うちの子がこんなに可愛い!!!
「呼び名がおかしくないか?」
率直すぎるそんな感想を述べたのは、たった今バトルパークでの戦闘を終えたオメガモンXだった。
まだまだ黒可というテイマーのデジモンになって日が浅いオメガモンXは知らなくて当然だが、彼女は他のデジモンは普通にその名前で呼ぶくせに、オメガモンに関してはそうではないところがある。それは最古参のズワルトや、そこそこの間彼女と時間を過ごしているマーシフルも知っていることだった。特に、その最たる被害者はマーシフルと言っても過言ではない。オメガモンXの苦言に、マーシフルは苦笑いを返すしかなかった。
「あまり言及するときりがないと思うぞ」
「いや、それは分かっているんだが…あんな呼ばれ方をしたのは初めてだったから…」
「ああ…多分咄嗟に出たんだろうなぁ」
「咄嗟で『パパ』と呼ばれてたまるか」
心底嫌そうに顔をしかめるオメガモンXの姿を、きっとテイマーが知ることはないのだろうなとマーシフルは密かに同情した。
事の発端はルビーを集めるために参加したバトルパークの一戦だった。特にパーティーの編成を変えることもなく、恐らく勝てるだろうと見込んだ相手を選んだうえでの対戦だった。編成はオメガモンX、マーシフル、デュークモンCM、そして超個性を持つウォーグレイモンとメタルガルルモンの5体。オメガモンXのオールデリートで数体にエラーを付与し、追い打ちとしてマーシフルの虞玲刀で更にエラーを付与した上でウォーグレイモンとメタルガルルモンのExスキルを打ち込む、というのが彼女の基本的なバトルパークでの戦い方なのだが、今回の一戦では相手が彼女が想定したよりも強力で、攻撃の要としているオメガモンXとマーシフルが同時にやられてしまったのだ。もちろんオメガモンと名のつくデジモンを溺愛している彼女は突然の出来事に一瞬思考を止めたのだが、その後咄嗟に出てきた言葉がまずかった。
『待ってママとパパ同時に死んだんだけど!?』
ママとパパ、とは。消える意識の中オメガモンXは、自身がやられたことよりもそっちが気になって仕方なかった。
マーシフルが度々テイマーに『ママ』と呼ばれているということはオメガモンXも知っている。正直意味がわからないしわかりたくもないのだが、今まで自分がそんな妙な呼ばれ方をされたことがなかったのでさほど気にはしていなかったのだ。だのにここに来て、何の前触れもなく『パパ』などと呼ばれれば、さすがに気にするなと言う方が難しい。というか、マーシフルがママとかいう呼び方を受け入れているのもどうかと思ってはいたのだ。口にしなかっただけで。いや、恐らくそう思っているのはオメガモンXだけではないのだけれど。
「妙な呼ばれ方をしているのは私だけではないだろう?」
「まぁ、それはそうだが」
「正直アルターBを『アルタビ』と呼んでいる方が私はどうかと思う」
オメガモンアルターB。テイマーの彼女は、彼のことをアルタビというあだ名で呼んでいる。同じ亜種であるアルターSのことはアルタスと呼んでいるようで、分からなくもないと言えば、分からなくもないあだ名だ。安直すぎるとは思うが。アルターB自身は呼びやすく略されたあだ名をつけられただけなので特に気にしていないらしいが、溺愛しているという割には安直な名をつけるのだなという疑問は微かに残る。そういう意味でもマーシフルは自分よりあちらのあだ名の方が、と言っているのだが、本人以外はテイマーに「ママ」呼ばわりされているマーシフルの方が問題だと思っていた。別に彼はママじゃない。ただ、テイマーがマーシフルに抱くイメージがそれに近いだけであって。
「あだ名と言えば、ズワルトも最近は妙な呼ばれ方をされ出しただろう」
「……今までの『ズワルトちゃん』も妙だろう」
マーシフルが思い出したように言うので、オメガモンXは眉間にしわを寄せた。
最古参の超究極体でありオメガモン系譜の中で最もテイマーのことを知っているズワルトは、最初の頃はただズワルトと呼ばれていた。が、最近になってズワルトちゃんという見た目に似合わず可愛らしい呼ばれ方をされるようになり、特にここ数日はそれが変な方向へ加速して「ずわちゃん」へと変化したので、これにはテイマーのことを理解しているつもりのズワルトも自分のないはずの耳を疑った。
テイマーがこんな風に妙なあだ名で呼ぶのはオメガモン系譜だけだ。他のデジモンは普通に名前で呼ばれる。中にはデュークモンCMのように「クリムゾン」とモード名で呼ばれるものもいるが、ごく一部だ。元はと言えば亜種が多い中で呼び名を分ける意味でそれぞれにあだ名のようなものをつけていたのだが、いつからか路線が変わったらしい。デジモンたちには分からないが、彼女はオメガモンは可愛いものだと認識しているので、自然と呼び方もその思考に寄る。ズワルト以外で言えば、ディフィートもこの中ではディフィートちゃんなどと呼ばれているが、彼はこの呼び名を一切肯定していない。マーシフルが抑えているので今はまだ暴れていないが、時間の問題かもしれない。
「…もしかして今後もそう呼ばれるんだろうか」
「彼女の気分によるだろうな。私もママと呼ばれることもあればマシと呼ばれることもあるから」
「気分でパパなどと呼ばれるのか…最悪だ」
「そう邪見にしてやるな、愛情の現れだと思えばいいだろう」
「…お前のそういうところがママと呼ぶのを助長しているんじゃないのか?」
マーシフルの本質は基本的には慈悲だ。技には一切の慈悲はないが、会話の節々にその断片が見受けられる。彼のこういう、テイマーを甘やかすような言動がそのあだ名をつけられるにいたった所以なのだろうなと理解したオメガモンXは、しかしそういえば自分には今まであだ名がなかったことにも気が付いた。
(…今までは普通に、オメガモンXとか、X抗体持ちとか、そんな呼び方だったな)
亜種の中で特定のあだ名がなかったのはオメガモンXだけだ。唐突に気が付いたオメガモンXのその様子を見て、マーシフルは少し俯くその顔を覗き込んだ。
「なんだ、あだ名がもらえて嬉しかったのか?」
「…あだ名をつけられるのはいいが、できればパパ以外を願いたいものだな」
テイマーにあだ名をつけられることは、デジモンにとっては嬉しかったりもするのだ。それは彼女がオメガモンXを心底溺愛しているという証拠だ。特に興味も関心もなければ、あだ名だってつけられない。確かにその溺愛っぷりには多少なりとも受け入れがたい部分もあるが、その反面テイマーに愛されているというのは、気分がいいものでもあった。言ったが最後、猫撫で声で今度はXちゃんとか呼ばれるだろう未来が見えるので決して本人には伝えないけれど。
まぁ、でも。
「パパだけはやめてほしい、本当に」
「…そんなに嫌だったのか」
嫌というか、生理的にあまり受け付けないというオメガモンXに、「あれ、もしかして受け入れてる自分はおかしいんだろうか」とマーシフルはふと思い、結論を出す前にその考えを振り払った。マーシフルに関してはもう期間が長すぎて、今更何を言ったって改善されることはないだろう。それが分かっているので、マーシフルは大人しく考えるのをやめた。
以来、本人が伝えたのか伝えなかったのかは分からないが、オメガモンXがパパと呼ばれることはなかったらしい。
(さすがに反省している、すまなかった)
率直すぎるそんな感想を述べたのは、たった今バトルパークでの戦闘を終えたオメガモンXだった。
まだまだ黒可というテイマーのデジモンになって日が浅いオメガモンXは知らなくて当然だが、彼女は他のデジモンは普通にその名前で呼ぶくせに、オメガモンに関してはそうではないところがある。それは最古参のズワルトや、そこそこの間彼女と時間を過ごしているマーシフルも知っていることだった。特に、その最たる被害者はマーシフルと言っても過言ではない。オメガモンXの苦言に、マーシフルは苦笑いを返すしかなかった。
「あまり言及するときりがないと思うぞ」
「いや、それは分かっているんだが…あんな呼ばれ方をしたのは初めてだったから…」
「ああ…多分咄嗟に出たんだろうなぁ」
「咄嗟で『パパ』と呼ばれてたまるか」
心底嫌そうに顔をしかめるオメガモンXの姿を、きっとテイマーが知ることはないのだろうなとマーシフルは密かに同情した。
事の発端はルビーを集めるために参加したバトルパークの一戦だった。特にパーティーの編成を変えることもなく、恐らく勝てるだろうと見込んだ相手を選んだうえでの対戦だった。編成はオメガモンX、マーシフル、デュークモンCM、そして超個性を持つウォーグレイモンとメタルガルルモンの5体。オメガモンXのオールデリートで数体にエラーを付与し、追い打ちとしてマーシフルの虞玲刀で更にエラーを付与した上でウォーグレイモンとメタルガルルモンのExスキルを打ち込む、というのが彼女の基本的なバトルパークでの戦い方なのだが、今回の一戦では相手が彼女が想定したよりも強力で、攻撃の要としているオメガモンXとマーシフルが同時にやられてしまったのだ。もちろんオメガモンと名のつくデジモンを溺愛している彼女は突然の出来事に一瞬思考を止めたのだが、その後咄嗟に出てきた言葉がまずかった。
『待ってママとパパ同時に死んだんだけど!?』
ママとパパ、とは。消える意識の中オメガモンXは、自身がやられたことよりもそっちが気になって仕方なかった。
マーシフルが度々テイマーに『ママ』と呼ばれているということはオメガモンXも知っている。正直意味がわからないしわかりたくもないのだが、今まで自分がそんな妙な呼ばれ方をされたことがなかったのでさほど気にはしていなかったのだ。だのにここに来て、何の前触れもなく『パパ』などと呼ばれれば、さすがに気にするなと言う方が難しい。というか、マーシフルがママとかいう呼び方を受け入れているのもどうかと思ってはいたのだ。口にしなかっただけで。いや、恐らくそう思っているのはオメガモンXだけではないのだけれど。
「妙な呼ばれ方をしているのは私だけではないだろう?」
「まぁ、それはそうだが」
「正直アルターBを『アルタビ』と呼んでいる方が私はどうかと思う」
オメガモンアルターB。テイマーの彼女は、彼のことをアルタビというあだ名で呼んでいる。同じ亜種であるアルターSのことはアルタスと呼んでいるようで、分からなくもないと言えば、分からなくもないあだ名だ。安直すぎるとは思うが。アルターB自身は呼びやすく略されたあだ名をつけられただけなので特に気にしていないらしいが、溺愛しているという割には安直な名をつけるのだなという疑問は微かに残る。そういう意味でもマーシフルは自分よりあちらのあだ名の方が、と言っているのだが、本人以外はテイマーに「ママ」呼ばわりされているマーシフルの方が問題だと思っていた。別に彼はママじゃない。ただ、テイマーがマーシフルに抱くイメージがそれに近いだけであって。
「あだ名と言えば、ズワルトも最近は妙な呼ばれ方をされ出しただろう」
「……今までの『ズワルトちゃん』も妙だろう」
マーシフルが思い出したように言うので、オメガモンXは眉間にしわを寄せた。
最古参の超究極体でありオメガモン系譜の中で最もテイマーのことを知っているズワルトは、最初の頃はただズワルトと呼ばれていた。が、最近になってズワルトちゃんという見た目に似合わず可愛らしい呼ばれ方をされるようになり、特にここ数日はそれが変な方向へ加速して「ずわちゃん」へと変化したので、これにはテイマーのことを理解しているつもりのズワルトも自分のないはずの耳を疑った。
テイマーがこんな風に妙なあだ名で呼ぶのはオメガモン系譜だけだ。他のデジモンは普通に名前で呼ばれる。中にはデュークモンCMのように「クリムゾン」とモード名で呼ばれるものもいるが、ごく一部だ。元はと言えば亜種が多い中で呼び名を分ける意味でそれぞれにあだ名のようなものをつけていたのだが、いつからか路線が変わったらしい。デジモンたちには分からないが、彼女はオメガモンは可愛いものだと認識しているので、自然と呼び方もその思考に寄る。ズワルト以外で言えば、ディフィートもこの中ではディフィートちゃんなどと呼ばれているが、彼はこの呼び名を一切肯定していない。マーシフルが抑えているので今はまだ暴れていないが、時間の問題かもしれない。
「…もしかして今後もそう呼ばれるんだろうか」
「彼女の気分によるだろうな。私もママと呼ばれることもあればマシと呼ばれることもあるから」
「気分でパパなどと呼ばれるのか…最悪だ」
「そう邪見にしてやるな、愛情の現れだと思えばいいだろう」
「…お前のそういうところがママと呼ぶのを助長しているんじゃないのか?」
マーシフルの本質は基本的には慈悲だ。技には一切の慈悲はないが、会話の節々にその断片が見受けられる。彼のこういう、テイマーを甘やかすような言動がそのあだ名をつけられるにいたった所以なのだろうなと理解したオメガモンXは、しかしそういえば自分には今まであだ名がなかったことにも気が付いた。
(…今までは普通に、オメガモンXとか、X抗体持ちとか、そんな呼び方だったな)
亜種の中で特定のあだ名がなかったのはオメガモンXだけだ。唐突に気が付いたオメガモンXのその様子を見て、マーシフルは少し俯くその顔を覗き込んだ。
「なんだ、あだ名がもらえて嬉しかったのか?」
「…あだ名をつけられるのはいいが、できればパパ以外を願いたいものだな」
テイマーにあだ名をつけられることは、デジモンにとっては嬉しかったりもするのだ。それは彼女がオメガモンXを心底溺愛しているという証拠だ。特に興味も関心もなければ、あだ名だってつけられない。確かにその溺愛っぷりには多少なりとも受け入れがたい部分もあるが、その反面テイマーに愛されているというのは、気分がいいものでもあった。言ったが最後、猫撫で声で今度はXちゃんとか呼ばれるだろう未来が見えるので決して本人には伝えないけれど。
まぁ、でも。
「パパだけはやめてほしい、本当に」
「…そんなに嫌だったのか」
嫌というか、生理的にあまり受け付けないというオメガモンXに、「あれ、もしかして受け入れてる自分はおかしいんだろうか」とマーシフルはふと思い、結論を出す前にその考えを振り払った。マーシフルに関してはもう期間が長すぎて、今更何を言ったって改善されることはないだろう。それが分かっているので、マーシフルは大人しく考えるのをやめた。
以来、本人が伝えたのか伝えなかったのかは分からないが、オメガモンXがパパと呼ばれることはなかったらしい。
(さすがに反省している、すまなかった)