人間CP
色んな事を純粋に信じきることができなくなったのは、きっと一番多感だったあの頃、たくさんの絶望や悲しみを知ってしまったから。常に一枚ベールを被っているのは、内側の全てを暴かれるのが嫌だから。僕の内側の全てを知って、それでもなお傍にいてくれる人がいるとは、とても思えなかったから。希望という名の紋章を持つ身としては、とてもじゃないが相応しくないなと自嘲してしまう。昔はもっと心から希望を信じることができた。昔はもっと心から笑うことができた。今はどうだろう。大人というにはまだまだで、小学5年生なんて、ようやくあの時の兄さんたちに追いついただけだ。とてもじゃないが大人とは言えないだろう。だけどあの冒険の頃の自分から比べれば、5年生は十分大人に感じた。
そんなことばかり感じているから、自然とヒカリちゃんと一緒にいるのが一番楽だった。ヒカリちゃんだけが、この感覚を少しだけ共有できたから。共有できないとしても、ヒカリちゃんは理解してくれるから。そう思うと、大輔君のようなタイプはあんまり反りが合わないだろうなと、初めの頃は感じていたなと思い出す。太一さんのような子だと思ったけど、一緒にいるうちに全然違うと思うようになった。だって太一さんは強く照り付ける太陽のようだったけれど、大輔君は太陽というより、暖かい日差しのようだった。どこまでも真っすぐ前を向いて、誰一人見捨てなくて。その光は闇さえも同じように包んでしまって。僕には理解ができなかった。どうしてそんなに誰に対しても無償で光を与えてしまうのだろう。だって闇を救う理由が分からない。闇は総じて滅ぶべきで、そこにどのような理由があったとして、同情の余地などないはずなのだ。
だけど違った。きっと太一さんやあの頃の仲間なら、切り捨てていた。そんな相手を、大輔君は救いあげてしまった。だから大輔君じゃなきゃいけなかったのだ、僕たちのリーダーは。羨ましかった。絶望も何も知らない綺麗な目。僕にはもうそんな綺麗な目はないのに。僕はもう、そんな風に純粋に物事を見ることができないのに。僕よりもよほど平和な環境で生きているくせに、どうしてこんなに違ってしまうのだろう。ずるいじゃないか、だって僕は今までたくさん辛いことを乗り越えてここまで来たのに、それでも本当に必要なものは突然出てきた大輔君のほうが持っている。こんな理不尽な話があるだろうか。だから大輔君が僕に怒って突っかかってくると、酷く安心した。大輔君が僕を嫌っていると、僕は息がしやすかった。
(君が僕を嫌ってくれているうちは、僕も君を恨んでいられる)
きっと何も知らない大輔君には悪いことをしていると思う。だけど今更、僕は君に対して綺麗にはなれないのだ。せめて君に悟られないようにする努力はするから、これくらいの仕打ちは許してほしい。だから今日だってまた、君に対して胡散臭いだろう笑顔を向けている。君はきと気が付かない。気付かないでいい。気付かないでほしい。僕のこんな本心、君には知らないままでいてほしい。
「お前、そんないっつも笑ってて楽しいかよ」
心臓が跳ねる。いつも通りの怒った顔の大輔君のはずなのに、その目はいつもと全然違った。真っすぐに僕を見る。純粋で、綺麗で、何も知らない。
―――本当に?
これは、この目は、知っている目だ。
「…お前がそれがいいって言うなら、まぁ、俺はなんも言わねぇけどさ」
それでいい、って言うなら、やめれば。
目が熱い。大輔君が僕を見て慌てている。ああ、僕、今泣いてるんだって、どこか客観的に感じた。僕が現状を望んでいるのなら、そのままでいいと。けど望んでいるわけではなく、甘んじているのなら、いっそやめてしまえばいいのだと。そんなことしたら、大輔君が一番傷つくのに。たくさん傷つけてしまうのに。わかっていて、どうしてそんなことを言えるの。どうして、こんな僕にも、優しくしてくれるの。わからないけど、大輔君らしいなって、思ってしまう。
「お、おい、大丈夫か?」
「…大丈夫に見えるなら、よっぽど目が悪いんだね」
「はぁ!?心配してやってんのになんだよ!!」
声を荒げる大輔君は、もういつも通りの彼だった。こんなことで簡単に怒って見せる純粋さが、やっぱりどこか憎らしい。だけど不思議と、今までのような隔たりは感じなかった。
敵わないなぁ。
そんな本心は、まだ、伝えないでおこう。
そんなことばかり感じているから、自然とヒカリちゃんと一緒にいるのが一番楽だった。ヒカリちゃんだけが、この感覚を少しだけ共有できたから。共有できないとしても、ヒカリちゃんは理解してくれるから。そう思うと、大輔君のようなタイプはあんまり反りが合わないだろうなと、初めの頃は感じていたなと思い出す。太一さんのような子だと思ったけど、一緒にいるうちに全然違うと思うようになった。だって太一さんは強く照り付ける太陽のようだったけれど、大輔君は太陽というより、暖かい日差しのようだった。どこまでも真っすぐ前を向いて、誰一人見捨てなくて。その光は闇さえも同じように包んでしまって。僕には理解ができなかった。どうしてそんなに誰に対しても無償で光を与えてしまうのだろう。だって闇を救う理由が分からない。闇は総じて滅ぶべきで、そこにどのような理由があったとして、同情の余地などないはずなのだ。
だけど違った。きっと太一さんやあの頃の仲間なら、切り捨てていた。そんな相手を、大輔君は救いあげてしまった。だから大輔君じゃなきゃいけなかったのだ、僕たちのリーダーは。羨ましかった。絶望も何も知らない綺麗な目。僕にはもうそんな綺麗な目はないのに。僕はもう、そんな風に純粋に物事を見ることができないのに。僕よりもよほど平和な環境で生きているくせに、どうしてこんなに違ってしまうのだろう。ずるいじゃないか、だって僕は今までたくさん辛いことを乗り越えてここまで来たのに、それでも本当に必要なものは突然出てきた大輔君のほうが持っている。こんな理不尽な話があるだろうか。だから大輔君が僕に怒って突っかかってくると、酷く安心した。大輔君が僕を嫌っていると、僕は息がしやすかった。
(君が僕を嫌ってくれているうちは、僕も君を恨んでいられる)
きっと何も知らない大輔君には悪いことをしていると思う。だけど今更、僕は君に対して綺麗にはなれないのだ。せめて君に悟られないようにする努力はするから、これくらいの仕打ちは許してほしい。だから今日だってまた、君に対して胡散臭いだろう笑顔を向けている。君はきと気が付かない。気付かないでいい。気付かないでほしい。僕のこんな本心、君には知らないままでいてほしい。
「お前、そんないっつも笑ってて楽しいかよ」
心臓が跳ねる。いつも通りの怒った顔の大輔君のはずなのに、その目はいつもと全然違った。真っすぐに僕を見る。純粋で、綺麗で、何も知らない。
―――本当に?
これは、この目は、知っている目だ。
「…お前がそれがいいって言うなら、まぁ、俺はなんも言わねぇけどさ」
それでいい、って言うなら、やめれば。
目が熱い。大輔君が僕を見て慌てている。ああ、僕、今泣いてるんだって、どこか客観的に感じた。僕が現状を望んでいるのなら、そのままでいいと。けど望んでいるわけではなく、甘んじているのなら、いっそやめてしまえばいいのだと。そんなことしたら、大輔君が一番傷つくのに。たくさん傷つけてしまうのに。わかっていて、どうしてそんなことを言えるの。どうして、こんな僕にも、優しくしてくれるの。わからないけど、大輔君らしいなって、思ってしまう。
「お、おい、大丈夫か?」
「…大丈夫に見えるなら、よっぽど目が悪いんだね」
「はぁ!?心配してやってんのになんだよ!!」
声を荒げる大輔君は、もういつも通りの彼だった。こんなことで簡単に怒って見せる純粋さが、やっぱりどこか憎らしい。だけど不思議と、今までのような隔たりは感じなかった。
敵わないなぁ。
そんな本心は、まだ、伝えないでおこう。