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フレンド

大切で大事で大好きなあの子よりも幾分も大きな体の自分に、いったい何ができるだろう。
時々考える。自分はどうしてあの子よりも大きな体で描かれたんだろうって。大きさだけ見ればきっと小さな彼よりも目立ってしまうし、並んでお話するとき、あの子はうんと高いところにある僕の目を見るために背伸びして一生懸命上を向かなきゃいけない。もう少し目線を合わせるためにしゃがんでみてもまだ僕の方がほんの少しだけ大きくて、首を傾げる。はて、この大きさはなんのためのものだろうか。
本当は背の高さに意味を見出す必要がないことはよく分かってる。分かってはいるけど、一度気になるとやっぱり時々思い出しては首を傾げてしまう。もしあの子にこの背の高さを分け与えることができたなら、もう少し、息がしやすくなってたんじゃないかなって。僕は物事をあんまり深く考えたり、真剣に悩んだりするタイプではないから。いつだって、ストレスやプレッシャーとはほとんど無縁の生活をしているけど、あの子はそうじゃないだろう。いつも先頭に立っている。なんでもして見せてしまう。彼はなんでもできるんじゃなくて、できるように誰よりもたくさんたくさん努力しているだけなのだけど。そんな影の努力は夢の世界のイメージと合わないでしょって、簡単に口を閉ざしてしまう。ああ、もどかしいなあ。世界中の人に知ってほしい。この小さな体で、僕よりよほど小さな背中で、この夢の世界を守ってることを。だから側にいる僕は、絶対に目を離さない。世界中の人に知ってもらいたいから、そのためには自分が誰よりも知っていなきゃいけないから。時々無理してしまう背中を、倒れてしまわないように。そっと後ろに立って、地面とお友達になってしまわないように。
それでも時々、そういう声は聞こえてくるもので。
「グーフィー、どうかしたの?」
「ううん、なんでもないよ、ミッキー」
膝の上でこくりこくりと眠そうにしているミッキーの可愛らしい大きな耳を、そっと塞ぐ。突然触れられて揺れる肩に、起こしてしまったかなと少しだけ反省した。ミッキーの体は、いつだってぽかぽかと温かい。いっしょにいるとそれだけで楽しくなるし、こうして近くにいると僕まで温かくなる。その体温が愛おしかった。だからふと目を掠めた存在と、耳に届いた声から隠すように抱きすくめる。
「ふふ、くすぐったい」
「ミッキーはあったかいねぇ」
無邪気に笑うその顔は僕よりもずっと子供らしい。年相応の笑顔だ。僕らの先頭に立っている時とは全く違う、きっと僕らにだけ見せてくれるもの。求められるものに100パーセント以上で応えてしまうミッキーの、ありのままの顔。無条件で向けてくれる笑顔に、嬉しくなってしまう。だからあんな声は聞かなくていい。あんな存在に、気が付かなくていい。この子が気付くよりも、僕が先に気付いて遠ざけてあげるから。
はたと気付く。この、大きな背は、そのためにあるんじゃないだろうか。ミッキーよりも大きいから、ミッキーよりもずっと先の景色が見渡せる。ミッキーよりも、広く世界を見下ろせる。大抵の相手は、もちろんトゥーンではなく人々のことだけど、僕より大きい人はあんまりいない、あんまり会わない。いたとしても同じくらいだったり、僕よりほんの少しだけ大きいだけで、僕がそれを見失うことはあり得ない。だからすぐに分かる。その顔を見ればどんな話をしているのかだいたい分かってしまうし、その視線が僕ではなく彼に向けられているということにも、誰より先に気付くことができる。気付けるということは大事だ。だってそれだけで予防線が引ける。どうにかするだけの時間を作ることができる。それに、それだけじゃない。こうやって、大きな体でその小さな体を全部全部、隠せてしまう。きっとミッキーはただじゃれているような感覚なんだろうけど、でも、それでも別によかった。それで笑ってくれるなら、僕はなんだっていい。
(どれくらい、守れるかなぁ)
守られていると気付いたら、きっと嫌がられてしまうし、傷つけてしまう。だから絶対に知られちゃだめだ。それにこれは、ミッキーのためにするというよりは、僕が彼に笑っていてほしいからやるだけで、結局は僕のためにやることなのだ。そんな自分勝手な行動で、責任を感じてほしくない。どこまで気付けるだろう、どこまで隠せるだろう。どこまでも守れたらいい。ただでさえいつも大変なのだから、これくらいしたっていいはずだ。僕らといる時くらい、この子は頑張らなくていいはずだ。絶対にその手を離しちゃいけない。悲しいことに、この子は自分の力だけで立って、進んでいけるほど、強いから。どれほど傷ついたって、ふと後ろを振り返って僕らの姿を見れば、この子はそれだけで頑張れてしまう。自分に向けられる何千何万の視線のために、立ち上がれてしまう。一人で行かせてしまわないように、独りになってしまわないように。独りになった時、雑音を拾ってしまわないように。
(僕の大きな背は、君のためのものだから)
使えるものはなんだって使ってしまおう。僕らは人じゃなくてトゥーンだから、なんだってできる。溶けて消えてしまわない限りは、なんだって。僕は君の横に、後ろに立って、君よりももっと先の景色を見て、観察して。君より先に気付いてあげる。君に気付かせないままでいさせてみせる。そう思うと、背が高くて良かったと思う。僕は友達のように、この子のために怒ってはあげられないから。けどこれは、僕だけができること。たったそれだけで、なんだか誇らしく感じてしまう。
「ミッキー、あったかいね」
「グーフィーもあったかいよ」
無邪気に笑うその笑顔が、決して曇ってしまわないように。

僕のこの背の高さは、外の悪意から君を守るためにある。
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