デジメモリ幼稚園
ギルモンは自分があまり頭が良くないことを知っている。自分が少し子供っぽいところがあることも、自分より大きなデジモンに甘えがちなことも、本当はちゃんとわかっていた。わかっていてもそれを変えようと思わなかったのは、誰も咎めようとしなかったから。ギルモンの甘えを、誰もが許してくれたから。何よりギルモンの仲間たちのリーダーでもあるオメガモンが、いつもギルモンを気にかけ守り、甘やかしてくれていたから。
「ギルモン、おいで」
ギルモンは、オメガモンが自分の名前を呼んでくれる瞬間が好きだった。大好きな空色の瞳が優し気に細められて、愛おし気に名前を呼ばれる。どれだけオメガモンから離れた場所にいても、ギルモンはオメガモンの声を聞き逃したことはなかった。大好きだった、大好きな存在で、大好きな声だった。ずっと独りぼっちだったギルモンを、初めて見つけてくれた存在。だからギルモンは、他の誰よりもオメガモンのことが好きだった。何があっても傍を離れようとはしなかったし、何かあったら自分がオメガモンを守るのだとさえ意気込んでいた。
(だけど今は、声がきこえないの)
最後に覚えている記憶は、デジタルワールドが崩壊する記憶だった。騎士団全員で食い止めようとしても、防ぎきることができなかった。崩壊に巻き込まれた騎士団はデジメモリへと姿を変え、デジタルワールドのあちこちに散らばった。もともと彼ら自身の他に同種の個体が存在しないのが騎士団だったため、その時確実に、騎士団を構成していたデジモンたちは絶滅することになってしまった。
デジメモリの状態でできることはほぼ何もない。強いて言うならば、他のデジメモリの存在をなんとなく感じることができるくらいだ。だからギルモンは、仲良しだったアグモンたちやブイモンの存在はなんとなく感じていた。彼らもメモリに姿を変えただけで無事だという事はすぐに知ることができた。だけど。
(いない、いないの、どこ?わかんないよ、どこにいるの?)
3人分、気配が見つからなかった。少しけんかっ早いところもあるけれど頼りになる兄貴分だったウォーグレイモン、とても大きくて強くて守ってくれたエグザモン、そして。
(オメガモン、どこ?)
ギルモンが一番会いたいオメガモンの気配が、どこにもなかった。力を振り絞ってデジタルワールド中を探して見ても、どこにも気配を感じなかった。どこにもいなかった、見つけられなかった。メモリとしてどこかにいるなら、その気配を感じられれば無事なのだと確信できる。また会えると確信が持てる。だけどその気配すらなかったら、また会える、なんて希望を抱くこともできなかった。もしかしたら他の騎士団が死んでしまわないように庇ってメモリにすらなれなかったのかもしれない。もしかしたら、そういう最悪の展開が次々と頭に浮かんできて、ギルモンは泣き出したくなった。泣くための体もなくなってしまったけれど。だからギルモンは、深く深く眠りについた。何年も探して見つからなくて、そんな状態が続くことに耐えられなくて。
(だれか、オメガモンをみつけて)
『ギルモン』
夢の中のオメガモンは、やっぱりどこまでも優しくギルモンの名前を呼んでくれた。
***
「…なるほど、それで」
タイキやシャウトモンたちのおかげで再びこの世に生きることができるようになったオメガモンたち騎士団は、平和を取り戻したデジタルワールドの片隅で互いを労わり合うようにひっそりと暮らしていた。そんな中でギルモンをはじめとする成長期のデジモンたちがあまりにもオメガモンから離れようとしないため、困ったオメガモンはギルモンに話を聞いたのだが、いまいち内容が飛び飛びのため他の究極体に事の端末を聞きだした。オメガモンはただ一人人間界にメモリが落ちてしまっていたため、それが原因で随分不安な思いをさせてしまったらしい。
「ギルモンは特に寂しかったんだろうな、しばらくは許してやれ」
「許すも何も、理由が知りたかっただけだ。問題ない」
そう言うオメガモンが優しく笑うから、足元にぴったりとくっついていたギルモンは体を押し付けるようにぎゅうぎゅうと抱き着いた。見つめるウォーグレイモンもなんてことないような顔をしているが、ギルモンだけじゃなくデジメモリとなった騎士団は皆見つからないオメガモンを心配していたのだ。
(ようやく戻った)
もう二度と、離れ離れになってしまわないように。そう一人誓ったウォーグレイモンは、嬉しそうなギルモンを見て満足そうに笑った。
「ギルモン、おいで」
ギルモンは、オメガモンが自分の名前を呼んでくれる瞬間が好きだった。大好きな空色の瞳が優し気に細められて、愛おし気に名前を呼ばれる。どれだけオメガモンから離れた場所にいても、ギルモンはオメガモンの声を聞き逃したことはなかった。大好きだった、大好きな存在で、大好きな声だった。ずっと独りぼっちだったギルモンを、初めて見つけてくれた存在。だからギルモンは、他の誰よりもオメガモンのことが好きだった。何があっても傍を離れようとはしなかったし、何かあったら自分がオメガモンを守るのだとさえ意気込んでいた。
(だけど今は、声がきこえないの)
最後に覚えている記憶は、デジタルワールドが崩壊する記憶だった。騎士団全員で食い止めようとしても、防ぎきることができなかった。崩壊に巻き込まれた騎士団はデジメモリへと姿を変え、デジタルワールドのあちこちに散らばった。もともと彼ら自身の他に同種の個体が存在しないのが騎士団だったため、その時確実に、騎士団を構成していたデジモンたちは絶滅することになってしまった。
デジメモリの状態でできることはほぼ何もない。強いて言うならば、他のデジメモリの存在をなんとなく感じることができるくらいだ。だからギルモンは、仲良しだったアグモンたちやブイモンの存在はなんとなく感じていた。彼らもメモリに姿を変えただけで無事だという事はすぐに知ることができた。だけど。
(いない、いないの、どこ?わかんないよ、どこにいるの?)
3人分、気配が見つからなかった。少しけんかっ早いところもあるけれど頼りになる兄貴分だったウォーグレイモン、とても大きくて強くて守ってくれたエグザモン、そして。
(オメガモン、どこ?)
ギルモンが一番会いたいオメガモンの気配が、どこにもなかった。力を振り絞ってデジタルワールド中を探して見ても、どこにも気配を感じなかった。どこにもいなかった、見つけられなかった。メモリとしてどこかにいるなら、その気配を感じられれば無事なのだと確信できる。また会えると確信が持てる。だけどその気配すらなかったら、また会える、なんて希望を抱くこともできなかった。もしかしたら他の騎士団が死んでしまわないように庇ってメモリにすらなれなかったのかもしれない。もしかしたら、そういう最悪の展開が次々と頭に浮かんできて、ギルモンは泣き出したくなった。泣くための体もなくなってしまったけれど。だからギルモンは、深く深く眠りについた。何年も探して見つからなくて、そんな状態が続くことに耐えられなくて。
(だれか、オメガモンをみつけて)
『ギルモン』
夢の中のオメガモンは、やっぱりどこまでも優しくギルモンの名前を呼んでくれた。
***
「…なるほど、それで」
タイキやシャウトモンたちのおかげで再びこの世に生きることができるようになったオメガモンたち騎士団は、平和を取り戻したデジタルワールドの片隅で互いを労わり合うようにひっそりと暮らしていた。そんな中でギルモンをはじめとする成長期のデジモンたちがあまりにもオメガモンから離れようとしないため、困ったオメガモンはギルモンに話を聞いたのだが、いまいち内容が飛び飛びのため他の究極体に事の端末を聞きだした。オメガモンはただ一人人間界にメモリが落ちてしまっていたため、それが原因で随分不安な思いをさせてしまったらしい。
「ギルモンは特に寂しかったんだろうな、しばらくは許してやれ」
「許すも何も、理由が知りたかっただけだ。問題ない」
そう言うオメガモンが優しく笑うから、足元にぴったりとくっついていたギルモンは体を押し付けるようにぎゅうぎゅうと抱き着いた。見つめるウォーグレイモンもなんてことないような顔をしているが、ギルモンだけじゃなくデジメモリとなった騎士団は皆見つからないオメガモンを心配していたのだ。
(ようやく戻った)
もう二度と、離れ離れになってしまわないように。そう一人誓ったウォーグレイモンは、嬉しそうなギルモンを見て満足そうに笑った。
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