人間CP
『…海みたいだって思うんだ、あいつのこと』
それを聞いた時、僕はやっぱりこの人とは相容れないなと思った。
今まで彼に出会ったほとんどの人は、あの人のことを太陽のようだと言う。明るくて、元気があって、みんなを引っ張って前を向いて歩いていける人。彼の周りには自然と人が集まって、いっしょにいると楽しくて暖かくなる人。それが周りが言う彼の一般的な評価だ。僕もそれらの見解を否定はしないし、そうだろうと思う。彼の持つ紋章こそがその証だ。誰が見てもわかる、太陽をモチーフとしたもの。オレンジ色に輝く勇気の印。まさに太陽だ、彼そのものが。だけど思うのだ、僕は。
(彼は、空だ)
太陽は常に輝いている。僕たちが見えない夜の間だって、太陽はいつでもその身を焼きながら輝く。だけど彼は、太一さんは、常に輝いているわけではない。それは別に悪い意味ではなくて、太一さんは僕と同じ人間だということだ。僕はあの冒険の時に見ている、知っている。太一さんはずっと前を向いて歩いて行けるわけではない。迷わないわけではない。僕らと同じ人間で、時には足を止めるし、時には選択を躊躇することもある。そして、彼は涙を流すことができるのだ。
妹のヒカリさんがデジタルワールドで風邪をぶり返して倒れてしまった時。あの時の太一さんの涙を、僕は忘れたことはない。あの時に感じた安堵を、僕はずっと忘れないだろう。あの瞬間、僕はこの人もちゃんと涙を流すことができるのだと安心したのだ。
だから僕は、太一さんを太陽のようだと思う反面で、空のような人だと思っている。
いつだって僕たちを見守ってくれている。決して手の届かない場所にいるけれど、それでも僕たちをおいて行ってしまうことなどない。時によってその色を鮮やかな蒼穹から曇天へ変化させ、恵みの雨をもたらす。黄昏時の赤紫色、夜の暗闇。ころころと表情を変える彼と同じだ。
だけれど、空の雨を誰が気にかけてくれるのだろう。だって、雨が降れば人はみんな傘をさす。傘をさしてしまえば、その空を見上げる人はいない。もしその雨が、誰かの涙なら。
だからこそ僕は、太一さんを空のようだと言う。空は常に表情を変えることを僕はちゃんと知っている。それがわかっていれば、その雨が涙だとわかっていれば、僕は雨に濡れることを怖がらないで済むから。その雨から目を逸らさないで済むから。僕は雨から身を守りたいんじゃない。雨に打たれて、その雨をこの身で受け止めたい。
「……太一さんは、海なんかじゃない」
彼は、太一さんの隣に当たり前に立つあの人は、彼を海だと言う。その気持ちが全く分からないわけではない。生命を育み守る海。その一面も、彼のようだと思う。だけれど太一さんは、決して海のように僕らを飲み込んでしまうことはない。時折見せるその凶暴さで、僕らを暗闇の底へ突き落してしまう人ではない。だって彼は、僕たちを本当に大切にしてくれているのだから。
彼の隣に立っておいて、どうしてあの人は彼を海だと言えるのだろう。例えば家族として最も近くにいるヒカリさんや、幼馴染の空さんがそれを言うなら僕だってなんとも思わないのだ。だけど家族でも幼馴染でもなく、最初はただの知り合い程度で、そこから一番の親友へとなったあの人が、どうして。
わかってはいるのだ。太一さんを盲目的に信頼している節のある僕と、太一さんと最も対立しやすい彼が同じ意見を持つはずがないことくらい、この僕がわからないはずがない。だけど、ずるいじゃないか。僕だって太一さんの隣で彼を支えたかった。当たり前にその隣に立って、彼の親友になりたかった。だけどきっと、それは僕ではだめだ。僕の立つべき場所は、僕の役目はそれじゃない。だから嫉妬などという醜い感情を抱くまいと我慢していたのに、他でもないあなたがそんなことを言ってしまったら。
「…僕だって、あの人と喧嘩してみたかった。あなたのように、彼を海だと言えるようになりたかった」
僕は絶対に太一さんを海だと言うことはできないだろう。他でもない僕が、それを許さない。
「…眩しいな」
空を見上げる。雲一つない、真っ青な快晴だ。そこに涙は見えない。
僕は、きっと太一さんがいなければヤマトさんとは一生相容れなかったのだろう。友達になることもなかった。彼をヤマトさんと親し気に呼ぶこともなかったはずだ。太一さんこそが、僕とヤマトさんを繋げてくれた。そして、デジタルワールドという共通の世界が、今なお僕らを繋げている。ヤマトさんは知っているのだろうか。いや、知っているからこそ、多分彼は僕にだけああ言ったのだ。太一さんは海だと。僕がそれに同意できないことを知っていて、それでも言ったのだ。
僕は、あの人を隣で支えることはできない。親友になることはできない。当たり前にその肩を抱き、手を取り合うことはできない。でも、だからこそ僕はあの人の涙を絶対に見逃さない。僕は、あの人にとってそういう場所でいい。それはきっと、僕にしかできない。
だから、仕方がないから、親友という場所は譲ってあげるから。涙は僕が必ず受け止めるから。あなたはそこで、いつだって、太一さんが一人で倒れてしまわないよう、本当に独りぼっちになってしまわないよう、支え続けてください。
「太一さんを、海だと言うなら」
その海で、決して溺れてしまわないで。
風が頬を撫でる。見上げた大空はどこまでも青く透き通っている。夏の色、彼の色。いつでもそこにあって、僕たちを見守って、見ていてくれる。そこに空が広がる様に、僕には、その存在が、当たり前に見上げた先にある。それでいい。ヤマトさんと相容れないことは、僕にはどうしようもできない。あの人もわかっている。だけどお互いに、思うことは同じなのだ。どう足掻いたって、僕たちはみんな、彼を大切に思い、特別に思うのだ。その事実があるのなら、僕は貴方の言葉を否定はしないから。
「…きっと、空であって、海なんだ」
彼こそが、空と海が出会う場所なのだ。
(僕らを繋げる、唯一の)
それを聞いた時、僕はやっぱりこの人とは相容れないなと思った。
今まで彼に出会ったほとんどの人は、あの人のことを太陽のようだと言う。明るくて、元気があって、みんなを引っ張って前を向いて歩いていける人。彼の周りには自然と人が集まって、いっしょにいると楽しくて暖かくなる人。それが周りが言う彼の一般的な評価だ。僕もそれらの見解を否定はしないし、そうだろうと思う。彼の持つ紋章こそがその証だ。誰が見てもわかる、太陽をモチーフとしたもの。オレンジ色に輝く勇気の印。まさに太陽だ、彼そのものが。だけど思うのだ、僕は。
(彼は、空だ)
太陽は常に輝いている。僕たちが見えない夜の間だって、太陽はいつでもその身を焼きながら輝く。だけど彼は、太一さんは、常に輝いているわけではない。それは別に悪い意味ではなくて、太一さんは僕と同じ人間だということだ。僕はあの冒険の時に見ている、知っている。太一さんはずっと前を向いて歩いて行けるわけではない。迷わないわけではない。僕らと同じ人間で、時には足を止めるし、時には選択を躊躇することもある。そして、彼は涙を流すことができるのだ。
妹のヒカリさんがデジタルワールドで風邪をぶり返して倒れてしまった時。あの時の太一さんの涙を、僕は忘れたことはない。あの時に感じた安堵を、僕はずっと忘れないだろう。あの瞬間、僕はこの人もちゃんと涙を流すことができるのだと安心したのだ。
だから僕は、太一さんを太陽のようだと思う反面で、空のような人だと思っている。
いつだって僕たちを見守ってくれている。決して手の届かない場所にいるけれど、それでも僕たちをおいて行ってしまうことなどない。時によってその色を鮮やかな蒼穹から曇天へ変化させ、恵みの雨をもたらす。黄昏時の赤紫色、夜の暗闇。ころころと表情を変える彼と同じだ。
だけれど、空の雨を誰が気にかけてくれるのだろう。だって、雨が降れば人はみんな傘をさす。傘をさしてしまえば、その空を見上げる人はいない。もしその雨が、誰かの涙なら。
だからこそ僕は、太一さんを空のようだと言う。空は常に表情を変えることを僕はちゃんと知っている。それがわかっていれば、その雨が涙だとわかっていれば、僕は雨に濡れることを怖がらないで済むから。その雨から目を逸らさないで済むから。僕は雨から身を守りたいんじゃない。雨に打たれて、その雨をこの身で受け止めたい。
「……太一さんは、海なんかじゃない」
彼は、太一さんの隣に当たり前に立つあの人は、彼を海だと言う。その気持ちが全く分からないわけではない。生命を育み守る海。その一面も、彼のようだと思う。だけれど太一さんは、決して海のように僕らを飲み込んでしまうことはない。時折見せるその凶暴さで、僕らを暗闇の底へ突き落してしまう人ではない。だって彼は、僕たちを本当に大切にしてくれているのだから。
彼の隣に立っておいて、どうしてあの人は彼を海だと言えるのだろう。例えば家族として最も近くにいるヒカリさんや、幼馴染の空さんがそれを言うなら僕だってなんとも思わないのだ。だけど家族でも幼馴染でもなく、最初はただの知り合い程度で、そこから一番の親友へとなったあの人が、どうして。
わかってはいるのだ。太一さんを盲目的に信頼している節のある僕と、太一さんと最も対立しやすい彼が同じ意見を持つはずがないことくらい、この僕がわからないはずがない。だけど、ずるいじゃないか。僕だって太一さんの隣で彼を支えたかった。当たり前にその隣に立って、彼の親友になりたかった。だけどきっと、それは僕ではだめだ。僕の立つべき場所は、僕の役目はそれじゃない。だから嫉妬などという醜い感情を抱くまいと我慢していたのに、他でもないあなたがそんなことを言ってしまったら。
「…僕だって、あの人と喧嘩してみたかった。あなたのように、彼を海だと言えるようになりたかった」
僕は絶対に太一さんを海だと言うことはできないだろう。他でもない僕が、それを許さない。
「…眩しいな」
空を見上げる。雲一つない、真っ青な快晴だ。そこに涙は見えない。
僕は、きっと太一さんがいなければヤマトさんとは一生相容れなかったのだろう。友達になることもなかった。彼をヤマトさんと親し気に呼ぶこともなかったはずだ。太一さんこそが、僕とヤマトさんを繋げてくれた。そして、デジタルワールドという共通の世界が、今なお僕らを繋げている。ヤマトさんは知っているのだろうか。いや、知っているからこそ、多分彼は僕にだけああ言ったのだ。太一さんは海だと。僕がそれに同意できないことを知っていて、それでも言ったのだ。
僕は、あの人を隣で支えることはできない。親友になることはできない。当たり前にその肩を抱き、手を取り合うことはできない。でも、だからこそ僕はあの人の涙を絶対に見逃さない。僕は、あの人にとってそういう場所でいい。それはきっと、僕にしかできない。
だから、仕方がないから、親友という場所は譲ってあげるから。涙は僕が必ず受け止めるから。あなたはそこで、いつだって、太一さんが一人で倒れてしまわないよう、本当に独りぼっちになってしまわないよう、支え続けてください。
「太一さんを、海だと言うなら」
その海で、決して溺れてしまわないで。
風が頬を撫でる。見上げた大空はどこまでも青く透き通っている。夏の色、彼の色。いつでもそこにあって、僕たちを見守って、見ていてくれる。そこに空が広がる様に、僕には、その存在が、当たり前に見上げた先にある。それでいい。ヤマトさんと相容れないことは、僕にはどうしようもできない。あの人もわかっている。だけどお互いに、思うことは同じなのだ。どう足掻いたって、僕たちはみんな、彼を大切に思い、特別に思うのだ。その事実があるのなら、僕は貴方の言葉を否定はしないから。
「…きっと、空であって、海なんだ」
彼こそが、空と海が出会う場所なのだ。
(僕らを繋げる、唯一の)