このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

フレンド

ホセは外ではとても紳士だから、よく女の子たちに素敵な旦那さんになるわねって言われるけど、そんなことはまったくないと俺は思う。だってホセは家だと全然紳士なんかじゃなくて、むしろ朝は弱いし意外と面倒くさがりだし。家と外ではまったく別人になることを知ってる人は少なくて、俺とドナルドに、あとはホセの親しい友人たちくらいだろう。特に女の子たちには絶対にバレないようにしているはずだ。幻滅はされたくないだろうし、何よりホセのプライドがそれを許さないだろうから。
だからこそ、そういうギャップを見せてくれるということは、それだけ気を許している相手だという証拠だ。





朝起きてまずすることといえば、隣で寝ているホセの寝顔を堪能すること。ホセが俺より先に起きることはまずないから、だいたいいつも成功する。身支度をある程度整えた後は、勝手知ったるホセの家のキッチンで簡単に朝ごはんを作るのが俺の日課だ。
棚を漁り、この前俺が自分の家から持ってきたメキシコ製のホットケーキミックスを取り出す。ホセはどれを使っても同じだろうと言うが、俺としてはやっぱりこのメキシコのが1番好きだから意地でも他のは使わない。適当に材料を混ぜてフライパンに生地を広げ、それから冷蔵庫を開けばちょうどリンゴが1つ残っていたから、焼いている間に一口サイズに切り分ける。さっさと切り分けると今度は生地をひっくり返して、コーヒーをいれるためにお湯を沸かし始める。いい感じに焼けたホットケーキを大きめの皿に乗せ、同じ皿にリンゴを乗せる。お湯がまだ沸いていないのを確認すると、次にするのは未だに起きてくる気配のないホセを起こすことだ。これがまた骨が折れることなのだ。
なるべく音を立てないようにドアをゆっくり開けて部屋を覗けば、やっぱりホセはまだスヤスヤ眠っていて、思わず笑みが零れた。
かわいいなぁ、幸せそうに寝ちゃって。
なんだか起こすのは忍びないけど、そんな自分に鞭打ってホセの肩を揺らす。

「ホセ、朝だぞ」
「んぅ……まだはやい……」
「頼むよホセ。君が淹れてくれるコーヒーを飲まなきゃ、俺の1日が始まらないからさ」
「……こーひー…?あぁ…うん、そうだね……おきる…」

朝ごはんはだいたい俺が作るが、コーヒーだけはホセが淹れる。ブラジルの出身だからなのか、ホセはコーヒーにはうるさい。一度俺がインスタントで淹れた時は本気で怒らせたから、それからは俺は淹れないようにしている。教えてもらえばいいじゃないかとも思うが、どうせすぐ忘れてしまうだろうし、それにホセが俺のために、朝が弱いのにわざわざ起きてコーヒーを淹れてくれるというのは、なかなか嬉しいものだから。
開ききらない目をこすりながらようやく起きて、ホセがキッチンに向かう。ちょうどお湯が沸いたところだろう。少し冷めてしまったかもしれないホットケーキは、コーヒーができるのに合わせてレンジで温めればいいか。
ふと視界に入った、いろいろとぐちゃぐちゃになっているシーツはさすがに放っておけないから、それだけ持って降りて適当に洗濯機にでも突っ込んでしまおう。そう思ってシーツを持って階段を降りれば、ふんわりと香ってくる美味しそうなコーヒーの匂い。急いでシーツを洗濯機に突っ込んでリビングに行けば、ちょうどホセがコーヒーを淹れているところだった。

「ホットケーキ焼いてるぞ。あっためるか?」
「ん、や、いいよ」

キッチンに置いていたホットケーキと冷蔵庫のバターをリビングのテーブルに運んで、そしてそのホットケーキの横にホセがコーヒーを置く。ほら、これで完成。最高の組み合わせだ。俺の大好きなメキシコ産ホットケーキに、俺の大好きなホセが淹れてくれたコーヒー。やっぱり朝はこれがいい。簡単にできるし。
俺より先に座って早速コーヒーを飲むホセはまだ明らかに眠そうな顔だ。向かいに座って俺も同じようにコーヒーを飲む。よく知っている大好きな味に顔が綻んだ。

「んー、やっぱホセが淹れるコーヒーは美味しいな!」
「それはどうも……あ、ホットケーキおいしい」
「お、そうか?」

眠いせいなのかホットケーキをちびちびと食べる姿は可愛い以外の何者でもなくて、朝から幸せだなぁなんて思う。自分の分を食べながらそんなホセの姿をじっと眺めていれば、さすがに気づいたホセが食べる手を止めて視線を合わせた。

「たべにくいよ、パンチート」
「いやぁ、今日も可愛いなぁと思ってさ」
「君はいつもそれじゃないか」
「もちろん昨日の君だってかわいかったぜ」

ニヤニヤしながらわざとらしくそう言うと、ホセは眉間にしわを寄せた。朝から下品だって?別にいいんだ。どうせ俺とホセしかいないし、俺は事実しか言ってない。

「君のせいでよけいに朝が弱くなって困るよ」
「それならいくらでも弱くなっていいんだぞ?」
「君は俺を抱き潰す気か?」
「はは、それくらい愛してるってことさ。わかってるだろ」

いつもみたいにくだらない言い合いは、外では絶対に口にできないような内容で。さっきよりも随分目が覚めた様子のホセも少しずつ口数が多くなる。しばらく何か考える姿を見せると、思いついたようにふっと微笑んでその口を開いた。

「朝も作ってくれて俺のことも目一杯愛してくれているダーリンは、どうやらおはようのキスはお忘れみたいだね?」
「!!」

まさかそうくるとは思わなかった。わざとらしく頬杖をついて、指先でとんとんと自分の口を叩く姿に、一瞬息が止まる。まったく本当に、どうしてホセはこうも俺を煽るのがうまいのだろうか。いや、これが惚れた弱みとかいうやつか?というか、俺以外にそんなこと言って欲しくないし言わせるつもりもないけれど。

「ははは!ほんとに君ってやつは!」
「そういうところも全部愛してくれているんだろう?」
「当たり前だろ。おはよう、ホセ」
「ん、おはよう、パンチート」

望まれるままに軽く触れたその口は、かすかにホットケーキの甘い味と、コーヒーの苦い味がした。












「それで朝から我慢できなくなっちゃってさぁ」
『……うん』
「そういうわけだから、今日の約束また今度でいいかい、ドナルド?」
『ねぇそこだけでよかったよね?昨日デイジーとケンカしたばっかりの僕への嫌がらせなの?』
1/21ページ
スキ