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ぽろぽろと零れていく涙が綺麗だと感じてしまうのは、彼が自分のことを案じて流してくれた涙だからだろうか。それを綺麗と思ってしまうのは、彼に悪いだろうか。そんなことをぼんやりと考えながら、劉備は悔し気に顔を歪めて涙を流す諸葛亮の頬にそっと触れた。彼の言う星詠みというのは、劉備にはよくわからない。いつか星が未来を教えてくれると言っていたのは覚えているけれど、劉備にはいまいちその感覚は理解できなかった。
未来を見ることができるのは、純粋に凄いなと思う。そういえば初めて会った時も、自分たちの出会いを予知していたなと思い出した。けれど、ただ一人未来を見るというのは、本人にとってはどうなのだろう。例えば出会いの未来ではなくて、別れの未来が見えてしまったら。きっとそれは、とてもつらいのだろうなと、劉備はなんとなくそう思った。
「…泣くなよ、諸葛亮」
「ッ、君は…!じゃあ、なんで君はなんとも思わないんだ…!」
自分がいなくなる未来を見たのだと言った。ずっとずっと劉備を見つめる目が苦しそうだったからその理由を問い詰めれば、彼は泣きながら自分が見た未来を語った。世界の為に、自分の命は使われるのだと。この身一つで世界を救えるなら安いものだ。そう思うけれど、こうして自分の為に泣いてくれる人がいるのに、そんなことを言えるはずもなくて。
でも、その未来を知るのが彼一人でないのなら。自分もその未来を知ることができた今なら。もしかしたら、何かを変えられるんじゃないだろうか。
「お前が、そうやって泣いてくれるなら、俺はきっと消えないよ」
「諸葛亮が、悲しまないように、俺は生きるよ」

「だって、誰かを失うのは、本当に痛いから」

劉備は、その痛みをよく知っているから。

それでも涙を止めない諸葛亮の体を、劉備は優しく優しく抱きしめる。一人では無理でも、二人でならきっと変えられるのだと言い聞かせるように。
背中に回された手に安心しながら、劉備は自身の生を、強く強く決心した。
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