第百一~百二訓
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「とう」
「ぶっ!!」
間延びした声と共に、沖田の飛び蹴りが男の顔面に炸裂し、店員の悲鳴があがる。
「きゃあああああ!!」
「……しっ、真選組だァァ!!」
椅子が壊れる音とグラスが割れる音がほぼ同時に響き、店内はあっという間に戦場と化した。
「清河七郎、金黙星大使館襲撃、幕吏殺害、コーヒーこぼした容疑で逮捕ですぜィ」
「コーヒーは、お前がこぼしたんだろーが!」
「お客様ァァ!!コーヒーは、おかわり自由なので、どうか外でェェ!!」
その心配の矢先、容疑者が店員の傍らを物凄い勢いですっ飛んでいき、テーブルや客達を巻き込んでいく。
余波で空を舞う料理の数々。
狂騒と混乱に陥る店内。
悲鳴と喧騒を背景に、沖田が起こす器物破損に関する被害が次々と拡大される。
後日、新聞には≪お手柄!?真選組、またやった!!≫と書かれた大きな見出し。
半壊した店を背後に、バズーカを担いでピースをする沖田の写真が載せられていた。
「へェ~。寺門通、レコード大賞新人賞受賞か~。スゲーな」
近藤と土方は新聞を広げながら、大きく一面を飾った真選組に関する記事を読んでいる。
「違う違う、その上の記事」
しかし、近藤は記事をちらりと見ようともしなかった。
「へェ~、連続婦女誘拐、また犠牲者。恐 ーな。でもお妙さんは大丈夫だよな~」
「違う違う、その左の記事」
土方が誘導してやって、ようやく問題の記事に目を通す。
最近、立て続けに報道される過激な逮捕騒動。
周りの物を破壊したり一般市民を巻き込んだりと、江戸の間では不満や不信感が広がっている。
「へェ~。総悟が、またやったのか~。責任はお前がとってくれよな~」
「違う違う、アンタのせい」
新聞を畳んだ近藤と土方の顔には、大量の汗がびっしり浮かんでいた。
店主兼コーヒー淹 れは『ささやかな商売だけど、なんとかやっていける』と、ひっそりとした営業スタイルを変えるつもりはない。
新たに二人の新人も加わり、短くなった黒髪を赤いリボンで結び、残りを後ろに流す響古は、ボックス席で約束の相手を待っていた。
「すみません、響古さん!待ちました?」
「いいえ、あたしも今、着いたところよ」
遅れて現れた相手に、響古は優しく答えた。
かけていたサングラスを外したお通は頬を赤く染めて席に座る。
「さて、あたしを呼び出したというのは何かしら?」
「あの、響古さん達に依頼があって……」
「なるほど。それで、あたし達――万事屋に協力を?」
「はい、私一人じゃできないと思って…万事屋さんに頼んだら、なんとかなりそうだな~と……」
初めてお通は眉をひそめ、苦笑いをつくった。
不安そうな言い草なのに、響古はただ微笑んだだけ。
「フフフ。随分フワッとした計画じゃない」
「私、任された仕事はちゃんとやりとげたいんです!」
お通は意気揚々と胸の内を語り、ぐっと拳を握りしめた。
こんな表情と仕草をしていても、どこか可愛らしい。
「それは立派な心がけね」
凛々しいくせに可愛らしい少女の健気さに、響古は微笑んで応える。
「……で、お通ちゃんはどんな仕事を任されたの?」
「あ、はい。それは――」
響古に促されて、お通は万事屋への依頼を話し始めた。
依頼内容を聞いた響古は一旦、万事屋に帰宅した。
「響古、今日は早いネ!」
「ええ。特別なお客様が来てね」
戸を開けてすぐ、神楽のお帰りの声と共に抱擁のおまけ。
腕に引っつく神楽と居間へ入れば、銀時と新八が声をかける。
「おぉ、おかえり」
「アレ?今日は早いですね」
すると、彼女は豊かな胸を張って言い放つ。
「アンタ達、よくききなさい!新年初めての仕事よ!」
これだけの説明で、銀時達の瞳に理解の色が浮かぶ。
『マジでか!』
驚く彼らを見るなり、響古は髪を掻き上げる。
これだけの所作なのに、軽やかな動きだった。
新年明けて江戸のあちこちから、
「あけましておめでとう」
の言葉が聞こえてくる。
正月の行事に皆が浮かれ騒ぐ中、スピーカーで拡張された声が響き渡る。
≪犯罪というものは心のスキから生まれるものでございます!!これは、罪を犯す側、そしてその被害に遭う側、両方に訴えることではないでしょうか?≫
遠巻きに様子を眺めていた野次馬が足を止め、そこへ視線を移した。
パネルにはこうある。
『年始め特別警戒デー実施中』。
朝から演説しているのは、つまりそういうわけなのだった。
≪あの時、健一君は駄菓子屋からお菓子を万引きしてしまったのだろうか!?何が彼を凶行に走らせたか!?一つは、健一君の心にスキがあった!友達がいた手前、はしゃいでいたワケです!そして、もう一つは駄菓子屋のスキ…つまり駄菓子屋のババアが寝ていた事になるワケです、コレ!≫
真剣な表情と堂々とした態度で熱弁をふるう近藤の後ろには、聞き役に徹する土方。
彼らは『年始め特別警戒デー実施中』と掲げた車の上に立っていた。
≪わかりますか!?つまりババアの心のスキが健一君の心に、スキを生じさせるきっかけを与えてしまったワケです!いや、別にババアは悪くないよ勿論!健一君が一番悪い事に、変わりはないけれども!≫
右手に拡声器を持って、熱心に演説する台詞が反響される。
≪こちらの心構えで犯罪は、未然に防げると言いたいワケです、オジさんは!正月だからってあんま浮かれんなよ、と言いたい訳です、オジさんは!≫
熱意の表れとした感のある声で近藤は拳を握りしめて演説する。
≪みなさんの協力なくして、私達だけで江戸の平和を護るなんて到底無理な話です!いいですかァ!!浮かれちゃうこんな時期こそ、戸締り用心、テロ用心!!ハイ!!≫
最後に集まった人々にマイクを向けるが、素知らぬふり、しかも小声で聞こえない。
予想された反応。
その時、可愛らしい声が割り込んだ。
「あれれ~。みんな、元気がないぞォ。ホラ、もっと大きな声で」
真選組のPRイベントに起用されたお通はファンに呼びかける。
≪浮かれちゃう、こんな時期こそ戸締り用心。火の用じん臓売らんかィ、クソッタったりゃああ!!≫
大人気アイドルの登場に、周りから恐ろしいまでの歓声が飛ぶ。
『じん臓売らんかィ、クソったりゃああ!!』
≪こんにちは~。真選組一日局長を務めさせて頂くことになりました、寺門通で~す≫
にこやかに笑みを振り撒き、ひっきりなしに声をかけられながらも手を振る。
遠目にも盛り上がる雰囲気で、大勢の熱烈なファンが集まって満員だった。
「みんなァ~、正月だからって浮かれちゃダメだぞーさんのウンコメッさデカイ!」
『メッさデカイ!!』
「今日は、お通が全力で、江戸の平和を護ってみせるから、みんな手伝ってねこのウンコメッさくさい!」
語尾が特徴的なお通語を使い、警察に喧嘩を売っているとしか思えない歌のタイトルを発表する。
「それじゃ、一曲きいてください!『ポリ公なんざくそくらえ!!』」
すると、ファンは曲に合わせてヲタ芸を始める。
「…トシ、やっぱ、呼んでよかったなポリタン」
「…んなワケねーだろッキーⅢ、炎の友情」
ファンの独特の踊りやかけ声、ハチャメチャな歌詞に近藤と土方はついていけない。
それなのに二人とも、お通語を使っていた。
第百一訓
一日局長に気をつけろっテンマイヤーさん
場所を広場に移し、近藤は横に並ぶ大人気アイドル・お通を紹介する。
普段はバラバラでいい加減な隊士達も、今日ばかりは落ち着きがなく興奮していた。
「いいかァー!今回の特別警戒の目的は、正月で、たるみきった江戸市民にテロの警戒を呼びかけると共に、諸君もしっての通り、最近、急落してきた我等、真選組の信用を回復することにある!!」
ペコリとお辞儀するお通は、黒い隊服に身を包んでいる。
その表情には緊張や照れがあって、固く縮こまっているようだった。
「こうして、アイドルの寺門通ちゃんに一日局長をやってもらうことになったのもひとえに、イメージアップのためだ!」
真選組の信用回復とチンピラ集団という心象を払拭するため、お通は彼らに呼ばれたわけだ。
「いいかァ、お前らくれぐれも暴れるなよ!そして、お通ちゃん…いや局長を敬い、人心をとらえる術を習え!」
「あの、私の他にもう一人いるんですけど…紹介してもいいですか?」
すると、お通は後ろの大型車に向けて、
「どうぞ!」
と叫ぶ。
車の中から出るや否や、肩まで伸びた黒髪を翻してその人物は言い放つ。
「……予言しよう。これより数秒後に、あなた達はあたしの姿を見て驚く!」
隊士達が彼女を見た途端に唖然とした表情を浮かべる。
「……は、はぁっ!?」
「……おお」
中でも土方は眉を大きくつり上げ、沖田は目を見開く。
「驚くなという方がムリだろ!何なんだ、その格好は!どーゆーつもりだ!」
「んっふふ。似合うでしょ?」
彼女はタイトスカートの裾を指先で摘まんでウィンクをする。
チラリと覗く黒のガーターベルトが我ながらセクシーなのである。
ガーターベルトの存在を太ももに捉えた土方は、
「くっ……」
と呻く。
「響古、お前はどうして――真選組の隊服、しかもスカートなんて着てるんだ!!」
響古は、待ってました、とばかりに合わせた両手を銃の形にして、バンと撃つマネをしてみせるのだ。
「逮捕しちゃうゾ!」
「うるせェ!」
予想通りに土方は実に不愉快そうである。
なので響古は実に愉快だった。
そんな彼女の装いは白いスカーフに黒いジャケットとスリットの入ったタイトスカート。
黒い真選組隊服だった。
そしてオーバーニー、ブーツが織り成す女王様のような佇まい。
「ひゃっほォォォ、本物のお通ちゃんだァァ!!」
「サイン、サインくれェェ!」
溜め込んでいた期待が、ようやくの登場に湧き立ち、声となって弾ける。
大人気アイドルのお通にサインを求める者。
「ぜ、絶対領域ヤバい!あの絶妙な領域が!」
「俺の醜い顔面を靴の裏でぐりぐりしてくださいーーっ!!」
女王様スタイルの響古にお仕置きされたいと言う者。
「バカヤロォォォ!!」
口々にさんざめく隊士達を、近藤が鋭い一喝と共に殴りつける。
「これから市民に浮かれんなという時に、てめーらが浮かれてどーすんだ。あくまで江戸を護る事を、忘れるな」
憤怒の表情で叱責し、お通に頭を下げる。
「すいません局長、私の教育が行き届かないばかりに…みんな、浮かれてしまって」
「いえ」
後ろを向いた拍子に見えた彼の背中には、大きく彼女のサインがバッチリ書かれている。
『………』
それを目撃した隊士達の怒りは爆発、近藤を足蹴りにする。
「てめーもサインもらってんじゃねーか!!どーすんだその制服!!」
「一生背負っていくさ!この命、続く限り!」
「ぶっ!!」
間延びした声と共に、沖田の飛び蹴りが男の顔面に炸裂し、店員の悲鳴があがる。
「きゃあああああ!!」
「……しっ、真選組だァァ!!」
椅子が壊れる音とグラスが割れる音がほぼ同時に響き、店内はあっという間に戦場と化した。
「清河七郎、金黙星大使館襲撃、幕吏殺害、コーヒーこぼした容疑で逮捕ですぜィ」
「コーヒーは、お前がこぼしたんだろーが!」
「お客様ァァ!!コーヒーは、おかわり自由なので、どうか外でェェ!!」
その心配の矢先、容疑者が店員の傍らを物凄い勢いですっ飛んでいき、テーブルや客達を巻き込んでいく。
余波で空を舞う料理の数々。
狂騒と混乱に陥る店内。
悲鳴と喧騒を背景に、沖田が起こす器物破損に関する被害が次々と拡大される。
後日、新聞には≪お手柄!?真選組、またやった!!≫と書かれた大きな見出し。
半壊した店を背後に、バズーカを担いでピースをする沖田の写真が載せられていた。
「へェ~。寺門通、レコード大賞新人賞受賞か~。スゲーな」
近藤と土方は新聞を広げながら、大きく一面を飾った真選組に関する記事を読んでいる。
「違う違う、その上の記事」
しかし、近藤は記事をちらりと見ようともしなかった。
「へェ~、連続婦女誘拐、また犠牲者。
「違う違う、その左の記事」
土方が誘導してやって、ようやく問題の記事に目を通す。
最近、立て続けに報道される過激な逮捕騒動。
周りの物を破壊したり一般市民を巻き込んだりと、江戸の間では不満や不信感が広がっている。
「へェ~。総悟が、またやったのか~。責任はお前がとってくれよな~」
「違う違う、アンタのせい」
新聞を畳んだ近藤と土方の顔には、大量の汗がびっしり浮かんでいた。
店主兼コーヒー
新たに二人の新人も加わり、短くなった黒髪を赤いリボンで結び、残りを後ろに流す響古は、ボックス席で約束の相手を待っていた。
「すみません、響古さん!待ちました?」
「いいえ、あたしも今、着いたところよ」
遅れて現れた相手に、響古は優しく答えた。
かけていたサングラスを外したお通は頬を赤く染めて席に座る。
「さて、あたしを呼び出したというのは何かしら?」
「あの、響古さん達に依頼があって……」
「なるほど。それで、あたし達――万事屋に協力を?」
「はい、私一人じゃできないと思って…万事屋さんに頼んだら、なんとかなりそうだな~と……」
初めてお通は眉をひそめ、苦笑いをつくった。
不安そうな言い草なのに、響古はただ微笑んだだけ。
「フフフ。随分フワッとした計画じゃない」
「私、任された仕事はちゃんとやりとげたいんです!」
お通は意気揚々と胸の内を語り、ぐっと拳を握りしめた。
こんな表情と仕草をしていても、どこか可愛らしい。
「それは立派な心がけね」
凛々しいくせに可愛らしい少女の健気さに、響古は微笑んで応える。
「……で、お通ちゃんはどんな仕事を任されたの?」
「あ、はい。それは――」
響古に促されて、お通は万事屋への依頼を話し始めた。
依頼内容を聞いた響古は一旦、万事屋に帰宅した。
「響古、今日は早いネ!」
「ええ。特別なお客様が来てね」
戸を開けてすぐ、神楽のお帰りの声と共に抱擁のおまけ。
腕に引っつく神楽と居間へ入れば、銀時と新八が声をかける。
「おぉ、おかえり」
「アレ?今日は早いですね」
すると、彼女は豊かな胸を張って言い放つ。
「アンタ達、よくききなさい!新年初めての仕事よ!」
これだけの説明で、銀時達の瞳に理解の色が浮かぶ。
『マジでか!』
驚く彼らを見るなり、響古は髪を掻き上げる。
これだけの所作なのに、軽やかな動きだった。
新年明けて江戸のあちこちから、
「あけましておめでとう」
の言葉が聞こえてくる。
正月の行事に皆が浮かれ騒ぐ中、スピーカーで拡張された声が響き渡る。
≪犯罪というものは心のスキから生まれるものでございます!!これは、罪を犯す側、そしてその被害に遭う側、両方に訴えることではないでしょうか?≫
遠巻きに様子を眺めていた野次馬が足を止め、そこへ視線を移した。
パネルにはこうある。
『年始め特別警戒デー実施中』。
朝から演説しているのは、つまりそういうわけなのだった。
≪あの時、健一君は駄菓子屋からお菓子を万引きしてしまったのだろうか!?何が彼を凶行に走らせたか!?一つは、健一君の心にスキがあった!友達がいた手前、はしゃいでいたワケです!そして、もう一つは駄菓子屋のスキ…つまり駄菓子屋のババアが寝ていた事になるワケです、コレ!≫
真剣な表情と堂々とした態度で熱弁をふるう近藤の後ろには、聞き役に徹する土方。
彼らは『年始め特別警戒デー実施中』と掲げた車の上に立っていた。
≪わかりますか!?つまりババアの心のスキが健一君の心に、スキを生じさせるきっかけを与えてしまったワケです!いや、別にババアは悪くないよ勿論!健一君が一番悪い事に、変わりはないけれども!≫
右手に拡声器を持って、熱心に演説する台詞が反響される。
≪こちらの心構えで犯罪は、未然に防げると言いたいワケです、オジさんは!正月だからってあんま浮かれんなよ、と言いたい訳です、オジさんは!≫
熱意の表れとした感のある声で近藤は拳を握りしめて演説する。
≪みなさんの協力なくして、私達だけで江戸の平和を護るなんて到底無理な話です!いいですかァ!!浮かれちゃうこんな時期こそ、戸締り用心、テロ用心!!ハイ!!≫
最後に集まった人々にマイクを向けるが、素知らぬふり、しかも小声で聞こえない。
予想された反応。
その時、可愛らしい声が割り込んだ。
「あれれ~。みんな、元気がないぞォ。ホラ、もっと大きな声で」
真選組のPRイベントに起用されたお通はファンに呼びかける。
≪浮かれちゃう、こんな時期こそ戸締り用心。火の用じん臓売らんかィ、クソッタったりゃああ!!≫
大人気アイドルの登場に、周りから恐ろしいまでの歓声が飛ぶ。
『じん臓売らんかィ、クソったりゃああ!!』
≪こんにちは~。真選組一日局長を務めさせて頂くことになりました、寺門通で~す≫
にこやかに笑みを振り撒き、ひっきりなしに声をかけられながらも手を振る。
遠目にも盛り上がる雰囲気で、大勢の熱烈なファンが集まって満員だった。
「みんなァ~、正月だからって浮かれちゃダメだぞーさんのウンコメッさデカイ!」
『メッさデカイ!!』
「今日は、お通が全力で、江戸の平和を護ってみせるから、みんな手伝ってねこのウンコメッさくさい!」
語尾が特徴的なお通語を使い、警察に喧嘩を売っているとしか思えない歌のタイトルを発表する。
「それじゃ、一曲きいてください!『ポリ公なんざくそくらえ!!』」
すると、ファンは曲に合わせてヲタ芸を始める。
「…トシ、やっぱ、呼んでよかったなポリタン」
「…んなワケねーだろッキーⅢ、炎の友情」
ファンの独特の踊りやかけ声、ハチャメチャな歌詞に近藤と土方はついていけない。
それなのに二人とも、お通語を使っていた。
第百一訓
一日局長に気をつけろっテンマイヤーさん
場所を広場に移し、近藤は横に並ぶ大人気アイドル・お通を紹介する。
普段はバラバラでいい加減な隊士達も、今日ばかりは落ち着きがなく興奮していた。
「いいかァー!今回の特別警戒の目的は、正月で、たるみきった江戸市民にテロの警戒を呼びかけると共に、諸君もしっての通り、最近、急落してきた我等、真選組の信用を回復することにある!!」
ペコリとお辞儀するお通は、黒い隊服に身を包んでいる。
その表情には緊張や照れがあって、固く縮こまっているようだった。
「こうして、アイドルの寺門通ちゃんに一日局長をやってもらうことになったのもひとえに、イメージアップのためだ!」
真選組の信用回復とチンピラ集団という心象を払拭するため、お通は彼らに呼ばれたわけだ。
「いいかァ、お前らくれぐれも暴れるなよ!そして、お通ちゃん…いや局長を敬い、人心をとらえる術を習え!」
「あの、私の他にもう一人いるんですけど…紹介してもいいですか?」
すると、お通は後ろの大型車に向けて、
「どうぞ!」
と叫ぶ。
車の中から出るや否や、肩まで伸びた黒髪を翻してその人物は言い放つ。
「……予言しよう。これより数秒後に、あなた達はあたしの姿を見て驚く!」
隊士達が彼女を見た途端に唖然とした表情を浮かべる。
「……は、はぁっ!?」
「……おお」
中でも土方は眉を大きくつり上げ、沖田は目を見開く。
「驚くなという方がムリだろ!何なんだ、その格好は!どーゆーつもりだ!」
「んっふふ。似合うでしょ?」
彼女はタイトスカートの裾を指先で摘まんでウィンクをする。
チラリと覗く黒のガーターベルトが我ながらセクシーなのである。
ガーターベルトの存在を太ももに捉えた土方は、
「くっ……」
と呻く。
「響古、お前はどうして――真選組の隊服、しかもスカートなんて着てるんだ!!」
響古は、待ってました、とばかりに合わせた両手を銃の形にして、バンと撃つマネをしてみせるのだ。
「逮捕しちゃうゾ!」
「うるせェ!」
予想通りに土方は実に不愉快そうである。
なので響古は実に愉快だった。
そんな彼女の装いは白いスカーフに黒いジャケットとスリットの入ったタイトスカート。
黒い真選組隊服だった。
そしてオーバーニー、ブーツが織り成す女王様のような佇まい。
「ひゃっほォォォ、本物のお通ちゃんだァァ!!」
「サイン、サインくれェェ!」
溜め込んでいた期待が、ようやくの登場に湧き立ち、声となって弾ける。
大人気アイドルのお通にサインを求める者。
「ぜ、絶対領域ヤバい!あの絶妙な領域が!」
「俺の醜い顔面を靴の裏でぐりぐりしてくださいーーっ!!」
女王様スタイルの響古にお仕置きされたいと言う者。
「バカヤロォォォ!!」
口々にさんざめく隊士達を、近藤が鋭い一喝と共に殴りつける。
「これから市民に浮かれんなという時に、てめーらが浮かれてどーすんだ。あくまで江戸を護る事を、忘れるな」
憤怒の表情で叱責し、お通に頭を下げる。
「すいません局長、私の教育が行き届かないばかりに…みんな、浮かれてしまって」
「いえ」
後ろを向いた拍子に見えた彼の背中には、大きく彼女のサインがバッチリ書かれている。
『………』
それを目撃した隊士達の怒りは爆発、近藤を足蹴りにする。
「てめーもサインもらってんじゃねーか!!どーすんだその制服!!」
「一生背負っていくさ!この命、続く限り!」