人間CP
「…泣いてるのか?」
太一の中のメノアの印象は、自身に溢れた天才、その程度だった。デジモンについて研究していて、その中でエオスモンが起こしている事件で近づいてきた人間。ヤマトがメノアについて調べる中で、メノアにもパートナーデジモンがいたことを知った。
パートナー関係の解消。突然目の前に突き出された現実を心も頭もまだ理解ができていなくて、だけどエオスモンは誰かが止めなきゃいけなくて。だから太一は、そんな自分の心に整理をつけるためにメノアに会いに行った。恐らくもうパートナーと別れてしまったのだろうメノアと、会って話がしたかった。
(多分、薄々気づいてはいたんだ)
メノアが自分たちに近付いてきた意味を、きっと太一はわかっていた。彼にパートナーがいたということを知った時点で、察しはついていたのだ。だってそう考えたら、すべての辻褄があう。だけど一つだけ疑問だった。もし本当にエオスモンの事件が、彼によるものだとして。
「どうして俺とヤマトを最初に狙わなかったんだ」
「…なるほど、もうそこまでわかってるんだね」
全員がパートナーを究極体にまで進化させることができるとはいえ、それでも選ばれし子どもたちにとって太一とヤマトという二人は特別な位置にいた。太一だって自分がどういう風に見られているのか、それくらいは理解できている。だから不思議で仕方がなかった。自分たちを最初に手籠めにしてしまえば、きっとメノアにとってはその方が有利に事が運ぶはずだから。だけどそれをしなかった。あろうことか、最も近くから、サポートまで。
「君たちに、君に、同じ苦しみをわかってほしかったって言ったら、怒る?」
「…本当なら殴ってやりたい」
「はは、聞いていた通り、おてんばなんだね」
「どうせ女らしくねぇよ」
太一がそう吐き捨てれば、メノアは徐に太一の頬に手を伸ばした。
「そんなことない。君だって立派な女性だよ」
「…急になんだよ」
「君に会った時から、ううん、君を画面越しに見た時から、君なら救ってくれるんじゃないかって、この現状から、連れ出してくれるんじゃないかって、ずっとそう思ってた」
微笑みながらそう語るメノアは、なぜだか少し泣きそうに見えた。その表情を見て、太一はなんとなくわかってしまった。きっとメノアが最初に自分たちを狙わなかったのは、まだ彼自身が救いを求めているからだ。何度も世界を救ってきた太一とヤマトなら、太一たちなら何かを変えてくれるんじゃないかという淡い希望が残っていたからだ。だけど結局、太一たちはメノアと同じ道を歩き出してしまった。タイムリミットを示すリングは、着実に減っている。メノアにとっての最後の希望は、多分そこでついえてしまったのだ。
(…一緒にいれば、少しは助けられるかな)
可哀想な人だと思った。誰にも同じ苦しみを理解してもらえず、半身を失った悲しみに狂ってしまった人。きっと太一も、何も知らずに突然アグモンが消えてしまったら、同じことをしていたかもしれない。太一がそうしないのは、デジタルワールドで冒険した思い出があるからだ。あの世界の尊さを身をもって知っているからだ。だってあの世界は、パートナーが暮らしていた世界だから。
今にも泣いてしまいそうなメノアに、太一は同じように手を伸ばす。両手を頬に添えて、太一は一度静かに目を閉じ、そしてもう一度メノアの目を見て言った。
「なら、俺がいる」
わかりやすくメノアは驚いて見せる。それは太一の覚悟だった。
「俺が、一緒にいてやる」
「…君が僕の女神になってくれるの?」
「ああそうだ。女神でもなんでも、お前が望むように」
きっと正しいやり方ではない。ヤマトや光子郎に怒られるんだろうな、なんて思うけれど、だってこうでもしなければメノアが消えてしまいそうだったから。誰が悪いとかそういうことじゃないんだと、太一はわかってしまったから。
(止める役は、ヤマトがやってくれるから)
だから俺はこの人のために傍にいよう。そう覚悟を決めた太一の強い瞳に、メノアは静かに涙を流して笑った。
太一の中のメノアの印象は、自身に溢れた天才、その程度だった。デジモンについて研究していて、その中でエオスモンが起こしている事件で近づいてきた人間。ヤマトがメノアについて調べる中で、メノアにもパートナーデジモンがいたことを知った。
パートナー関係の解消。突然目の前に突き出された現実を心も頭もまだ理解ができていなくて、だけどエオスモンは誰かが止めなきゃいけなくて。だから太一は、そんな自分の心に整理をつけるためにメノアに会いに行った。恐らくもうパートナーと別れてしまったのだろうメノアと、会って話がしたかった。
(多分、薄々気づいてはいたんだ)
メノアが自分たちに近付いてきた意味を、きっと太一はわかっていた。彼にパートナーがいたということを知った時点で、察しはついていたのだ。だってそう考えたら、すべての辻褄があう。だけど一つだけ疑問だった。もし本当にエオスモンの事件が、彼によるものだとして。
「どうして俺とヤマトを最初に狙わなかったんだ」
「…なるほど、もうそこまでわかってるんだね」
全員がパートナーを究極体にまで進化させることができるとはいえ、それでも選ばれし子どもたちにとって太一とヤマトという二人は特別な位置にいた。太一だって自分がどういう風に見られているのか、それくらいは理解できている。だから不思議で仕方がなかった。自分たちを最初に手籠めにしてしまえば、きっとメノアにとってはその方が有利に事が運ぶはずだから。だけどそれをしなかった。あろうことか、最も近くから、サポートまで。
「君たちに、君に、同じ苦しみをわかってほしかったって言ったら、怒る?」
「…本当なら殴ってやりたい」
「はは、聞いていた通り、おてんばなんだね」
「どうせ女らしくねぇよ」
太一がそう吐き捨てれば、メノアは徐に太一の頬に手を伸ばした。
「そんなことない。君だって立派な女性だよ」
「…急になんだよ」
「君に会った時から、ううん、君を画面越しに見た時から、君なら救ってくれるんじゃないかって、この現状から、連れ出してくれるんじゃないかって、ずっとそう思ってた」
微笑みながらそう語るメノアは、なぜだか少し泣きそうに見えた。その表情を見て、太一はなんとなくわかってしまった。きっとメノアが最初に自分たちを狙わなかったのは、まだ彼自身が救いを求めているからだ。何度も世界を救ってきた太一とヤマトなら、太一たちなら何かを変えてくれるんじゃないかという淡い希望が残っていたからだ。だけど結局、太一たちはメノアと同じ道を歩き出してしまった。タイムリミットを示すリングは、着実に減っている。メノアにとっての最後の希望は、多分そこでついえてしまったのだ。
(…一緒にいれば、少しは助けられるかな)
可哀想な人だと思った。誰にも同じ苦しみを理解してもらえず、半身を失った悲しみに狂ってしまった人。きっと太一も、何も知らずに突然アグモンが消えてしまったら、同じことをしていたかもしれない。太一がそうしないのは、デジタルワールドで冒険した思い出があるからだ。あの世界の尊さを身をもって知っているからだ。だってあの世界は、パートナーが暮らしていた世界だから。
今にも泣いてしまいそうなメノアに、太一は同じように手を伸ばす。両手を頬に添えて、太一は一度静かに目を閉じ、そしてもう一度メノアの目を見て言った。
「なら、俺がいる」
わかりやすくメノアは驚いて見せる。それは太一の覚悟だった。
「俺が、一緒にいてやる」
「…君が僕の女神になってくれるの?」
「ああそうだ。女神でもなんでも、お前が望むように」
きっと正しいやり方ではない。ヤマトや光子郎に怒られるんだろうな、なんて思うけれど、だってこうでもしなければメノアが消えてしまいそうだったから。誰が悪いとかそういうことじゃないんだと、太一はわかってしまったから。
(止める役は、ヤマトがやってくれるから)
だから俺はこの人のために傍にいよう。そう覚悟を決めた太一の強い瞳に、メノアは静かに涙を流して笑った。