第百七訓
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風邪で高熱を出してしまった銀時。
寝癖のついた髪や赤らんだ顔など、常の気だるさは欠片もない。
「私のマミーが言ってたヨ、バカはカゼひかないって。なのに何故アルか?ねぇ、何故アルか?」
看病をする響古の横で、神楽は興味深々に話しかける。
先日大雪も降ったほどの大寒波。
冷え切り乾燥した大気に風邪菌は大増殖。
普段なら風邪菌なんて跳ね退けるはずの万事屋だったが、連日続いた依頼のせいで働き詰めだった銀時は風邪に倒れたのだ。
「うるさいんだよ、お前は。あっち行ってろ。オイ、響古、コイツつまみ出してくれ」
寝返りをして、うっとうしそうに銀時は言った。
「神楽、一言でバカといっても色々あるの。銀の場合は無鉄砲なバカ」
「…響古、それフォローなのかオイ。それともけなされてるの、俺?」
やんわりとだが的確に放たれる黒髪の美女の毒舌に、シーツにくるまったままで銀時は呻く。
抑揚にやや欠けた、息をするのも苦しそうな声だったが、発音はしっかりしている。
「ふーん、そうアルか。奥が深いアルな」
響古の発言に神妙に頷いた後、銀時のつけるマスクに熱い眼差しを注ぐ。
「いいな~、マスク …カッケーな。私もつけたいな~」
「なんなんだよ、コイツ」
じっと病人の横顔を見つめる神楽へと、胡乱な眼差しを送る。
すると、憧れの熱冷ましシートを額に貼り出した。
「ちょっ、神楽!ムダ使いしないの!」
「オイお前、何やってんだ。冷えピタもう、ねーんだぞ」
勝手に熱冷ましシートを貼る神楽に注意すると、鍋を手にした新八がやって来る。
「銀サン、おかゆできました」
「スイマセン、食欲ないんですけど」
そう言って、銀時は背を向ける。
熱で消耗した身体はだるく、身動きも思考も緩慢であった。
「食べないと治りませんよ。食べて汗かいて寝る。それが一番、カゼにきくんです」
「新八」
声をかけられて顔を向けた新八の目に、おかゆを食べる神楽が飛び込んだ。
「なんで、お前が食べて汗かいてんの?」
熱冷ましを額に貼り、おかゆも食べた神楽がだるそうに言ってきた。
「響古、新八、なんか私も具合悪くなってきたような気がするアル。どうしてヨ、マスクしておかゆ食べないとダメかなコレ、ダメだぞコレ」
「ウソつくんじゃないよ」
仮病を使う少女に呆れた表情でつっこむと、すねたように頬を膨らませた。
「んだヨ~、銀ちゃんばっかズルイアル。おかゆ食べてマスクして、響古に看病してもらって、ちょっとしたパーティーアル。私もカゼひきたいネ」
「バカだろお前、カゼをひけ。頭がカゼをひけ」
「カゼひいたからって、あんま調子に乗んなよ天パ。私だって、その気になればいつでもインフルエンザに蝕 まれるネ、なめんなヨ」
「バカだよ、やっぱコイツ、バカだよ」
すると、玄関の呼び鈴が鳴った。
朦朧とする頭を働かせ、今日依頼が入っていたことを思い出す。
「あ、ヤベ。今日、仕事入ってんだ」
「ちょっと無理ですよ、40度も熱あるんですよ」
「仕事断るワケにもいかねーだろ」
銀時の表情には力がなく、瞳には光がなく、体力が落ちているのは明らかだ。
「あたし出るから。寝てなって」
響古が穏やかに、しかし諫めるように声をかけると、身を起こそうとした銀時の動きが止まり、苦しそうに息を吐いた。
そして、消え入りそうな声で告げる。
「…じゃ響古、頼むわ。この寒い中、カゼもひかねーバカどもに任せておけねーからな」
すると、一人の少女が片手を突き出した。
「コラ。待つアル。誰がバカだって?」
その場にいる視線を受けて、神楽は不愉快そうに告げる。
この後、神楽の事情説明を聞くこと数分。
「「え?お前が?」」
とたじろぐ銀時と新八、
「まあ、面白い思いつきではあるわね。あたしは気に入ったわ」
そして響古はクスクスと笑い出した。
「すみませーん、おじゃましまーす。先日、仕事の依頼をした者なんですが」
数分後、依頼人の女性の声が聞こえた。
「さ、先方が到着したようよ。二人とも、準備はいい?」
いつの間にか、場を仕切るようになった響古が言う。
神楽が提案した直後は静かだったが、すっかり興に乗ったようだ。
一方、新八は暗い気分だった。
こんな猿芝居をしなくていいのにと。
「ダメよ、神楽。もっとふてぶてしく。新八はいつものカンジでいいわ。どうせ演技なんてムリだから」
響古の演技指導が入り、神楽は素直に従う。
新八はうんざりとしながら、テーブルの横に立つ。
彼女の教育をどこで間違えたか悩んでいるようだ。
最後に、響古は銀時の寝ている和室から様子を窺う。
「すいませーん」
一通り終わったところで、依頼人が足早に居間に入ってきた。
「オイオイ。ノックもなしにズカズカ人んちに入りこんでくるたァ、随分と不躾なお客さんだ」
依頼人に背を向けながら呼びかける。
決めていたわけではないが、交渉役は自然と彼女になっていた。
「インターホン押してたよ」
社長用の椅子に座る神楽は正面を向くと、鼻をほじりながら名乗る。
「何の用だィ?万事屋グラちゃんたァ、俺のことアル」
今や幼い少女はチャイナ服から着流し(当然ブカブカ)へと衣装チェンジ。
完全に銀時になりきっている。
「……何の用って、あの…先日、浮気調査の件で、こちらに依頼した川崎ですけれども」
「あー、ハイハイ、きいてるぜ。ぱっつぁん、茶出してやりなさい」
「神楽ちゃん、お客さんの前でその態度はないよ。ほとんど顔見えないし」
「うるせーな。なんか、こんなカンジだろーが、アイツは」
身長差が激しいせいか、机に足を投げ出している少女の顔は見えていない。
その光景を、襖の隙間から銀時と響古が覗き込んで見守っている。
「銀さんは、お客さんにはちゃんと対応するよ」
「ハイハイ、ぱっつぁんの言う通り~」
「ぱっつぁんなんて言われたことないし、誰も言ってないし」
依頼人はうろたえている。
こんな面子に出迎えられたのだから、無理もない。
とりあえず、依頼人をソファに座らせて話を聞く。
「で…浮気調査の件なんですけど…御主人に浮気をしている疑いがあると」
「そうなの。間違いないのよ。最近、毎晩帰ってくるの遅いし、着物から女物の香水の匂いがするの」
女性は浮気の証拠として、旦那の帰りが遅いことや香水の匂いが染みついた着物をあげる。
机に足を投げ出した姿勢で、神楽が言った。
「奥さん、それだけの証拠じゃ浮気とは断定できないアルナ~。多いんですヨ~。被害妄想というか悲劇のヒロイン気取りというか~、奥さんのような輩がね。思い込みじゃないアルかネ」
――そろそろ、あたしが行くべきね…。
もっともらしい考えで、響古は行こうとする。
だが口許は楽しそうに微笑み、悪戯を思いついた子供のように目が輝いている。
すると、銀時が咳き込んだ。
響古は思い止まって様子を窺う。
新八が、見事にやる気のない少女をたしなめる。
「ちょっとちょっと」
「ぱっつぁん。どうにも俺ァ、気乗りしねーアル、パフェ食っていいかィ」
仕事放棄な少女を見て、今度は本気で決心した。
――やっぱ行くべきね、コレ。
ゴホゴホ、と再び咳き込む銀時の存在で、響古の動きは中断される。
これには依頼人も不審そうに眉を寄せ、話が違うと訴える。
「ちょっとぉ!!昨日、電話で引き受けてくれたじゃないの!話が違うわよ!」
「気にくわねーんだヨ」
話が違うと激昂する依頼人に背を向けて、神楽は淡々と言葉を並べる。
「子供達の前で、平気で父ちゃんの悪口を言うなんざ、アンタにとっちゃロクでもない旦那でも、こいつらにとっちゃ大事な父ちゃんアルぜ」
その子供達は楽しそうに定春に抱きついているが、不機嫌そうだ。
途端、依頼人は気まずげに顔を逸らし、狼狽した声を出す。
「そ…それは」
「銀さんだ!!ちっちゃい銀さんだ!!序盤にして説教モードだ!!」
一連の様子を不安げに見守っていた新八だったが、神妙な表情で諭す神楽に驚きを隠せない。
おっ、銀時っぽい……見てるなァ~。
しっかりチャランポランの背中、見ちまってるなァ~。
自棄を起こしていた依頼人の心が、ギリギリの一線で踏みとどまる。
考え込むように押し黙り、やがて口許を押さえて自責の念を吐き出す。
「私だって子供達をこんな所に連れて来たくなかった!でも浮気の事、問い質 してもあの人、黙ってるだけで私、我慢できなくなって飛び出して…別れる覚悟はできてるの!」
耐えかねたように涙を流す彼女の顔には、まだ心理的な動揺と疑念が色濃く残っているが、まだあの人を信じたい、との気持ちが僅かにあった。
「でも、あの人、浮気のことも離婚のことも認めてくれなくて!!証拠が欲しいの!!あの人が浮気してる確実な証拠が!!そうすれば…」
堪えていた思いが溢れたように、嗚咽でところどころ詰まりながら、本音を漏らした。
すると、依頼人などもう知らぬとばかりに、神楽は椅子から立ち上がる。
「悪いが、御免こうむるアルぜ。こいつらから父ちゃんを奪う証拠を見つけるなんざ、俺達ゃ、できねーアル」
ここに留まる必要も時間も意味もない。
そう冷徹に判断を下し、着流しをズルズル引きずって、神楽は次なる行動のために居間の外へ向かって歩き始める。
「さっ、行くぜ、ぱっつぁん」
「え?どこに」
首を捻るって新八が訊ねると、気だるげな声色が返ってきた。
「変わらぬ愛の証拠を見つけにさ」
この一言が決め手となった。
「グラさんんんんん!!」
「あっ…ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」
新八は感動し、依頼人は涙混じりに礼を述べる。
どうでもいいけど、走り回る子供達を威嚇する定春が和室に入ってきて、響古は銀時の看病どころではなかった。
神楽が運転する原付に跨り、新八は新たな万事屋コンビの完成度にすっかり心酔していた。
免許を取れる歳ではないにもかかわらず、少年を乗せた原付は凄まじい勢いで走り出す。
「グラさん、いけるよ!!なんか、銀さんと響古さんいなくても、僕らいけるんじゃないの!?」
「オイオイ、あんまりしゃべるんじゃねェぜ、舌噛むアルぜ」
「グラさんんん!!」
今日初めて運転する神楽にあろうことか、新八は何もつっこんでくれない。
無邪気に賞賛してくる笑顔の新八を、神楽はちらりと流し見る……不思議と悪い気分はしなかった。
「仕事する前にファミレスでもよってくか?糖分きれてイライラするアルぜ」
「グラさんんん!!」
「そういや、今日ジャンプの発売日アルぜ。コンビニよってくか?」
「グラさんんん!!」
銀時だったら必ず言いそうなことを並べる神楽に、新八はツッコミを忘れて褒めちぎる。
寝癖のついた髪や赤らんだ顔など、常の気だるさは欠片もない。
「私のマミーが言ってたヨ、バカはカゼひかないって。なのに何故アルか?ねぇ、何故アルか?」
看病をする響古の横で、神楽は興味深々に話しかける。
先日大雪も降ったほどの大寒波。
冷え切り乾燥した大気に風邪菌は大増殖。
普段なら風邪菌なんて跳ね退けるはずの万事屋だったが、連日続いた依頼のせいで働き詰めだった銀時は風邪に倒れたのだ。
「うるさいんだよ、お前は。あっち行ってろ。オイ、響古、コイツつまみ出してくれ」
寝返りをして、うっとうしそうに銀時は言った。
「神楽、一言でバカといっても色々あるの。銀の場合は無鉄砲なバカ」
「…響古、それフォローなのかオイ。それともけなされてるの、俺?」
やんわりとだが的確に放たれる黒髪の美女の毒舌に、シーツにくるまったままで銀時は呻く。
抑揚にやや欠けた、息をするのも苦しそうな声だったが、発音はしっかりしている。
「ふーん、そうアルか。奥が深いアルな」
響古の発言に神妙に頷いた後、銀時のつけるマスクに熱い眼差しを注ぐ。
「いいな~、
「なんなんだよ、コイツ」
じっと病人の横顔を見つめる神楽へと、胡乱な眼差しを送る。
すると、憧れの熱冷ましシートを額に貼り出した。
「ちょっ、神楽!ムダ使いしないの!」
「オイお前、何やってんだ。冷えピタもう、ねーんだぞ」
勝手に熱冷ましシートを貼る神楽に注意すると、鍋を手にした新八がやって来る。
「銀サン、おかゆできました」
「スイマセン、食欲ないんですけど」
そう言って、銀時は背を向ける。
熱で消耗した身体はだるく、身動きも思考も緩慢であった。
「食べないと治りませんよ。食べて汗かいて寝る。それが一番、カゼにきくんです」
「新八」
声をかけられて顔を向けた新八の目に、おかゆを食べる神楽が飛び込んだ。
「なんで、お前が食べて汗かいてんの?」
熱冷ましを額に貼り、おかゆも食べた神楽がだるそうに言ってきた。
「響古、新八、なんか私も具合悪くなってきたような気がするアル。どうしてヨ、マスクしておかゆ食べないとダメかなコレ、ダメだぞコレ」
「ウソつくんじゃないよ」
仮病を使う少女に呆れた表情でつっこむと、すねたように頬を膨らませた。
「んだヨ~、銀ちゃんばっかズルイアル。おかゆ食べてマスクして、響古に看病してもらって、ちょっとしたパーティーアル。私もカゼひきたいネ」
「バカだろお前、カゼをひけ。頭がカゼをひけ」
「カゼひいたからって、あんま調子に乗んなよ天パ。私だって、その気になればいつでもインフルエンザに
「バカだよ、やっぱコイツ、バカだよ」
すると、玄関の呼び鈴が鳴った。
朦朧とする頭を働かせ、今日依頼が入っていたことを思い出す。
「あ、ヤベ。今日、仕事入ってんだ」
「ちょっと無理ですよ、40度も熱あるんですよ」
「仕事断るワケにもいかねーだろ」
銀時の表情には力がなく、瞳には光がなく、体力が落ちているのは明らかだ。
「あたし出るから。寝てなって」
響古が穏やかに、しかし諫めるように声をかけると、身を起こそうとした銀時の動きが止まり、苦しそうに息を吐いた。
そして、消え入りそうな声で告げる。
「…じゃ響古、頼むわ。この寒い中、カゼもひかねーバカどもに任せておけねーからな」
すると、一人の少女が片手を突き出した。
「コラ。待つアル。誰がバカだって?」
その場にいる視線を受けて、神楽は不愉快そうに告げる。
この後、神楽の事情説明を聞くこと数分。
「「え?お前が?」」
とたじろぐ銀時と新八、
「まあ、面白い思いつきではあるわね。あたしは気に入ったわ」
そして響古はクスクスと笑い出した。
「すみませーん、おじゃましまーす。先日、仕事の依頼をした者なんですが」
数分後、依頼人の女性の声が聞こえた。
「さ、先方が到着したようよ。二人とも、準備はいい?」
いつの間にか、場を仕切るようになった響古が言う。
神楽が提案した直後は静かだったが、すっかり興に乗ったようだ。
一方、新八は暗い気分だった。
こんな猿芝居をしなくていいのにと。
「ダメよ、神楽。もっとふてぶてしく。新八はいつものカンジでいいわ。どうせ演技なんてムリだから」
響古の演技指導が入り、神楽は素直に従う。
新八はうんざりとしながら、テーブルの横に立つ。
彼女の教育をどこで間違えたか悩んでいるようだ。
最後に、響古は銀時の寝ている和室から様子を窺う。
「すいませーん」
一通り終わったところで、依頼人が足早に居間に入ってきた。
「オイオイ。ノックもなしにズカズカ人んちに入りこんでくるたァ、随分と不躾なお客さんだ」
依頼人に背を向けながら呼びかける。
決めていたわけではないが、交渉役は自然と彼女になっていた。
「インターホン押してたよ」
社長用の椅子に座る神楽は正面を向くと、鼻をほじりながら名乗る。
「何の用だィ?万事屋グラちゃんたァ、俺のことアル」
今や幼い少女はチャイナ服から着流し(当然ブカブカ)へと衣装チェンジ。
完全に銀時になりきっている。
「……何の用って、あの…先日、浮気調査の件で、こちらに依頼した川崎ですけれども」
「あー、ハイハイ、きいてるぜ。ぱっつぁん、茶出してやりなさい」
「神楽ちゃん、お客さんの前でその態度はないよ。ほとんど顔見えないし」
「うるせーな。なんか、こんなカンジだろーが、アイツは」
身長差が激しいせいか、机に足を投げ出している少女の顔は見えていない。
その光景を、襖の隙間から銀時と響古が覗き込んで見守っている。
「銀さんは、お客さんにはちゃんと対応するよ」
「ハイハイ、ぱっつぁんの言う通り~」
「ぱっつぁんなんて言われたことないし、誰も言ってないし」
依頼人はうろたえている。
こんな面子に出迎えられたのだから、無理もない。
とりあえず、依頼人をソファに座らせて話を聞く。
「で…浮気調査の件なんですけど…御主人に浮気をしている疑いがあると」
「そうなの。間違いないのよ。最近、毎晩帰ってくるの遅いし、着物から女物の香水の匂いがするの」
女性は浮気の証拠として、旦那の帰りが遅いことや香水の匂いが染みついた着物をあげる。
机に足を投げ出した姿勢で、神楽が言った。
「奥さん、それだけの証拠じゃ浮気とは断定できないアルナ~。多いんですヨ~。被害妄想というか悲劇のヒロイン気取りというか~、奥さんのような輩がね。思い込みじゃないアルかネ」
――そろそろ、あたしが行くべきね…。
もっともらしい考えで、響古は行こうとする。
だが口許は楽しそうに微笑み、悪戯を思いついた子供のように目が輝いている。
すると、銀時が咳き込んだ。
響古は思い止まって様子を窺う。
新八が、見事にやる気のない少女をたしなめる。
「ちょっとちょっと」
「ぱっつぁん。どうにも俺ァ、気乗りしねーアル、パフェ食っていいかィ」
仕事放棄な少女を見て、今度は本気で決心した。
――やっぱ行くべきね、コレ。
ゴホゴホ、と再び咳き込む銀時の存在で、響古の動きは中断される。
これには依頼人も不審そうに眉を寄せ、話が違うと訴える。
「ちょっとぉ!!昨日、電話で引き受けてくれたじゃないの!話が違うわよ!」
「気にくわねーんだヨ」
話が違うと激昂する依頼人に背を向けて、神楽は淡々と言葉を並べる。
「子供達の前で、平気で父ちゃんの悪口を言うなんざ、アンタにとっちゃロクでもない旦那でも、こいつらにとっちゃ大事な父ちゃんアルぜ」
その子供達は楽しそうに定春に抱きついているが、不機嫌そうだ。
途端、依頼人は気まずげに顔を逸らし、狼狽した声を出す。
「そ…それは」
「銀さんだ!!ちっちゃい銀さんだ!!序盤にして説教モードだ!!」
一連の様子を不安げに見守っていた新八だったが、神妙な表情で諭す神楽に驚きを隠せない。
おっ、銀時っぽい……見てるなァ~。
しっかりチャランポランの背中、見ちまってるなァ~。
自棄を起こしていた依頼人の心が、ギリギリの一線で踏みとどまる。
考え込むように押し黙り、やがて口許を押さえて自責の念を吐き出す。
「私だって子供達をこんな所に連れて来たくなかった!でも浮気の事、問い
耐えかねたように涙を流す彼女の顔には、まだ心理的な動揺と疑念が色濃く残っているが、まだあの人を信じたい、との気持ちが僅かにあった。
「でも、あの人、浮気のことも離婚のことも認めてくれなくて!!証拠が欲しいの!!あの人が浮気してる確実な証拠が!!そうすれば…」
堪えていた思いが溢れたように、嗚咽でところどころ詰まりながら、本音を漏らした。
すると、依頼人などもう知らぬとばかりに、神楽は椅子から立ち上がる。
「悪いが、御免こうむるアルぜ。こいつらから父ちゃんを奪う証拠を見つけるなんざ、俺達ゃ、できねーアル」
ここに留まる必要も時間も意味もない。
そう冷徹に判断を下し、着流しをズルズル引きずって、神楽は次なる行動のために居間の外へ向かって歩き始める。
「さっ、行くぜ、ぱっつぁん」
「え?どこに」
首を捻るって新八が訊ねると、気だるげな声色が返ってきた。
「変わらぬ愛の証拠を見つけにさ」
この一言が決め手となった。
「グラさんんんんん!!」
「あっ…ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」
新八は感動し、依頼人は涙混じりに礼を述べる。
どうでもいいけど、走り回る子供達を威嚇する定春が和室に入ってきて、響古は銀時の看病どころではなかった。
神楽が運転する原付に跨り、新八は新たな万事屋コンビの完成度にすっかり心酔していた。
免許を取れる歳ではないにもかかわらず、少年を乗せた原付は凄まじい勢いで走り出す。
「グラさん、いけるよ!!なんか、銀さんと響古さんいなくても、僕らいけるんじゃないの!?」
「オイオイ、あんまりしゃべるんじゃねェぜ、舌噛むアルぜ」
「グラさんんん!!」
今日初めて運転する神楽にあろうことか、新八は何もつっこんでくれない。
無邪気に賞賛してくる笑顔の新八を、神楽はちらりと流し見る……不思議と悪い気分はしなかった。
「仕事する前にファミレスでもよってくか?糖分きれてイライラするアルぜ」
「グラさんんん!!」
「そういや、今日ジャンプの発売日アルぜ。コンビニよってくか?」
「グラさんんん!!」
銀時だったら必ず言いそうなことを並べる神楽に、新八はツッコミを忘れて褒めちぎる。