うちの子がこんなに可愛い!!!
特に大きな脅威もなく、ただ平穏な時が流れるここデジタウン。今日この庭にいるのはズワルト、デュークモンCM、マーシフルにディフィート、現パートナーのオメガモンXの成長を終えたデジモンたちと、現在育成途中であるヴァンデモンとウォーグレイモン、そしてブラックメガログラウモンだった。テイマーのお気に入り半分、育成メンバー半分といったところか。ディフィートは相変わらずマーシフルの側から離れようとはしないし、クリムゾンはズワルトとずっと何かしらを話し込んでいる。ヴァンデモンは一人で木を眺めているし、ブラックメガログラウモンはオメガモンXと小さな模擬戦のようなことをしていた。ウォーグレイモンもいずれオメガモンに進化する身であるから、オメガモンXの戦いをじっと観察している。
テイマーは調子がいい時は一日の間に何度も顔を見せるが、今日のところはまだ今朝方起きがけに一度顔を見せただけで、それ以降は姿を見ていない。デジタウンの編成から見て何度も来るかと身構えていたズワルトも、安心してクリムゾンと話し込んでいる。テイマーはデジモンたちを可愛がってはくれるが、些かそれが行き過ぎて煩わしい場合もあるというか、その場合の方が多いので、ズワルトとしてはそう何度も来られると疲れるのだ。それにせっかくクリムゾンと共に編成されているから、ゆっくり話す時間を取りたかった。彼はズワルトの次にやってきた超究極体で、初期からの仲間だ。ズワルトも彼にはかなり気を許している。テイマーとはいえ、この貴重な時間を邪魔されたくはなかった。
とはいえ、デジタルワールドとリアルワールドに隣接している場所というのも相まって、ここは基本的に騒動の種に困らない。直接的な実害が出るというわけではないのだが、間接的な影響は多々見られるのだ。が、今回はその限りでは済まなかった。
普段であれば、真っ先にズワルトがそれに気付き、注意喚起をしていたはずだ。ここデジタウンのまとめ役であり暗黙の了解でリーダーのような認識をされているから、彼の言うことにはほとんどのデジモンが言うことを聞く。ズワルトが新しく掲示板に表示されたその情報を最初に見ていたら、もっと違っていただろう。たらればを言ったところで、その情報を最初に見たのはまだ何も分からない、生まれたばかりのクラモンだという事実は変わらない。当然のことながらクラモンに情報伝達のスキルもそんな思考も存在しないので、誰も知らないまま、件のデジモンによる実害は現れた。
ビーッという大きな警告音。話し込んでいたデジタウンの住人たちが驚き空を見上げるが、それは空からではなく下から来た。
「ぁ、なんだッ!?」
「ぃ゛っ」
何か細長い、緑色のそれ。響く声に、真っ先にクリムゾンとディフィートが動いた。
「ズワルト!」
「マーシフルッ」
ぶちりと嫌な音と共に、突然襲ってきた蔦がズワルトとマーシフルから離れる。地面を這うように彼らを襲った蔦の先、つい先刻までいなかったはずの、一体のデジモンの姿。名前をアルゴモンと言った。
なぜここにそんなデジモンが、という疑問ももちろんだが、そんなことよりも一大事だったのは。
「馬鹿デュークモン!ここで必殺技を出そうとするな!」
「ディフィート、ディフィート、私はなんともないから、いいから落ち着け、その剣をしまってくれ」
今にも必殺技を出そうと怒り心頭のクリムゾンとディフィートを、ズワルトとマーシフルが必死に抑えていた。そんな彼らの他所ではオメガモンXがクラモンと卵を守るように蔦を相手にし、まだ完全体として未熟なブラックメガログラウモンを庇うようにウォーグレイモンが襲い掛かる蔦を切り裂いている。
クリムゾンとディフィートが怒り心頭なのにも一応の理由はあった。クリムゾンはズワルトと同じ超究極体で、その中でもズワルトと並び古参メンバーだ。彼はズワルトに対して並々ならぬ思いを抱いていた。無論ズワルトはそんなことは知らないけれど。そんな風に思いを寄せている相手に、その相手の腰に巻き付いて襲い掛かる蔦。一瞬だけ聞こえた普段は出さないような声。クリムゾンは、彼自身が思っているよりもずっと短慮だった。
「アニメだけに飽き足らず私のズワルトにも手を出すのかそうかそうか覚悟はできているな?消炭にしてやる」
「やめろと言っているだろう!ここを消すつもりか!」
「クォバディス!」
「ばッ、デュークモン!!!」
聞いちゃいなかった。当然のようにアルゴモンに向かって繰り出される必殺技。こと彼の必殺技は、単騎の相手にあまりにも有効だった。デジタウンの一角が黒焦げになった。
一方でマーシフルに手を出されたディフィートといえば、今にも暴走してアルゴモンもろともデジタウンを消してしまいそうだった。元来彼はウイルスとワクチンが反発し合って暴走している個体だ。落ち着いているのは単にマーシフルが傍にいるからであって、そしてディフィートにとってマーシフルは唯一だった。狙ったように翼に巻き付いた蔦。滅多なことでは声を上げないマーシフルの痛みで漏れる小さな声。暴走するための材料があまりにも十分すぎた。いや、幼年期や卵もあるこの場所で暴走されたら堪ったものではない。マーシフルは珍しく慌てている。
「ディフィート、な、私は大丈夫だから」
「殺す」
「待ってくれ、私にどうにもできなかったら本当にどうにもできな、」
「殺した」
「ディフィート…」
止めるマーシフルの言葉も聞かず放たれたガルルキャノンがアルゴモンの一体を焼き尽くす。マーシフルは頭を抱えた。普段はこんなに言うことを聞かない子ではないのに。ちなみにデジタウンは更にボロボロになった。
クリムゾンとディフィートが思うように暴れたことが良かったのか、デジタウンに現れたアルゴモンの数体はそのまま実態を消す。うねっていた蔦も、静かに消えてしまった。とはいえデジタルワールドで何かが起きている影響か、デジタウンはどこか禍々しい雰囲気のままだけれど。よく見れば地面には蔦の影のようなものが見える。クリムゾンが更に地面に向かって技を出そうとするので、ズワルトはその後頭部を左腕でぶん殴って止めた。ディフィートがこれ以上暴走しないように、マーシフルはその翼で彼の視界を覆っている。
そんな彼らの様子を、遠目で眺める影が一つ。
「…愉快な光景だ」
ただ一人災を逃れたヴァンデモンが、どこか遠い目をしながら笑っていた。
ちなみにこの後大量発生したアルゴモンの討伐へ向かう際メンバー編成から外されたクリムゾンとディフィートがテイマーに激怒したり、事の顛末をヴァンデモンから聞いたテイマーが「何その楽園」とかなんとか言いながら崩れ落ちる姿が見られたとか。
テイマーは調子がいい時は一日の間に何度も顔を見せるが、今日のところはまだ今朝方起きがけに一度顔を見せただけで、それ以降は姿を見ていない。デジタウンの編成から見て何度も来るかと身構えていたズワルトも、安心してクリムゾンと話し込んでいる。テイマーはデジモンたちを可愛がってはくれるが、些かそれが行き過ぎて煩わしい場合もあるというか、その場合の方が多いので、ズワルトとしてはそう何度も来られると疲れるのだ。それにせっかくクリムゾンと共に編成されているから、ゆっくり話す時間を取りたかった。彼はズワルトの次にやってきた超究極体で、初期からの仲間だ。ズワルトも彼にはかなり気を許している。テイマーとはいえ、この貴重な時間を邪魔されたくはなかった。
とはいえ、デジタルワールドとリアルワールドに隣接している場所というのも相まって、ここは基本的に騒動の種に困らない。直接的な実害が出るというわけではないのだが、間接的な影響は多々見られるのだ。が、今回はその限りでは済まなかった。
普段であれば、真っ先にズワルトがそれに気付き、注意喚起をしていたはずだ。ここデジタウンのまとめ役であり暗黙の了解でリーダーのような認識をされているから、彼の言うことにはほとんどのデジモンが言うことを聞く。ズワルトが新しく掲示板に表示されたその情報を最初に見ていたら、もっと違っていただろう。たらればを言ったところで、その情報を最初に見たのはまだ何も分からない、生まれたばかりのクラモンだという事実は変わらない。当然のことながらクラモンに情報伝達のスキルもそんな思考も存在しないので、誰も知らないまま、件のデジモンによる実害は現れた。
ビーッという大きな警告音。話し込んでいたデジタウンの住人たちが驚き空を見上げるが、それは空からではなく下から来た。
「ぁ、なんだッ!?」
「ぃ゛っ」
何か細長い、緑色のそれ。響く声に、真っ先にクリムゾンとディフィートが動いた。
「ズワルト!」
「マーシフルッ」
ぶちりと嫌な音と共に、突然襲ってきた蔦がズワルトとマーシフルから離れる。地面を這うように彼らを襲った蔦の先、つい先刻までいなかったはずの、一体のデジモンの姿。名前をアルゴモンと言った。
なぜここにそんなデジモンが、という疑問ももちろんだが、そんなことよりも一大事だったのは。
「馬鹿デュークモン!ここで必殺技を出そうとするな!」
「ディフィート、ディフィート、私はなんともないから、いいから落ち着け、その剣をしまってくれ」
今にも必殺技を出そうと怒り心頭のクリムゾンとディフィートを、ズワルトとマーシフルが必死に抑えていた。そんな彼らの他所ではオメガモンXがクラモンと卵を守るように蔦を相手にし、まだ完全体として未熟なブラックメガログラウモンを庇うようにウォーグレイモンが襲い掛かる蔦を切り裂いている。
クリムゾンとディフィートが怒り心頭なのにも一応の理由はあった。クリムゾンはズワルトと同じ超究極体で、その中でもズワルトと並び古参メンバーだ。彼はズワルトに対して並々ならぬ思いを抱いていた。無論ズワルトはそんなことは知らないけれど。そんな風に思いを寄せている相手に、その相手の腰に巻き付いて襲い掛かる蔦。一瞬だけ聞こえた普段は出さないような声。クリムゾンは、彼自身が思っているよりもずっと短慮だった。
「アニメだけに飽き足らず私のズワルトにも手を出すのかそうかそうか覚悟はできているな?消炭にしてやる」
「やめろと言っているだろう!ここを消すつもりか!」
「クォバディス!」
「ばッ、デュークモン!!!」
聞いちゃいなかった。当然のようにアルゴモンに向かって繰り出される必殺技。こと彼の必殺技は、単騎の相手にあまりにも有効だった。デジタウンの一角が黒焦げになった。
一方でマーシフルに手を出されたディフィートといえば、今にも暴走してアルゴモンもろともデジタウンを消してしまいそうだった。元来彼はウイルスとワクチンが反発し合って暴走している個体だ。落ち着いているのは単にマーシフルが傍にいるからであって、そしてディフィートにとってマーシフルは唯一だった。狙ったように翼に巻き付いた蔦。滅多なことでは声を上げないマーシフルの痛みで漏れる小さな声。暴走するための材料があまりにも十分すぎた。いや、幼年期や卵もあるこの場所で暴走されたら堪ったものではない。マーシフルは珍しく慌てている。
「ディフィート、な、私は大丈夫だから」
「殺す」
「待ってくれ、私にどうにもできなかったら本当にどうにもできな、」
「殺した」
「ディフィート…」
止めるマーシフルの言葉も聞かず放たれたガルルキャノンがアルゴモンの一体を焼き尽くす。マーシフルは頭を抱えた。普段はこんなに言うことを聞かない子ではないのに。ちなみにデジタウンは更にボロボロになった。
クリムゾンとディフィートが思うように暴れたことが良かったのか、デジタウンに現れたアルゴモンの数体はそのまま実態を消す。うねっていた蔦も、静かに消えてしまった。とはいえデジタルワールドで何かが起きている影響か、デジタウンはどこか禍々しい雰囲気のままだけれど。よく見れば地面には蔦の影のようなものが見える。クリムゾンが更に地面に向かって技を出そうとするので、ズワルトはその後頭部を左腕でぶん殴って止めた。ディフィートがこれ以上暴走しないように、マーシフルはその翼で彼の視界を覆っている。
そんな彼らの様子を、遠目で眺める影が一つ。
「…愉快な光景だ」
ただ一人災を逃れたヴァンデモンが、どこか遠い目をしながら笑っていた。
ちなみにこの後大量発生したアルゴモンの討伐へ向かう際メンバー編成から外されたクリムゾンとディフィートがテイマーに激怒したり、事の顛末をヴァンデモンから聞いたテイマーが「何その楽園」とかなんとか言いながら崩れ落ちる姿が見られたとか。
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