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例えば何事もなく平穏な日を過ごす中で当たり前に沈んでいく夕陽を眺めることができるというのは、とても幸せなことだと劉備は思う。まだ今よりもっと幼かった頃、劉備の師である盧植と兄弟子の公孫瓚とよくこうして夕陽を眺めていたことがあったなと思い出した。あの時劉備にはまだ今のような力はなくて、いつも二人に守ってもらう立場だった。子供だからと言ってしまえばそれまでだが、年齢的なものを見るなら公孫瓚も盧植からすればまだまだ子供だったし、だから劉備は早く強くなりたかった。早く大きくなりたかった。守ってくれる背中があんまり頼もしいから、同じ背中になれるようにたくさんたくさん努力した。いつか逆に守るのだと誓っていた師は、劉備が守れるほど強くなるその直前に死んでしまったけれど。だけど劉備は盧植から本当に多くのことを学んだ。新たな力だって、盧植から与えられたものだ。まだまだ守られてばかりだったんだなと、そう思わざるを得なかった。
だからこそ、師から託された力で多くの民を守ると決めた。またあの頃のように、誰か大事な人と当たり前に沈む夕日を眺めていられる世界を、この手で。そう誓って、誓った先に盧植や公孫瓚のように大切になる彼らがいた。
「劉備殿」
「ん、どうした関羽?」
「いえ、じっと夕日を見つめていらっしゃるので」
「どうしたんだアニキ、そんな珍しいもんでもないだろ夕日なんて」
張飛が少し呆れたように笑う。それを軽く咎める関羽を見て、劉備は改めて、大切だなと思った。こんな自分を義兄と慕いついてきてくれる仲間がいる。まだまだ未熟な自分に、命を預けてくれる仲間がいる。そんな彼らと、こうして夕日を眺められる。たったそれだけのことが、どうしようもなく劉備は嬉しいのだ。
(きっと先生もアニキも、こんな思いだったんだなぁ)
そう思うとなんだか懐かしくて、自分は愛されていたんだなと実感して。

「あんまり、綺麗だったからさ」
二人にバレないように、劉備はほんの少しだけ泣いた。
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