人間CP
ここ最近の気温と言えば、昼間は汗が流れるような暑さのくせに夜は肌寒さが強かったりして、どうにも過ごしにくい。朝の気温に合わせて服を選べば、昼頃になるとそれがとんでもなく暑かったりして、毎日のように汗だくになって帰宅する。そんな風に気温に左右されている影響なのだろうか、最近はなんとなく気だるいと感じることが増えて、いつもは何とも思わずこなしている家事も時々面倒に感じてしまって、親父に心配されている。過酷な環境で過ごすことなんて小学生の時の冒険ですっかり慣れてしまったものだと思っていたが、どうにも平穏な日常の中だとその慣れがどこかへ行ってしまっているような気がしてならない。
だから多分、そう思ったのは、この気温のせいなのだと思いたい。
親父から今日は帰れそうにないという電話があった後、二人分用意された夕飯を思い出して、なんとなく虚しくなってしまった。いつもはそれぐらいどうとも思わないし、明日には帰ってくるだろうからその時用にご飯はとっておけばいいとそう思えるのに、なぜだか今日はそんな風に吹っ切れなくて、一人で食べる準備もいまいち遅くて。人は急に環境が変わると精神的に不安定になることがあるというのはどうやら本当らしい。多分この温度差にやられたのだ。そうでなければ今更虚しくなるなんてことはあり得ない。こんな時にガブモンがいてくれたら、親父1人いないくらいどうってことないのになぁ、なんて、親父が聞いたら泣かれそうなことを思いながら、結局夕飯を食べる準備を進めた。そんな折、ふと昼間の会話を思い出す。今日はたまたま昼飯を太一と二人で食べた。いつもはそこに空がいたり光子郎がいたり、二人きりということは滅多にないのだが、今日は俺と太一以外は悉く予定が入っていたりして、恐らく初めて二人だけで昼飯を食べたんじゃないだろうか。俺としては若干緊張して何を話そうか、何を話すべきか、なんて悩まなくていいことを延々と悩んで。結局太一が普段通りに話し始めたおかげで、そんな緊張はあっという間にどこかへ行ってしまったけど。
『最近さぁ、暑いと思ったら寒くなるじゃん』
『ああ、夜は急に寒くなるもんな』
『そ~、なんかだるくなるだろ』
『…まぁ』
『あー、しかも今日俺以外誰も家にいねぇからさぁ、めんどくさいしコンビニでなんか買うかなぁ』
あの時はうっかり聞き流してしまったけれど、もしかしたら、太一は今家で1人、俺と同じように夕飯の準備を進めていたりするのだろうか。もしそうなら。もし本当に、太一も今家に誰もいないと言うのなら。それなら、試しに呼んでみたりしても、いいのだろうか。
『今から?え、飯!?行く!』
散々迷って思い切って電話をかければ、二つ返事で元気な声が返され思わず脱力した。意味もなく緊張してばかりの自分が恥ずかしい。
太一が来るというのであれば、部屋をこのままにしておくわけにはいかない。俺の家は太一と違って男二人しかいないものだから、ものすごく散らかっているというわけではないが、女性がいる家庭よりはよほど散らかっているのだろう。太一はきっと綺麗に片付けられた家にいつも住んでいるのだろうし、最低限綺麗にはしなければいけない。あいつがそんなことを気にするとも思えないが、からかわれる要因はなるべく減らしておくに限る。
そんな風に急いで部屋を片付けていれば、思っていたよりもだいぶ早く玄関のチャイムが鳴った。
「太一」
「よっ。腹減って急いで来ちゃった」
少し袖の長い服を着て、どうやら本当に急いで来たらしい、首筋には汗が浮かんでいる。食い気の多いやつめ、と笑って部屋に入れてやれば、案の定太一は「案外片付いてんのな」なんて部屋を見回して言うから、あらかじめ片付けておいてよかったと安心した。
「太一、風呂入るか?」
「え、いいよそんなに。飯食いに来ただけだもん」
「汗気持ち悪いだろ」
「えー、お前は気持ち悪いのかよ」
「ちょ、おい!くっつくな!」
汗がにじんでいるのなら、恐らくその服の下はもっと汗をかいているはずだ。着替えは俺ので大丈夫だろうか、などと考えていれば、何が不満だったのかいきなり太一に抱き着かれ思わず肩が跳ねる。汗が少しべとべとしていて、けれど不快には感じなかった。
「なぁやまと」
「なんだよ…」
「…寂しかったから俺呼んだの?」
「…は?」
聞かれて耳を疑った。そんな素振りを見せた覚えもなく、はったりだろうかと考える。どういうつもりでそんなことを言ってきたのだろうか。
「俺ねぇ、ほら、最近気温がバラバラじゃん。だから急に家に1人になったら、なんか居心地悪くてさ」
「…おう」
「だから、お前から飯一緒に食うかって電話来た時、めちゃくちゃ嬉しかったんだぜ」
本当に、本当にどうしたというのだろう。普段は憎まれ口ばかりで俺のことを雑に扱う節があるくせに、なぜこうも突然そんなに素直になっているのだろう。思考が追いつかず、うまく言葉を返せない。返せないが、とにかく、寂しいと言った太一を放っておくことなんてできるはずもなくて。
「…気持ち悪いんじゃなかったのかよ」
「バカ言うな。俺がお前のことそんな風に思うわけないだろ太一」
「…かっけーやつ」
抱きしめ返した体はやはりどこか湿っぽくて、ご飯を食べさせる前にやはり風呂に入れてやるべきだなと思った。どうせ明日は学校は休みだし、親父も帰ってこないのだから泊まらせたっていいだろう。それに、俺も今は、誰かと、太一とできるだけ一緒にいたい。
「ヤマト~」
「ん?」
「俺、普段はあんま言わねぇけどさ…お前のこと、ちゃんと好きだからな」
「…あぁ、知ってるよ」
寂しさに俺を求めてくれるくらい、俺のことを思ってくれているなんて。ずっと前から、ちゃんと知っているよ。
その晩、やっぱりいつも通り昼に比べて気温が一気に下がったのもあって、二人して同じベッドで眠ってしまったのは俺たちだけの秘密だ。
だから多分、そう思ったのは、この気温のせいなのだと思いたい。
親父から今日は帰れそうにないという電話があった後、二人分用意された夕飯を思い出して、なんとなく虚しくなってしまった。いつもはそれぐらいどうとも思わないし、明日には帰ってくるだろうからその時用にご飯はとっておけばいいとそう思えるのに、なぜだか今日はそんな風に吹っ切れなくて、一人で食べる準備もいまいち遅くて。人は急に環境が変わると精神的に不安定になることがあるというのはどうやら本当らしい。多分この温度差にやられたのだ。そうでなければ今更虚しくなるなんてことはあり得ない。こんな時にガブモンがいてくれたら、親父1人いないくらいどうってことないのになぁ、なんて、親父が聞いたら泣かれそうなことを思いながら、結局夕飯を食べる準備を進めた。そんな折、ふと昼間の会話を思い出す。今日はたまたま昼飯を太一と二人で食べた。いつもはそこに空がいたり光子郎がいたり、二人きりということは滅多にないのだが、今日は俺と太一以外は悉く予定が入っていたりして、恐らく初めて二人だけで昼飯を食べたんじゃないだろうか。俺としては若干緊張して何を話そうか、何を話すべきか、なんて悩まなくていいことを延々と悩んで。結局太一が普段通りに話し始めたおかげで、そんな緊張はあっという間にどこかへ行ってしまったけど。
『最近さぁ、暑いと思ったら寒くなるじゃん』
『ああ、夜は急に寒くなるもんな』
『そ~、なんかだるくなるだろ』
『…まぁ』
『あー、しかも今日俺以外誰も家にいねぇからさぁ、めんどくさいしコンビニでなんか買うかなぁ』
あの時はうっかり聞き流してしまったけれど、もしかしたら、太一は今家で1人、俺と同じように夕飯の準備を進めていたりするのだろうか。もしそうなら。もし本当に、太一も今家に誰もいないと言うのなら。それなら、試しに呼んでみたりしても、いいのだろうか。
『今から?え、飯!?行く!』
散々迷って思い切って電話をかければ、二つ返事で元気な声が返され思わず脱力した。意味もなく緊張してばかりの自分が恥ずかしい。
太一が来るというのであれば、部屋をこのままにしておくわけにはいかない。俺の家は太一と違って男二人しかいないものだから、ものすごく散らかっているというわけではないが、女性がいる家庭よりはよほど散らかっているのだろう。太一はきっと綺麗に片付けられた家にいつも住んでいるのだろうし、最低限綺麗にはしなければいけない。あいつがそんなことを気にするとも思えないが、からかわれる要因はなるべく減らしておくに限る。
そんな風に急いで部屋を片付けていれば、思っていたよりもだいぶ早く玄関のチャイムが鳴った。
「太一」
「よっ。腹減って急いで来ちゃった」
少し袖の長い服を着て、どうやら本当に急いで来たらしい、首筋には汗が浮かんでいる。食い気の多いやつめ、と笑って部屋に入れてやれば、案の定太一は「案外片付いてんのな」なんて部屋を見回して言うから、あらかじめ片付けておいてよかったと安心した。
「太一、風呂入るか?」
「え、いいよそんなに。飯食いに来ただけだもん」
「汗気持ち悪いだろ」
「えー、お前は気持ち悪いのかよ」
「ちょ、おい!くっつくな!」
汗がにじんでいるのなら、恐らくその服の下はもっと汗をかいているはずだ。着替えは俺ので大丈夫だろうか、などと考えていれば、何が不満だったのかいきなり太一に抱き着かれ思わず肩が跳ねる。汗が少しべとべとしていて、けれど不快には感じなかった。
「なぁやまと」
「なんだよ…」
「…寂しかったから俺呼んだの?」
「…は?」
聞かれて耳を疑った。そんな素振りを見せた覚えもなく、はったりだろうかと考える。どういうつもりでそんなことを言ってきたのだろうか。
「俺ねぇ、ほら、最近気温がバラバラじゃん。だから急に家に1人になったら、なんか居心地悪くてさ」
「…おう」
「だから、お前から飯一緒に食うかって電話来た時、めちゃくちゃ嬉しかったんだぜ」
本当に、本当にどうしたというのだろう。普段は憎まれ口ばかりで俺のことを雑に扱う節があるくせに、なぜこうも突然そんなに素直になっているのだろう。思考が追いつかず、うまく言葉を返せない。返せないが、とにかく、寂しいと言った太一を放っておくことなんてできるはずもなくて。
「…気持ち悪いんじゃなかったのかよ」
「バカ言うな。俺がお前のことそんな風に思うわけないだろ太一」
「…かっけーやつ」
抱きしめ返した体はやはりどこか湿っぽくて、ご飯を食べさせる前にやはり風呂に入れてやるべきだなと思った。どうせ明日は学校は休みだし、親父も帰ってこないのだから泊まらせたっていいだろう。それに、俺も今は、誰かと、太一とできるだけ一緒にいたい。
「ヤマト~」
「ん?」
「俺、普段はあんま言わねぇけどさ…お前のこと、ちゃんと好きだからな」
「…あぁ、知ってるよ」
寂しさに俺を求めてくれるくらい、俺のことを思ってくれているなんて。ずっと前から、ちゃんと知っているよ。
その晩、やっぱりいつも通り昼に比べて気温が一気に下がったのもあって、二人して同じベッドで眠ってしまったのは俺たちだけの秘密だ。