人間CP
『ガンマモン』
自身に向けられたものではない、けれどその温かくて優しい呼び声を初めて聞いた時から、欲しいと思った。愛しさを込めた瞳を向けられて、その視界に自身を映してはくれまいかと思った。決して自分に向けられたものではない。その呼び声も、瞳も、何もかもが外側にいる、自分だけれど、自分ではない存在のためのもの。
どうして?あれもおれなのに、おれもあれなのに、おれには何もない。何もくれない。どうして?
それは嫉妬や妬みとは違う、ただ純粋な疑問だった。外側にいる自分がその存在を認識しているのか否かは分からないが、けれども外側の自分は、それにとっては同じ存在だった。
心を通わせる都度、新たな姿を手に入れる過程を見て来た。最初に姿を見せたのは自分のはずだったのに、けれど自分はどうしてか呼ばれなかった。自分の方が強いはずなのに、最初からいたのは自分なのに。それにとって、閉じ込められることは苦痛だった。狭くて息苦しくて寒い、そんな場所に自分だけがまだ取り残されている。狭いのは嫌いだ、自由がないのは嫌いだ。早くおれのことも呼んでよ、がんまもんって呼ぶように、おれのことも呼んでくれないかな。それは本人にすら自覚されない、小さな小さな願いだったかもしれない。けれど気が付かない。
―――グルスガンマモンには、その気持ちが理解できない。
グルスガンマモンは、確かにガンマモンの中にいた。彼にとってガンマモンと自分は同一だ。片方にその存在を認識されていなくとも、グルスガンマモンにとってそれは紛れもない事実なのだ。誰が何と言おうと、誰に違うと言われようと。自分たちは同一だ。同じで、同義だ。
けれど彼には、分かってほしいと思った。グルスガンマモンは例え誰に否定されたとしても、宙という存在には、同一なのだと理解してほしかった。
(…なぜ?)
分からない。パートナーだからか、弟だと言われたからか。大切にされたからか。
けど自分ではない。パートナーなのはガンマモンであって、グルスガンマモンではない。弟なのは自分ではない。大切にされたのは、自分ではなかった。
姿を見せたら、同じように呼んでくれるのだろうか。宙を助けたら、呼んでもらえるのだろうか。
『――ガンマモン』
強い怒り、激しい憎しみ。刺激されようやっと表に姿を出したが、呼ばれた名前は自分のものではなかった。この強さがあれば仇を取れる。宙はボコモンを先生と呼び親しんでいた。自分は強い、こんな敵簡単に葬り去ることができる。宙が望めば、自分はすぐにでも殺して仇を取れる。嬉しいだろう?ガンマモンにはできなかったことだ。ガンマモンの強さでは不可能だったことだ。俺ならできる。喜べよ、簡単に復讐できるのだから。期待を込めグルスガンマモンはシールズドラモンの首を掴み上げたまま宙を見つめた。
(言え、言え。俺を使え、お前が望めば、簡単に殺してやる)
けれど、けれど。
宙には流れ込んできた情報を理解することができなかった。いつものように技名を叫ぶことができなかった。
何が違う?ずっとずっと一緒にいたのに。一緒にいたのはガンマモンだけではない。自分だって宙の隣にずっと一緒にいた。二度も姿を見せた。助けてやった。今だって仇を取ってやれる。
宙は喜んで指示をくれるはずだった。いつものように技名を言ってくれれば、気持ちよくシールズドラモンを殺すことができたのに。心苦しく思うことはない。罪悪感を抱く必要はない。だってこいつはボコモンを殺した。ただ数のためだけにデジモンを殺し続けた。そんな奴に生きている価値などない。復讐したとして、殺したとして咎める者など誰もいやしない。のに、何故。
他の誰がどうなったっていい。他の誰が傷つこうが死のうがどうだっていい。誰に否定されてもいい。ただ宙が自分の名前を呼んでくれれば、自分の気持ちを理解してくれれば。ただそれだけで、どれほど満足できただろう。
「ガンマモン!」
「―――グルス、ガンマモンだっつってんだろ!」
叶わない望みが苛立ちを助長する。内側の深い深いところで、小さな白い自分がわんわんと泣いている。泣いてどうなる、泣いたって仇は取れない。復讐に必要なのは強さだ。お前がそうやって弱いからボコモンが死んだのだ。デジモンは、俺たちは強くなければ生き残れない。俺たちの生きる世界は、いつだって。
「食うか食われるかだ!!」
宙、お前が俺の名前を呼ぶのなら、俺がお前を『食う』側へ連れてってやれるんだ。
自身に向けられたものではない、けれどその温かくて優しい呼び声を初めて聞いた時から、欲しいと思った。愛しさを込めた瞳を向けられて、その視界に自身を映してはくれまいかと思った。決して自分に向けられたものではない。その呼び声も、瞳も、何もかもが外側にいる、自分だけれど、自分ではない存在のためのもの。
どうして?あれもおれなのに、おれもあれなのに、おれには何もない。何もくれない。どうして?
それは嫉妬や妬みとは違う、ただ純粋な疑問だった。外側にいる自分がその存在を認識しているのか否かは分からないが、けれども外側の自分は、それにとっては同じ存在だった。
心を通わせる都度、新たな姿を手に入れる過程を見て来た。最初に姿を見せたのは自分のはずだったのに、けれど自分はどうしてか呼ばれなかった。自分の方が強いはずなのに、最初からいたのは自分なのに。それにとって、閉じ込められることは苦痛だった。狭くて息苦しくて寒い、そんな場所に自分だけがまだ取り残されている。狭いのは嫌いだ、自由がないのは嫌いだ。早くおれのことも呼んでよ、がんまもんって呼ぶように、おれのことも呼んでくれないかな。それは本人にすら自覚されない、小さな小さな願いだったかもしれない。けれど気が付かない。
―――グルスガンマモンには、その気持ちが理解できない。
グルスガンマモンは、確かにガンマモンの中にいた。彼にとってガンマモンと自分は同一だ。片方にその存在を認識されていなくとも、グルスガンマモンにとってそれは紛れもない事実なのだ。誰が何と言おうと、誰に違うと言われようと。自分たちは同一だ。同じで、同義だ。
けれど彼には、分かってほしいと思った。グルスガンマモンは例え誰に否定されたとしても、宙という存在には、同一なのだと理解してほしかった。
(…なぜ?)
分からない。パートナーだからか、弟だと言われたからか。大切にされたからか。
けど自分ではない。パートナーなのはガンマモンであって、グルスガンマモンではない。弟なのは自分ではない。大切にされたのは、自分ではなかった。
姿を見せたら、同じように呼んでくれるのだろうか。宙を助けたら、呼んでもらえるのだろうか。
『――ガンマモン』
強い怒り、激しい憎しみ。刺激されようやっと表に姿を出したが、呼ばれた名前は自分のものではなかった。この強さがあれば仇を取れる。宙はボコモンを先生と呼び親しんでいた。自分は強い、こんな敵簡単に葬り去ることができる。宙が望めば、自分はすぐにでも殺して仇を取れる。嬉しいだろう?ガンマモンにはできなかったことだ。ガンマモンの強さでは不可能だったことだ。俺ならできる。喜べよ、簡単に復讐できるのだから。期待を込めグルスガンマモンはシールズドラモンの首を掴み上げたまま宙を見つめた。
(言え、言え。俺を使え、お前が望めば、簡単に殺してやる)
けれど、けれど。
宙には流れ込んできた情報を理解することができなかった。いつものように技名を叫ぶことができなかった。
何が違う?ずっとずっと一緒にいたのに。一緒にいたのはガンマモンだけではない。自分だって宙の隣にずっと一緒にいた。二度も姿を見せた。助けてやった。今だって仇を取ってやれる。
宙は喜んで指示をくれるはずだった。いつものように技名を言ってくれれば、気持ちよくシールズドラモンを殺すことができたのに。心苦しく思うことはない。罪悪感を抱く必要はない。だってこいつはボコモンを殺した。ただ数のためだけにデジモンを殺し続けた。そんな奴に生きている価値などない。復讐したとして、殺したとして咎める者など誰もいやしない。のに、何故。
他の誰がどうなったっていい。他の誰が傷つこうが死のうがどうだっていい。誰に否定されてもいい。ただ宙が自分の名前を呼んでくれれば、自分の気持ちを理解してくれれば。ただそれだけで、どれほど満足できただろう。
「ガンマモン!」
「―――グルス、ガンマモンだっつってんだろ!」
叶わない望みが苛立ちを助長する。内側の深い深いところで、小さな白い自分がわんわんと泣いている。泣いてどうなる、泣いたって仇は取れない。復讐に必要なのは強さだ。お前がそうやって弱いからボコモンが死んだのだ。デジモンは、俺たちは強くなければ生き残れない。俺たちの生きる世界は、いつだって。
「食うか食われるかだ!!」
宙、お前が俺の名前を呼ぶのなら、俺がお前を『食う』側へ連れてってやれるんだ。