人間CP
「ヤマトと空のこと、応援するよ」
そう言われた時、俺は初めて太一の本心を見た気がしたんだ。
空のことを意識し始めたのは、かなり早い段階だったと思う。彼女はあの冒険の時から全員に優しくて、あの時の俺にですら、ひたすらに優しかった。自分で言うのもどうかと思うが、小学生の頃の冒険の時の俺は、タケルとのことがあったのもあって周りから見れば相当情緒が不安定な人間だっただろうと自覚している。太一とよくぶつかって喧嘩してみんなに迷惑もかけて、それでも空は俺にもずっと優しかった。その優しさを、もっと自分にも向ければいいのにと思うくらいには。
けど、空が全員に平等だったかと言われると、それは違ったなとも思う。空はみんなに優しかったけど、唯一太一にだけは、そこまでの優しさは見られなかった。最初は違いがわからなかったけれど、多分空の中で俺たちは平等で、だけど太一だけは特別な枠に位置していたのだろう。子どもながらにそのことに気が付いた時、胸のあたりがもやもやして、理由もわからないのに、ただなんとなく「どうして」とだけ思ってしまったことをよく覚えている。
今思えば、あれは嫉妬だったのかもしれない。中学生になって、今まであまり見たことのなかった空のスカート姿に情けなくも動揺して、太一にからかわれて喧嘩になったのが懐かしい。バンドをするようになって、いろんな女の子から話しかけられるようになって、それでも空はずっとあのころから変わらなかった。それが嬉しくて、よくライブのチケットを渡していた。太一にもいつも渡していたけれど、あいつはあいつでサッカーの試合があったりして、空ほどは来てはくれなかった。ライブが終わった後差し入れをくれる空の姿に、よくバンド仲間からからかわれたりもした。最初の頃は来てくれた空に「太一は?」なんて聞いたりしていたけれど、3回目からは聞くのをやめた。
「ヤマトくん、最近は太一はって聞かないのね」
「来てないってことはサッカーなんだろ、俺もさすがに覚えたさ」
「ふふ、なんだかんだ言って、ヤマトくん太一のことよく見てるわよねぇ」
ライブの帰り道、暗いからと送っていく中でいつもそんな会話をしていた。空が楽しそうに笑うから、俺は言葉の意味がよくわからなくて、いつも首を傾げてばかりだった。
多分、空は最初から気づいていたんだろうと思う。
周りから空とはいつ付き合うんだなんだとしつこいくらいに言われて、付き合うも何も、なんて返していた。恋の歌を歌わないわけではないけれど、俺自身まだ恋だの恋愛だのはよくわからなかった。そんな中途半端な気持ちで、誰かと付き合いたくはなかった。そもそも空ともし付き合ったとして、太一はどうなるんだろう。俺と空という組み合わせなんて、それこそ太一がいなければ今みたいにはなっていないのに。
この時点で気づくべきだったんだなと今なら思う。俺と空の話に、太一は関係ない。空が好きだったとして、太一のことを考慮する必要はどこにもない。誰でもわかる、そんな簡単なことを、それでもきっと俺はどこかで認めたくなかったんだ。
俺と空のうわさがかなり広まってきた時点で、それはもちろん太一の耳にも入っているということで。たまたま一緒に帰っていた道中、急に太一から言われたんだ。
「応援するよ」
そう言う太一の表情はあまりにも綺麗で、すごく嬉しそうに、なのに少し寂しそうに微笑んでいた。なんのことかわからなくて、いや、そんなの嘘だ。わかっていて、わかりたくなかったから、なんのことだと聞き返した。
「ヤマトと空のこと、応援するよ」
俺は、あの時誰に嫉妬していたんだろう。楽しそうに笑いあう空と太一を見て、俺ははたしてどちらに嫉妬していたのだろう。応援するってなんだよ。あんなのただのうわさでしかなくて、空とそんな話になったことは一度だってなくて。だいたい、応援するって言うなら、なんでそんな顔してるんだよ。お前、いっつも馬鹿みたいに明るいくせに、何でこういう時は、そんな顔ができるんだ。
なんで、自分のこと、そんな簡単に諦められるんだ。
「…違う」
太一が珍しくライブに来てくれた時、俺は柄にもなく嬉しくて舞い上がったりした。太一が珍しく俺の歌を褒めてくれた時は、照れくさくて素直に礼も言えなかった。一緒に帰る帰り道、コンビニでアイスを買ったりするのが楽しかった。お前と一緒に歩いてるだけで、すごくうれしかった。男同士だから、親友だから。そうやって、ずっと気付かないふりをし続けて、だからお前にそんな顔をさせた。違うんだ、俺はお前に、笑っていてほしいんだよ。
なぁ太一。応援するっていってくれたお前には悪いけど、でも、でもさ。言ってもいいだろうか。お前にそんな顔をさせてしまうくらいなら。お前がお前自身を諦めてしまうと言うのなら。俺ももう、本心に嘘をつくのはやめてしまおう。
「…太一、俺は」
俺が好きなのはさ、きっと、お前なんだよ。
太一。
そう言われた時、俺は初めて太一の本心を見た気がしたんだ。
空のことを意識し始めたのは、かなり早い段階だったと思う。彼女はあの冒険の時から全員に優しくて、あの時の俺にですら、ひたすらに優しかった。自分で言うのもどうかと思うが、小学生の頃の冒険の時の俺は、タケルとのことがあったのもあって周りから見れば相当情緒が不安定な人間だっただろうと自覚している。太一とよくぶつかって喧嘩してみんなに迷惑もかけて、それでも空は俺にもずっと優しかった。その優しさを、もっと自分にも向ければいいのにと思うくらいには。
けど、空が全員に平等だったかと言われると、それは違ったなとも思う。空はみんなに優しかったけど、唯一太一にだけは、そこまでの優しさは見られなかった。最初は違いがわからなかったけれど、多分空の中で俺たちは平等で、だけど太一だけは特別な枠に位置していたのだろう。子どもながらにそのことに気が付いた時、胸のあたりがもやもやして、理由もわからないのに、ただなんとなく「どうして」とだけ思ってしまったことをよく覚えている。
今思えば、あれは嫉妬だったのかもしれない。中学生になって、今まであまり見たことのなかった空のスカート姿に情けなくも動揺して、太一にからかわれて喧嘩になったのが懐かしい。バンドをするようになって、いろんな女の子から話しかけられるようになって、それでも空はずっとあのころから変わらなかった。それが嬉しくて、よくライブのチケットを渡していた。太一にもいつも渡していたけれど、あいつはあいつでサッカーの試合があったりして、空ほどは来てはくれなかった。ライブが終わった後差し入れをくれる空の姿に、よくバンド仲間からからかわれたりもした。最初の頃は来てくれた空に「太一は?」なんて聞いたりしていたけれど、3回目からは聞くのをやめた。
「ヤマトくん、最近は太一はって聞かないのね」
「来てないってことはサッカーなんだろ、俺もさすがに覚えたさ」
「ふふ、なんだかんだ言って、ヤマトくん太一のことよく見てるわよねぇ」
ライブの帰り道、暗いからと送っていく中でいつもそんな会話をしていた。空が楽しそうに笑うから、俺は言葉の意味がよくわからなくて、いつも首を傾げてばかりだった。
多分、空は最初から気づいていたんだろうと思う。
周りから空とはいつ付き合うんだなんだとしつこいくらいに言われて、付き合うも何も、なんて返していた。恋の歌を歌わないわけではないけれど、俺自身まだ恋だの恋愛だのはよくわからなかった。そんな中途半端な気持ちで、誰かと付き合いたくはなかった。そもそも空ともし付き合ったとして、太一はどうなるんだろう。俺と空という組み合わせなんて、それこそ太一がいなければ今みたいにはなっていないのに。
この時点で気づくべきだったんだなと今なら思う。俺と空の話に、太一は関係ない。空が好きだったとして、太一のことを考慮する必要はどこにもない。誰でもわかる、そんな簡単なことを、それでもきっと俺はどこかで認めたくなかったんだ。
俺と空のうわさがかなり広まってきた時点で、それはもちろん太一の耳にも入っているということで。たまたま一緒に帰っていた道中、急に太一から言われたんだ。
「応援するよ」
そう言う太一の表情はあまりにも綺麗で、すごく嬉しそうに、なのに少し寂しそうに微笑んでいた。なんのことかわからなくて、いや、そんなの嘘だ。わかっていて、わかりたくなかったから、なんのことだと聞き返した。
「ヤマトと空のこと、応援するよ」
俺は、あの時誰に嫉妬していたんだろう。楽しそうに笑いあう空と太一を見て、俺ははたしてどちらに嫉妬していたのだろう。応援するってなんだよ。あんなのただのうわさでしかなくて、空とそんな話になったことは一度だってなくて。だいたい、応援するって言うなら、なんでそんな顔してるんだよ。お前、いっつも馬鹿みたいに明るいくせに、何でこういう時は、そんな顔ができるんだ。
なんで、自分のこと、そんな簡単に諦められるんだ。
「…違う」
太一が珍しくライブに来てくれた時、俺は柄にもなく嬉しくて舞い上がったりした。太一が珍しく俺の歌を褒めてくれた時は、照れくさくて素直に礼も言えなかった。一緒に帰る帰り道、コンビニでアイスを買ったりするのが楽しかった。お前と一緒に歩いてるだけで、すごくうれしかった。男同士だから、親友だから。そうやって、ずっと気付かないふりをし続けて、だからお前にそんな顔をさせた。違うんだ、俺はお前に、笑っていてほしいんだよ。
なぁ太一。応援するっていってくれたお前には悪いけど、でも、でもさ。言ってもいいだろうか。お前にそんな顔をさせてしまうくらいなら。お前がお前自身を諦めてしまうと言うのなら。俺ももう、本心に嘘をつくのはやめてしまおう。
「…太一、俺は」
俺が好きなのはさ、きっと、お前なんだよ。
太一。