フレンド
ホセという男は、他人に自分の膝を貸したことはない。小さい頃にはもしかしたらあったかもしれないが、少なくともホセ自身が覚えている範囲では、そのような記憶はなかった。女性を家に呼んだり呼ばれたりしたことは何度かあったが、そもそもホセはそのほとんどが貸してもらう側だったから尚更だ。男の硬い膝を借りたいなどという物好きな女性は、残念ながら今までホセの前には現れなかった。
だのに、この現状は一体どういうことだろうかと、ホセは眉間を押さえる。
簡単な話、ホセは今パンチートとともに住んでいて、そして決して清らかとは言わずとも真剣なお付き合いというものをしているのだが、そのパンチートがソファで本を読んでいたホセに突然膝を貸してくれないかと聞いてくるではないか。ホセは最初何の冗談かと思い固まっていたのだが、ホセが返事をしないことを了承と捉えたらしいパンチートは、勝手にソファの上に乗りそのままホセの膝の上に自身の頭を乗せた。
「おい」
「いいだろ減るもんじゃないし」
「いや、いいけど…男の膝なんて硬いだけだろう」
そう言うと、ホセは読んでいた本を一度置く。勝手にホセの膝に頭を乗せたパンチートは少し目を細め、嬉しそうに微笑みながらじっとホセを見つめた。確かに、膝枕にしては予想よりちょっと硬いな、なんてパンチートは思う。ホセは決して太っているわけではないが、かといって細いわけでもない。程よく肉の付いている体は、本人はもう少し痩せたいと言うが、パンチートにとっては抱き心地もよくそのままが最適だった。だからというわけではないが、普通の男性よりは多少はその膝も柔らかいのかと予想していたわけだが、実際にしてみれば別段それほどでもなかった。そんなことをホセに言ってしまえば怒られることが目に見えているから、パンチートは何も言わないけれど。
「はは、やっぱ硬い」
「…ならやめたらどうだい」
「んー、でもなぁ」
でも、とパンチートは思案する。見上げる自分と、見下ろすホセ。なんともいい眺めではないかと思う。恐らくこの行為を許されるのは自分と、あのかわいい弟分くらいなのだろう、ホセが特別親しい人にしかこうやって気を許さないことを、パンチートはよく知っている。他の、まあミッキーだったらホセはきっと困惑し緊張し結局は許すのだろうが、彼は一種の特別枠というやつだ。そもそも彼には可愛い彼女がいるから、まずそんなことが起こるのは有り得ないが。だからパンチートは嬉しいのだ。自分がホセの特別だという事実は、こういう些細なことで実感できる。
「ホセ、君って睫毛長いんだな」
「は?」
「それに、いつ見ても綺麗な赤色だ」
綺麗な真紅の瞳。パンチートはその瞳に自分だけが映る時間が一等好きだった。腕を伸ばしホセの頬に触れる。首元に触れればホセが擽ったそうに身をよじるから、パンチートは愛おしさが増して、更に片手を伸ばして頬に触れ、ヘラ、と笑った。
「へへ、愛してるよホセ」
「君、もしかして酔ってるのか?いつも突然行動するから理解できないけど、今日の君はいつも以上に理解できないな」
「なんだよ、ただ改めてホセが好きだなぁって思って、こうやって告白してるだけだぞ、簡単だろ」
パンチートがわざとらしくムッと顔をしかめてみても、ホセは呆れたような表情だ。パンチートは別に難しいことは言っていないつもりだ。だってただなんとなくホセに膝枕してもらいたくて、してもらってみたら思っていた以上に眺めが良くて愛おしさが抑えきれなくて、それを直接本人に伝えただけなのだから。パンチートはあまり深く考えない。思ったらすぐ行動するタイプであるから、そういう意味では何事もある程度は考えて行動するホセが理解できないと言っても納得できるのだが。パンチートが更に続けていじけて見せれば、ホセは遂に小さく溜息を吐いた。
「まったく、君は本当に物好きだな」
「…別にぃ?膝枕なんてホセにしか頼まないし…」
「何拗ねてるんだい……あぁ、でも」
じっと見つめていた目をホセから逸らしてパンチートがそう言うと、ホセは何か思いついたように呟き、そっぽを向くパンチートのその唇に軽く触れた。
「……えっ」
「この俺を好きになったんだから、物好きじゃないわけがなかったね」
そうして楽しそうにニヤリと笑うから、パンチートは顔を真っ赤にして両手で覆ってしまうしかなかった。
「……完敗です」
「ふふ、それでいい」
だからパンチートは、笑うホセの顔も同じように赤く染まっていたことなど、知る由もなかった。
だのに、この現状は一体どういうことだろうかと、ホセは眉間を押さえる。
簡単な話、ホセは今パンチートとともに住んでいて、そして決して清らかとは言わずとも真剣なお付き合いというものをしているのだが、そのパンチートがソファで本を読んでいたホセに突然膝を貸してくれないかと聞いてくるではないか。ホセは最初何の冗談かと思い固まっていたのだが、ホセが返事をしないことを了承と捉えたらしいパンチートは、勝手にソファの上に乗りそのままホセの膝の上に自身の頭を乗せた。
「おい」
「いいだろ減るもんじゃないし」
「いや、いいけど…男の膝なんて硬いだけだろう」
そう言うと、ホセは読んでいた本を一度置く。勝手にホセの膝に頭を乗せたパンチートは少し目を細め、嬉しそうに微笑みながらじっとホセを見つめた。確かに、膝枕にしては予想よりちょっと硬いな、なんてパンチートは思う。ホセは決して太っているわけではないが、かといって細いわけでもない。程よく肉の付いている体は、本人はもう少し痩せたいと言うが、パンチートにとっては抱き心地もよくそのままが最適だった。だからというわけではないが、普通の男性よりは多少はその膝も柔らかいのかと予想していたわけだが、実際にしてみれば別段それほどでもなかった。そんなことをホセに言ってしまえば怒られることが目に見えているから、パンチートは何も言わないけれど。
「はは、やっぱ硬い」
「…ならやめたらどうだい」
「んー、でもなぁ」
でも、とパンチートは思案する。見上げる自分と、見下ろすホセ。なんともいい眺めではないかと思う。恐らくこの行為を許されるのは自分と、あのかわいい弟分くらいなのだろう、ホセが特別親しい人にしかこうやって気を許さないことを、パンチートはよく知っている。他の、まあミッキーだったらホセはきっと困惑し緊張し結局は許すのだろうが、彼は一種の特別枠というやつだ。そもそも彼には可愛い彼女がいるから、まずそんなことが起こるのは有り得ないが。だからパンチートは嬉しいのだ。自分がホセの特別だという事実は、こういう些細なことで実感できる。
「ホセ、君って睫毛長いんだな」
「は?」
「それに、いつ見ても綺麗な赤色だ」
綺麗な真紅の瞳。パンチートはその瞳に自分だけが映る時間が一等好きだった。腕を伸ばしホセの頬に触れる。首元に触れればホセが擽ったそうに身をよじるから、パンチートは愛おしさが増して、更に片手を伸ばして頬に触れ、ヘラ、と笑った。
「へへ、愛してるよホセ」
「君、もしかして酔ってるのか?いつも突然行動するから理解できないけど、今日の君はいつも以上に理解できないな」
「なんだよ、ただ改めてホセが好きだなぁって思って、こうやって告白してるだけだぞ、簡単だろ」
パンチートがわざとらしくムッと顔をしかめてみても、ホセは呆れたような表情だ。パンチートは別に難しいことは言っていないつもりだ。だってただなんとなくホセに膝枕してもらいたくて、してもらってみたら思っていた以上に眺めが良くて愛おしさが抑えきれなくて、それを直接本人に伝えただけなのだから。パンチートはあまり深く考えない。思ったらすぐ行動するタイプであるから、そういう意味では何事もある程度は考えて行動するホセが理解できないと言っても納得できるのだが。パンチートが更に続けていじけて見せれば、ホセは遂に小さく溜息を吐いた。
「まったく、君は本当に物好きだな」
「…別にぃ?膝枕なんてホセにしか頼まないし…」
「何拗ねてるんだい……あぁ、でも」
じっと見つめていた目をホセから逸らしてパンチートがそう言うと、ホセは何か思いついたように呟き、そっぽを向くパンチートのその唇に軽く触れた。
「……えっ」
「この俺を好きになったんだから、物好きじゃないわけがなかったね」
そうして楽しそうにニヤリと笑うから、パンチートは顔を真っ赤にして両手で覆ってしまうしかなかった。
「……完敗です」
「ふふ、それでいい」
だからパンチートは、笑うホセの顔も同じように赤く染まっていたことなど、知る由もなかった。