幕間
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
遠くから、深くから、声がこぼれ落ちてくる。
「人間、天人、分け隔てなく積み上げた屍山血河の果てに強力な力を築いてきた、それが"紅天女"。憎悪が、怨嗟が、憤怒が、嫉妬が、絶望が、復讐――あなたを、私を突き動かした」
「しってる」
即答した。
攘夷時代の自分が、正面に立っている。
そこから、さらなる声がこぼれる。
広い空洞を渡るように、声は反響していた。
「本当は嫌なんでしょ?"紅天女"という、その呼び名」
「えぇ。大嫌い」
また、即答した。
小柄な自分の輪郭が、幽 かに揺れる。
「ただの少女である事はとうの昔にやめ、強くなろうと決めた。でも、本当は違う。強くなったと思っていたけど、ただ自分が嘘をついていただけ。自分の嘘に気がつきながら、それを押し込めて自分を騙して、見ていないフリをしているだけ」
そこからこぼれる声はどこか虚ろで、吹きすさぶ風鳴りのようにも聞こえる。
「しってる。それをしって壊れそうになった時、まだあたしのために何もしていない、あたしが、自分に恋されていることを感じろ……」
「だから嘘をつくなと言ってくれた彼のおかげで、この私の抱く気持ち、愛をもって修羅の彼に挑んだ」
今さらの確認に、答えを先取りした。
ふと、少女だった自分が、平面の存在だと気づく。
虚ろな声は構わず、こぼれてくる。
まるで、確認するような口ぶりで。
「そう、あなたは最強の力で修羅の彼と戦った。あなたは彼とは異なる、狂気に囚われず生きる道としてこれを選んだ。だから、決別した」
寂寥と悲哀の言葉に、僅かな憤怒が混じった。
少女の自分が、水面に映った影だったことに気づく。
虚ろだった声に突然、感情の火が入る。
僅かな憤怒が、燃え広がっていくように。
「あなたは望んだ――『誰もあたしを束縛することなんてできない。でも、あたしの愛は平等。だって、あたしの愛は高いんだから』と。ただ相手の愛を待って、わからないのではなく、自らそこへ向かうと望んだ――それは、あなただからこそ」
「…………」
答えに詰まった。
次の問いへの予感へと、既視感を抱く。
少女の自分、その影の奥は、遠く、深い。
声は強く、熱く浴びせられる。
「もし、それが……鬼の彼だったら、どうするの?」
「……」
答えられない。
まだ、答えられるだけの材料がない。
少女の自分が、それを映す水面が、近づいてくる。
「どうしたい?」
「……」
額を突き合わせていると感じるそれに、答えられない。
少女の影の奥の奥、水底へと、視線が注がれる。
渇くように脅すように、それは声をぶつけてくる。
「どうやって、そこに辿り着く、篠木響古――?」
「あたし、は――」
篠木 響古の朝は早い。
といってもあくまで主観的なもので、世間一般の感覚で言えば、まあ標準だろう。
たんに付き合って眠る彼氏の目覚めが遅いだけだ。
「……おはよう」
寝起きだけに、少々間延びした声で語りかけるが、反応はなし。
細身で長身の銀時は、覆いかぶさる格好の自身と共に、裸体を障子から漏れる朝日に照らされ、穏やかな寝息を立てるだけ。
今も二人の胸は重なり、銀時が寝息を立てるたびにその鼓動が伝わってくる。
少々名残惜しそうにしながら、響古は銀時から身を離した。
圧迫から解放され、重量感のふくらみが本来の形を取り戻す。
極上の柔らかさと弾力に溢れた胸には、まだうっすらと昨夜の寵愛の余韻が残っていた。
薄い紅の口づけの痕は胸だけでなく、全身のあちこちに刻まれ、所有印を思わせる。
「ひどい男 ……」
既に見慣れた光景なのに、朝起きて自分の身体を見ると羞恥の念が湧く。
人目につく場所には刻まれていないが、それでも銀時の染み一つない体を目の前にすると、余計に恥ずかしい。
頬を赤らめた響古は、そのまま頭を激しく振って記憶を追い払い、両頬を叩いて完全に眠気と昨夜の余韻を追い払う。
一夜の出来事をいちいち引きずるほど子供ではない。
畳に落ちている寝巻きの浴衣と下着を手に取り、乱れた髪を軽く払う。
――あの時の夢なんか…もう久しぶりに見てなかったのに…。
途切れた夢の記憶を失っていないことに、響古は初めて気がついた。
心臓が痛いほどに激しく、胸を打っていた。
「人間、天人、分け隔てなく積み上げた屍山血河の果てに強力な力を築いてきた、それが"紅天女"。憎悪が、怨嗟が、憤怒が、嫉妬が、絶望が、復讐――あなたを、私を突き動かした」
「しってる」
即答した。
攘夷時代の自分が、正面に立っている。
そこから、さらなる声がこぼれる。
広い空洞を渡るように、声は反響していた。
「本当は嫌なんでしょ?"紅天女"という、その呼び名」
「えぇ。大嫌い」
また、即答した。
小柄な自分の輪郭が、
「ただの少女である事はとうの昔にやめ、強くなろうと決めた。でも、本当は違う。強くなったと思っていたけど、ただ自分が嘘をついていただけ。自分の嘘に気がつきながら、それを押し込めて自分を騙して、見ていないフリをしているだけ」
そこからこぼれる声はどこか虚ろで、吹きすさぶ風鳴りのようにも聞こえる。
「しってる。それをしって壊れそうになった時、まだあたしのために何もしていない、あたしが、自分に恋されていることを感じろ……」
「だから嘘をつくなと言ってくれた彼のおかげで、この私の抱く気持ち、愛をもって修羅の彼に挑んだ」
今さらの確認に、答えを先取りした。
ふと、少女だった自分が、平面の存在だと気づく。
虚ろな声は構わず、こぼれてくる。
まるで、確認するような口ぶりで。
「そう、あなたは最強の力で修羅の彼と戦った。あなたは彼とは異なる、狂気に囚われず生きる道としてこれを選んだ。だから、決別した」
寂寥と悲哀の言葉に、僅かな憤怒が混じった。
少女の自分が、水面に映った影だったことに気づく。
虚ろだった声に突然、感情の火が入る。
僅かな憤怒が、燃え広がっていくように。
「あなたは望んだ――『誰もあたしを束縛することなんてできない。でも、あたしの愛は平等。だって、あたしの愛は高いんだから』と。ただ相手の愛を待って、わからないのではなく、自らそこへ向かうと望んだ――それは、あなただからこそ」
「…………」
答えに詰まった。
次の問いへの予感へと、既視感を抱く。
少女の自分、その影の奥は、遠く、深い。
声は強く、熱く浴びせられる。
「もし、それが……鬼の彼だったら、どうするの?」
「……」
答えられない。
まだ、答えられるだけの材料がない。
少女の自分が、それを映す水面が、近づいてくる。
「どうしたい?」
「……」
額を突き合わせていると感じるそれに、答えられない。
少女の影の奥の奥、水底へと、視線が注がれる。
渇くように脅すように、それは声をぶつけてくる。
「どうやって、そこに辿り着く、篠木響古――?」
「あたし、は――」
篠木 響古の朝は早い。
といってもあくまで主観的なもので、世間一般の感覚で言えば、まあ標準だろう。
たんに付き合って眠る彼氏の目覚めが遅いだけだ。
「……おはよう」
寝起きだけに、少々間延びした声で語りかけるが、反応はなし。
細身で長身の銀時は、覆いかぶさる格好の自身と共に、裸体を障子から漏れる朝日に照らされ、穏やかな寝息を立てるだけ。
今も二人の胸は重なり、銀時が寝息を立てるたびにその鼓動が伝わってくる。
少々名残惜しそうにしながら、響古は銀時から身を離した。
圧迫から解放され、重量感のふくらみが本来の形を取り戻す。
極上の柔らかさと弾力に溢れた胸には、まだうっすらと昨夜の寵愛の余韻が残っていた。
薄い紅の口づけの痕は胸だけでなく、全身のあちこちに刻まれ、所有印を思わせる。
「ひどい
既に見慣れた光景なのに、朝起きて自分の身体を見ると羞恥の念が湧く。
人目につく場所には刻まれていないが、それでも銀時の染み一つない体を目の前にすると、余計に恥ずかしい。
頬を赤らめた響古は、そのまま頭を激しく振って記憶を追い払い、両頬を叩いて完全に眠気と昨夜の余韻を追い払う。
一夜の出来事をいちいち引きずるほど子供ではない。
畳に落ちている寝巻きの浴衣と下着を手に取り、乱れた髪を軽く払う。
――あの時の夢なんか…もう久しぶりに見てなかったのに…。
途切れた夢の記憶を失っていないことに、響古は初めて気がついた。
心臓が痛いほどに激しく、胸を打っていた。