第百五十訓
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――アレ?なにアルか、コレ。
――空が真っ黒アル。
発端は、突然だった。
気がつけば、一片の明かりもない暗闇が視界に飛び込んだ。
――アレ?
――真っ黒なのは私アル。
一瞬の疑問も束の間、神楽は自分が無感覚の闇へ放り出されていることに気づく。
――アレ?こんなん前もなかったアルカ?
薄れていく意識の中で、戸惑いが這い上がってくる。
――アレ?
そして、前にもこんなんあったデジャヴを覚える。
暗闇の中、謎の声が聞こえる。
意識を研ぎ澄ますと、真っ暗な中に煌めく光の球のイメージが浮かび上がってくる。
――目覚めよ。
――秘めし内なる力、解放する時がついに来たのだ。
謎の声が今度はハッキリと聞こえる。
一度消えたように見えた光の点は急速に広がり、そこから光が満ちて四人に向かって伸ばされる。
――そっと開くのだ、その眼を。
――閉じられた限界への扉を…目覚めよ。
四人は導かれるまま、うっすらと目を開けた。
「アレ?どこだ、ここ」
胡乱な頭で周囲を見渡せば、そこはひどく暗い闇の空間。
本当に見渡す限りの闇。
地平線の彼方まで、この景観がひたすら続くだけ。
響古、新八、神楽……いつものメンバーが銀時と同じように起き上がり、不思議そうに顔を見合わせている。
「まだ夜…ってわけじゃないわね」
「おはようございます。なんですかコレ、どこですかコレ」
「なんですかコレって、しらねーよ。朝起きたらイキナリこんな所にだな」
寝起き特有のおぼつかない意識が、ゆっくりと記憶の糸をつないでいく。
数時間前の出来事に思いを馳せれば、万事屋の布団で寝ていたはずだ。
まだハッキリと回復していない意識で、四人はぼんやりと考えた。
「停電アルか」
「停電にしちゃあ、みんなの姿だけハッキリ見えますよ」
「服も寝間着じゃないし…なんなのかしら、一体」
「妙に埃っぽいアル。体中、埃まみれ」
神楽が埃っぽい空間に何度か咳き込むと、銀時は頭の鈍痛に顔をしかめる。
「んだってんだよ。俺、二日酔いで頭痛ェんだよ」
真っ暗闇で埃っぽく、どこかもわからない空間。
おそらく、どこでもないのだろう。
ここが現実の地球上には存在しない場所だと、なんとなく察しはついていた。
しばらくして落ち着くと、仰向けに寝っ転がって二度寝を始めた。
「悪いけど、二度寝させてもらうわ。新八、風呂わかしとけよ」
「いや、ちょっと銀さん風呂ないんですけど」
続けて、神楽も横向きに寝っ転がる。
「新八、飯つくっとけヨ」
「それは響古さんの役目だから」
「こんな、何もないところじゃ朝ご飯も作れないじゃない。いいじゃないの、新八。二度寝しちゃいましょ」
暗闇の中に浮かぶ響古の美貌が新八に笑いかける。
憮然とする表情を緩めて、眠気に抗えず、そっと目を閉じた。
「………なんなんだろ、夢かな。僕も寝よ」
何事もなかったかのように思い切り脱力し、二度寝することに決めた四人。
そして再び、遠くから深くから声が届いてくる。
――目覚めよ。
――秘めし内なる力、解放せし時が来たのだ。
「うるせーな。誰だ、妙な目覚ましかけたの」
――目覚めの時だ。
非常にうるさい。
先程から何度も何度も話しかけられ、脳にべったりと絡みつく眠気が、ベリベリと意識から引き剥がされていく。
「まだ8時だろーが!!あと2時間くらいは寝かせろバカヤロー」
「こんな時ぐらい、ゆっくり寝かせてよ!」
銀時と響古が恐ろしい剣幕で謎の声へと声を荒げる。
すると、先程までの厳かな雰囲気はどこへやら、たちまち崩れた。
謎の声は数秒黙り込んだ後、動揺を隠し切れずに口を開く。
――……いや…あの、目覚ましじゃなくて。
おそるおそる声をかけるけれど、返事はない。
十秒も経たないうちに歯ぎしりが響いた。
「神楽ちゃん、歯ぎしりうるさい!」
――すいません、ちょっと…きいてくれる。
せめて話だけでも聞いてくれと懇願しても、四人には届いていなかった
寝息を立て、深い眠りについている。
その時、虚ろだった声に突然、感情の火が入る。
僅かな憤怒が燃え広がっていくように。
――あの…ちょっ、目覚めよ。
なんと声をかけてやればいいのかわからないが、だけど何かを言わないといけない気がして、四人に向かって何度も呼びかける。
――すいません、目覚めてください。すいませんー!きいてくださーい、みなさーん!!ああああああ!!
深々と溜め息をついた謎の声は観念して、やけくそ気味に、意味もなく大声をあげて、必死に呼びかける。
いつしか謎の声は四人の心にではなく、一人の人物から発せられた。
「目覚めろっつってんだろがァァ!!いい加減にしろォォォォ!!」
苛立ったように怒ったように、その声は四人の脳を揺るがせて響く。
「なんで異空間で二度寝!?少しは空気を読め!!なんかいつもと違うカンジぐらいわかるだろうがバカ者共ォォ!!」
突如として現れた一人の男が鬼気迫る表情で激昂し、四人に詰め寄った。
虚ろな空間に響き渡る、ビリビリと鼓膜が破けそうな大声に、新八は目に見えて狼狽し、銀時と響古を起こした。
「……!!銀さん、響古さん、起きてください」
「んだよ、うるせーな」
「全然、寝られないじゃないの~」
「なんか変な人が…」
仕方なく起き上がると、目の前にいたのはサングラスをかけた謎の男。
手入れとは無縁そうな蓬髪 と、顔の下半分を覆うヒゲ。
ごく粗末な衣装――薄汚いボロ布のマントを纏っていた。
「ゴホン…ようやく目覚めたか」
四人からようやく注目の眼差し受けられた男は居住まいを正し、悠然と口を開いた。
「ようこそ、我が世界へ。なんじ等、ついに目覚めし時が来たのだ」
「は?誰ですか、アンタ」
銀時はわけがわからないとばかりに首を捻る。
「わからぬか、銀時。我は常になんじと共にあり。幾多の苦難をふり払ってきたなんじが刃」
表情を引き締めて、男は語りかけた。
その時、長く伸びた髪が風にさらされ、彼の額に『洞』の文字が刻まれていた。
「我が名は…『洞爺湖』!!」
以前、怪しげな通販サイトで購入した木刀――樹齢一万年前の大樹から作られた代物で、岩だろうが隕石だろうが、己の筋肉次第で壊せることができる木刀。
その木刀が擬人化した姿に、銀時は訝しげに眉を寄せる。
「洞爺湖の仙人…?」
「フッ。まァ、そういう呼び方でもいい」
待ってました、と言わんばかりに仙人が胸を張る。
それまで自分を振るって、数々の強敵に打ち勝ってきた銀髪の男をじっと見つめた。
「銀時…誰よりも近くにいた私は、しっている。お前は強い。かつて私をこれ程までに使いこなした者はいない。だが、しかし」
昔を思い出し、懐かしむような笑みを浮かべる。
しん、と静まり返る暗闇の中、仙人はカッと目を見開き、力強く言い放った。
「まだだ!!まだ、お前は強くなれる!まだ、お前は私の力を限界まで吐き出してはいない!!」
いきなりのまだ本気を出していない宣言に、銀時も響古達も呆気に取られるしかない。
仙人はしばらく考え込むように空を仰ぎ……自信満々に胸を張り、こう問いかける。
「…強くなりたいか、銀時」
「いや、いいです」
強さを求める問いかけに、銀時は尻を掻きながら断った。
そのすげない返事に、仙人は固まる。
「……アレ?え?今なんて言った」
「いや、もううるさい。ホントッもう頭痛いんで、ちょ、すいません」
「………え?いや…だって…え?」
まさかそんな台詞が出てくるとは全く思っていなかったので、仙人は頭が真っ白になった。
おそるおそるの口調で呼びかけてしまう。
「……もういろんなサイトが更新止まっちゃったにもかかわらず、華焔は結構順調に進んでるし、必殺技とか…なんか、そろそろあった方が…いいのではないか?私が言うのもなんだが、かなり便利だぞ。君ら三人にも教えてやろう」
「すいません。僕ら今日、定休日なんです。そろそろ帰してもらいます」
「いや、ちょっ…君が思ってるよりもかなり使えるぞ。小説的にもかなりカッコよく映えるし」
確かに、必殺技は想像力たくましく魅力的だろう。
だが、一歩間違えると表現が無駄にゴチャゴチャと装飾して、ひねり過ぎていて、正直わけがわからない。
気持ちいいのは自分だけで、読者から見れば、ただひたすら痛いだけだ。
話のコンセプトや整合性を大事にしてください、と評価されるに違ない。
「そんなねェ!必殺技なんてあっても小説じゃ見えないのよ。見えないのを見えるように描写するのは難しいのよ!わかるかジジイ、ボケ!!」
「うるせーんだヨ、クソジジイ!いいから早く元の世界に戻すアル!!」
響古が憤怒の形相で叫び返すと、神楽も声を荒げる。
声に微かに怒気を滲ませ、仙人は不満も露に話を進めた。
「……ああ、そう……いや、いいんだけどね…別に。こっちも?頼まれたワケじゃないし?ウン……勝手に君ら、呼んだだけだし?すいませんでしたね、余計な事して」
人が親切に便利な、小説的にも魅力的に映る必殺技を教えてやろうというのに対し、この言い草。
仙人が不満に思うのも無理はなかった。
あまりの絶望にくらっとめまいがしたけれど、いやダメだ折れるな心よ、と自分自身を鼓舞する。
「ただ言っとくけど、あとで必殺技、教えてくれって言っても遅いから。これは、今回限りだから。絶対もう教えねーから。あ~あ、大放出だったのに…勿体ないな~。『全解』とか『風戦丸』とか、かなりアレ使えるんだけどな~」
チラチラと横目で窺う。
どこか構ってほしいような口調の仙人に対し、四人はその場に横になって寝ていた。
それが仙人の限界だった。
「…………つーか、教えてくれって言えよォォォ!!」
自堕落に寝っ転がる四人に、表情を険しく歪めて怒鳴り散らした。
「必殺技いらないって、どんだけ向上心ねーんだてめーら!!なんで仙人の前で三度寝!!よっぽどゆるい休日でも三度寝はなかなかないよ!!」
ビキビキ、とこめかみに青筋を浮かべながら自堕落に寝っ転がる四人の顔を見回す。
一切取り繕うとせずに、真剣な眼差しで怒りすら込めて叫ぶ仙人の言葉に耳を貸さず、目を閉じている。
凄まじいまでの温度差が生まれ、軋轢 が生まれる。
「おいィ!!起きろコラァァ!!いい加減にしろよォ!!今から三秒以内に起きなかったら、ももに蹴りパーン入れていくから!マジだから!いや、マジで仙人いくから歩けなくなるよマジ!」
だが、仙人の鬼のような形相に対し、四人は眠たげな表情を微塵も揺るがすことなく、ごろりと寝っ転がって、ぐーたらしている。
一切、興味のなさそうな態度であった。
「ハイ1ぃぃぃ!!ホラホラ、地獄へのカウントダウンが始まっちゃったよ~!ハイ2ぃぃぃ!!あと1秒しかないよ~仙人マジいっちゃうよ~仙人!ハィ3ぁぁ…『ん』言っちゃうよ~!言っちゃうよ~!!5秒にしてやろうか!特別ルールで5秒に…」
ムキになったような仙人の声だった。
何故なのかは知るよしなかったが、必殺技を教えることにムキになっている節すら感じられた。
とうとう仙人のうっとうしさに苛立ちが頂点に達する。
『うるせェェェェェ!!』
銀時と神楽が鞭のように鋭いローキックが太ももに打擲、響古が繰り出した拳が顔面を殴り飛ばした。
「うううう!!」
足と顔面、どちらを押さえればいいのかわからぬ間に激痛に悶える仙人は転げ回る。
「なんなんだよ、てめーは。何がしだいんだよ」
痛くない。
負けるものか。
唇を震わせながら自分自身に言い聞かせる。
そんな仙人の理性とは裏腹に、涙目になっていた。
「フッ、なかなかやるではないか。仙人である私の足を封じるとは。だが、まだ甘い。お前達はまだまだ強くなれる」
「仙人を涙目にする位強くなれたんで、もう充分です。帰らせてください」
「必殺技を覚えればやせ我慢どころか私の目鼻口、身体のいたる穴から体液を拭き出せる事も可能だぞ」
ようやく顔面と太もものダメージから回復した仙人がよろよろと起き上がる。
膝はがくがくと震えており、見るからにやせ我慢だ。
「それは、もうほとんどお前の必殺技だろうが」
「いや、気持ち悪いから遠慮するし」
銀時と響古の冷ややかな視線が突き刺さる。
瞼に滲んだ涙を拭い、バッ、と身体と跳ね上げ立ち上がった。
――空が真っ黒アル。
発端は、突然だった。
気がつけば、一片の明かりもない暗闇が視界に飛び込んだ。
――アレ?
――真っ黒なのは私アル。
一瞬の疑問も束の間、神楽は自分が無感覚の闇へ放り出されていることに気づく。
――アレ?こんなん前もなかったアルカ?
薄れていく意識の中で、戸惑いが這い上がってくる。
――アレ?
そして、前にもこんなんあったデジャヴを覚える。
暗闇の中、謎の声が聞こえる。
意識を研ぎ澄ますと、真っ暗な中に煌めく光の球のイメージが浮かび上がってくる。
――目覚めよ。
――秘めし内なる力、解放する時がついに来たのだ。
謎の声が今度はハッキリと聞こえる。
一度消えたように見えた光の点は急速に広がり、そこから光が満ちて四人に向かって伸ばされる。
――そっと開くのだ、その眼を。
――閉じられた限界への扉を…目覚めよ。
四人は導かれるまま、うっすらと目を開けた。
「アレ?どこだ、ここ」
胡乱な頭で周囲を見渡せば、そこはひどく暗い闇の空間。
本当に見渡す限りの闇。
地平線の彼方まで、この景観がひたすら続くだけ。
響古、新八、神楽……いつものメンバーが銀時と同じように起き上がり、不思議そうに顔を見合わせている。
「まだ夜…ってわけじゃないわね」
「おはようございます。なんですかコレ、どこですかコレ」
「なんですかコレって、しらねーよ。朝起きたらイキナリこんな所にだな」
寝起き特有のおぼつかない意識が、ゆっくりと記憶の糸をつないでいく。
数時間前の出来事に思いを馳せれば、万事屋の布団で寝ていたはずだ。
まだハッキリと回復していない意識で、四人はぼんやりと考えた。
「停電アルか」
「停電にしちゃあ、みんなの姿だけハッキリ見えますよ」
「服も寝間着じゃないし…なんなのかしら、一体」
「妙に埃っぽいアル。体中、埃まみれ」
神楽が埃っぽい空間に何度か咳き込むと、銀時は頭の鈍痛に顔をしかめる。
「んだってんだよ。俺、二日酔いで頭痛ェんだよ」
真っ暗闇で埃っぽく、どこかもわからない空間。
おそらく、どこでもないのだろう。
ここが現実の地球上には存在しない場所だと、なんとなく察しはついていた。
しばらくして落ち着くと、仰向けに寝っ転がって二度寝を始めた。
「悪いけど、二度寝させてもらうわ。新八、風呂わかしとけよ」
「いや、ちょっと銀さん風呂ないんですけど」
続けて、神楽も横向きに寝っ転がる。
「新八、飯つくっとけヨ」
「それは響古さんの役目だから」
「こんな、何もないところじゃ朝ご飯も作れないじゃない。いいじゃないの、新八。二度寝しちゃいましょ」
暗闇の中に浮かぶ響古の美貌が新八に笑いかける。
憮然とする表情を緩めて、眠気に抗えず、そっと目を閉じた。
「………なんなんだろ、夢かな。僕も寝よ」
何事もなかったかのように思い切り脱力し、二度寝することに決めた四人。
そして再び、遠くから深くから声が届いてくる。
――目覚めよ。
――秘めし内なる力、解放せし時が来たのだ。
「うるせーな。誰だ、妙な目覚ましかけたの」
――目覚めの時だ。
非常にうるさい。
先程から何度も何度も話しかけられ、脳にべったりと絡みつく眠気が、ベリベリと意識から引き剥がされていく。
「まだ8時だろーが!!あと2時間くらいは寝かせろバカヤロー」
「こんな時ぐらい、ゆっくり寝かせてよ!」
銀時と響古が恐ろしい剣幕で謎の声へと声を荒げる。
すると、先程までの厳かな雰囲気はどこへやら、たちまち崩れた。
謎の声は数秒黙り込んだ後、動揺を隠し切れずに口を開く。
――……いや…あの、目覚ましじゃなくて。
おそるおそる声をかけるけれど、返事はない。
十秒も経たないうちに歯ぎしりが響いた。
「神楽ちゃん、歯ぎしりうるさい!」
――すいません、ちょっと…きいてくれる。
せめて話だけでも聞いてくれと懇願しても、四人には届いていなかった
寝息を立て、深い眠りについている。
その時、虚ろだった声に突然、感情の火が入る。
僅かな憤怒が燃え広がっていくように。
――あの…ちょっ、目覚めよ。
なんと声をかけてやればいいのかわからないが、だけど何かを言わないといけない気がして、四人に向かって何度も呼びかける。
――すいません、目覚めてください。すいませんー!きいてくださーい、みなさーん!!ああああああ!!
深々と溜め息をついた謎の声は観念して、やけくそ気味に、意味もなく大声をあげて、必死に呼びかける。
いつしか謎の声は四人の心にではなく、一人の人物から発せられた。
「目覚めろっつってんだろがァァ!!いい加減にしろォォォォ!!」
苛立ったように怒ったように、その声は四人の脳を揺るがせて響く。
「なんで異空間で二度寝!?少しは空気を読め!!なんかいつもと違うカンジぐらいわかるだろうがバカ者共ォォ!!」
突如として現れた一人の男が鬼気迫る表情で激昂し、四人に詰め寄った。
虚ろな空間に響き渡る、ビリビリと鼓膜が破けそうな大声に、新八は目に見えて狼狽し、銀時と響古を起こした。
「……!!銀さん、響古さん、起きてください」
「んだよ、うるせーな」
「全然、寝られないじゃないの~」
「なんか変な人が…」
仕方なく起き上がると、目の前にいたのはサングラスをかけた謎の男。
手入れとは無縁そうな
ごく粗末な衣装――薄汚いボロ布のマントを纏っていた。
「ゴホン…ようやく目覚めたか」
四人からようやく注目の眼差し受けられた男は居住まいを正し、悠然と口を開いた。
「ようこそ、我が世界へ。なんじ等、ついに目覚めし時が来たのだ」
「は?誰ですか、アンタ」
銀時はわけがわからないとばかりに首を捻る。
「わからぬか、銀時。我は常になんじと共にあり。幾多の苦難をふり払ってきたなんじが刃」
表情を引き締めて、男は語りかけた。
その時、長く伸びた髪が風にさらされ、彼の額に『洞』の文字が刻まれていた。
「我が名は…『洞爺湖』!!」
以前、怪しげな通販サイトで購入した木刀――樹齢一万年前の大樹から作られた代物で、岩だろうが隕石だろうが、己の筋肉次第で壊せることができる木刀。
その木刀が擬人化した姿に、銀時は訝しげに眉を寄せる。
「洞爺湖の仙人…?」
「フッ。まァ、そういう呼び方でもいい」
待ってました、と言わんばかりに仙人が胸を張る。
それまで自分を振るって、数々の強敵に打ち勝ってきた銀髪の男をじっと見つめた。
「銀時…誰よりも近くにいた私は、しっている。お前は強い。かつて私をこれ程までに使いこなした者はいない。だが、しかし」
昔を思い出し、懐かしむような笑みを浮かべる。
しん、と静まり返る暗闇の中、仙人はカッと目を見開き、力強く言い放った。
「まだだ!!まだ、お前は強くなれる!まだ、お前は私の力を限界まで吐き出してはいない!!」
いきなりのまだ本気を出していない宣言に、銀時も響古達も呆気に取られるしかない。
仙人はしばらく考え込むように空を仰ぎ……自信満々に胸を張り、こう問いかける。
「…強くなりたいか、銀時」
「いや、いいです」
強さを求める問いかけに、銀時は尻を掻きながら断った。
そのすげない返事に、仙人は固まる。
「……アレ?え?今なんて言った」
「いや、もううるさい。ホントッもう頭痛いんで、ちょ、すいません」
「………え?いや…だって…え?」
まさかそんな台詞が出てくるとは全く思っていなかったので、仙人は頭が真っ白になった。
おそるおそるの口調で呼びかけてしまう。
「……もういろんなサイトが更新止まっちゃったにもかかわらず、華焔は結構順調に進んでるし、必殺技とか…なんか、そろそろあった方が…いいのではないか?私が言うのもなんだが、かなり便利だぞ。君ら三人にも教えてやろう」
「すいません。僕ら今日、定休日なんです。そろそろ帰してもらいます」
「いや、ちょっ…君が思ってるよりもかなり使えるぞ。小説的にもかなりカッコよく映えるし」
確かに、必殺技は想像力たくましく魅力的だろう。
だが、一歩間違えると表現が無駄にゴチャゴチャと装飾して、ひねり過ぎていて、正直わけがわからない。
気持ちいいのは自分だけで、読者から見れば、ただひたすら痛いだけだ。
話のコンセプトや整合性を大事にしてください、と評価されるに違ない。
「そんなねェ!必殺技なんてあっても小説じゃ見えないのよ。見えないのを見えるように描写するのは難しいのよ!わかるかジジイ、ボケ!!」
「うるせーんだヨ、クソジジイ!いいから早く元の世界に戻すアル!!」
響古が憤怒の形相で叫び返すと、神楽も声を荒げる。
声に微かに怒気を滲ませ、仙人は不満も露に話を進めた。
「……ああ、そう……いや、いいんだけどね…別に。こっちも?頼まれたワケじゃないし?ウン……勝手に君ら、呼んだだけだし?すいませんでしたね、余計な事して」
人が親切に便利な、小説的にも魅力的に映る必殺技を教えてやろうというのに対し、この言い草。
仙人が不満に思うのも無理はなかった。
あまりの絶望にくらっとめまいがしたけれど、いやダメだ折れるな心よ、と自分自身を鼓舞する。
「ただ言っとくけど、あとで必殺技、教えてくれって言っても遅いから。これは、今回限りだから。絶対もう教えねーから。あ~あ、大放出だったのに…勿体ないな~。『全解』とか『風戦丸』とか、かなりアレ使えるんだけどな~」
チラチラと横目で窺う。
どこか構ってほしいような口調の仙人に対し、四人はその場に横になって寝ていた。
それが仙人の限界だった。
「…………つーか、教えてくれって言えよォォォ!!」
自堕落に寝っ転がる四人に、表情を険しく歪めて怒鳴り散らした。
「必殺技いらないって、どんだけ向上心ねーんだてめーら!!なんで仙人の前で三度寝!!よっぽどゆるい休日でも三度寝はなかなかないよ!!」
ビキビキ、とこめかみに青筋を浮かべながら自堕落に寝っ転がる四人の顔を見回す。
一切取り繕うとせずに、真剣な眼差しで怒りすら込めて叫ぶ仙人の言葉に耳を貸さず、目を閉じている。
凄まじいまでの温度差が生まれ、
「おいィ!!起きろコラァァ!!いい加減にしろよォ!!今から三秒以内に起きなかったら、ももに蹴りパーン入れていくから!マジだから!いや、マジで仙人いくから歩けなくなるよマジ!」
だが、仙人の鬼のような形相に対し、四人は眠たげな表情を微塵も揺るがすことなく、ごろりと寝っ転がって、ぐーたらしている。
一切、興味のなさそうな態度であった。
「ハイ1ぃぃぃ!!ホラホラ、地獄へのカウントダウンが始まっちゃったよ~!ハイ2ぃぃぃ!!あと1秒しかないよ~仙人マジいっちゃうよ~仙人!ハィ3ぁぁ…『ん』言っちゃうよ~!言っちゃうよ~!!5秒にしてやろうか!特別ルールで5秒に…」
ムキになったような仙人の声だった。
何故なのかは知るよしなかったが、必殺技を教えることにムキになっている節すら感じられた。
とうとう仙人のうっとうしさに苛立ちが頂点に達する。
『うるせェェェェェ!!』
銀時と神楽が鞭のように鋭いローキックが太ももに打擲、響古が繰り出した拳が顔面を殴り飛ばした。
「うううう!!」
足と顔面、どちらを押さえればいいのかわからぬ間に激痛に悶える仙人は転げ回る。
「なんなんだよ、てめーは。何がしだいんだよ」
痛くない。
負けるものか。
唇を震わせながら自分自身に言い聞かせる。
そんな仙人の理性とは裏腹に、涙目になっていた。
「フッ、なかなかやるではないか。仙人である私の足を封じるとは。だが、まだ甘い。お前達はまだまだ強くなれる」
「仙人を涙目にする位強くなれたんで、もう充分です。帰らせてください」
「必殺技を覚えればやせ我慢どころか私の目鼻口、身体のいたる穴から体液を拭き出せる事も可能だぞ」
ようやく顔面と太もものダメージから回復した仙人がよろよろと起き上がる。
膝はがくがくと震えており、見るからにやせ我慢だ。
「それは、もうほとんどお前の必殺技だろうが」
「いや、気持ち悪いから遠慮するし」
銀時と響古の冷ややかな視線が突き刺さる。
瞼に滲んだ涙を拭い、バッ、と身体と跳ね上げ立ち上がった。