バブ124
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その場所は、初めてではない場所だった。
固く閉じていた瞼を、おそるおそる持ち上げる。
まぶしいほどの光が目を刺し、状況を把握するのすら苦労する。
周囲はしんと冷えて静まり返っており、音の反響からかなり広く、かつ閉鎖的な空間なのではないかと思わされた。
一体、自分の身に何が起こったのだろう?
そして、前にもこんなんあったデジャヴを覚えた。
半ば覚悟していたとしてもだ。
傍聴席のような椅子が並び、最奥には一際高い台座と席がしつらえている。
左右対称にいくつかの机が並んでいるのだが、それらは段状に高い位置から下ってくるような配置になっていた。
つまりは、中央にいる男鹿は一番低い位置に立ち、全ての椅子から見下ろされている構図である。
隙間なく柵に覆われた腰までの高さの手すり……。
「静粛にっ!!」
カンカン、と音高い木槌の音色が響き渡った。
正面にそびえていた高い台が存在感を増し、そのてっぺんに腰かけていた一人の影を浮かび上がらせる。
それは黒のマントを纏った裁判長の古市であった。
「それではこれより、第2回『男鹿ボロ負け裁判』をとり行います!!被告、ヘタレうんこビチクソ弱虫は前へ!!」
長々とした題名で、古市は声高に言い募る。
そう、裁判である。
審判である。
ジャッジである。
ジャッジメントですの!
………言いたかっただけである。
「――またこれか…進歩のねー野郎共だ…」
『LOOSER』と書かれたタスキをかけた被告人の男鹿は証言台に立たされた。
彼の周囲をどんよりと真っ黒な影が覆い、複雑な顔をしていた。
具体的には――諦めの顔に、驚きと呆れが少しずつ混ざったような。
「黙れカスっ!!進歩がないのは、お前だ!!死ねっ」
息を大きく吸い、眉を跳ね上げた古市は怒りも露に激昂した。
裁判所に響き渡る、ビリビリと鼓膜が破けそうな大声に、全員が耳を塞いで目を丸くした。
「おぉお…」
「なんて迫力だ…」
「裁判長が怒っておられる」
「あぁ…今日の法廷は何かが起こるぜ…」
あたかも傍聴席のようなその場所では、三鏡とMK5が話をしていた。
「二度目だよ?二度目ですよ!!」
存分に野次が飛ぶのを見届けてから、ブチキレた叫びと共に感情を爆発させる。
「仏の顔だってなぁ…二度見してりゃ思ったより笑ってないって事があるんですよ」
「いや、意味分かんねー」
「――お前…あの悪魔達になんて言ったか憶えてるか…?」
悪魔の力を制御する修業を終えて、ベヘモット34柱師団と対峙した。
あの時、自分はなんと言ったのか……。
「"明日のオレはプライスレス"っつったんだよ!!」
「言ってねーよっ!!」
男鹿は古市を物凄く怖い顔で睨み、怒りに震えた声でつっこむ。
「恥ずかしい台詞、捏造するんじゃねーよ!!」
「フン…ばかめ、男鹿。言ったか言ってないかは問題ではない、重要なのは気持ちだ」
「ここ法廷だよね!?」
「ようはお前、そんなつもりでいたんじゃねーのって事だ」
「裁判長、よろしいでしょうか」
凛々しい声と共に、一人の人物が手を挙げた。
騒がしい罵声が飛び交う中にあってもなお埋もれることなく耳に届いたその声の方へ顔を向けると、紺色のスーツに身を包んだ葵と目が合った。
どうやら彼女が今回の、男鹿の弁護人らしい。
「女王 ーー…!!」
「法廷の女王 、弁護士、邦枝!!彼女がきたからには、こりゃ無罪もありえるぜ…!!」
そうか。
男鹿は安堵した。
前回は弁護をせずトイレに行ったアランドロンだったから、今回の弁護人は真面目な性格の葵なので、ちゃんと男鹿の弁護をする気なのだ。
ありがたい。
「――確かに…被告はプライスレスとは言ってません」
「それひっぱるの!?」
あれ、弁護人……?
弁護どころではない発言に男鹿は愕然とした。
「しかし彼はこう言いました"強くならなきゃならねぇ"。"全員黙らせるくらいに"…と!!」
柱師団に襲撃されたあの夜、ボロボロなはずなのに立ち向かう響古がいて、それを見てうらやましいと思ってる自分が、守りきれなかったことに苛ついた。
普段は強く埋めている感情に囚われていた。
そんなもの、感じること自体が強い屈辱であったが、それでも。
男として。
立ち止まっている自分を置いて、決定的な一歩を踏み出されたことへの悔しさと嫉妬……強さへの欲求は、あるのだ。
自分はあの時、何もできずにいた。
全てわかっているからこそ、男鹿は嫉妬を覚えていた。
(詳しくはバブ88を読んでね)
「ちょっ。おぉいっ、お前本当に弁護人か!?やめろっ」
男鹿が焦った様子でつっこむが、葵はその凛々しい表情で高らかに宣言した。
「そんな彼の気持ちは確かに、プライスレス!!」
「何言ってんのお前!?」
おおー、と野次馬から歓声があがり、パチパチと拍手が湧き起こる。
「プライスレース!!」
「プライスレース!!」
古市もうんうんと頷くき、目尻に滲んだ涙を指で拭う。
「――…いけねぇ。法の目にも涙ってやつか…」
「お前ら全員死ねよっ」
机を叩いて怒鳴るが、誰も見向きもしない。
――くそっ…相変わらず、自分の夢とはいえ、訳がわからねぇ…さっさと目覚めろ、オレ…!!
古市を始め全員が、男鹿が二度も悪魔に敗れたのはまぎれもない事実だということを確認する。
悪魔の力の使い方について頑張って修業したにもかかわらず、響古とヒルダがさらわれた……完全に有罪だ。
原告側は有罪を要求するだろう。
そして、芋づる式で自分より響古の方が強いんじゃないかと言われる。
そうなっては元も子もない。
何より……。
――オレが負けちまえば、最凶彼氏と最強彼女の称号がなくなっちまうじゃねーか!
やはりというか何というか、彼は響古のことを考えていた。
今、自分が合法的に響古と一緒にいれるのは、二人が彼氏彼女の関係である。
これがなくなってしまえば、今後二人をつなぐものはほとんどなくなってしまう。
下手すればこれを好機と捉えた男達が、とんでもないくらいに響古に告白してくるだろう。
響古にも、もう会えないかもしれないほどに………それは緊急事態だ。
この立場を失う訳にはいかない。
ならば、男鹿のすべきことは一つ。
――誰も弁護する奴がいないのなら、オレ自身が反論する事だ!
男鹿の腹が決まった。
絶対に負けられない裁判が、そこにはある!!
「ちょっと待てや!お前ら、忘れてるようだけど、オレはあの悪魔によって気絶させられていた響古を目覚めさせて、一度は助けたんだぞ!!」
精神世界でベル坊とのリンクをつなぎ直した手段――。
響古の意識に触れる方法――。
東条と対峙する直前の記憶を脳裏に過ぎらせる。
あの時は、響古の手を借りて成功させることができた。
二人で魔力に感応し、掌を通して心で触れ合った。
あれと同じことを、一人の力でやった。
「――…確かに。前回の悪魔と戦ったあの時と違って、お前は幾分か活躍していたみたいだな」
古市が神妙な顔でぼそりとつぶやき、葵がすかさず付け足す。
「補足して付け加えますと、被告人が悪魔の名を伝えた事によって、悪魔を斬り裂く武器が出現されました」
「ナイスフォローだ、邦枝!」
男鹿は、この成果に満足する。
これでこの裁判にも、なんらかの変化が起こるはずだった。
有罪か無罪かで判断しているだろう、裁判長に向き直る。
「異議ありっ!!」
突如として響いた大声に、男鹿は硬直した。
古市達も動きを止め、振り返る。
「裁判長。その女に騙されちゃいけませんぜ」
「!!あなたは――…」
葵が驚愕と共に目を見開き、
「ウルトラ」
男鹿の表情が引きつり、
「検察官」
傍聴席にいる神崎達がその名を呼ぶ。
「東条英虎!!」
次に現れたのが、眼鏡をかけてスーツを着た東条であった。
くいっと眼鏡の位置を直しながら、自信満々の様子で口を開いた。
「所詮その女の言う事は感情論。それも存分に私情の入ったもの。被告の無罪を証明する事は出来ません」
「ほう。それはつまり…?」
「つまり裁判長。私が言いたいのは…」
東条はおもむろに帽子を取ると、真剣に考えているようで、その実馬鹿なことを考えている顔で言い放つ。
「オレの出番まだ!?という事です!!」
「100%私情じゃねーか、お前は!!」
この期に及んでふざけたことをぬかす東条の発言を、男鹿は容赦なく斬り捨てた。
「やっとバトルになって出番がくるかと思ったら、また修業だと?笑止!!」
散々、長いこと放置されてついに出番かと待ち構えていたら、また修業のターンである。
修業パートってつまらないでしょ?
勿論、全ての修業パートが面白くないとは言いません。
ですが面白い修業パートって書くの難しいんですよ。
「それに、オレがいない間に恋敵が増えているとは。愛人 や幼女 、ショタ ような悪魔までなんでもこいだとはわかっていたが、まさか赤ん坊 までとは」
容姿端麗、文武両道。
褒める言葉は数知れず。
男女問わず言い寄られる最強の愛され系彼女は、人外にも言い寄られていた。
「それもこれも全て、お前が弱いせいだと思わないのかい!?」
「どーでもいいけどキャラブレまくってんぞ、お前!!久しぶりすぎてよく分かんねーのかよ!!」
「ぶっちゃけ死刑を求刑します!!」
「ぶっちゃけ!?死刑の前につけていい言葉じゃねーだろ!!」
公正な判断を求める裁判にふさわしくないのだが、東条の言葉に触発され、さらに裁判所がぶっちゃけの渦に巻き込まれていく。
「ぶっちゃけ、オレもそう思う」
「だからぶっちゃけ言うなっつーの!!裁判長だろ、お前!!」
すると、葵まで言い出した。
「ぶっちゃけ私は弁護士ではありません」
「ぶっちゃけはやりだしたよっ。つーか衝撃の告白なんだけど、お前なんなの!?」
「保母さんになりたい」
「知るかっ」
「響古に胸を触られたから、ぶっちゃけ責任とってほしい」
ポッと頬を赤らめながら、葵が告白する。
すかさず男鹿がつっこんだ。
「何の!?」
「ぶっちゃけウチも弁護士じゃないっス!!」
「…ぶっちゃけ私も…」
「知ってるよ!!」
弁護席に座る由加と千秋も脈絡もなく言い出して、満面の笑みでサムズアップを決めつつ、この言葉。
「まさか葵さんが"黒雪姫"にガチ恋してるなんて……でも、葵さんが幸せならOKっス」
「葵さん×響古しか勝たん……」
素直に相手の幸せを願う由加と、推しのCP を熱狂的に(時に強めの思想や情念を伴って)応援している千秋。
「響古を女同士の恋愛に引きずりこまないで!?」
「ぶっちゃけオレは大工さんになりたいんだ」
「嘘つけっ」
「ぶっちゃけちゃけちゃけちゃ」
「うるせーっっ」
見え透いた嘘をつく姫川と、腹を抱えてバカ笑いをする神崎。
「ぶっちゃけ、オレらと"黒雪姫"のラブコメっていつ始まるんだろうな」
「だな。あっちの方は危険で不純で不健全な小説を書いてるのに。こっちじゃ純愛ラブコメディなのはおかしい」
「何、訳のわからねー事いってんの!?」
急にメタい発言をし出した姫川と神崎。
な、なんのことかなぁ……?
「…ぶっちゃ毛って…どこの毛…?」
ぶっちゃけの嵐を見つめていた夏目が口を開く。
それは単なる悪ノリとは違い、ちょっとだけ真剣な顔だった。
「ぶっちゃの毛だよっ!!」
ここまで怒涛のぶっちゃけの嵐が続いたので、思わず泣きそうになる。
混沌としているこの状況を現代語で表すならばカオスだろうか。
カオスと化した状況に、今にも泣き出しそうな顔で――というより既に半泣きになって――男鹿は怒鳴った。
「あぁもうっ、分かったよっ!!分かりました!!オレが悪いんでしょっ!!分かったから夢覚めろっ!!」
そんな男鹿の頭を、背中にしがみつくベル坊が、てしてし、と叩いた。
「アーー」
「…なんだよ、ベル坊…」
固く閉じていた瞼を、おそるおそる持ち上げる。
まぶしいほどの光が目を刺し、状況を把握するのすら苦労する。
周囲はしんと冷えて静まり返っており、音の反響からかなり広く、かつ閉鎖的な空間なのではないかと思わされた。
一体、自分の身に何が起こったのだろう?
そして、前にもこんなんあったデジャヴを覚えた。
半ば覚悟していたとしてもだ。
傍聴席のような椅子が並び、最奥には一際高い台座と席がしつらえている。
左右対称にいくつかの机が並んでいるのだが、それらは段状に高い位置から下ってくるような配置になっていた。
つまりは、中央にいる男鹿は一番低い位置に立ち、全ての椅子から見下ろされている構図である。
隙間なく柵に覆われた腰までの高さの手すり……。
「静粛にっ!!」
カンカン、と音高い木槌の音色が響き渡った。
正面にそびえていた高い台が存在感を増し、そのてっぺんに腰かけていた一人の影を浮かび上がらせる。
それは黒のマントを纏った裁判長の古市であった。
「それではこれより、第2回『男鹿ボロ負け裁判』をとり行います!!被告、ヘタレうんこビチクソ弱虫は前へ!!」
長々とした題名で、古市は声高に言い募る。
そう、裁判である。
審判である。
ジャッジである。
ジャッジメントですの!
………言いたかっただけである。
「――またこれか…進歩のねー野郎共だ…」
『LOOSER』と書かれたタスキをかけた被告人の男鹿は証言台に立たされた。
彼の周囲をどんよりと真っ黒な影が覆い、複雑な顔をしていた。
具体的には――諦めの顔に、驚きと呆れが少しずつ混ざったような。
「黙れカスっ!!進歩がないのは、お前だ!!死ねっ」
息を大きく吸い、眉を跳ね上げた古市は怒りも露に激昂した。
裁判所に響き渡る、ビリビリと鼓膜が破けそうな大声に、全員が耳を塞いで目を丸くした。
「おぉお…」
「なんて迫力だ…」
「裁判長が怒っておられる」
「あぁ…今日の法廷は何かが起こるぜ…」
あたかも傍聴席のようなその場所では、三鏡とMK5が話をしていた。
「二度目だよ?二度目ですよ!!」
存分に野次が飛ぶのを見届けてから、ブチキレた叫びと共に感情を爆発させる。
「仏の顔だってなぁ…二度見してりゃ思ったより笑ってないって事があるんですよ」
「いや、意味分かんねー」
「――お前…あの悪魔達になんて言ったか憶えてるか…?」
悪魔の力を制御する修業を終えて、ベヘモット34柱師団と対峙した。
あの時、自分はなんと言ったのか……。
「"明日のオレはプライスレス"っつったんだよ!!」
「言ってねーよっ!!」
男鹿は古市を物凄く怖い顔で睨み、怒りに震えた声でつっこむ。
「恥ずかしい台詞、捏造するんじゃねーよ!!」
「フン…ばかめ、男鹿。言ったか言ってないかは問題ではない、重要なのは気持ちだ」
「ここ法廷だよね!?」
「ようはお前、そんなつもりでいたんじゃねーのって事だ」
「裁判長、よろしいでしょうか」
凛々しい声と共に、一人の人物が手を挙げた。
騒がしい罵声が飛び交う中にあってもなお埋もれることなく耳に届いたその声の方へ顔を向けると、紺色のスーツに身を包んだ葵と目が合った。
どうやら彼女が今回の、男鹿の弁護人らしい。
「
「法廷の
そうか。
男鹿は安堵した。
前回は弁護をせずトイレに行ったアランドロンだったから、今回の弁護人は真面目な性格の葵なので、ちゃんと男鹿の弁護をする気なのだ。
ありがたい。
「――確かに…被告はプライスレスとは言ってません」
「それひっぱるの!?」
あれ、弁護人……?
弁護どころではない発言に男鹿は愕然とした。
「しかし彼はこう言いました"強くならなきゃならねぇ"。"全員黙らせるくらいに"…と!!」
柱師団に襲撃されたあの夜、ボロボロなはずなのに立ち向かう響古がいて、それを見てうらやましいと思ってる自分が、守りきれなかったことに苛ついた。
普段は強く埋めている感情に囚われていた。
そんなもの、感じること自体が強い屈辱であったが、それでも。
男として。
立ち止まっている自分を置いて、決定的な一歩を踏み出されたことへの悔しさと嫉妬……強さへの欲求は、あるのだ。
自分はあの時、何もできずにいた。
全てわかっているからこそ、男鹿は嫉妬を覚えていた。
(詳しくはバブ88を読んでね)
「ちょっ。おぉいっ、お前本当に弁護人か!?やめろっ」
男鹿が焦った様子でつっこむが、葵はその凛々しい表情で高らかに宣言した。
「そんな彼の気持ちは確かに、プライスレス!!」
「何言ってんのお前!?」
おおー、と野次馬から歓声があがり、パチパチと拍手が湧き起こる。
「プライスレース!!」
「プライスレース!!」
古市もうんうんと頷くき、目尻に滲んだ涙を指で拭う。
「――…いけねぇ。法の目にも涙ってやつか…」
「お前ら全員死ねよっ」
机を叩いて怒鳴るが、誰も見向きもしない。
――くそっ…相変わらず、自分の夢とはいえ、訳がわからねぇ…さっさと目覚めろ、オレ…!!
古市を始め全員が、男鹿が二度も悪魔に敗れたのはまぎれもない事実だということを確認する。
悪魔の力の使い方について頑張って修業したにもかかわらず、響古とヒルダがさらわれた……完全に有罪だ。
原告側は有罪を要求するだろう。
そして、芋づる式で自分より響古の方が強いんじゃないかと言われる。
そうなっては元も子もない。
何より……。
――オレが負けちまえば、最凶彼氏と最強彼女の称号がなくなっちまうじゃねーか!
やはりというか何というか、彼は響古のことを考えていた。
今、自分が合法的に響古と一緒にいれるのは、二人が彼氏彼女の関係である。
これがなくなってしまえば、今後二人をつなぐものはほとんどなくなってしまう。
下手すればこれを好機と捉えた男達が、とんでもないくらいに響古に告白してくるだろう。
響古にも、もう会えないかもしれないほどに………それは緊急事態だ。
この立場を失う訳にはいかない。
ならば、男鹿のすべきことは一つ。
――誰も弁護する奴がいないのなら、オレ自身が反論する事だ!
男鹿の腹が決まった。
絶対に負けられない裁判が、そこにはある!!
「ちょっと待てや!お前ら、忘れてるようだけど、オレはあの悪魔によって気絶させられていた響古を目覚めさせて、一度は助けたんだぞ!!」
精神世界でベル坊とのリンクをつなぎ直した手段――。
響古の意識に触れる方法――。
東条と対峙する直前の記憶を脳裏に過ぎらせる。
あの時は、響古の手を借りて成功させることができた。
二人で魔力に感応し、掌を通して心で触れ合った。
あれと同じことを、一人の力でやった。
「――…確かに。前回の悪魔と戦ったあの時と違って、お前は幾分か活躍していたみたいだな」
古市が神妙な顔でぼそりとつぶやき、葵がすかさず付け足す。
「補足して付け加えますと、被告人が悪魔の名を伝えた事によって、悪魔を斬り裂く武器が出現されました」
「ナイスフォローだ、邦枝!」
男鹿は、この成果に満足する。
これでこの裁判にも、なんらかの変化が起こるはずだった。
有罪か無罪かで判断しているだろう、裁判長に向き直る。
「異議ありっ!!」
突如として響いた大声に、男鹿は硬直した。
古市達も動きを止め、振り返る。
「裁判長。その女に騙されちゃいけませんぜ」
「!!あなたは――…」
葵が驚愕と共に目を見開き、
「ウルトラ」
男鹿の表情が引きつり、
「検察官」
傍聴席にいる神崎達がその名を呼ぶ。
「東条英虎!!」
次に現れたのが、眼鏡をかけてスーツを着た東条であった。
くいっと眼鏡の位置を直しながら、自信満々の様子で口を開いた。
「所詮その女の言う事は感情論。それも存分に私情の入ったもの。被告の無罪を証明する事は出来ません」
「ほう。それはつまり…?」
「つまり裁判長。私が言いたいのは…」
東条はおもむろに帽子を取ると、真剣に考えているようで、その実馬鹿なことを考えている顔で言い放つ。
「オレの出番まだ!?という事です!!」
「100%私情じゃねーか、お前は!!」
この期に及んでふざけたことをぬかす東条の発言を、男鹿は容赦なく斬り捨てた。
「やっとバトルになって出番がくるかと思ったら、また修業だと?笑止!!」
散々、長いこと放置されてついに出番かと待ち構えていたら、また修業のターンである。
修業パートってつまらないでしょ?
勿論、全ての修業パートが面白くないとは言いません。
ですが面白い修業パートって書くの難しいんですよ。
「それに、オレがいない間に恋敵が増えているとは。
容姿端麗、文武両道。
褒める言葉は数知れず。
男女問わず言い寄られる最強の愛され系彼女は、人外にも言い寄られていた。
「それもこれも全て、お前が弱いせいだと思わないのかい!?」
「どーでもいいけどキャラブレまくってんぞ、お前!!久しぶりすぎてよく分かんねーのかよ!!」
「ぶっちゃけ死刑を求刑します!!」
「ぶっちゃけ!?死刑の前につけていい言葉じゃねーだろ!!」
公正な判断を求める裁判にふさわしくないのだが、東条の言葉に触発され、さらに裁判所がぶっちゃけの渦に巻き込まれていく。
「ぶっちゃけ、オレもそう思う」
「だからぶっちゃけ言うなっつーの!!裁判長だろ、お前!!」
すると、葵まで言い出した。
「ぶっちゃけ私は弁護士ではありません」
「ぶっちゃけはやりだしたよっ。つーか衝撃の告白なんだけど、お前なんなの!?」
「保母さんになりたい」
「知るかっ」
「響古に胸を触られたから、ぶっちゃけ責任とってほしい」
ポッと頬を赤らめながら、葵が告白する。
すかさず男鹿がつっこんだ。
「何の!?」
「ぶっちゃけウチも弁護士じゃないっス!!」
「…ぶっちゃけ私も…」
「知ってるよ!!」
弁護席に座る由加と千秋も脈絡もなく言い出して、満面の笑みでサムズアップを決めつつ、この言葉。
「まさか葵さんが"黒雪姫"にガチ恋してるなんて……でも、葵さんが幸せならOKっス」
「葵さん×響古しか勝たん……」
素直に相手の幸せを願う由加と、推しの
「響古を女同士の恋愛に引きずりこまないで!?」
「ぶっちゃけオレは大工さんになりたいんだ」
「嘘つけっ」
「ぶっちゃけちゃけちゃけちゃ」
「うるせーっっ」
見え透いた嘘をつく姫川と、腹を抱えてバカ笑いをする神崎。
「ぶっちゃけ、オレらと"黒雪姫"のラブコメっていつ始まるんだろうな」
「だな。あっちの方は危険で不純で不健全な小説を書いてるのに。こっちじゃ純愛ラブコメディなのはおかしい」
「何、訳のわからねー事いってんの!?」
急にメタい発言をし出した姫川と神崎。
な、なんのことかなぁ……?
「…ぶっちゃ毛って…どこの毛…?」
ぶっちゃけの嵐を見つめていた夏目が口を開く。
それは単なる悪ノリとは違い、ちょっとだけ真剣な顔だった。
「ぶっちゃの毛だよっ!!」
ここまで怒涛のぶっちゃけの嵐が続いたので、思わず泣きそうになる。
混沌としているこの状況を現代語で表すならばカオスだろうか。
カオスと化した状況に、今にも泣き出しそうな顔で――というより既に半泣きになって――男鹿は怒鳴った。
「あぁもうっ、分かったよっ!!分かりました!!オレが悪いんでしょっ!!分かったから夢覚めろっ!!」
そんな男鹿の頭を、背中にしがみつくベル坊が、てしてし、と叩いた。
「アーー」
「…なんだよ、ベル坊…」
