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お前のそれは、父親に向ける家族への愛を勘違いしているだけだと、孫堅は何度も何度も劉備に説いてきた。危機に瀕した幼い劉備を救ったのがたまたま孫堅だったから。たまたま父親と同じくらいの世代だったから。お前のそれは憧れとかそういう感情で、恋だとかそういうものとは違うのだと。それは自分に言い聞かせる言葉でもあった。劉備が孫堅を好きだと言うように、孫堅だって劉備を好ましく思っていた。けれどあまりにも年が離れていて、それこそ父と子ほどであったから。自分のこれは抱いてはいけないものだと、自分に言い聞かせてきた。ずっと我慢して、忘れようとして、いつかいい思い出になる日が来るだろうと高をくくって。そうして逃げていたのはきっと孫堅が大人だからで、劉備はまだ子供だから。だから臆せず踏み込んでこれるのだと。だからこれ以上踏み込まれる前に、その道を正してしまおうと。けれど。
「父ちゃんへの家族愛とこの気持ちが違うものだってくらい俺にも分かる!これは俺の、俺だけの気持ちだ!孫堅のおっちゃんに、否定されていいものじゃない!」
いつまでも子供だと思っていた劉備は、孫堅が思っている以上にずっと大人だった。泣きじゃくりながら怒ってそう言われてしまえば、孫堅にそれを否定する術は残っていない。ぼろぼろと零れる涙にそっと触れる。
「…後悔しねぇか」
「…しないよ、そんな軽い気持ちじゃないから」
ああ、なんて愛おしいのだろう。自分のこの胸に溢れる感情は、やはり子供に向けるようなそれではないなと孫堅は自嘲する。よくもこんな思いを隠し通せると思っていたものだ。優しく頭を撫でて、その体をひしと抱きしめて。我慢していた気持ちが溢れるように、急速に距離を縮めていく。頬に手を当て顔を上げさせれば、可哀想なくらい赤く染まっていた。
「お、おっちゃん」
「悪いな、俺もずっと我慢してたんだ」
笑って流れるようにちゅ、と口づければ、今度こそキャパオーバーを起こした劉備はますます赤くなってしゃがみ込んだ。
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