても、デュークモンはオメガモンに出会っていた。そして同じように、その存在に魅入られて、手を引いてしまうのだ。だって運命だから。オメガモンという存在は、デュークモンにとってそれほどに大きい。もし彼が世界を拒めば、それこそ世界を消してしまえるほど。彼以上に大切で守りたいものなどどこにもなくて、デュークモンの世界など、オメガモンとそれ以外というくくりしかなかった。誰かはそれをウイルス種と呼んで危険視するのだろう。実際に他のロイヤルナイツからは、何度か言われたことがあるほどだ。オメガモンが世界を拒絶することないだろうになと思いながらデュークモンはその都度聞き流しているのだが。
「何も怖がらなくていい。何も、心配しなくていい。お前はそのままでいてくれれば、私はそれだけでいいのだ」
いつだって私という存在はお前と共にいる。いつの世でも、きっとデュークモンはオメガモンを見つけ出す。そうしてまた隣に図々しくも居座り続ける。どれだけのことを言われようと、他人に否定されようと。オメガモンの敵になってしまう未来だけは、絶対に来ないから。そんな未来は、心配するだけ無駄なのだ。
「私の正義は、お前のためだけにあるのだから」
お前以外のものなど、どうなってしまおうと、どうだっていい。
オメガモンはその言葉に何も返さない。その危うさを理解すれど、否定する言葉を持たない。全ての正義を自分のために捧げるというその言葉を、どうやって否定できようか。どこまでも無垢で、どこまでも残酷だ。だって彼は、ウイルス種だ。感情の根底が、自分とは違うのだ。
(…けれど、その言葉に安心してしまうのだから)
種族の違いなど些細なことでしかないのだなと、オメガモンは小さく息を吐いてその場をやり過ごすしかなかった。