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真悪参は、武者の強さを全く認めていないわけではない。確かに並みの武士と比べれば秀でたものがあるだろう。他人の実力が全くわからないほど、真悪参も馬鹿ではない。けれど個人の強さを認めることと、それが己より強者であるかどうかを判断することは全く別の事だった。武者は確かに真悪参に負けている。数いる武士の中でその頂点に位置するのは間違いなく真悪参だろう。けれどそれでもなお、「武者」の称号は真悪参には与えられなかった。強さこそが最も大切なのだと考える真悪参には、それが納得できなかった。
武者が心優しい青年であることくらい、真悪参も知っていた。闇軍団との戦いの為に早くから多少の交流があったから、武者がどういう性格をしているのかはとっくに把握していたのだ。良いやつなのだろうと思うと同時に、生温いやつだとも思った。自分ほどの強さはないけれど、自分に次ぐ強さくらいは持っているやつだと思っていた。
「なぜ俺ではなくあいつが!」
その感情を嫉妬だとは認めたくなかった。だってそれを認めてしまう事は、自分が武者より劣っていることを認めてしまうのと同義だから。誰が見ても真悪参の方が強いことはわかっている。けれど決定的に武者と真悪参では違うところがあるのだ。不満を募らせる真悪参は、それに気づかない。気付こうともしない。やがて武者たちと距離を置くようになり、行動も単独でするばかりになった。もう放っておけという者もいたが、武者だけはいつまでも真悪参を気にかけた。それが猶更気に食わなかった。
「真悪参、拙者は」
「そんなに俺に情けをかけたいか、随分とまぁ良い御身分だな」
「そんなつもりではないと言っているだろう!」
声も聴きたくなければ姿も見たくないというのに、どれだけ突き放したところで武者はいつも真悪参の前にやってきた。そこには確かに仲間への想いがあったが、真悪参にとってそんな思いなどどうでもよかった。いっそ己の手で壊してしまおうかと。
(…ああ、それがいい)
そんな執着に気付くはずもない武者は、また今日だって、真悪参の前に姿を見せるのだ。
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