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君たちみたいになりたい

「ヤマトは太一が好きだから守りたいの?」
おかしい、最初に質問していたのは確かに俺で、そもそもガブモンとのことを聞くためにこうしてお互いのパートナーと二人きりになっていたはずなのに。アグモンは不思議そうな顔で首を傾げて俺をじっと見つめた。


ガブモンとアグモンが俺や太一に背中を押されて付き合い始めて数日。特にこれといって変化が見られるわけではないし周りもどうやら気が付いていないようだが、よくよく見てみれば今までよりもどことなく距離が近いように感じるし、気づけばガブモンはアグモンの話ばかりしているから、きっと良好な関係を築いていけているのだろう。俺が少しばかり不甲斐ないばかりに俺のことばかり心配して考えて寄り添ってくれていたガブモンに、他にも大切にしたいと思うものが増えたのは素直に喜ばしいことだと思う。俺と太一のように喧嘩をするわけでもないし、俺の心配もこれでは無用だったかなと思った。
恩恵は俺と太一にもあった。まず第一に、喧嘩が減った。というのも俺と太一が一緒にいる時は大抵ガブモンとアグモンも一緒にいるし、太一は一等アグモンを可愛がっている節があるのでそちらばかり見ているのだ。これには少し妬けてしまうけれど、俺もついついガブモンのことを見てしまっているし、何よりパートナーたちが幸せそうなその横でわざわざ喧嘩しようとも思わなかった。さながら子供を見守る親のような感覚である。
けれど一つ、俺は気になることがあった。
『ガブモン、なんでアグモン好きになったんだろうな』
それは多分、ずっと気になっていたことだった。別にどうしても知りたいというほどではなかったにしても、だ。聞いていた太一にはパートナーなのにそれすら教えてもらってないのかよ、なんてからかわれて唸ったが、引き下がるのも癪だったので同じ言葉を返してやった。太一はそういえばそうだな、みたいな反応をするだけだったのであまり面白くはなかったが。
だからこうやって普段は絶対ないだろう組み合わせで、デジタルワールドの一角で隣に座り合ったりなんかしているのだ。風が吹き抜けて、草の香りがした。最初はどうしてアグモンがガブモンの想いに応えたのかと聞いていたはずだったのだが、どういう流れか今は俺が聞かれている。
「…好きだから、ていうか」
「ちがうの?」
「違くもないが…難しいこと聞くんだな」
「そう?」
何が難しいのか全くわかっていないかのように相変わらず首を傾げるアグモンに、俺は苦笑いを返すほかない。好きだから、と聞かれるとどうだろうかと答えに困ってしまう。別に守りたいと思うのは好きだからとかそういうわけではなくて、もしそこに恋愛的な意味での好意がなかったとしても、仲間として親友として、俺は太一を守りたいと思うだろう。だからこそ、答えるのが難しい。
「…ガブモンは、僕に笑っててほしいんだって」
「え?」
「どうして僕なの?って聞いたら、ちょっとだけ教えてくれたの。笑ってる僕が好きで、それを守りたいんだって」
「ガブモンがそんなことを…」
初めて聞いた。ガブモンがどうしてアグモンを選んだのか、好きになったのか。それとなく聞いたことは何度もあるけれど、あいつは恥ずかしがり屋な一面があるから、どうしても俺には教えてくれなかった。さすがに俺も無理矢理聞き出すなんてことはできなかったから深く追求しなかったが、まさかアグモン本人から聞くことになるとは。
「でも僕、守られなきゃいけないほど弱いとは思ってないよ」
「…アグモン」
言われてふと思い出した。同じようなことを、太一にも言われたことがある。守りたいのだと伝える時、太一はいつもいい顔をしない。守られるほど弱くねぇよ、なんて吐き捨てて、話題を逸らそうとする。パートナー同士はよく似ると聞くが、太一とアグモンを見ていると確かにそうだなと思う。行動も思考も、本当によく似ている。
「…僕が、暴れちゃったからなのかなぁ」
「そ、れは」
「僕はあんまり覚えてないけどね、あれから、ガブモンよくいっしょにいてくれるようになったなって思うし。守られるほど弱いとは思ってないけどね、でも、僕もきっとわるかったのかなって。ヤマトもそう?ヤマトが太一を守りたいって思うのは、同じ理由?」
アグモンがここまで本心を俺に打ち明けてくれたのは初めてではないだろうか。そしてアグモンの本音は、そのまま太一の本音でもある。ああ、俺が守りたいって、あいつの気持ちもよく考えないでそう言うたびに、太一はこんな風に思っていたのか。
「…アグモン、俺は、俺が太一を守りたいのは、好きだからじゃない。単純に、仲間が傷つく姿は見たくないだけなんだ。別にただ、俺に守られてればいいなんて思ってないよ」
「…そうなの?」
「ああ。そうだな、なんて言えばいいか…背中を守りたいんだ。一緒に立って、俺はあいつを守りたいし、俺はあいつに守ってほしい。お互いに必要でいたいだけなんだ。多分、俺と同じでガブモンもそうだと思う」
別に俺だって、太一は俺が守ってやらなきゃいけないほど弱いとは思っていない。ともすればきっとあいつのほうが俺よりよほど強い。だけど傷つく姿は見たくないから。どうせ代われるなら代わりたいと思うほどに、傷ついてほしくないから。それは好きだという気持ちよりずっと前からあったもの。きっかけは確かに太一やアグモンにあったかもしれないけれど、それらはあくまできっかけにすぎない。伝わっているだろうか、俺はガブモンのようにうまく言葉を紡ぐのは得意ではないから。
「…僕もね、守られるだけじゃなくて、僕だって、ガブモンを守りたいの。だから守りたいって言われると、ちょっとだけくるしかったんだけど。そっか、それなら、うん、いいや」
アグモンが安心したように笑う。きっとずっと不安だったのだ。そうか、太一もこんな風に思ってくれてたんだな。アグモンと話してよかった。話を聞けてよかった。アグモンは太一に似なくていいところまで全部似ていて、自分からこういうことを話そうとしないから。太一もそれを随分気にしているようだったから。アグモンに、ガブモンがいてよかった。そして。
「アグモン、ガブモンを好きになってくれてありがとな」
「ううん、僕もさいしょは好きってよくわかんないままガブモンといっしょにいたけど、ヤマトのおかげで、僕もたくさんガブモンが好きだってわかったから。ありがとう」
屈託なく笑ってそう言うアグモンを、衝動に任せて抱きしめる。ガブモンのように毛皮を持っているわけではないから触れた感触は随分と違うけれど、それでもガブモンと同じ、温かい。アグモンの温かさで、そしてそれは同時に太一の温かさだ。目頭が熱く感じる。泣いているのだろうか。でもきっと悲しいからではない。嬉しいときだって、涙は出るのだ。

「アグモン、ガブモンをよろしくな。あいつに守られて、そして、守ってやってくれ」
「うん、わかってるよ。ヤマトも、僕がいない時は太一を守ってね。そして、太一にちゃんと守られてね」
「お前がいない時じゃないといけないのか?」
「太一を守るのは僕だよ」

間髪入れず答えるアグモンに思わず笑ってしまう。
まったく、どこまでも太一に似てるにもほどがある!
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