フレンド
「性格診断?」
ギターの調律をしながら、パンチートは目の前の友人、ドナルドから言われた言葉に顔を上げ首を傾げた。
「そう、最近流行ってるんだって」
「最近っていうか、そんなのいっつも誰かがやってるじゃないか」
それは流行っているとは言わないのではないかと遠回しに言うパンチートは、話題に興味をなくしたのか上げた顔をもう一度手元へと戻した。そもそもギターを聞かせろとせがんできたのはドナルドのはずで、自分は可愛い弟分のようなドナルドのその願いを聞届けるためにこうやって時間を取っているのだが、なぜギターそっちのけでいきなりそんな話題を出されなければならないのだろうか。パンチートの素直な感想だった。当のドナルドといえば、パンチートのその様子がいささか不満だったのか少し顔を顰める。
「パンチートの好きな食べ物は?」
「んー、タコスとか、メキシコの料理はだいたい好きだよ」
「好きな音楽」
「ラテン系の音楽だなぁ」
唐突に質問を始めるドナルドに、パンチート離れたように答えていく。その間も目線はギターのままだ。元来お世辞にも我慢強い方ではないドナルドがそう長く耐えられるはずもなく、あと一個でも同じように答えられたらいつも通り癇癪を起こしそうな雰囲気をみせた。その、あと一個。
「じゃあ好きな色は!?」
「緑」
「え、」
赤、と返ってくると思っていたドナルドは思わずたたらを踏む。しかもここにきてパンチートは初めて顔を上げて問いに答えた。さもその答えが当たり前かのように、その顔はいたって真剣なそれだ。
「なんだよ」
「いや…てっきり赤って答えるかと……」
「はは、そりゃあ赤は俺の色だからな」
「……じゃあなんで?」
怪訝そうに問えば、パンチートは嬉しそうに笑う。その顔は、よく聞いてくれたとでも言いたげな表情で、ドナルドはその時点でなんとなく次に出てくる言葉の予想がついた。次いで思い浮かぶのは、ここにはいないもう一人の友人。
「俺の大好きな“あいつの色”だからさ!」
結局そう言うのと同時にギターの調律が終わり、パンチートの性格診断は結果が出ないまま、ドナルドに胸焼けだけを残して終わった。
***
「性格診断?」
顔を上げて首を傾げるその姿に既視感を感じながら、ドナルドは以前と同じように話題を進めた。目の前の緑色の友人は、話を聞きながらテーブルのカクテルを嗜む。
「最近流行ってるみたいでさ」
「まぁ、そういうのはみんな好きだからねぇ」
こういう時、ホセはドナルドの言葉をあまり否定しない。パンチートと三人でいるときは二人してドナルドを揶揄うが、しかしドナルドと二人きりの時は、まるで兄のようにドナルドに優しい。そういうところが実は好きなんだというのは、ドナルドは絶対にホセには言わないつもりだが、果たしてどこまで隠し通せているのか。
「僕にもやってくれるのかい?」
「いいの?」
「それくらいなら全然構わないよ。それに楽しそうだ」
優しい、というよりドナルドがどうすれば上機嫌になるのかわかっているだけかもしれない。
「好きな食べ物は?」
「うーん…食べ物の好みはあまりないな。コーヒーは好きだけど」
「好きな音楽は?」
「バイーアで奏でる音楽は最高だね」
判断材料としては弱い答えばかりなものだから、ドナルドは上機嫌を引っ込め頭を抱えた。怒りにくい場所で揶揄ってくるのは、ホセの悪い癖だ。それだけドナルドが可愛いらしい。本人には全く伝わってないが。
「…じゃあ、好きな色は?」
「…いろ」
唐突に、ホセの言葉がそこで止まった。何かを考えるようにして少し俯く。思っていたのとは違う反応が返ってきて、ドナルドはおやと思ったが、しかしなんとなく答えがわかるような気がした。そしてホセが顔を上げて、少しはにかんで見せると。
「…緑、かな」
「…………えっ!?」
「…何かまずかった?」
たっぷりと間をおいて、ドナルドは大きな声をあげた。ホセが驚き一瞬肩を揺らす。
「いや、てっきり………赤かなって…」
「赤…ああ、つまりパンチートは緑が好きって答えたんだね?」
「えっ、うん…」
ホセはそれを聞くと嬉しそうに笑う。パンチートとホセの関係なんてドナルドはとっくに知っていて、だからパンチートが緑色が好きだということは、それと同じでホセはパンチートの赤色が好きなものだとばかり思っていた。まさかここにきて自分の色だから、なんて言うのだろうか。それとも国の色だから?できれば後者であってほしい。次パンチートに会った時、ドナルドは何も知らないふりができそうもなかったから。
「…これは、パンチートには言わないで欲しいのだけれど」
「うん、」
「…彼が、ね。好きだと言ってくれるから」
普段からは考えられないような小さな声で呟くホセは、その頬を赤く染めていた。そこまで聞いて、ドナルドは兄貴分にもこんな一面があるのだと新たな発見をすると同時に、この二人にこんな質問をするのではなかったと後悔した。
「パンチートが好きだと言ってくれるこの自分の色が、僕は好きなんだよ」
もちろん彼の色もね、と言う言葉はドナルドの耳には全く入って来ず。
結局今回も性格診断の結果は出ないまま、ドナルドは新たな胸焼けを抱えるのだった。
ギターの調律をしながら、パンチートは目の前の友人、ドナルドから言われた言葉に顔を上げ首を傾げた。
「そう、最近流行ってるんだって」
「最近っていうか、そんなのいっつも誰かがやってるじゃないか」
それは流行っているとは言わないのではないかと遠回しに言うパンチートは、話題に興味をなくしたのか上げた顔をもう一度手元へと戻した。そもそもギターを聞かせろとせがんできたのはドナルドのはずで、自分は可愛い弟分のようなドナルドのその願いを聞届けるためにこうやって時間を取っているのだが、なぜギターそっちのけでいきなりそんな話題を出されなければならないのだろうか。パンチートの素直な感想だった。当のドナルドといえば、パンチートのその様子がいささか不満だったのか少し顔を顰める。
「パンチートの好きな食べ物は?」
「んー、タコスとか、メキシコの料理はだいたい好きだよ」
「好きな音楽」
「ラテン系の音楽だなぁ」
唐突に質問を始めるドナルドに、パンチート離れたように答えていく。その間も目線はギターのままだ。元来お世辞にも我慢強い方ではないドナルドがそう長く耐えられるはずもなく、あと一個でも同じように答えられたらいつも通り癇癪を起こしそうな雰囲気をみせた。その、あと一個。
「じゃあ好きな色は!?」
「緑」
「え、」
赤、と返ってくると思っていたドナルドは思わずたたらを踏む。しかもここにきてパンチートは初めて顔を上げて問いに答えた。さもその答えが当たり前かのように、その顔はいたって真剣なそれだ。
「なんだよ」
「いや…てっきり赤って答えるかと……」
「はは、そりゃあ赤は俺の色だからな」
「……じゃあなんで?」
怪訝そうに問えば、パンチートは嬉しそうに笑う。その顔は、よく聞いてくれたとでも言いたげな表情で、ドナルドはその時点でなんとなく次に出てくる言葉の予想がついた。次いで思い浮かぶのは、ここにはいないもう一人の友人。
「俺の大好きな“あいつの色”だからさ!」
結局そう言うのと同時にギターの調律が終わり、パンチートの性格診断は結果が出ないまま、ドナルドに胸焼けだけを残して終わった。
***
「性格診断?」
顔を上げて首を傾げるその姿に既視感を感じながら、ドナルドは以前と同じように話題を進めた。目の前の緑色の友人は、話を聞きながらテーブルのカクテルを嗜む。
「最近流行ってるみたいでさ」
「まぁ、そういうのはみんな好きだからねぇ」
こういう時、ホセはドナルドの言葉をあまり否定しない。パンチートと三人でいるときは二人してドナルドを揶揄うが、しかしドナルドと二人きりの時は、まるで兄のようにドナルドに優しい。そういうところが実は好きなんだというのは、ドナルドは絶対にホセには言わないつもりだが、果たしてどこまで隠し通せているのか。
「僕にもやってくれるのかい?」
「いいの?」
「それくらいなら全然構わないよ。それに楽しそうだ」
優しい、というよりドナルドがどうすれば上機嫌になるのかわかっているだけかもしれない。
「好きな食べ物は?」
「うーん…食べ物の好みはあまりないな。コーヒーは好きだけど」
「好きな音楽は?」
「バイーアで奏でる音楽は最高だね」
判断材料としては弱い答えばかりなものだから、ドナルドは上機嫌を引っ込め頭を抱えた。怒りにくい場所で揶揄ってくるのは、ホセの悪い癖だ。それだけドナルドが可愛いらしい。本人には全く伝わってないが。
「…じゃあ、好きな色は?」
「…いろ」
唐突に、ホセの言葉がそこで止まった。何かを考えるようにして少し俯く。思っていたのとは違う反応が返ってきて、ドナルドはおやと思ったが、しかしなんとなく答えがわかるような気がした。そしてホセが顔を上げて、少しはにかんで見せると。
「…緑、かな」
「…………えっ!?」
「…何かまずかった?」
たっぷりと間をおいて、ドナルドは大きな声をあげた。ホセが驚き一瞬肩を揺らす。
「いや、てっきり………赤かなって…」
「赤…ああ、つまりパンチートは緑が好きって答えたんだね?」
「えっ、うん…」
ホセはそれを聞くと嬉しそうに笑う。パンチートとホセの関係なんてドナルドはとっくに知っていて、だからパンチートが緑色が好きだということは、それと同じでホセはパンチートの赤色が好きなものだとばかり思っていた。まさかここにきて自分の色だから、なんて言うのだろうか。それとも国の色だから?できれば後者であってほしい。次パンチートに会った時、ドナルドは何も知らないふりができそうもなかったから。
「…これは、パンチートには言わないで欲しいのだけれど」
「うん、」
「…彼が、ね。好きだと言ってくれるから」
普段からは考えられないような小さな声で呟くホセは、その頬を赤く染めていた。そこまで聞いて、ドナルドは兄貴分にもこんな一面があるのだと新たな発見をすると同時に、この二人にこんな質問をするのではなかったと後悔した。
「パンチートが好きだと言ってくれるこの自分の色が、僕は好きなんだよ」
もちろん彼の色もね、と言う言葉はドナルドの耳には全く入って来ず。
結局今回も性格診断の結果は出ないまま、ドナルドは新たな胸焼けを抱えるのだった。