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フレンド

笑顔を取り繕うのは何よりも得意だ。そうしなければいけない世界で生まれて、この世界で生きてきた。弱みを見せれば足元をすくわれる、ここはそんな世界だ。だから誰にも弱さを見せず、ただがむしゃらに必死に走って走って走り続けて、そうやってここまできた。そうやって世界に夢を届けられる存在にまでなった。奇跡や幸運だなんて言わせない、これは紛れもなく自分自身の血の滲むような努力の結果だ。それだけは否定させない。否定させないために、だから僕はずっとずっと笑顔でいるよう努めてきたのだ。だから、きっと誰よりも、笑顔を取り繕うことは簡単であるはずなのに。なのにどうしてだろう。涙が止まらないんだ。

「ミッキー」
「まっ、待って、ダメ、待ってグーフィー、すぐっ、止めるから、っ」

きっかけは本当に些細なものだった。疲労を少しでも癒そうとしたら、たまたま誰もいない中、たまたまグーフィーと鉢合わせて。あまりにも気を緩めすぎていて、すぐにいつもの調子に戻しきれなくて。そんな僕を見て、グーフィーが一言、「辛いの?」と。「大丈夫?」とは聞かなかった。どこかで聞いたことがある。本当に辛い人には大丈夫かと聞いてはいけないんだと。そう聞かれると、大丈夫だとしか返せなくなってしまうから。グーフィーは知っていたんだろうか。いや、彼は何事も天然でやってのけるから、きっと知らないんだろう。それはそれで、怖いけれど。

だから失敗した。作ろうとした笑顔は一瞬で崩れ落ちて、代わりと言わんばかりに両目から涙がとめどなく流れ落ちた。自分でもびっくりしたし、何よりグーフィーが一番びっくりしていた。自分が泣かせたとでも思ったのだろうか。あながち間違いでもないけれど、正解でもない。これは僕が今まで隠して殺し続けてきた涙で、たまたまグーフィーがそれを表に出してしまうきっかけを作ってしまっただけ。ただそれだけなんだ。だから心配なんてしなくていいから、放っておいてほしい。笑顔を取り繕うことに完全に失敗してしまった、今の僕を、あまり見ないでほしい。知らないでいてほしい。弱さは、誰にも見せまいと誓ったはずなのだ。だから、グーフィー、お願いだから、僕の方へと歩むその足を、どうか止めて。

「ミッキー」
「っ、ぃ、やだっ」

僕の願いも虚しく、グーフィーはそのまま僕の目の前で立ち止まりしゃがみこむと、そのまま僕を力一杯抱きしめた。少しだけ痛くて、とても暖かくて、涙が止まらない。見ないで、見ないでよ、お願いだから。

「だいじょーぶ、大丈夫だよ、ミッキー」

何が大丈夫なのだろう、僕は全く大丈夫なんかじゃないのに。
それでも、グーフィーのそのあまりにも優しい声は確かに安心を植え付けて、止めようと思っても涙が止まる気配は一向に訪れなくて。

(…だいじょうぶ、)

でも、彼が言うなら。
他でもないグーフィーがそう言うのなら、もしかしたら、泣いていてもいいんじゃないかって。
少しくらい弱さを曝け出しても、笑顔に失敗しても、大丈夫なんじゃないかって。

そう思えてしまうのは、それも、僕の弱さなのだろうか。それとも、あるいは。
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