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フレンド

「どうして一緒に住もうと思ったの?」

珍しくオフの時間が重なり、これまた珍しく一緒に食事をとることとなったミッキーから、唐突にその質問がこぼれた。目の前で行儀よく食事を進めていたホセは、主語のないその質問に一瞬固まると、そっとカトラリーを音も立てずに置く。随分マナーに気を使うのは公共の場であるからか、それとも憧れの世界の大スターが目の前にいるからか。ともかくカトラリーを置いたホセは、少し困ったように微笑んで聞き返した。

「それは、パンチートと、ってことかい?」
「うん、そう」

ミッキーの言う通り、ホセはしばらく前から三人の騎士の仲間であるパンチートと共に暮らしていた。お互いに別々に住む場所はあったが、映画の関係かショーの関係かなにかとセットになることが多いため、どちらかの家に泊まることが多かったのだ。その結果、効率と合理性を考えて共に暮らす運びとなった。一応、ということでホセはパンチートと一緒にミッキーに了承を得に行ったので、てっきりミッキーは反対はしていないものと思ったが、そういうわけでもなかったのだろうか。

「二人ともいつも一緒にいるから、一緒に住むって言いに来たときも全然違和感なくて簡単にいいよって言っちゃったけど」
「ミッキーからもそう言ってもらえるなんて、なんだか嬉しいね」
「でもホセって、プライベートに誰かが踏み込むの嫌いなんだと思ってた」
「……あー、それは…」

ホセは自分で言うのもなんだが、家では外と違ってかなり怠け者だ。あんなに女の子に言いよるくせに、プライベートに踏み込まれるのは嫌いなたちだ。ホセのそういう一面を知っている者からは、面倒くさい性格だとよく言われる。ミッキーが言っていることは間違っていない。ホセにはちゃんと自覚がある。他人とは適度な距離を保ち、自分のパーソナルスペースを守ることには人一倍気を使っていると言っても過言ではない。
しかし相手がパンチート、となると、ホセの中で話は変わってくる。それはドナルドも同様ではあるが、彼には可愛らしい女性がいるから除外するとして。

「まぁ、彼は僕の中ではちょっと特別なのさ」
「そういうもの?」
「……深く聞きたい?」

言い換えてみればこれ以上は踏み込んでくれるなという合図にもとれるその言葉の意味を、汲み取れないほどミッキーは鈍感ではない。しかしそれに素直に従ってやる義理も、ミッキーにはないのだ。

「ホセが話してもいいっていうなら、もっと深く聞いてみたいかな」
「……参ったよ、僕の負けだ。話はここまでにさせてもらえるかい」
「もっとドナルド相手みたいに、率直に言ってくれてもいいのに」

そうは言っても、ホセはきっと今後も同じように接してくるのだろうということはミッキーもわかっていた。だからこれ以上は何も言わない。これ以上は話したくない、ということは、ホセの言う『特別』にはかなり重い意味が含まれているのだろう。彼らトゥーンは基本的には自由であるが、夢を体現し続ける存在であるが故に、時には秘密にしておきたいこともある。無論ミッキーにも。だから聞かない。

「まぁ、一緒に暮らすメリットも多いもんね」
「……メリットか」

パーソナルスペースに踏み込まれても良いという相手なら、一緒に住むメリットは様々だ。朝が弱いホセと、朝に強いパンチートなら相性は抜群だろう。もしかしたら別の意味でも相性抜群、といった関係なのかもしれないが。
ミッキーの言葉にホセは少し考え込むと、徐に微笑んだ。

「ねぇミッキー、少し耳を貸してくれるかい?」
「なんだい?」
「一緒に暮らすメリット、一つ教えてあげよう。それはね」



その後に続いた言葉に、ミッキーはなるほどと目を輝かせた。



***



「なぁ〜ホセ〜、もう寝ようぜ〜」
「君さっきからそれしか言わないじゃないか。もっと面白いこと言えないのかい」
「俺は朝は強いけど夜はそんなに強くねぇんだって〜、なんで起きてなきゃいけないんだよ…せめて理由くらい言えよ……」

パンチートが眠い眠いと嘆きながらも起きているのには理由がある。ホセの作った夕飯を一緒に食べていた席で、ホセに唐突に「今日は日付が変わるまで起きていてくれるかい」と言われたのだ。疑問符すら感じさせないその言葉に問いかける暇すらないまま、ホセはさっさとその話題を切り上げてしまった。
他の誰かに頼まれたならパンチートはさっさと眠ってしまっていたが、相手がホセであるならパンチートにとって話は別だ。まだ誰にも何も語ってはいないが、ホセはパンチートにとって最も気を許せる、そして大切な存在だ。一緒に暮らさないかと話を持ちかけたのもパンチートだ。だから、ホセがこうしてほしいと言ったことは、パンチートは出来る限り実行すると決めている。
決めてはいる、のだが。

「眠い…だめだ、寝そうだ……」
「へぇ、君の僕への愛ってその程度なの」
「そんなわけあるか!!いくらでも起きててやる!!」
「はは、大きい愛だなぁ…………あ」

ホセがチラと時計を見やる。日付が変わるまで、あと3秒。

「ねぇパンチート」
「ん〜?」

あと2秒

「あのさ、」

あと、






「……生まれてきてくれて、ありがとう」





その瞬間のパンチートの顔ったら!
翌日様々な人から祝福されるパンチートを横目に、ホセは腹を抱えて笑いながらそう語った。







『一緒に住むメリットの一つはね、一番最初に、生まれてきてくれたことを祝福できることだよ』
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