このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

うちの子がこんなに可愛い!!!

どうやらまた亜種が増えるらしい。
最初にそんなことを言ったのは、このデジタウンにおいて最古参のオメガモン系譜であるオメガモンズワルトだった。
定期的に新しい情報や知らせの入る掲示板を最もよく観察しているのはズワルトだ。彼は自身のテイマーである黒可という人間が初めて手にした超究極体であり、初めてという洗礼を一心に受けたという苦い記憶がある。そういう経緯もあったせいか、彼はこと最新の情報に関して気を向ける傾向があった。何せテイマーが「オメガモン」という個体に対して並々ならぬ愛情を持っているので、新たにやってくるであろう仲間にそのことやこれまで彼女が手にしたデジモンたちの境遇を伝えなければならないからだ。
ズワルトからの亜種が増える、という情報に最初に首を傾げたのは、オメガモン系譜の中で最も新参であるオメガモンXだった。
「また増えるのか?亜種は俺で最後だったはずだが」
「いや、語弊があったな。亜種というか…確か超個性だったか」
「…ああ、最近見つかったあれか」
ズワルトの言う超個性とは、最近見られるようになった一部の特殊な個性を持つデジモンたちのことだ。その特別な力によって相手のリミットやら何やらを無視して攻撃を通す、味方にいれば心強く、敵にいれば厄介なもの。まあその辺りの詳しい情報はテイマーが興味を示さないせいで彼らもそこまでまだ詳しくは知らないのだが。彼らのテイマーにとって最も優先されるのは彼女の好きなデジモンかどうかであり、個々の持つ能力はただのおまけに過ぎない節があった。
ズワルトが言っているのは、その超個性を持つ通常のオメガモンが発見されたという話である。ズワルトは最初その情報を見て、分かりやすく顔をしかめた。これはまたテイマーがうるさくなりそうな話だなというのが、彼の率直な感想だ。そして更に問題なのは、彼女がオメガモンXが見つかったあたりから、ついに実際の金銭に手を出し始めたことである。今までなら何かしら理由をつけて金をかけず、ルビーを必死に溜めて人間がガチャと呼ぶものをまわして彼女の好きなデジモンをなんとか引いてきたのだが、その分手に入らないと言う可能性も残っていた。が、金銭に手を出し始めたということは、恐らく今回彼女は確実にその超個性を持つオメガモンを連れてくるということだ。ただでさえ亜種だけで飽和状態であるのに、通常のオメガモンが更に増えるとは。ズワルトは頭を抱えた。まだテイマーと過ごした時間がそれほど長くないオメガモンXはそんなズワルトの様子に首を傾げるが、それを遠目から眺めていた、同じく亜種であるマーシフルは懐かしそうに苦笑を漏らした。それに気が付いたディフィートも、なんとも言えない顔をしている。
「…また煩くなるな」
「私の時も余程煩かったからな、まぁいいんじゃないか。テイマーが元気なのはいいことだ」
「あれが元気だと煩わしい」
「ディフィート、事実でも言わないでやる優しさも必要だよ」
そう言うマーシフルはどこか遠い目をしていたので、ディフィートはそれ以上何も言わなかった。

「進化コードは大量に手に入れていたし、まぁすぐ進化するかもな」
「ああ、あのケーキ地獄の再来か」
オメガモンXにもそれは覚えがある。進化には一定の友情度が必要であり、それらはバトルをすることで貯まる他、テイマーがデジモンたちに食べ物を与えることによっても増える。オメガモンXも友情度を早く上げようと神聖系の好物であるケーキやらドーナツやらを無限に与えられた記憶がある。彼女はバトルで友情度を上げるのが、どがつくほど下手くそであったので。まだ見ぬ新たな仲間に、オメガモンXはすでに同情した。
それでも、それでもだ。これはズワルトと初期にこのデジタウンで暮らしていたデジモンたちしか知らないことなのだが、それでもまだ彼女は成長した方ではあるのだ。ズワルトがまだブラックウォーグレイモンだった時、彼女はそれはもう酷かった。進化コードの集め方を知らず、ブラックウォーグレイモンはかなり長い間、レベルも友情度も条件を満たしていたのに放置されていたのだ。長いことパートナーに選ばれていたにもかかわらず、だ。それを知っているズワルトからすれば、マーシフルやオメガモンXはまだ効率よく進化している方だ。ディフィートやアルターBは進化コードの入手方法が違うのでまた別の話になるから、それは置いておくとして。
確かにテイマーとしてはあまりにも頼りないし戦い方も知らないし個性の相性やら技の範囲やら把握できていないことの方が多くてどうしようもないところはあるのだが、ズワルトはそれでも多少は彼女に気を許しているし、テイマーとして認めてはいる。次々に亜種を手に入れ、最近ではめっきりパーティーに入れられなくなっていたとしても。ズワルトは初期から自身のテイマーを知っているという事実がある。新しくやってくる仲間にテイマーのことを伝え規律を教えるのは、専らズワルトの役割だ。だから別に戦わせてもらえなくてもいいし、パートナーでなくなったとしても、大して気にはしていない。
「迎える準備をしておかなければならないな」
「来ることは確定なのか?気が早いな」
「来るだろうさ。俺たちのテイマーはオメガモンに目がないからな」
こっそりと端末の情報を盗み見る。どこぞのアプリで『モーションが神』だのとほざいているのを見て、彼女は確実に超個性のオメガモンを手に入れるだろうとズワルトは確信した。最古参のズワルトがそう断言するので、オメガモンXもそうなるのだろうなと結論付ける。能力値で言えば亜種の中でもかなり上位だという自信があるし、その証拠にバトルパークや通常の対戦でも出番は多く、そして彼女の現パートナーだ。超個性というのは今のところ味方で言うとウォーグレイモンとメタルガルルモンのそれしか知らないが、一度手合わせしてみたいものだなと暢気に考えた。
「というか、あいつはいつになったらアルターSを手に入れるんだ」
「…しばらくは来ないんじゃないか」
どこから話を聞いていたのか突然背後からそう苦言を呈したアルターBに、ズワルトはそう答えるしかなかった。


後日、彼らのテイマーは金を費やしルビーを必死に溜めその日のうちに超個性のオメガモンへ進化するウォーグレイモンを引き当て、両手を上げて喜んだ。その姿に、「なんかマーシフルの時もあんなんだったな」と、ズワルトは新たにやってきたウォーグレイモンをデジタウンへと迎え入れたのだった。
1/4ページ
スキ