このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

俳優パロ

物心がついた時には、いつも隣に彼女がいた。彼女がいたというより、俺が彼女の傍にいたという方が正しいと周りは言うけれど、どちらも同じようなものだろう。彼女はこの国では珍しく生まれた時から白銀の髪をしていて、ほんのり青みがかった瞳をしていた。俺も少しだけ金色に近い色を帯びた瞳をしているから人のことは言えないけれど、それでもまだ黒髪なだけ人目を惹くことはなかった。その珍しい色のせいかと言われると、要因はそれだけではないと思う。ただ初めて彼女を見た時、何か感じるものがあったのだ。幼少期の自分が初めて会った彼女に何を感じたかなんて覚えているわけがないが、それでも決して彼女の傍から離れたくはないと思わせる、そんな何かが。
彼女からはよく鬱陶しいと言われる。いつだって彼女が視界にいなければ安心できなくて、自分の半分とさえ思っていた。俺の世界なんて、小さいころからずっと、彼女かそれ以外かのどちらかでしかなかった。どれだけ彼女がそれを嫌がったとしても、俺にはどうしようもなかった。いつだか言われたことがある。お前には才能があって羨ましいと。どうしてそれだけの才能があって、世界を広げようとしないのかと。それはごくまれに見せる彼女の小さな弱音と本音だった。
(…どうして、って言われても)
昔から、何をやっても人並み以上にこなすことができた。絵を描けば凡そ何でも描けたし賞を取ったこともある。スポーツだってその道を薦められたこともあった。だけどそのどれも、俺にとってはどうでもいいことだった。だってその先に、彼女がいない。もし彼女が絵の世界に進んでいたら、俺も同じように絵を描いただろう。彼女が学生の頃に力を入れていた剣道の道を選んでいたら、俺も剣道をやっていただろう。どうして、と聞かれても、お前がいないからとしか、俺は答えを持っていなかった。あの時はまだお互い子供だったから、思ったままを答えたら思い切り泣かせてしまったっけ。彼女は天才というよりは、根っからの努力家だったから。
そう思うと、昔は随分いびつな関係をしていたのだなと思う。彼女が唯一自分のやりたい事を見つけて、俺も同じ道を選んで。多分今のような関係に落ち着いたのはそれからだ。それまでは多分、あいつは俺のことが嫌いだったんだろう。面と向かって言われたこともあるしあいつは基本嘘がつけないから、よく知っている。

けれど。

「なぁオメガ」
「なんだ、鬱陶しいから抱き着くのをやめろ」
「いやでーす」

大人になってこの仕事も随分長くなって、お前は気づけば伝説なんて言われてたりして。お前は昔ほど俺に嫌悪感を見せなくなったし、こうして勝手に近づいたってあしらう事もなくなったけど。お前は、きっとようやく普通の関係を築いていると思っているんだろうけど。
(今でもまだ、どうしようもないくらい、俺の世界はお前だけなんだ)
女優になりたいと言った。だから俺も俳優になった。今ではそれなりに楽しくやっているし、人気も出てちやほやされているが、その全てが、やっぱり心底どうでもいいのだ。ただ手の届く場所に彼女がいる。同じ世界を生きている。それだけでいい。それ以外は何もいらない。俺のこの想いは、きっと生まれた時から、彼女を認識した時から、死ぬまで変わらない。変わってあげられない。

「…ごめんな」
「は?それは何に対しての謝罪なんだ。この前収録の時間を忘れて遅れて来たことか?私にはいいから他の共演者やスタッフの方に言え」
「ちげぇって、だいたいそれは遅刻したけどその分早く終わるようにしたじゃんか」
「遅刻することがあり得ないといっているんだ、その耳は飾りか何かか?」

これだけ当たりがきつくても、それでも引き剥がそうとはしない。多分気付いている。俺が何に対して謝っているのかも、俺がなんでこんなに傍にいたがるのかも。放してやれない、離れてやれない。この想いを、変えてやれない。その全てを分かったうえで、面倒臭いと思っていてなお、許容されている。他者にどれだけ異常だと笑われようと、罵られようと、彼女がそれでいいと言うなら、俺にはそれが全てで。

「一生放してやれないなぁ」
「寝言言ってないでいい加減自分の楽屋に戻れ」

きっと本能が、彼女がいいと叫んでいるのだ。
1/6ページ
スキ