人間CP
赤く熟れた顔と、遠慮がちに伏せられた瞳。心音が早くなって、慌ただしく脈打つ。恐る恐るその腕に触れれば、分かりやすいほどに肩がびくりと震えた。当然、だろう。これから、今から二人でしようとしていることは、つまりは、そういうことなのだから。
「…太一さん」
小さな声で名前を呼ぶと、ゆっくりと顔を上げる。少しだけ汗ばんだ赤い顔に、不覚にも心臓がどきりと跳ねた。今にも襲ってしまいそうな、そんな感覚を抑え込むように自らの手を握りしめる。性急に求めることだけはしてはいけない。それは、きっと傷つけてしまうから。けれどその表情は、その瞳は、あまりにも刺激が強い。息を吞んで、カラカラに乾いている喉で言葉を続けた。
「太一さん、いい?」
「……ん」
小さな小さな返事に、そっと顔を近づけ口付ける。優しく触れるだけのキスを何度かすれば、次第にその瞳が閉じていく。完全に閉じられたのを確認して、一層深く口付ける。びく、と震えた肩に気付かないふりをして欲のままに舌を伸ばすと、驚いたのかその体を引こうとするから、腕を掴んでいた手に力を入れて押さえ、その歯列をなぞった。
「んっ、ふぁ…ぅんんっ」
少し空いた隙間にさらに舌を進ませ、一瞬触れたそれを、逃げてしまう前に絡め合わせた。そうやって触れ合いながら、座っていた腰を浮かせ胸に手を置き、少し力を入れてベッドへ押し倒す。上へ覆いかぶさるように跨って再びキスを繰り返せば、息が苦しくなったのか弱々しく肩を押された。名残惜しくも唇を離すと、太一さんはすでに少し涙目で、さっきよりももっと顔を赤くして息を上げていた。互いの口に引いた糸が、光に反射して銀色に光る。
「はっ…ふ、ぅ…」
「太一さん…して、いいですか?」
「…緊張、してんの?」
「…太一さんが思ってるより、余裕ないですよ」
なんだか少し気恥ずかしくて、思わず顔を背ける。好きな人にはかっこいい姿を見せたいと思うし、リードしたい、なんて、生意気にも思ってしまうから。決まりが悪くて顔を背け続けていると、ふと太一さんの手が頬に触れた。目線を向ければ、そこには少し眉尻を下げて、優しく微笑む太一さんがいた。
「ふふ、かわいいなぁ」
「…可愛いのは俺じゃなくて太一さんでしょ」
「っ!」
子ども扱いされているようなそんな気がして、微笑むその口にもう一度軽くキスをする。ああほら、これだけでまた赤くなっちゃって。可愛いのはどっちですか。そう思いキスをしながらおもむろにシャツの中へ手を運ぶと、一瞬体が震えた。唇を離せば、今度は太一さんの方が余裕なさ気な顔でこちらを見る。
「ぁ、……こうしろ、」
「黙って」
そんな顔を見せられて、余裕なんてあるわけがない。ずくりと湧き上がる欲求はもう自分で何とかできる範囲などとうに超えていた。半ば強引にシャツをまくり上げてその健康的に焼けた肌に手を這わせ、至るところへキスを落とす。小さく息の漏れる音にちらと目線を上げれば、太一さんはきゅっと口を閉じて、顔を真っ赤にしていた。初々しいその姿がいじらしくてくすりと笑みが零れる。へそのあたりをするりと撫でると、目に入った胸の小さな飾りにも、キスをした。
「っあ、」
「…気持ちいいですか?ここ」
「ぇ、あ…わ、かんな、」
聞こえた切なげな声に、胸に手を当てる。初めてであろう感じた感覚に太一さんは困ったような顔をしていて、僕は少しだけ、と自分に言い聞かせながら、今度はその飾りを少しだけつまんだ。
「ぃっ…」
「…やっぱまだですかね」
この部分は、慣れるまではやはり痛みの方が強いらしい。顔を歪めたのを見てすぐに手を離した。
「すいません、大丈夫ですか?」
「ん…だい、じょぶ」
初めよりも随分とろんとした目で、途切れ途切れに言われる。本能的に、多分もうそろそろと思ってズボンに手をかけた。気付いた太一さんが、少しぎょっとして目を見開く。
「な、なに…」
「太一さん、脱いで」
「っ、…で、も」
「僕も脱ぎますから。だから、ね」
怖がらせてしまわないように、なるだけ優しく呟いて微笑みかける。しばらく狼狽えた後、太一さんは恥ずかしいのか目を逸らしたまま小さく頷いた。ゆっくりとズボンのチャックを開けて、下着ごと一緒にずり下す。そうして姿を見せた太一さんのそれは、さっきまでの行為のせいなのか若干首をもたげている。僕自身に、一気に熱が集まるのを感じた。
「あんま、見るな…っ」
恥ずかしさに泣きそうな顔をして太一さんが言う。それすらも可愛らしくてたまらないなんて思いながら、僕も上に着ていた服を脱ぎ捨てた。
「っ…!」
「…太一さん?」
「……や、なんでも、ない」
脱いだ途端に太一さんがさっきよりも目を見開くから、こちらまでつられて驚いてしまう。何でもないという太一さんは、どこか見てはいけないものを見てしまった、みたいな、そんな顔をしていた。一向に目を合わそうとしないから仕方なく追及を諦め、太一さんのそれにゆっくりと触れる。
「ひ、ぁっ」
触れた途端に甘い声が響いて、体が強張る。大丈夫だというように肌を撫でながら、手の中のそれをもみしだいた。
「あっ、んん…っ、んぅ、」
「っ…太一、さん」
「んっ…あ、ぅ」
漏れる声に煽られ、痛くないようにとゆっくりだった手の動きが次第に早くなっていく。ただそうしているだけなのに、僕の息まで、荒くなる。
「ぁ…あっ!やっ、あぁ、」
「…これ、イイんですね」
爪先で先端を引っ搔けば、いっそう大きな嬌声が漏れた。指先で押しつぶすように先を弄ると、首をもたげる程度だったそれが完全に勃って、少しずつ先走りが出てくる。ぐちゅりとなる卑猥な音は、僕にも太一さんにも快感を与えた。
「あ、やぁ!あ、ぁっ…も、イっ…!」
「いいですよ、太一さん。一回イって」
「ひ、ぅ…あぁっ!」
ガリ、ととどめを刺すように先端を引っ掻くと同時に、手の中へ白濁の液体が溢れた。うっすらとその目に涙をためている太一さんの息は乱れていて、呼吸をするたび上下する胸にごくりと喉を鳴らした。見たことのない、知らない太一さんの姿がある。その光景に、布越しでも痛いほどわかりやすく主張する自身を認識して、挿れたいと思った。挿れたらどんな反応を見せてくれるのか、それが、見たかった。
「太一さん、ここ、ならしますよ」
「へ…ぁ、…ん、なにっ」
膝を立たせて、太一さんが吐き出した白濁を指に絡ませ、返事すら待たずに一本、挿れる。つぷりと入っていくそこは本来何かを入れるべきところではないからか思っていた以上にキツい。このままで挿れれば絶対に痛いだろうと、焦りを覚えつつも、時間をかけてちゃんとそこをならしていく。
「ぅ、…んん」
「太一さん、痛い?」
「ちが、な、んか…へん…っ、」
挿れたそこはまだキツく、たった指一本といってもなかなか思うようにはいかない。壁を押し広げるようにぐるりとまわりをなぞれば、その度に太一さんの口からくぐもった声が漏れた。どれも初めての感覚だから、快楽を拾いきれていないのだろう。それでもそこは少しずつ広がって、それに従うように二本目を挿れた。
「んぁ、…ぁ…ふっ」
「太一さん、痛かったら言ってください」
得体のしれない感覚に怯えるように体をよじるたび、広げられている足を撫でる。萎えてしまわないうちに、イイところとやらをさがさなければいけないのだけれど、いかんせん僕も男性を抱くというのは初めてだから、どのあたりがそうなのかなかなか見つからない。沸き続ける欲求を無理やり抑えつつ指を動かしていると、ふと、指先が何かを掠めた。
「ぁ、あぁ!なにっ」
「…ここ?」
「や、ぁあっ」
その何かを掠めた途端に、声が大きくなる。まさかと思い同じところをぐり、と押せば、思い切り背が仰け反った。ここなんだ、と熱くなる自身に単純だなと呆れつつも、ようやく見えた進展に口元が緩んだ。
「ここですね」
「や、んっ、あっ…そこっ、やぁ!」
だいぶなれたそこにもう一本だけ挿れて、所謂イイところを押す。びくびくと反応を見せる体にようやく快楽を得たことを確認した。嫌だ嫌だとなく太一さんに心の中で一度だけ謝って、何度もそこを弄ると、一度イった太一さんのそれが再び起き上がって、熱を吐き出そうとする。太一さんがまたイキそうになったところで、指を抜いた。
「ぁ…ふっ……?」
「…僕も、そろそろ限界なんで」
は、と一度息を吐いて、自分のズボンに手をかける。ガチャガチャと音を鳴らしてベルトをはずし、一気に下した。きっと辛いだろうからと、広げている足の間に割って入って、その足を自分の肩にかけてやれば、太一さんはびっくりした様子で焦った。
「こうしろ、いいっ、重いだろ!」
「僕は大丈夫ですから。太一さんの方が辛い役なんだから、大人しくしててください」
「ぅ……」
優しく言えば、しぶしぶでも納得してくれた。赤い顔にやっぱり可愛いなあなんて思いながら、自分のそれをぴたりとそこへつける。ピクリと足が震えたのが肩越しに伝わった。ならした、けれどまだ少しキツいそこへ自身の先端を押し込む。
「ぃっ、あ゙…!」
「ぐ、…た、いちさん、力、ぬいてっ」
異物が入ってくることへの恐怖なのか、ナカはならしたはずなのにずっとキツかった。動こうにも締め付けられていて、力を抜くように言うがいっぱいいっぱいの太一さんには聞こえていない。これではあまりに負担をかけてしまう。どうにか、なんとかならないかと思って、目に入ったシーツを力いっぱい握っている太一さんの手に自分の手を重ねた。シーツの掴む指を一本ずつ解いて、僕の手を掴ませる。それに気付いた太一さんがうっすら目を開いたのを見て、すかさず口付けた。
「んっ…んぅ、ふ……んん゙っ!?」
手を握ってキスをして、そうして少しだけ力が抜けた瞬間を狙って、一気に突き上げる。太一さんが僕の手を強く握る。唇を離してさっき見つけたところを探せば、それはすぐに見つかった。
「あ、んゃ、ああっ!」
「は、…太一、さんっ」
「んぁあっ!ぁっ、そこ…やっ!」
その一点を突くように腰を振ればさらに嬌声は大きくなり、もっととせがむように太一さんの腰も揺れる。ぐちゅぐちゅと鳴る音も仰け反る背も、背中に当たる足も、全部が全部、ただただ僕を煽った。
「っ、……太一さん、気持ちいい?」
「あっ、あ、いいっ…いい、あぁっ!」
生理的に流れる涙がきらきらと光る。ただそれを、綺麗だと思った。
「ひぁ、あ、やらっ、イく…っ、あ、あっ!」
「僕も、もう…っ」
いっそう声が大きくなる。ナカの締め付けが、キツくなった。息苦しさを覚えつつ、もう一度、奥を深く突く。
「ひ、んっ…ぁ、あぁああ!」
「っ!はっ……ん、」
背を仰け反らせ、つま先までぴんと足先を伸ばして、ぎゅっと僕の手を握り果てる。同時に締め付けが強くなって、危うくナカへ出してしまいそうになるのを慌てて抜いて、そうして僕も果てた。無意識のうちに止めていた息を一つ吐く。まだ熱は残っているようにも思うが、とにかくまずは、少しだけ休みたいというか、落ち着かせたい。ちらと太一さんを見下ろせば、目を閉じて息を上げている。互いに吐き出したそれを処理しようと、熱も冷めやらないうちにそっと握っていた手を放し、肩から足を下ろして、近くのティッシュを取った。少し落ち着いてみると、どうにも恥ずかしい。まともに太一さんを見れる気がしない、今更だが。
ティッシュで自分のそれを拭って、太一さんの腹のあたりもなるべく刺激を与えないように拭きながら、さっきまでの太一さんの姿を思い出してはかき消すように頭を振ったりと一人勝手に煩悩と戦っていると、突然腕をぐいと引っ張られた。
「へ、わっ」
勢いよくごろんとベッドの上へ倒れる。何だと思って反射的に閉じた目を開けば、太一さんと目が合った。
「太一さん…?」
「……疲れた」
「ぇ、あ、すいません」
「…も、眠い、いて」
「え、」
驚いて起き上がろうとするが、腕を掴まれててそうもいかない。〝いて″というのは、隣で寝ろということだろうか。いや、その前に服を着ませんか。さっきまでの恥ずかしさ何処に行ったんですか、なんで僕が照れてるんだ。
「…ありがと、こうしろ」
「っ!!」
聞こえるか聞こえないか、それぐらい小さな声でそう言われ、ぎゅっと手を握られる。そのまま太一さんは、本当にすぅすぅと眠りについた。
(なっ、生殺しだこれ……!!)
行動といい言葉といい寝顔といい、可愛くて愛しくて仕方ない。何か返したくて、あわよくば抱きしめてしまいたいとさえ思うのに、当の本人はあっという間に夢の中。しょうがないと言われればしょうがないのだけれど。
そんな太一さんらしい姿にふ、と一度笑って、少し起き上がりせめてもとブランケットをかける。握られた手に幸せを嚙み締めながら、そっと額にキスをした。
「おやすみなさい、太一さん」
「…太一さん」
小さな声で名前を呼ぶと、ゆっくりと顔を上げる。少しだけ汗ばんだ赤い顔に、不覚にも心臓がどきりと跳ねた。今にも襲ってしまいそうな、そんな感覚を抑え込むように自らの手を握りしめる。性急に求めることだけはしてはいけない。それは、きっと傷つけてしまうから。けれどその表情は、その瞳は、あまりにも刺激が強い。息を吞んで、カラカラに乾いている喉で言葉を続けた。
「太一さん、いい?」
「……ん」
小さな小さな返事に、そっと顔を近づけ口付ける。優しく触れるだけのキスを何度かすれば、次第にその瞳が閉じていく。完全に閉じられたのを確認して、一層深く口付ける。びく、と震えた肩に気付かないふりをして欲のままに舌を伸ばすと、驚いたのかその体を引こうとするから、腕を掴んでいた手に力を入れて押さえ、その歯列をなぞった。
「んっ、ふぁ…ぅんんっ」
少し空いた隙間にさらに舌を進ませ、一瞬触れたそれを、逃げてしまう前に絡め合わせた。そうやって触れ合いながら、座っていた腰を浮かせ胸に手を置き、少し力を入れてベッドへ押し倒す。上へ覆いかぶさるように跨って再びキスを繰り返せば、息が苦しくなったのか弱々しく肩を押された。名残惜しくも唇を離すと、太一さんはすでに少し涙目で、さっきよりももっと顔を赤くして息を上げていた。互いの口に引いた糸が、光に反射して銀色に光る。
「はっ…ふ、ぅ…」
「太一さん…して、いいですか?」
「…緊張、してんの?」
「…太一さんが思ってるより、余裕ないですよ」
なんだか少し気恥ずかしくて、思わず顔を背ける。好きな人にはかっこいい姿を見せたいと思うし、リードしたい、なんて、生意気にも思ってしまうから。決まりが悪くて顔を背け続けていると、ふと太一さんの手が頬に触れた。目線を向ければ、そこには少し眉尻を下げて、優しく微笑む太一さんがいた。
「ふふ、かわいいなぁ」
「…可愛いのは俺じゃなくて太一さんでしょ」
「っ!」
子ども扱いされているようなそんな気がして、微笑むその口にもう一度軽くキスをする。ああほら、これだけでまた赤くなっちゃって。可愛いのはどっちですか。そう思いキスをしながらおもむろにシャツの中へ手を運ぶと、一瞬体が震えた。唇を離せば、今度は太一さんの方が余裕なさ気な顔でこちらを見る。
「ぁ、……こうしろ、」
「黙って」
そんな顔を見せられて、余裕なんてあるわけがない。ずくりと湧き上がる欲求はもう自分で何とかできる範囲などとうに超えていた。半ば強引にシャツをまくり上げてその健康的に焼けた肌に手を這わせ、至るところへキスを落とす。小さく息の漏れる音にちらと目線を上げれば、太一さんはきゅっと口を閉じて、顔を真っ赤にしていた。初々しいその姿がいじらしくてくすりと笑みが零れる。へそのあたりをするりと撫でると、目に入った胸の小さな飾りにも、キスをした。
「っあ、」
「…気持ちいいですか?ここ」
「ぇ、あ…わ、かんな、」
聞こえた切なげな声に、胸に手を当てる。初めてであろう感じた感覚に太一さんは困ったような顔をしていて、僕は少しだけ、と自分に言い聞かせながら、今度はその飾りを少しだけつまんだ。
「ぃっ…」
「…やっぱまだですかね」
この部分は、慣れるまではやはり痛みの方が強いらしい。顔を歪めたのを見てすぐに手を離した。
「すいません、大丈夫ですか?」
「ん…だい、じょぶ」
初めよりも随分とろんとした目で、途切れ途切れに言われる。本能的に、多分もうそろそろと思ってズボンに手をかけた。気付いた太一さんが、少しぎょっとして目を見開く。
「な、なに…」
「太一さん、脱いで」
「っ、…で、も」
「僕も脱ぎますから。だから、ね」
怖がらせてしまわないように、なるだけ優しく呟いて微笑みかける。しばらく狼狽えた後、太一さんは恥ずかしいのか目を逸らしたまま小さく頷いた。ゆっくりとズボンのチャックを開けて、下着ごと一緒にずり下す。そうして姿を見せた太一さんのそれは、さっきまでの行為のせいなのか若干首をもたげている。僕自身に、一気に熱が集まるのを感じた。
「あんま、見るな…っ」
恥ずかしさに泣きそうな顔をして太一さんが言う。それすらも可愛らしくてたまらないなんて思いながら、僕も上に着ていた服を脱ぎ捨てた。
「っ…!」
「…太一さん?」
「……や、なんでも、ない」
脱いだ途端に太一さんがさっきよりも目を見開くから、こちらまでつられて驚いてしまう。何でもないという太一さんは、どこか見てはいけないものを見てしまった、みたいな、そんな顔をしていた。一向に目を合わそうとしないから仕方なく追及を諦め、太一さんのそれにゆっくりと触れる。
「ひ、ぁっ」
触れた途端に甘い声が響いて、体が強張る。大丈夫だというように肌を撫でながら、手の中のそれをもみしだいた。
「あっ、んん…っ、んぅ、」
「っ…太一、さん」
「んっ…あ、ぅ」
漏れる声に煽られ、痛くないようにとゆっくりだった手の動きが次第に早くなっていく。ただそうしているだけなのに、僕の息まで、荒くなる。
「ぁ…あっ!やっ、あぁ、」
「…これ、イイんですね」
爪先で先端を引っ搔けば、いっそう大きな嬌声が漏れた。指先で押しつぶすように先を弄ると、首をもたげる程度だったそれが完全に勃って、少しずつ先走りが出てくる。ぐちゅりとなる卑猥な音は、僕にも太一さんにも快感を与えた。
「あ、やぁ!あ、ぁっ…も、イっ…!」
「いいですよ、太一さん。一回イって」
「ひ、ぅ…あぁっ!」
ガリ、ととどめを刺すように先端を引っ掻くと同時に、手の中へ白濁の液体が溢れた。うっすらとその目に涙をためている太一さんの息は乱れていて、呼吸をするたび上下する胸にごくりと喉を鳴らした。見たことのない、知らない太一さんの姿がある。その光景に、布越しでも痛いほどわかりやすく主張する自身を認識して、挿れたいと思った。挿れたらどんな反応を見せてくれるのか、それが、見たかった。
「太一さん、ここ、ならしますよ」
「へ…ぁ、…ん、なにっ」
膝を立たせて、太一さんが吐き出した白濁を指に絡ませ、返事すら待たずに一本、挿れる。つぷりと入っていくそこは本来何かを入れるべきところではないからか思っていた以上にキツい。このままで挿れれば絶対に痛いだろうと、焦りを覚えつつも、時間をかけてちゃんとそこをならしていく。
「ぅ、…んん」
「太一さん、痛い?」
「ちが、な、んか…へん…っ、」
挿れたそこはまだキツく、たった指一本といってもなかなか思うようにはいかない。壁を押し広げるようにぐるりとまわりをなぞれば、その度に太一さんの口からくぐもった声が漏れた。どれも初めての感覚だから、快楽を拾いきれていないのだろう。それでもそこは少しずつ広がって、それに従うように二本目を挿れた。
「んぁ、…ぁ…ふっ」
「太一さん、痛かったら言ってください」
得体のしれない感覚に怯えるように体をよじるたび、広げられている足を撫でる。萎えてしまわないうちに、イイところとやらをさがさなければいけないのだけれど、いかんせん僕も男性を抱くというのは初めてだから、どのあたりがそうなのかなかなか見つからない。沸き続ける欲求を無理やり抑えつつ指を動かしていると、ふと、指先が何かを掠めた。
「ぁ、あぁ!なにっ」
「…ここ?」
「や、ぁあっ」
その何かを掠めた途端に、声が大きくなる。まさかと思い同じところをぐり、と押せば、思い切り背が仰け反った。ここなんだ、と熱くなる自身に単純だなと呆れつつも、ようやく見えた進展に口元が緩んだ。
「ここですね」
「や、んっ、あっ…そこっ、やぁ!」
だいぶなれたそこにもう一本だけ挿れて、所謂イイところを押す。びくびくと反応を見せる体にようやく快楽を得たことを確認した。嫌だ嫌だとなく太一さんに心の中で一度だけ謝って、何度もそこを弄ると、一度イった太一さんのそれが再び起き上がって、熱を吐き出そうとする。太一さんがまたイキそうになったところで、指を抜いた。
「ぁ…ふっ……?」
「…僕も、そろそろ限界なんで」
は、と一度息を吐いて、自分のズボンに手をかける。ガチャガチャと音を鳴らしてベルトをはずし、一気に下した。きっと辛いだろうからと、広げている足の間に割って入って、その足を自分の肩にかけてやれば、太一さんはびっくりした様子で焦った。
「こうしろ、いいっ、重いだろ!」
「僕は大丈夫ですから。太一さんの方が辛い役なんだから、大人しくしててください」
「ぅ……」
優しく言えば、しぶしぶでも納得してくれた。赤い顔にやっぱり可愛いなあなんて思いながら、自分のそれをぴたりとそこへつける。ピクリと足が震えたのが肩越しに伝わった。ならした、けれどまだ少しキツいそこへ自身の先端を押し込む。
「ぃっ、あ゙…!」
「ぐ、…た、いちさん、力、ぬいてっ」
異物が入ってくることへの恐怖なのか、ナカはならしたはずなのにずっとキツかった。動こうにも締め付けられていて、力を抜くように言うがいっぱいいっぱいの太一さんには聞こえていない。これではあまりに負担をかけてしまう。どうにか、なんとかならないかと思って、目に入ったシーツを力いっぱい握っている太一さんの手に自分の手を重ねた。シーツの掴む指を一本ずつ解いて、僕の手を掴ませる。それに気付いた太一さんがうっすら目を開いたのを見て、すかさず口付けた。
「んっ…んぅ、ふ……んん゙っ!?」
手を握ってキスをして、そうして少しだけ力が抜けた瞬間を狙って、一気に突き上げる。太一さんが僕の手を強く握る。唇を離してさっき見つけたところを探せば、それはすぐに見つかった。
「あ、んゃ、ああっ!」
「は、…太一、さんっ」
「んぁあっ!ぁっ、そこ…やっ!」
その一点を突くように腰を振ればさらに嬌声は大きくなり、もっととせがむように太一さんの腰も揺れる。ぐちゅぐちゅと鳴る音も仰け反る背も、背中に当たる足も、全部が全部、ただただ僕を煽った。
「っ、……太一さん、気持ちいい?」
「あっ、あ、いいっ…いい、あぁっ!」
生理的に流れる涙がきらきらと光る。ただそれを、綺麗だと思った。
「ひぁ、あ、やらっ、イく…っ、あ、あっ!」
「僕も、もう…っ」
いっそう声が大きくなる。ナカの締め付けが、キツくなった。息苦しさを覚えつつ、もう一度、奥を深く突く。
「ひ、んっ…ぁ、あぁああ!」
「っ!はっ……ん、」
背を仰け反らせ、つま先までぴんと足先を伸ばして、ぎゅっと僕の手を握り果てる。同時に締め付けが強くなって、危うくナカへ出してしまいそうになるのを慌てて抜いて、そうして僕も果てた。無意識のうちに止めていた息を一つ吐く。まだ熱は残っているようにも思うが、とにかくまずは、少しだけ休みたいというか、落ち着かせたい。ちらと太一さんを見下ろせば、目を閉じて息を上げている。互いに吐き出したそれを処理しようと、熱も冷めやらないうちにそっと握っていた手を放し、肩から足を下ろして、近くのティッシュを取った。少し落ち着いてみると、どうにも恥ずかしい。まともに太一さんを見れる気がしない、今更だが。
ティッシュで自分のそれを拭って、太一さんの腹のあたりもなるべく刺激を与えないように拭きながら、さっきまでの太一さんの姿を思い出してはかき消すように頭を振ったりと一人勝手に煩悩と戦っていると、突然腕をぐいと引っ張られた。
「へ、わっ」
勢いよくごろんとベッドの上へ倒れる。何だと思って反射的に閉じた目を開けば、太一さんと目が合った。
「太一さん…?」
「……疲れた」
「ぇ、あ、すいません」
「…も、眠い、いて」
「え、」
驚いて起き上がろうとするが、腕を掴まれててそうもいかない。〝いて″というのは、隣で寝ろということだろうか。いや、その前に服を着ませんか。さっきまでの恥ずかしさ何処に行ったんですか、なんで僕が照れてるんだ。
「…ありがと、こうしろ」
「っ!!」
聞こえるか聞こえないか、それぐらい小さな声でそう言われ、ぎゅっと手を握られる。そのまま太一さんは、本当にすぅすぅと眠りについた。
(なっ、生殺しだこれ……!!)
行動といい言葉といい寝顔といい、可愛くて愛しくて仕方ない。何か返したくて、あわよくば抱きしめてしまいたいとさえ思うのに、当の本人はあっという間に夢の中。しょうがないと言われればしょうがないのだけれど。
そんな太一さんらしい姿にふ、と一度笑って、少し起き上がりせめてもとブランケットをかける。握られた手に幸せを嚙み締めながら、そっと額にキスをした。
「おやすみなさい、太一さん」