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君たちみたいになりたい

「ガブモンはさ、アグモンのどこが好きになったんだ?」

ヤマトと内緒で話し合ってわざわざお互いのパートナーデジモンとの時間を作り、それまでの話の流れをぶった切るようにそう問えば、ガブモンはわかりやすくその顔を真っ赤に染めて見せた。




アグモンとガブモンが俺やヤマトのアドバイスでようやく付き合い始めて数日。相変わらず目立った変化はないし周りも全然気づく様子はないが、当の本人たちはどことなく距離が近いし相手がいない場所ではいつも相手の話をするし気づけばその姿を探すようにキョロキョロし出すので、まぁ良い関係を築いていけているのだろう。俺と言えば、今までだって十分可愛かったパートナーがますます幸せそうに笑って可愛くなるもんだからガブモンに感謝してもしきれない。アグモンを泣かせるようなことがあればどうしてやろうかとも思っていたけれど、どうやらこの様子ではいらない心配だったみたいだ。
そんな中で俺とヤマトも一緒にいることが増えて、喧嘩も前より減ったような気がするから、これもアグモンとガブモンのおかげなのだろう。あの二人のようにずっと笑って幸せそうで、みたいな関係にはならないだろうけど、一緒にいるだけで心地がいいから、俺はそれでいい。
わいわいと戯れるアグモンとガブモンを少し離れたところで眺めながら、ヤマトは唐突に俺に聞いた。


『ガブモン、なんでアグモン好きになったんだろうな』


それは多分本当になんとなくそう思ったから零れた言葉だった。パートナーなのにそれすら教えてもらってないのかよ、なんてからかえば、ヤマトはしかめっ面で、じゃあお前は知ってるのかよなんて聞くから、そういえば俺もアグモンが幸せそうで満足していたから聞いたことなかったなと思い出した。確かに言われてみれば、気になるかもしれない。
だからこうやって普段は絶対ないだろう組み合わせで、デジタルワールドの一角で隣に座りあったりなんかしているわけだ。風が吹き抜けて、ほんのり草の香りがする。

「真っ赤になっちゃって、お前もかわいいなぁ」
「か、からかうなよぉ!」
「あはは!ごめんごめん。で?どこが好きなんだよ?俺にくらいは教えてくれたっていいだろ?」
「う、ぅうん…誰にも言わない?」
「うんうん、言わねぇから」

ガブモンは基本的に恥ずかしがりやなところがあるから、アグモンとはまた違った可愛さがある、なんてくだらないことを考えながら嘘くさく頷いてやる。ヤマトには言ってしまうかもしれないけど、多分それくらいなら許してくれるだろう。ガブモンは俯いて顔をもっと赤くして、しばらく唸りながら、やがて決心したように一つ大きく息を吐いた。

「…かわいい、とことか」
「あーそれはわかる、アグモンかわいいよなぁ」
「すごく、素直でしょ。それで、いつも楽しそうで……」
「…ガブモン?」

そこまで言葉を紡いで、ガブモンは言葉を一度詰まらせた。さっきまでの恥ずかしがっている様子はなくて、何だか少し、言いにくそうだ。

「…あのね、だから、いつも笑っていてほしいんだ」

ガブモンが顔を上げる。その瞳はどこまでも真剣だ。

「まだデジモンカイザーがいた時、アグモンが操られちゃったでしょ」
「…え、あぁ、そうだな」

びっくりした。あまり思い出したくない苦い記憶。それと、どう話が繋がるというのだろう。なんとなく、多分これは、俺も真剣に聞いてやらなきゃいけないことだと思った。そして、俺に大きく関係していることだとも。

「これはヤマトには絶対言わないでほしいんだけど、あの時、なんで僕じゃないんだろうって思った」
「…は?」
「なんでアグモンばっかり傷つかなきゃいけないんだろうって思った。代わってあげたかった。ああなる前に助けてあげられなかったこと、俺、まだずっと後悔してる」

それは、初めて聞くガブモンの本音。あの時、アグモンがイービルリングやイービルスパイラルで操られてしまった時、俺は俺自身が一番取り乱して周りがどんな顔をしていたのかとか、正直あんまり覚えていなかった。見えていなかったと言った方が正しいかもしれない。あの時はヤマトのおかげで俺は冷静になれたけれど、そうだ。もしガブモンがあの時からアグモンが好きだったのなら、アグモンを攻撃しなければならなかったあの時、倒さなければいけないかもしれなかったあの時。どんな思いで、戦ってくれたのだろう。知ろうともしなかった。今までずっと。確かに、これはヤマトには絶対に言っちゃいけないことだ。代わってあげたかったなんて、あいつはきっと怒る。

「あの時はね、まだあんまり好きだなぁとか、よくわからなかったんだ。でもあの後、絶対俺が守ろうって思った。太一たちがいる時はアグモンも俺も強くなれるけど、一緒にいない時は、俺がその隣にいてあげたいって、思ったんだ」

そう言って、今更少し照れ臭そうに笑うガブモンの姿が少しぼやける。ああ、もしかして俺、泣きそうなのかな。なぁアグモン、お前、本当に愛されてるんだなぁ。
ガブモンは全部言ってくれた。なら、俺もちゃんと言おう。俺が思ってることも、ガブモンへの感謝も、ちゃんと伝えよう。

「なぁ、ガブモン。俺言わなかったけどさ、お前がアグモンのこと好きだって聞いた時、俺、すっげぇ嬉しかったんだぜ」
「…そうなの?」

ああそうだ。これは今まで誰にも言わなかったこと、言えなかったこと。でも、ガブモンだけにはちゃんと知っていてほしい。

「アグモンは、あんまり自分から相談とかしないだろ。軽い話ならともかく、苦しいとか辛いとか、言わないだろ」
「…うん」
「…多分、俺に似ちゃったんだろうなって思うんだ。アグモンは、俺に似なくていいとこまで全部似ちまった」

俺だってちゃんと自覚している。自分があまり周りに相談していないこと。何か悩んでも、自分の中にため込んで勝手に抱え込んで、そして勝手に自己完結させている。わかっている。ヤマトにも散々もっと頼ってくれと言われたし、光子郎にも怒られたことがある。みんなは俺が分かっていないと思っているみたいだけど、俺、ちゃんとわかってるんだ。わかっていて、それでもそれを直そうとしないんだ。それでいいと思っていた。だけどアグモンまでそうやって抱え込むようになっていることに気づいた時、俺は初めて後悔した。どうしてその可能性を少しも考えなかったのだろう。一番長く一緒にいるアグモンが、俺の影響を受けないはずがないのだ。そう気づいた時には、もう俺もアグモンもどうしようもなかった。
だから、嬉しかった。
確かに俺は抱え込んでしまうけど、それでも俺にはヤマトがいてくれる。パートナーとはまた違う、支えてくれる存在がいる。ならアグモンは?俺が傍にいる時は俺が気付いてやれる。だけど俺がいない時、もしアグモンに何かあったら、誰がその本音を掬い上げてくれる?

「アグモンにも、俺にとってのヤマトみたいな存在がいてほしいって、ずっと思ってた。だから本当に、嬉しいんだ」
「…太一」

堪えていた涙が、我慢できずに流れ零れていく。情けない姿は見せたくなかったのに、それでも、ガブモンの本心が、俺はこんなにも嬉しい。
泣きながら笑う俺に、ガブモンは少し戸惑う素振りを見せて、その後遠慮がちに俺のことを抱きしめてくれた。頬に毛皮が当たって少しくすぐったい。

「なんだよ、俺はヤマトじゃないぞ」
「わかってるよ、わかってるんだ。でも、いいじゃない」
「ほんと、お前さぁ…いいとこばっかヤマトに似やがって」

アグモン以外とこんな風に抱き合ったりしたことはなかったけれど、ガブモンも、アグモンみたいに温かい。こんな風に泣きそうになるくらい優しいところは、本当にヤマトにそっくりだ。アグモン、今頃ヤマトとどんな話してるんだろう。泣かされたりしてないかな。後で合流した時、アグモンもヤマトも俺の目が腫れてるの見たら、びっくりするだろうなぁ。

「なぁガブモン」
「なぁに、太一」
「…アグモンのこと、誰より笑顔にしてやってくれな」
「…言われなくても、そのために一緒にいるんだよ」

ああ、そうだったなぁ。
なぁ、アグモン。お前、ほんっとに、よかったなぁ。俺以外にも、俺と同じくらい、お前の笑顔を守りたいって思ってくれるやつがいてくれて。そのために一緒にいたいって言ってくれるやつがいて。


(アグモン、俺たち、すっげぇ幸せもんだなぁ)



あんまり幸せすぎて、涙が止まらないったらありゃしない!
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