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君たちみたいになりたい

「俺、アグモンと…その……太一とヤマトみたいになりたいんだ」

相談したいことがある。あんまり真剣な顔でそう言ったパートナーのガブモンのために親父がいない時間を見つけてわざわざ時間と場所を作ってやれば、開口一番にそんなことを言われて一瞬フリーズした。

デジモンには、正確には性別がないらしい。そして、恋愛感情というものも、ほとんどのデジモンは抱かないまま生涯を生き、そんな感情を持つのはごく一部のデジモンだけらしい。らしい、というのは、これらが全て光子郎からもらった情報だからだ。俺としてはなんとなくこのデジモンはオスだろうな、メスだろうな、くらいの感覚でいたし、デジモンたちが恋愛をしようがしまいが関係がなかったからそんな情報いらないだろうと聞き流していたのだが、まさかここに来て思い出すことになるとは思わなかった。

「…え、っと……つまり、」
「…アグモンのこと、好きなんだ」

頬を真っ赤に染め上げ、けれど少し泣きそうな顔をしてガブモンは絞り出すような声でそう答えた。つまり、ガブモンは恋愛感情を抱く、そのごく一部のデジモンになったようだ。しかも相手がアグモンとは、これは一体どういう偶然なのだろうか。
アグモンのパートナー、太一は所謂俺の恋人で、ガブモンが言った通り、一応付き合ってはいる。まぁどちらも素直な方ではないしすれ違ったり素っ気なかったり喧嘩もよくするが、それでも太一に愛されているという実感はあるし、俺も太一を誰より愛している。話が逸れた。そういうことが言いたいのではなくて、ガブモンがまさかアグモンを好きになるなんて。しかしよく考えてみれば、全く不思議でもなんでもないのだ。選ばれし子供の中で、俺と太一だけが他よりほんの少し特別だった。パートナーが究極体まで進化できるたった2人の子供だった。俺と太一が惹かれあったきっかけもそれが大きいと言えるだろう。であるならば、それぞれのパートナーデジモンがそういう感情を抱くのもそういう関係になるのも、全くおかしな話ではないのだ。一緒に究極体まで進化しあった仲なのだ。特別な感情の一つや二つ、湧いたって何も不思議ではない。びっくりはしたけど。

「……やっぱり、変かな」
「えっ、いや、そんなこと」

思考に意識を飛ばしていたら、俺から特にリアクションがないことを悪い意味に捉えたのかガブモンが一層泣きそうな顔をする。ああ、そんな顔しないでくれ。別に俺はお前を泣かせたいわけじゃないんだ。こういう時気の利いた言葉を言えない自分が嫌になる。太一だったらなんと答えるのだろう。もしアグモンに、ガブモンのことが好きだと打ち明けられたら。驚くのだろうな。だけどその後、全て受け入れてその背中を全力で押すのだろう。俺の知っている太一はそういうやつだ。

「まだ、アグモンには言ってないのか?」
「……言って、いいのかな」
「ガブモン…」

その感情を素直にそのままぶつけてもいいのだろうか。そう思ったからガブモンはわざわざ俺に相談したのだろう。問題はないと思う。だけど、デジモン間での恋愛感情が彼らにどういった影響を及ぼすのかがわからない。進化はどうなるだろうか。パートナー関係は。わからないことが多すぎて、だから俺も返事に困る。もちろん応援してやりたい。だけどそれはガブモンが本当に望んでいることなのだろうか。なんとなく、ただ応援するだけではダメだと思った。

「…俺と太一はさ、いっつもケンカばっかしてただろ」
「それ、今もだよね」
「う、うるさいな…でも、その度に仲直りもしてさ、それで、気づいたら、俺の中で太一の存在がおっきくなってて」

そう、始めは衝突ばかりだった。ひた向きに前を向けるあいつを簡単に受け入れられなかった。だけど、あの衝突があったからこそ今があると思う。多分、側から見れば俺はなんて都合のいいやつだと思われるのだろう。わがままばかり言ってコンプレックスを抱えて、いつもそれを太一にぶつけていた。受け止めてもらっていた。そんな俺が、それらは全て必要なことだったなんて言う資格はない。だけど他でもない太一が、俺はそれでいいと言ってくれたのだ。


『ヤマトはそのままでいいよ。俺、ヤマトとケンカするの嫌いじゃないんだ。本音でぶつかってる感じがしてさ』



屈託なく笑うあの時の顔は今でも忘れられない。そうだ、あの時随分眩しい笑顔でそんなことを言われて、だから俺は衝動のままなぜか太一に触れるだけのキスをして、そして驚いた太一も、そのまま受け入れてくれて。俺たちは言葉で伝え合って始まったわけではなく、本当になんとなく、始まったんだ。

「今の俺を、そのままでいいって言ってくれた。だからってわけじゃないけど、その時俺はこいつを絶対守りたいって思った。好きって気持ちは、むしろその後だったかもしれない」
「…ヤマト」
「ガブモンは、同じか?俺みたいに、アグモンを絶対守りたいって思うか?」

ガブモンは迷っている。本来抱くことはなかっただろう感情に戸惑っている。なら俺は、その感情をガブモンにちゃんと理解させてやってから、背中を押したい。応援してやりたい。

「俺は、もちろんヤマトが一番大事だよ。でも、同じくらい、アグモンのことも大事にしたいって思う」
「…なら、それをアグモンに伝えてやればいい。アグモンが理解してくれるまで、その思いをぶつけてやればいい」

まぁ、あの食い気が最優先のアグモンがそう簡単に理解してくれるとは思えないけれど。伝えなければ思っていないのと同じだ。なら、何度も何度も、何度だって伝えていくほうがずっといい。俺は太一にそれができなかったから。本当はちゃんと気持ちを伝えてから始めるべきだった関係を、一時の衝動で始めてしまったから。太一はいつも気にするなって、過程より結果だろって言ってくれるけど、俺はまだずっと後悔しているから。ガブモンには、そんな後悔はしてほしくない。ガブモンが本当にアグモンとそういう関係になりたいと強く思うなら、俺はとことん付き合ってやりたい。だって、パートナーの幸せを、願えないはずがないのだから。

「アグモン、わかってくれるといいな」
「…うん、うん!俺、絶対アグモンに伝えるよ!」

ありがとうヤマト!
そう言って一片の迷いもなく笑うガブモンがあんまり愛おしくて、思わずぎゅっと抱きしめてしまった。
ああ、なんだか無性に、太一に会いたい。








後日、ヤマトから送られてきたメールとアグモンの言葉に、今度は太一がフリーズしたとか。

『ガブモンがアグモンのこと好きらしい』
「この前ガブモンに太一とヤマトみたいになりたいって言われたんだぁ」

「………………は?」

ガブモン、そんなに僕とけんかしたかったのかなぁ、なんて首を傾げるアグモンに、太一は訳がわからないながらも密かにガブモンへエールを送ったのだった。
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