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モン×モン

盟友とは、固く誓い合った友のことを言う。私、このデュークモンとオメガモンも、共にロイヤルナイツとしての誇りを胸に盟友の誓いを語った仲だ。イグドラシルへの忠誠を誓い、その命に従い、共に戦ってきた。

そこに、別の感情が伴い始めたのはいつからだっただろうか。盟友という括りだけでは収まらないような、それ以上の何か。この感情に名前を付けるべきなのか、それともまだ気付かぬふりを続けるべきなのか。長い間、随分と迷った末に隠す道を選んだ。それが私とオメガモンにとって最良の道だと思った。

「……判断を見誤ったか」

そう、思わざるを得ない。
イグドラシルの命によりプロジェクトアークが発動された今、我らロイヤルナイツはその命に従い動かなければならない。プロジェクトを進めるのは、イグドラシルではなくロイヤルナイツの役目だ。だが、このプロジェクトアークを、そう簡単に受け入れられるはずもなかった。異分子であるX抗体を持つデジモンを抹消すること。それだけに留まらず、全デジモンを抹消するにまで至ったプロジェクトアーク。イグドラシルに忠誠を誓う身としてその命には従わなければならないのだろうが、生きたいと願う異分子を消すことが本当に正しいことなのか、それはこのデュークモンにはわからなかった。対照的に、オメガモンは命令に忠実に動いた。そこに一切の迷いはない。マグナモンと並び、彼はロイヤルナイツである誇りを最も抱いていると言っても過言ではない。イグドラシルが間違うことはないと、盲目的に信じている節がある。
イグドラシルの真意がどこにあるのか。異分子だけに飽き足らず全デジモンを消すその意味はなんなのか。それを知らなければならない。そのためにどう動くべきなのかは、すでに見当がついている。あまり実行に移したくはないが、そんな悠長なことも言っていられないだろう。だから、判断を見誤ったと思ったのだ。これから私が彼にさせようとしていることは、恐らく彼には苦痛を強いるだろう。そこに確かな友情があればの話ではあるが。少しでも心を痛め、迷いを感じてくれたならそれほど嬉しいことはないと思ってしまうのも事実だ。もし仮にデータの海から帰還できなかった時、私とオメガモンの関係はそこで完全に絶たれるだろう。しかも最悪な形で。

「……後悔しても、致し方あるまい」

己の感情と世界を天秤にかけるなど、ロイヤルナイツにあるまじき行為だと我ながらに呆れた。



***



プロジェクトアークの真意、そしてイグドラシルの真意。アルファモンから受け継がれたX抗体によってオメガモンXへと姿を変えた彼から事の顛末を聞き、ようやくその全てを理解した。生きたいと願う意思は、デジモンたちも我が君イグドラシルも変わらなかったのだろう。プロジェクトの進行により酷く閑散としてしまった世界を眺めながら、それでも未来を感じさせる小さな者たちへ希望を抱く。その傍、同じように世界を見つめるオメガモンは、すっかり肩の荷が降りたような、憑き物が落ちたような穏やかな表情をしていた。一体アルファモンとどんな会話をしたのか。イグドラシルに終止符を打ったのはオメガモンだと言うし、私との戦闘の後、何か心境の変化を与えることができたのだろうか。

「…デュークモン」
「ん?」

盗み見るようにその姿を見つめれば、オメガモンが何処か気まずそうに名前を呼ぶ。小さく返事を返してもオメガモンは少し俯いたまま顔を合わせようとしない。先の戦闘を気にしているのだろうか。もしそうなら、不謹慎ではあるが少し、いやかなり、嬉しいかもしれない。私自身は必ず戻ってくるという意思があり、その確信があったものの、オメガモンはそうではない。こうして再会を果たすまで、もしくはアルファモンから私の話を聞くまで、私を殺してしまったと思っていたはずだ。

「…お前は、戻ってくることがわかっていたのか」
「…あぁ、そのことか。そうだな、万一の可能性もあったが、私は戻ってくるつもりだったさ」
「……やはり敢えて攻撃を受けたのだな」

一度交えた視線をもう一度下へと下げる。
真意を知るためには、データの海へ飛ぶ必要があった。そのためにオメガモンとの戦闘で、敢えてその攻撃をこの身に受け、私は他でもないオメガモンの手で、オメガモンの目の前で一度死んだのだ。他に手段があるなら迷わずそちらを選んだ。オメガモンの手を煩わせることなど本当はこの私が一番したくなかった。そうするしか方法がなかったからそうしただけで。

「お前には手を煩わせたなぁ」
「その通りだ。おかげで俺は初めてイグドラシルを疑うことになった」
「…私が消えた後、迷ってくれたのか」

内心で湧き上がる感情を殺しながら尋ねれば、オメガモンはようやく顔を上げた。

「迷ってくれた、だと?貴様本気で言っているのか」
「む、気分を害したか?すまないな」
「……俺はお前とそんなに軽い気持ちで盟友を誓ったわけではない」

限りなく小さな声で、絞り出すように言われたその言葉にこちらが不意をつかれた。よもやそんな風に言われるなどと誰が予想できただろう。基本的に感情を表に出す事のないオメガモンが、目に見えてこちらを強く睨んでいる。私とて軽い気持ちでオメガモンと盟友の誓いを交わしたわけではないし、そこに芽生えた感情はそれだけではない。だが、まさかオメガモンにもそのように返してもらえるとは思っていなかった。たったそれだけでも、私の選択は正しかったと思えてしまう。友に自分を手にかけさせるなど咎められるべき行為だが、これだけで、随分意味のある行為だったと思えてしまう。

(…さすがに、それを言って仕舞えば盟友ではなくなりそうだ)

まだもう少しこの世界が落ち着くまでは、この関係を続けてもいいだろう。オメガモンも、きっと今はまだ関係を変える余裕はないはずだ。

「お前にはすまないことをしたと思っている」
「そう思っているなら……今度からはちゃんと言葉にしろ」

表情から感情は全く読み取れないくせに、まったくこの盟友はその瞳を見れば大凡の感情がわかってしまうから困る。本人にはきっと自覚はないのだろう。自覚があるというならタチが悪い。
思った以上に自分の死が影響を与えてしまったらしいオメガモンに容易く気を良くしてしまう。笑みが溢れそうになるのは抑えられているだろうか。私には泣いてしまいそうに見えるその顔に手を伸ばそうとして、今はまだその時ではないと留まった。けれど、以前のように別の道を選ぶのはもうやめよう。新しいこの世界で、ずっと共に生きていけるという保証はどこにもない。今回のプロジェクトでそれは嫌という程知ってしまったから。

「…そうだなぁ、ちゃんと、言葉にせねばなるまいな」
「…デュークモン?」
「わかっている。心配するな、今度からは、ちゃんと伝えよう」

本来伝えるべきではないのだろうこの感情を、抑え込むのはもうやめてしまおう。

「だからその時は、お前こそちゃんと受け止めてくれ。オメガモン」

このデュークモン、こんなにもそなたのことを好いているのだから。
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