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フレンド

人は、好き合った相手を「運命の相手」だと表現することがある。赤い糸で結ばれた人、出会うべくして出会った大好きな人。

なんて、なんて素敵な愛だろうと思う。この広い世界でただ一人大好きな相手にめぐり合い、そして相手から同じ好意を返されるというのは、なんと素晴らしいことか。ミニーは、その素晴らしい感情を知っている。彼女にも運命の人がいるから。けれど彼女の運命は、彼女だけじゃない。トゥーンにとって運命の相手というのは、人が言う運命とは、少し、違うものだったけれど。





ミニーはまさしく愛の体現者だ。ミッキーが夢の体現者であるように、ドナルドが冒険の体現者であるように、彼女には彼女にしか人に与えられない大切な愛がある。その愛らしさをもって、その可愛らしい声をもって、彼女は人々に最大限の愛を伝える。そして、そんな彼女が最も愛を向けるのは、ただ一人。
ミッキーはミニーの運命の相手だ。お互いにそう生み出されたから。お互いにそう描かれたから。だけどそんなことは些細なことで、二人は心から互いを愛し合っていた。きっかけも始まりもなんだってよかった。そこに確かに愛があるなら、たったそれだけでよかったのだ。

けれど、トゥーンにだって自分の意思がある。描かれるままに存在するだけではない。描かれたその瞬間から、トゥーンはそこに命を持って、そこに生きている。設定も何もかもが決められていたって、トゥーンはいつだって自由に生きる。だから、自分の意思で、誰かを好きになることだって何もおかしな話じゃない、当たり前のことだった。
ミッキーが実は自分以外の相手に好意を抱いているなんてことは、ミニーはもうとっくの昔から知っていた。知っていて黙認してきた。ミッキーは確かにミニーの運命の相手だが、別にそれは宿命でもなんでもなかった。ミニーが初めてそのことに気づいた時、彼女は不思議と悲しくともなんともなかった。怒りを抱いたわけでもない、ただ本当に、自分たちにとっての、トゥーンにとっての運命というのを理解しただけだった。


「私ね、別に悲しくなかったの。だって彼からもらった愛はね、全部全部、本物だったもの」


そう、彼女はちゃんと知っていた。ミニー以外に好きな相手ができようと、今までミッキーから与えられてきた愛は紛れもなく真実の愛だった。そう描かれたとはいえ、ミッキーは本当に、心の底からミニーを愛していた。ただその愛を向けたいと思う相手が、ミッキー自身の意思で増えただけなのだ。

「それに、私があげる愛を拒んだことだって一度もなかった」

ミニーから与えられる愛をミッキーが拒んだことはない。それだってミッキーがミニーを愛していることに他ならない証明だった。

ミッキーから、自分以外の相手を好きになったと伝えられた時、ミニーは怒ることだってできた。泣き喚いてそれを許さないことだってできた。少なくともミニーが悲しめば、ミッキーは簡単にその愛を諦めてしまえるほど、ミニーを愛している。だからミニーは泣かなかったし、怒りもしなかった。ただ笑って、その背を押した。


「だって嬉しかったから」


ミニーがミッキーに望んでいるのはたった一つ。ミッキー自身が幸せでいること。別に愛を望んでいるわけではないのだ。彼女はただ、彼に笑っていてほしかった。笑顔でいて欲しかった。幸福であって欲しかった。彼女は、隣で見ている。ミッキーがあらゆることを我慢して耐え忍んで努力してきたことを、側で見てきている。そんな彼が心から幸せでいてくれることこそ、ミニーが今までずっとずっと望んでいることだった。その相手が自分じゃなくたって構わなかった。恋人だろうがそうじゃなかろうが、ミニーは自分の力でもミッキーを笑顔にできるとわかっているから。
ミッキーが運命の相手であるミニーに真実を偽らず伝えるほど、その愛を望んでいるその事実は、彼女にとって本当に嬉しいことなのだ。だっていろんなことを我慢してきた彼が、これだけは我慢したくないと、自分にわがままを言ってくれている。それを祝福できないなんて、それこそミニーにはできなかった。自分の思いを殺すことなく、望むまま自分の幸せを求めるミッキーの背を、押せないわけがなかった。


「だけど私が彼を愛している事実は今までもこれからも変わらないわ。私が好きなのはずっとミッキーただ一人よ」


ミニーは自分の意思でミッキーを愛している。彼の幸福を望んでいる。その愛だって嘘偽りない本物だ。ミニーはこれから先だってミッキーただ一人を愛し続ける。

だから、だから。


「彼を泣かせたら、不幸にしたら絶対に許さない」


それを覚悟で、彼を愛しなさい。それが、最低条件よ。





その瞳に強い強い意志を宿し、そしてその言葉に覚悟を持って頷く目の前の相手に、ミニーはミッキーの幸福を託した。
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