フレンド
そもそもの始まりはいったいなんだったか。今しがた作り上げてしまったそれを目の前に思案して、そうだった確かドナルドのせいだと思い出す。
もともと作る気などなかったのだ。なのについ先日ちょうど約束があったドナルドと一緒に夕食をとっていたとき、彼が突然「バレンタインはどうするの?」などと聞くものだから。
『バレンタインって…何もしないけど』
『えぇ?パンチートにあげないの?』
『別に今までだってあげていないしなぁ』
それに、彼はモテるのだから女の子たちにたくさんもらえるだろう。そう言えば、ドナルドは少しだけ眉間にしわを寄せて、小さく呟くように言ったのだ。
『僕もちょっとはもらうけど、デイジーにもらうのが1番嬉しいけどなぁ』
彼のことだから、決して強制するつもりではなかったのだろう。その証拠にドナルドはそう呟いたとき僕と視線を合わせなかった。あくまで独り言というスタンスで、俯きながらそう言った。そのときはなんだか少し悲しげなドナルドにいたたまれなくなって話題を逸らしてしまったが、その後家に帰ってからもドナルドの言葉が頭から離れなくて、次の日、気付けば僕の足はその商品のコーナーへ向かっていた。
お菓子は今までに何度も作ったことがある。けれどそれらは全て女の子たちにあげるためのものだった。まさかこの僕がバレンタインという日に、男に渡すためのチョコレートを作ったなんて、過去の僕に言ったところで絶対信じないだろう。けど目の前に出来上がったそれは、紛れもなく僕が今作ったものだ。僕が、パンチートに作った、初めてのチョコレートだ。
「……はぁ、呆れた」
パンチートのことはもちろん好きだ。彼が僕を愛しているように、僕だって彼のことを愛している。それでも今までバレンタインデーという恋人たちの聖日に彼にチョコレートを作ろうとしなかったのは、少しの気恥ずかしさと、不安があったからだ。
ドナルドにも言った通り、パンチートは女の子たちによくモテる。僕もそうだが、そうなると必然的にバレンタインにはたくさんのチョコレートを貰うのだ。恋人同士になる前から2人で一緒に貰ってきたから、パンチートがどれだけのチョコレートを毎年貰っているのか、僕はよく知っている。だから作らなかった。あれだけ貰っているのに僕までも渡して仕舞えば恐らく食べきれないだろうし、なんとなく、女の子たちのチョコレートといっしょにされるのが癪だったから。だというのに、ドナルドの言葉を真に受けて、作ってしまった。
「……渡すべきだろうか」
せっかく作ったのなら、渡したいなとは思う。渡したくないから今まで作らなかったというわけではないから。けれどやはり不安なものは不安なのだ。渡した時にほんの少しでも困った顔をされたら、うまくとりつくろえる自信がない。それくらいには、僕はパンチートを愛している。こんなに臆病になるほどに。
「まぁ、悩んだところで、作ってしまったものはしかたない」
もし迷惑になると思ったら、渡さずに持って帰ろう。それで自分で食べて仕舞えばいい。
そう思って、完成させたチョコレートを適当にラッピングして、冷蔵庫に入れて眠った。明日、無事に渡せるといいと願いながら。
***
俺はバレンタインは好きだ。バレンタインに外に出れば、たくさんの女の子から好意と愛を受け取ることができる。何より、そのたくさんの女の子が、俺のために頑張ってくれたという事実が嬉しかった。甘いものが大好物というわけではないし、どちらかというと辛党寄りではあるけど、だから俺はもらったチョコたちは毎年自分で全部食べるし、断ったり捨てることは絶対にしなかった。
けど、1つだけわがままを言うなら、彼から欲しいなと思う。
女の子たちからもらうのももちろんとても嬉しいのだけれど、やはり男として、好きな相手からチョコを貰いたいと思うのだ。今まで一度ももらったことはないし、俺から頼んだこともない。隣で見ているからよく知っている。バレンタインには、ホセも俺と同じようにたくさんチョコをもらう。そう、ホセは本来この日チョコをもらう側なのだ。だから、俺から欲しいと言うのは少し横暴かなとも思ったし、向こうから動かない限りは、我慢しようと思った。
そう、我慢してきたのだけれど。
「パンチート、これもらってくれないかい?」
「……え」
毎年恒例のように2人で外に出て女の子たちからチョコをもらって、そして今ホセの家に邪魔している中、唐突にホセから差し出されたのは赤いリボンでラッピングされた小さな箱。あんまり突然言うものだからうまく言葉を返せないままその箱を恐る恐る受け取る。まさか、いや、でも。
「それ、もらったんだけど、今あんまり調子良くなくてね。食べきれる気もしないし、君にあげるよ」
「は?あぁ……そういう……」
てっきりホセからのものかと思っていたのに。つまりこれは、ホセが女の子からもらったもので、ホセが食べきれないから代わりに食べて欲しいということか。
(……あれ?)
けど、それっておかしくないか?だってホセは、俺と同じだ。ホセは家では確かに外とは別人みたいにだらしないところもあるけど、女の子たちからもらったチョコを捨てるとこなんて見たことはないし、彼は俺と同じように毎年もらったチョコを一つ一つ大切に食べている。彼は女の子の気持ちを無碍にするような男じゃない。なら、待て、ということは…?
「なぁホセ、これって」
考えられる可能性に上がってしまいそうになる口角を必死に堪える。思わずホセを呼び止めようと、去るその背中を見て、そして彼の頬がほんのりと赤く染まっているのが見えた。それがわかってしまえば、もうたまらない。もう耐えられない。
「〜〜!!!ホセ!」
「うわっ、ちょっと、おい、パンチート!」
後ろから彼を抱きしめ、そしてそのまま抱き上げる。嬉しくて嬉しくてそのまま何度かその場で回って、もう一度思い切り抱きしめた。
「おいっ、降ろせったら!」
「いやだ!!だって、君からもらえるなんて!!」
そう言って笑って見せれば、ほんの少し赤かった頬がもっと赤く染まっていく。降ろせと言いながらジタバタと暴れるのも、もう全部可愛くて。
「パンチート…!」
「愛してる、ホセ!!」
まだしばらく、離してやれそうにない。
もともと作る気などなかったのだ。なのについ先日ちょうど約束があったドナルドと一緒に夕食をとっていたとき、彼が突然「バレンタインはどうするの?」などと聞くものだから。
『バレンタインって…何もしないけど』
『えぇ?パンチートにあげないの?』
『別に今までだってあげていないしなぁ』
それに、彼はモテるのだから女の子たちにたくさんもらえるだろう。そう言えば、ドナルドは少しだけ眉間にしわを寄せて、小さく呟くように言ったのだ。
『僕もちょっとはもらうけど、デイジーにもらうのが1番嬉しいけどなぁ』
彼のことだから、決して強制するつもりではなかったのだろう。その証拠にドナルドはそう呟いたとき僕と視線を合わせなかった。あくまで独り言というスタンスで、俯きながらそう言った。そのときはなんだか少し悲しげなドナルドにいたたまれなくなって話題を逸らしてしまったが、その後家に帰ってからもドナルドの言葉が頭から離れなくて、次の日、気付けば僕の足はその商品のコーナーへ向かっていた。
お菓子は今までに何度も作ったことがある。けれどそれらは全て女の子たちにあげるためのものだった。まさかこの僕がバレンタインという日に、男に渡すためのチョコレートを作ったなんて、過去の僕に言ったところで絶対信じないだろう。けど目の前に出来上がったそれは、紛れもなく僕が今作ったものだ。僕が、パンチートに作った、初めてのチョコレートだ。
「……はぁ、呆れた」
パンチートのことはもちろん好きだ。彼が僕を愛しているように、僕だって彼のことを愛している。それでも今までバレンタインデーという恋人たちの聖日に彼にチョコレートを作ろうとしなかったのは、少しの気恥ずかしさと、不安があったからだ。
ドナルドにも言った通り、パンチートは女の子たちによくモテる。僕もそうだが、そうなると必然的にバレンタインにはたくさんのチョコレートを貰うのだ。恋人同士になる前から2人で一緒に貰ってきたから、パンチートがどれだけのチョコレートを毎年貰っているのか、僕はよく知っている。だから作らなかった。あれだけ貰っているのに僕までも渡して仕舞えば恐らく食べきれないだろうし、なんとなく、女の子たちのチョコレートといっしょにされるのが癪だったから。だというのに、ドナルドの言葉を真に受けて、作ってしまった。
「……渡すべきだろうか」
せっかく作ったのなら、渡したいなとは思う。渡したくないから今まで作らなかったというわけではないから。けれどやはり不安なものは不安なのだ。渡した時にほんの少しでも困った顔をされたら、うまくとりつくろえる自信がない。それくらいには、僕はパンチートを愛している。こんなに臆病になるほどに。
「まぁ、悩んだところで、作ってしまったものはしかたない」
もし迷惑になると思ったら、渡さずに持って帰ろう。それで自分で食べて仕舞えばいい。
そう思って、完成させたチョコレートを適当にラッピングして、冷蔵庫に入れて眠った。明日、無事に渡せるといいと願いながら。
***
俺はバレンタインは好きだ。バレンタインに外に出れば、たくさんの女の子から好意と愛を受け取ることができる。何より、そのたくさんの女の子が、俺のために頑張ってくれたという事実が嬉しかった。甘いものが大好物というわけではないし、どちらかというと辛党寄りではあるけど、だから俺はもらったチョコたちは毎年自分で全部食べるし、断ったり捨てることは絶対にしなかった。
けど、1つだけわがままを言うなら、彼から欲しいなと思う。
女の子たちからもらうのももちろんとても嬉しいのだけれど、やはり男として、好きな相手からチョコを貰いたいと思うのだ。今まで一度ももらったことはないし、俺から頼んだこともない。隣で見ているからよく知っている。バレンタインには、ホセも俺と同じようにたくさんチョコをもらう。そう、ホセは本来この日チョコをもらう側なのだ。だから、俺から欲しいと言うのは少し横暴かなとも思ったし、向こうから動かない限りは、我慢しようと思った。
そう、我慢してきたのだけれど。
「パンチート、これもらってくれないかい?」
「……え」
毎年恒例のように2人で外に出て女の子たちからチョコをもらって、そして今ホセの家に邪魔している中、唐突にホセから差し出されたのは赤いリボンでラッピングされた小さな箱。あんまり突然言うものだからうまく言葉を返せないままその箱を恐る恐る受け取る。まさか、いや、でも。
「それ、もらったんだけど、今あんまり調子良くなくてね。食べきれる気もしないし、君にあげるよ」
「は?あぁ……そういう……」
てっきりホセからのものかと思っていたのに。つまりこれは、ホセが女の子からもらったもので、ホセが食べきれないから代わりに食べて欲しいということか。
(……あれ?)
けど、それっておかしくないか?だってホセは、俺と同じだ。ホセは家では確かに外とは別人みたいにだらしないところもあるけど、女の子たちからもらったチョコを捨てるとこなんて見たことはないし、彼は俺と同じように毎年もらったチョコを一つ一つ大切に食べている。彼は女の子の気持ちを無碍にするような男じゃない。なら、待て、ということは…?
「なぁホセ、これって」
考えられる可能性に上がってしまいそうになる口角を必死に堪える。思わずホセを呼び止めようと、去るその背中を見て、そして彼の頬がほんのりと赤く染まっているのが見えた。それがわかってしまえば、もうたまらない。もう耐えられない。
「〜〜!!!ホセ!」
「うわっ、ちょっと、おい、パンチート!」
後ろから彼を抱きしめ、そしてそのまま抱き上げる。嬉しくて嬉しくてそのまま何度かその場で回って、もう一度思い切り抱きしめた。
「おいっ、降ろせったら!」
「いやだ!!だって、君からもらえるなんて!!」
そう言って笑って見せれば、ほんの少し赤かった頬がもっと赤く染まっていく。降ろせと言いながらジタバタと暴れるのも、もう全部可愛くて。
「パンチート…!」
「愛してる、ホセ!!」
まだしばらく、離してやれそうにない。