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君たちみたいになりたい

『ガブモンがアグモンのこと好きらしい』

突拍子もなくそんなメールがヤマトから届いたのはほんの少し前のこと。最初はなんの冗談かと思ったが、それ以来よくよくガブモンやアグモンを観察していると、なるほど確かに、ガブモンはアグモンに好意を寄せているようだった。それは例えば距離感だとか会話の間だとか、注意深く見ていないとわからないくらいの些細な変化ではあったが、確かにそこには明確な好意が混ざっていた。肝心のアグモンは、何もわかっていないようだったけど。

デジモンというのは、実はちゃんと性別があるわけではないらしい。さらに言えば、恋愛感情を抱くデジモンもごく稀なんだとか。いつか光子郎から聞いたそんな話をふと思い出す。別に性別があろうがなかろうがアグモンたちが大事な仲間なのは変わらないし、なんとなく会話の中で女子寄りなのか男子寄りなのかはわかっていたからあんまり気にしたことはなかった。恋愛感情云々も、そりゃあ生きてるんだからそういうやつがいたって別に変じゃないだろう、くらいしか思ってなくて、だからガブモンがアグモンに好意を抱いたことに、俺は大きなリアクションは取らなかった。
アグモンとガブモンは、他のパートナーデジモンたちよりほんの少しだけ特別だ。ヒカリやタケルのおかげで、唯一究極体にまで進化できる。だから自然と他のパートナーたちよりも距離は近かったのだろう。俺とヤマトもそうだ。散々ぶつかりまくって正反対な性格をしていたけど、やっぱり2人だけの特別というのがあると意識せざるを得ない。冒険を終えて少し余裕の出てきたヤマトから、冒険の間のことを何度か申し訳なさそうに語られたことがあったけど、俺はなんでヤマトがそんな申し訳なく思うのかよくわからなかった。だって俺、ヤマトが俺にだけは常に本音をぶつけてくれるのが嬉しかったんだ。一応リーダーなんて言われていたけど、隣に立ってくれるやつがいてくれて嬉しかった。


『ヤマトはそのままでいいよ。俺、ヤマトとケンカするの嫌いじゃないんだ。本音でぶつかってる感じがしてさ』


だから思っていたことをそのまま伝えた時、まさかヤマトにキスされるなんて思ってなくて一瞬びっくりして、だけど不思議と嫌ではなかったから、俺はそのままヤマトを受け入れた。俺とヤマトの関係は、そうやって本当にその時の流れで始まったものだ。

「…ああ、だからガブモンあんなに頑張って伝えてんのか」

なんとなくわかった。多分ガブモンは最初にヤマトに相談したはずだ。現にヤマトから俺にそうメールが来たんだから。なら、ヤマトは多分、俺たちみたいにその場の流れで関係を始めさせたくないと思ったんだろう。相変わらずわかりやすい。あんなに俺が過程より結果だって教えてやってるのに。
今のところ周りはまだ気づいている感じはなくて、俺とヤマトしか気づいてないのだろう。最近の様子を見ると、アグモンに本当に伝わっているのかどうかも少し不安だ。

「ねぇたいちぃ」
「んー?」

美味そうに母さんが作った飯を食いながらアグモンが俺を呼ぶ。可愛いやつだなぁと口元に付いているご飯粒をわざわざ取ってやれば、アグモンはくすぐったそうに笑った。俺のパートナー、ほんとにかわいいやつだな。

「あのねぇ、ガブモンがね」
「……なぁアグモン」
「…どうしたの?」

そういえば、とふと気づく。最近のアグモンは、と言っても毎日会えるわけではないけど、ガブモンと一緒にいることが多いからなのかよくガブモンの話をする。他のデジモンたちの話ももちろんしてくれるしアグモン自身の話もしてくれるけど、そうは言ったって、ガブモンの名前が出てくる頻度があまりにも高い気がする。
アグモンは、実を言うとあんまり俺に相談事とかはしてこない。俺自身もアグモンに相談する機会があんまりないから言えないけど。助けを求めることはあっても、それは俺の力が必要になった時だけだ。そう言う意味では、ガブモンの方が素直なのかもしれない。だからもしアグモンがなにかを悩んでいるとしたら、俺が気づいてやらなきゃならない。そしてこれはただの勘でしかないけど、多分アグモンは。

「お前、ガブモンの気持ちわかってるんだろ」
「……たいちぃ」
「そんな顔したって無駄だぞ」

不満そうな顔をして随分甘えるような声で名前を呼んでくるが、そんな方法使ったって俺には効かないからな。あとで美味いもん食わせてやろう。
アグモンはまさに花より団子って感じで食い気が何より最優先だけど、だからといって相手の気持ちを全くわかってやれないようなやつじゃない。あれだけガブモンが必死に伝えているのに、まさか微塵も伝わっていないなんてあり得ない。だってそうじゃなきゃ、アグモンはあんなに嬉しそうな顔をしてガブモンの名前を呼んだりしない。

「……でも、ぼく」
「なんだよ、好きなら好きでいいじゃん。めでたく両思いだろ?」
「でも僕の一番は太一だもん」
「……おっまえ、ほんとさぁ」

しゅんとして俯きながらとんでもないことを言われた。くそ、このテーブルがなければ今すぐ抱きしめてやれるのに。

「そんなの、ガブモンだってヤマトが一番だろ」
「そうなの?」
「そうだよ。ヤマトだって多分俺とガブモンだったらガブモンが一番だろうし、俺もアグモンとヤマトだったら絶対アグモンが一番だ」
「ほんと?うれしいなぁ」

そうだよ、だって俺たちは唯一無二のパートナーなんだ。ヤマトには悪いけど、もしヤマトとアグモンどっちかしか選べなかったら、俺は迷わずアグモンを選ぶ。別に好きだからって一番である必要なんかない。そこに確かに気持ちがあるなら、きっとそれだけでいいはずだ。

「ガブモン、ずっと伝えてくれてるだろ。全部無視しちゃさすがに可哀想だぜ?」
「…うん、そうだよね。僕、ガブモンにひどいことしちゃった」
「わかってるならいいんだよ。ちゃんとほんとのこと言ってやりゃわかってくれるさ。ヤマトと違ってガブモンは頑固じゃないからな」

そう言って笑ってやれば、アグモンは安心したように一緒に笑った。でも、そうかぁ、やっぱりアグモンもガブモンのことが好きなのか。何だろうこの感覚。娘を嫁に出す時の父親ってこんな感じなのかな。てことは俺はヒカリが嫁に行く時もこんな感じになるんだろうな。

「アグモンが誰とどう付き合ったって、お前は俺の一番のパートナーだよ」
「僕も、太一がずっとずっと一番だよ」

全部全部、そうやって伝えてくれるたった1人の俺の大事なパートナーが、どうか、どうか自分の思いに素直に、もっと幸せになれますように。
とりあえず、ガブモンがもしアグモンを泣かせるようなことがあったら、代わりにヤマトを殴ることにしよう。そう、密かに決意した。








後日、無事お付き合いを始めることになったアグモンとガブモンがあんまり幸せそうなものだから、太一は思わず少し泣きそうになってその姿をこっそり写真に収めたとか。
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