第百三十八~百三十九訓
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――若の成長記録、東城歩。
机に端然と正座しながら、東城は日課であるノートに筆を走らせる。
――〇月×日、今日も麗しの若は気高く凛々しく、美しい。
――あの一件以来、どこか表情がやわらかくなった。
早朝の稽古を終えた後、そこには九兵衛の姿があった。
剣術の指南をする彼女の頬は上気し、珠 の汗が全身に浮かんでいる。
――これは妙殿の存在が大きかろう。
――あんな騒動があったにも関わらず、変わらず若と親交をかわす彼女の懐の深さには心底、感服する。
――響古殿の影響は大きく、若が立ち直れたことも、今まで通り過ごしているのも彼女のおかげだろう。
週末には響古と妙と一緒に買い物に出かける機会も増えた。
三人で江戸の喧騒を歩いていく。
――妙齢の女子 三人、仲睦まじく歩く姿は、実にほほえましい。
――やはり若は女の子だ。
呉服屋に視線を向けながら、響古は九兵衛の手を取った。
少しだけ強引に、しかし強引過ぎないように実は配慮してそうな勢いで、男装の少女を人ごみの方へ引っ張っていく。
九兵衛は戸惑いつつも、響古と手を握りながらついていく。
それを見た妙も幸せそうに微笑んで、二人と笑い合う。
いつもの凛々しさとも、キャバクラの時の慌てぶりとも違う。
今の九兵衛は18歳の年相応に無邪気な少女だった。
――色々遠回りしてしまったが、やはり若には女子としての幸せを掴んでほしい。
だから東城は九兵衛の部屋に和服をベースとしたゴスロリ服をこっそり置いた。
――〇月×日、軽いジャブとして若の部屋にゴスロリ衣装を置いておく。
物影からこっそりと九兵衛の反応を窺うと、ライターの火で燃やされていた。
――燃やされる。
――〇月×日、カーテンの上のシャーってなる奴が外れたのでロフトへいく。
新しいゴスロリ服を買うついでにカーテンレールも購入する。
それから数日後、東城は九兵衛の部屋にゴスロリ服をこっそり置いた。
――〇月×日、機は熟した、ゴスロリ衣装を…爆破される。
最初はライターで燃やされたが、今度はバズーカで盛大に爆破される。
――〇月×日、カーテンの上のシャーってなる奴がアレだったのでロフトへ。
趣向を変えてナース服をこっそり置いたが、それもバズーカで爆破される。
――〇月×日、ナース服を爆破される。
――〇月×日、カーテンの…爆破される。
日記のように綴られたそれは、最初こそ真面目に書いているように見受けられたが、後半になるにつれて趣味に偏った内容になっていて見るに耐えない。
最後の一文はこうだ。
――この日記を読んでいる者へ。
――これを今、そなたが読んでいるという事は、恐らく私はもうこの世にはいないだろう。
――しかし、私の若への思いは重々わかってくれたことと思う。
万事屋宛てに届いた郵便物。
怪しいことこの上ないが、仕事の依頼かもしれないからと、ひとまず開封してみることにした。
中には一冊のノート、そのタイトルは『若の成長記録』。
――若を、若を…立派な…女…の子に…。
遺書のような文面から隠し切れないゴスロリへの執着を感じつつ、四人は唖然とする。
――〇月×日、カーテンの上のシャーの奴がやっぱりアレなのでロフトへ…。
そこまで読んで、後ろから隠し切れない気配を察知した。
玄関の隙間からコソコソと様子を窺う東城へと振り向き、勢いよく蹴り飛ばした。
第百三十八訓
ロフトにいけば大体何でもある
「定春。メッ、変態が移るわ」
ノートの匂いを嗅いでいる定春を制止させ、響古は憮然とした表情で向き直る。
彼女の隣では、銀時と新八がノートについて聞き出していた。
「なんだよコレ?若の成長記録日記って」
「アンタどんだけ暇なんですか。九兵衛さんの嫌がらせとロフトの往復しかしてないじゃないですか。つーか、どんだけカーテンの上のシャー、気になってんですか」
内容は九兵衛への贈り物(ただしゴスロリ服)とカーテンレールの交換。
響古は最近、九兵衛から聞かされる東城への愚痴が日に日にエスカレートしつつあることを思い出していた。
「こんなことしてるからアンタ、九兵衛に嫌われるのよ。気づけよ、いい加減」
「なっ、何を言いますか、響古殿!?」
身に覚えがありすぎるのか、東城はぎくりと動揺を走らせる。
あの頃は本当にただの愚痴だったのに……あとで慰めにいってあげよ。
そんな彼女の悟りをよそに、東城は話を進める。
「いや、他にも裏柳生への死闘とか色々あったんですがとりたてて、日記に書く程の事でもないので」
「シャーの方がいらねェ!!」
カーテンレール>裏柳生の死闘。
東城のぞんざいな言い草に、新八は声を荒げてつっこんだ。
「若の複雑な事情をしるあなた達ならば、力になってくれるのではと頼みに来た次第です。最早、柳生の者は若に警戒され、動けません。どうか力を貸していただけませんかね」
二人は当然、それを理解して、しかし少し苛立たしげに答えた。
「事情をしってるからこそ、手が出しづらいんでしょーが。今まで男として育ててこられて、急に女になれ?」
「お前、今日から女になれっていわれてなれるか?あん?チンコ切ってから来いボケ」
その言葉を真に受けた東城は白装束に着替え、自力で性転換手術を決意。
「さよーなら歩!!こんにちはー綾!!」
「待て!待て!わかった!アンタの気持ちは充分わかった!」
放っておけばガチでやりかねない彼の勢いに、新八は全力で引き止めた。
「親父やジジイは何ていってんだ?」
「輿矩様、敏木斎様、共に自然のなりゆきに任せよと、若の望むようにするのが一番よいと」
柳生家のために、と言い張って男として育て上げてきた輿矩と敏木斎は、今までの強情な態度から一転、共に静観の構え。
「あのお二人は若を護るためとはいえ、あのようにしてしまった事に責任を感じています。その負い目から、若に強く出られず、あのような騒動が起きたともいえる」
子供の問題は、家族が手を貸して解決してやるべし。
むしろ、柳生編なんてエピソードが生まれてしまった発端の父や祖父が今度こそ解決してやるのが筋というもの。
――学習能力がないのかしら、あの二人…。
響古が呆れてしまうのも無理はない。
あの騒動から彼らは何も学んでいないのだから頭痛がしてくる。
そんな中で唯一、九兵衛を思って立ち上がった東城に、響古は初めて彼を見直した。
「ここは、私がなんとかするしかないでしょう。若が、このまま女の身でありながら男を遠ざけ、女の子ばかり追いかけていても、幸せになれると思いますか。否!!」
ひそかに彼の評価が上がったことも知らず、東城はひどく厳粛な口調で続ける。
すると、新八が神妙な表情で口を開く。
「東城さん、気持ちもわかりますが、幸せってのは百人いれば百通りあるもんじゃないですか」
言いながら、彼の目線が自然と銀髪と黒髪の二人に向けられる。
「例えば、こんなダメ天パと付き合って幸せだという人もいるわけで…」
「図に乗ってんじゃねーぞ、新八。オイコラ、駄眼鏡」
「新八、いくらなんでも殴るわよ」
青筋を立てながら銀時が言うと、響古も怖い笑顔を浮かべて訂正を求める。
「響古……俺のために言い返して……」
銀時は愛されていると感じて、先の怒りの声を嬉しさに反転させた。
少年の前にそびえる華麗な美女は、胸を張って言い放つ。
「ダメ天パの事はボロクソ言ってもいいけど、あたしをバカにすんじゃないわよ」
「…………」
銀時が黙ってしまうのも無理はなかった。
――…そんなに自分が大事か響古、俺でも傷つくからね?
「すいません。響古さん」
――あ、コノヤロー。響古には謝って俺は無視か。
そんな彼の心中を知ってか知らずか、新八がなんということもなく話を続ける。
「…九兵衛さんが幸せなら、それを外野がとやかく言うのは間違ってませんか」
「んな余裕こいてる場合じゃねーんだよ!!」
「甘ちゃんは黙ってなァ!!」
「ぼげら」
耳に飛び込んできた綺麗事が気に食わなかったのか、東城と神楽のアッパーが炸裂した。
「ちょっとォォォ!何すんすか!!神楽ちゃんまでェ!!」
「イラッときたアル。しゃべり場を見た時と同じ感情が芽生えたアル」
教育番組で放送された、台本なし、司会者なし、結論なしというコンセプトの下、10代の若者達が無遠慮に討論し合うスタイルは放送開始当初より話題を呼んだ。
「…事は一刻を争うのです。ゴスロリの衣装をしこむ折、若の部屋から、こんなものが」
深刻な面持ちへと変わった東城は一枚の広告を見せた。
それは整形外科クリニックの広告で、紙面には気軽に性転換と宣伝されている。
「整形外…」
――!!もしや、工事!?
思わず顔を歪め、絶句する銀時と新八。
これほどまでに戦慄したのは、ただ一つ。
九兵衛の男体化だ。
――あの…顔の下に、汚れたバベルの塔を、建設しようとしているのか!?
あの凛々しく可憐な顔の下に勃 つ、男のシンボルを想像して硬直する。
一気に重々しい空気に包まれる男達とは裏腹に、
「汚れたバベルの塔ってお前ら、全員生えてるだろ」
女性二人からの冷ややかな眼差しが突き刺さる。
複雑な表情で東城が訴えかける。
「報酬ならいくらでも払いましょう。男として、もう一度頼みます。バベルの搭建設阻止、お手伝い願えますか」
凛々しい顔立ちの九兵衛に、男のシンボルは不釣り合いと一致。
断固、バベルの塔建設!
この瞬間、男達の心が合わさった。
「ねェ、なんでこんなくだらない話でシリアスにならなきゃいけないの」
これを聞いて半眼の響古だが、神楽も似たような表情をしている。
「そこツッコんだらダメだって、この話はそれが面白いんだから」
「何も面白くないんだけど」
「それ言ったら終わりだって」
次の発言がなんとなくためらわれる空気の中、銀時が厳 な顔つきで提案する。
「合コンを開くぞ」
――合コン…。
男達の食い入るような視線を一身に集めて、話を続ける。
「今まで、男として生きてきた奴を女に返るのは容易じゃねェ。だが女であることを自覚させるのは容易い」
銀時の言葉は力強く、心を打つ真摯さに満ち溢れていた。
ただし、九兵衛の男体化を阻止するシリアルな内容だったが。
――つまり、男に惚れさせる!
「バベルの塔完成を阻止する手立てはもう、それしかねェ。集めるんだ。勇者達 を、選ばれしバベルの勇者達を」
まるで、魔王の城の門前に立っているような雰囲気を醸し出す男達の本気度である。
「だからシリアス口調、やめなさいって」
響古はつくづく呆れながら、男達の結論につっこんだ。
九兵衛に性転換手術を思い留まらせるべく、四人と東城は合コンに参加できる人間を探していた。
「合コン?ふざけた事をぬかすな」
呼び込みのバイトをしている桂は、眉を寄せて斬り捨てる。
「見しらぬ女と何を話せというのだ。俺は侍だぞ、そんなふしだらな会合、参加するわけがあるまい」
相変わらず、桂の口調は他者を強烈に拒絶するような、底冷えするものを感じさせる。
慣れない者は彼の声を聞いただけで緊張を強いられるだろう。
「あっ!おねーちゃん、ウチの店で働かない?君ならNo.1になれるよ!マジで、いやマジで!」
「今やってる事はどーなのよ、ヅラ」
だが、詰め襟を着てキャバクラの呼び込みをするギャップ加減に眩暈がしてくる。
「ヅラじゃない、桂だ。響古、お前もウチの店で働かんか?」
キャバクラの勧誘には鉄拳をお見舞いして断り、それからも手当たり次第に声をかける。
「申し訳ございません。週末はウチも忙しくなるので」
週末は忙しくなると狂死郎に断られ、
「どうせワリカンだろ。おごりならいってもいいけどよ」
金銭不足を理由に長谷川に断られ、
「さちえです。じゃあ、どのプレイを?チカンプレイとかありますけど」
イメクラに足を踏み入れた東城に、従業員の女性が胸元をはだけさせてサービス内容を訊ねる。
「いいけどよォ。ババアは、いんのか。ババアは」
年齢的に、若い女性よりも熟女を好む源外に断られ、
「なんで無視するんですか、ちょっと!ちょっとォォ!!」
ヘドロが経営する花屋に通りかかると、神楽は顔の向きを真正面に固定して速足で歩く。
ヘドロから遠雷のような重い声をかけられるが、そのまま一声も発さずに通り過ぎる。
東城はイメクラで発散した後、次の店へと足を踏み入れる。
「シャチョサン、アンタも好キネ」
布団に寝転ぶ女性は東城の顔を一目見た途端、常連客だと気づいてサービスする。
人脈をフルに使って色々な人を当たったが、誰も参加できる人間はいなかった。
三人が真面目に取り組む中、一人だけ風俗店で楽しむ東城。
「だーから、さっきからテメーは何してんだァァァァ!!」
「お前だけ普通にいやらしい店いってるだけだろーが!!」
「何一仕事しましたみたいな顔してんだァァ!!」
風俗店で発散する東城へと三人は詰め寄り、怒りをぶつけるように蹴り始めた。
机に端然と正座しながら、東城は日課であるノートに筆を走らせる。
――〇月×日、今日も麗しの若は気高く凛々しく、美しい。
――あの一件以来、どこか表情がやわらかくなった。
早朝の稽古を終えた後、そこには九兵衛の姿があった。
剣術の指南をする彼女の頬は上気し、
――これは妙殿の存在が大きかろう。
――あんな騒動があったにも関わらず、変わらず若と親交をかわす彼女の懐の深さには心底、感服する。
――響古殿の影響は大きく、若が立ち直れたことも、今まで通り過ごしているのも彼女のおかげだろう。
週末には響古と妙と一緒に買い物に出かける機会も増えた。
三人で江戸の喧騒を歩いていく。
――妙齢の
――やはり若は女の子だ。
呉服屋に視線を向けながら、響古は九兵衛の手を取った。
少しだけ強引に、しかし強引過ぎないように実は配慮してそうな勢いで、男装の少女を人ごみの方へ引っ張っていく。
九兵衛は戸惑いつつも、響古と手を握りながらついていく。
それを見た妙も幸せそうに微笑んで、二人と笑い合う。
いつもの凛々しさとも、キャバクラの時の慌てぶりとも違う。
今の九兵衛は18歳の年相応に無邪気な少女だった。
――色々遠回りしてしまったが、やはり若には女子としての幸せを掴んでほしい。
だから東城は九兵衛の部屋に和服をベースとしたゴスロリ服をこっそり置いた。
――〇月×日、軽いジャブとして若の部屋にゴスロリ衣装を置いておく。
物影からこっそりと九兵衛の反応を窺うと、ライターの火で燃やされていた。
――燃やされる。
――〇月×日、カーテンの上のシャーってなる奴が外れたのでロフトへいく。
新しいゴスロリ服を買うついでにカーテンレールも購入する。
それから数日後、東城は九兵衛の部屋にゴスロリ服をこっそり置いた。
――〇月×日、機は熟した、ゴスロリ衣装を…爆破される。
最初はライターで燃やされたが、今度はバズーカで盛大に爆破される。
――〇月×日、カーテンの上のシャーってなる奴がアレだったのでロフトへ。
趣向を変えてナース服をこっそり置いたが、それもバズーカで爆破される。
――〇月×日、ナース服を爆破される。
――〇月×日、カーテンの…爆破される。
日記のように綴られたそれは、最初こそ真面目に書いているように見受けられたが、後半になるにつれて趣味に偏った内容になっていて見るに耐えない。
最後の一文はこうだ。
――この日記を読んでいる者へ。
――これを今、そなたが読んでいるという事は、恐らく私はもうこの世にはいないだろう。
――しかし、私の若への思いは重々わかってくれたことと思う。
万事屋宛てに届いた郵便物。
怪しいことこの上ないが、仕事の依頼かもしれないからと、ひとまず開封してみることにした。
中には一冊のノート、そのタイトルは『若の成長記録』。
――若を、若を…立派な…女…の子に…。
遺書のような文面から隠し切れないゴスロリへの執着を感じつつ、四人は唖然とする。
――〇月×日、カーテンの上のシャーの奴がやっぱりアレなのでロフトへ…。
そこまで読んで、後ろから隠し切れない気配を察知した。
玄関の隙間からコソコソと様子を窺う東城へと振り向き、勢いよく蹴り飛ばした。
第百三十八訓
ロフトにいけば大体何でもある
「定春。メッ、変態が移るわ」
ノートの匂いを嗅いでいる定春を制止させ、響古は憮然とした表情で向き直る。
彼女の隣では、銀時と新八がノートについて聞き出していた。
「なんだよコレ?若の成長記録日記って」
「アンタどんだけ暇なんですか。九兵衛さんの嫌がらせとロフトの往復しかしてないじゃないですか。つーか、どんだけカーテンの上のシャー、気になってんですか」
内容は九兵衛への贈り物(ただしゴスロリ服)とカーテンレールの交換。
響古は最近、九兵衛から聞かされる東城への愚痴が日に日にエスカレートしつつあることを思い出していた。
「こんなことしてるからアンタ、九兵衛に嫌われるのよ。気づけよ、いい加減」
「なっ、何を言いますか、響古殿!?」
身に覚えがありすぎるのか、東城はぎくりと動揺を走らせる。
あの頃は本当にただの愚痴だったのに……あとで慰めにいってあげよ。
そんな彼女の悟りをよそに、東城は話を進める。
「いや、他にも裏柳生への死闘とか色々あったんですがとりたてて、日記に書く程の事でもないので」
「シャーの方がいらねェ!!」
カーテンレール>裏柳生の死闘。
東城のぞんざいな言い草に、新八は声を荒げてつっこんだ。
「若の複雑な事情をしるあなた達ならば、力になってくれるのではと頼みに来た次第です。最早、柳生の者は若に警戒され、動けません。どうか力を貸していただけませんかね」
二人は当然、それを理解して、しかし少し苛立たしげに答えた。
「事情をしってるからこそ、手が出しづらいんでしょーが。今まで男として育ててこられて、急に女になれ?」
「お前、今日から女になれっていわれてなれるか?あん?チンコ切ってから来いボケ」
その言葉を真に受けた東城は白装束に着替え、自力で性転換手術を決意。
「さよーなら歩!!こんにちはー綾!!」
「待て!待て!わかった!アンタの気持ちは充分わかった!」
放っておけばガチでやりかねない彼の勢いに、新八は全力で引き止めた。
「親父やジジイは何ていってんだ?」
「輿矩様、敏木斎様、共に自然のなりゆきに任せよと、若の望むようにするのが一番よいと」
柳生家のために、と言い張って男として育て上げてきた輿矩と敏木斎は、今までの強情な態度から一転、共に静観の構え。
「あのお二人は若を護るためとはいえ、あのようにしてしまった事に責任を感じています。その負い目から、若に強く出られず、あのような騒動が起きたともいえる」
子供の問題は、家族が手を貸して解決してやるべし。
むしろ、柳生編なんてエピソードが生まれてしまった発端の父や祖父が今度こそ解決してやるのが筋というもの。
――学習能力がないのかしら、あの二人…。
響古が呆れてしまうのも無理はない。
あの騒動から彼らは何も学んでいないのだから頭痛がしてくる。
そんな中で唯一、九兵衛を思って立ち上がった東城に、響古は初めて彼を見直した。
「ここは、私がなんとかするしかないでしょう。若が、このまま女の身でありながら男を遠ざけ、女の子ばかり追いかけていても、幸せになれると思いますか。否!!」
ひそかに彼の評価が上がったことも知らず、東城はひどく厳粛な口調で続ける。
すると、新八が神妙な表情で口を開く。
「東城さん、気持ちもわかりますが、幸せってのは百人いれば百通りあるもんじゃないですか」
言いながら、彼の目線が自然と銀髪と黒髪の二人に向けられる。
「例えば、こんなダメ天パと付き合って幸せだという人もいるわけで…」
「図に乗ってんじゃねーぞ、新八。オイコラ、駄眼鏡」
「新八、いくらなんでも殴るわよ」
青筋を立てながら銀時が言うと、響古も怖い笑顔を浮かべて訂正を求める。
「響古……俺のために言い返して……」
銀時は愛されていると感じて、先の怒りの声を嬉しさに反転させた。
少年の前にそびえる華麗な美女は、胸を張って言い放つ。
「ダメ天パの事はボロクソ言ってもいいけど、あたしをバカにすんじゃないわよ」
「…………」
銀時が黙ってしまうのも無理はなかった。
――…そんなに自分が大事か響古、俺でも傷つくからね?
「すいません。響古さん」
――あ、コノヤロー。響古には謝って俺は無視か。
そんな彼の心中を知ってか知らずか、新八がなんということもなく話を続ける。
「…九兵衛さんが幸せなら、それを外野がとやかく言うのは間違ってませんか」
「んな余裕こいてる場合じゃねーんだよ!!」
「甘ちゃんは黙ってなァ!!」
「ぼげら」
耳に飛び込んできた綺麗事が気に食わなかったのか、東城と神楽のアッパーが炸裂した。
「ちょっとォォォ!何すんすか!!神楽ちゃんまでェ!!」
「イラッときたアル。しゃべり場を見た時と同じ感情が芽生えたアル」
教育番組で放送された、台本なし、司会者なし、結論なしというコンセプトの下、10代の若者達が無遠慮に討論し合うスタイルは放送開始当初より話題を呼んだ。
「…事は一刻を争うのです。ゴスロリの衣装をしこむ折、若の部屋から、こんなものが」
深刻な面持ちへと変わった東城は一枚の広告を見せた。
それは整形外科クリニックの広告で、紙面には気軽に性転換と宣伝されている。
「整形外…」
――!!もしや、工事!?
思わず顔を歪め、絶句する銀時と新八。
これほどまでに戦慄したのは、ただ一つ。
九兵衛の男体化だ。
――あの…顔の下に、汚れたバベルの塔を、建設しようとしているのか!?
あの凛々しく可憐な顔の下に
一気に重々しい空気に包まれる男達とは裏腹に、
「汚れたバベルの塔ってお前ら、全員生えてるだろ」
女性二人からの冷ややかな眼差しが突き刺さる。
複雑な表情で東城が訴えかける。
「報酬ならいくらでも払いましょう。男として、もう一度頼みます。バベルの搭建設阻止、お手伝い願えますか」
凛々しい顔立ちの九兵衛に、男のシンボルは不釣り合いと一致。
断固、バベルの塔建設!
この瞬間、男達の心が合わさった。
「ねェ、なんでこんなくだらない話でシリアスにならなきゃいけないの」
これを聞いて半眼の響古だが、神楽も似たような表情をしている。
「そこツッコんだらダメだって、この話はそれが面白いんだから」
「何も面白くないんだけど」
「それ言ったら終わりだって」
次の発言がなんとなくためらわれる空気の中、銀時が
「合コンを開くぞ」
――合コン…。
男達の食い入るような視線を一身に集めて、話を続ける。
「今まで、男として生きてきた奴を女に返るのは容易じゃねェ。だが女であることを自覚させるのは容易い」
銀時の言葉は力強く、心を打つ真摯さに満ち溢れていた。
ただし、九兵衛の男体化を阻止するシリアルな内容だったが。
――つまり、男に惚れさせる!
「バベルの塔完成を阻止する手立てはもう、それしかねェ。集めるんだ。
まるで、魔王の城の門前に立っているような雰囲気を醸し出す男達の本気度である。
「だからシリアス口調、やめなさいって」
響古はつくづく呆れながら、男達の結論につっこんだ。
九兵衛に性転換手術を思い留まらせるべく、四人と東城は合コンに参加できる人間を探していた。
「合コン?ふざけた事をぬかすな」
呼び込みのバイトをしている桂は、眉を寄せて斬り捨てる。
「見しらぬ女と何を話せというのだ。俺は侍だぞ、そんなふしだらな会合、参加するわけがあるまい」
相変わらず、桂の口調は他者を強烈に拒絶するような、底冷えするものを感じさせる。
慣れない者は彼の声を聞いただけで緊張を強いられるだろう。
「あっ!おねーちゃん、ウチの店で働かない?君ならNo.1になれるよ!マジで、いやマジで!」
「今やってる事はどーなのよ、ヅラ」
だが、詰め襟を着てキャバクラの呼び込みをするギャップ加減に眩暈がしてくる。
「ヅラじゃない、桂だ。響古、お前もウチの店で働かんか?」
キャバクラの勧誘には鉄拳をお見舞いして断り、それからも手当たり次第に声をかける。
「申し訳ございません。週末はウチも忙しくなるので」
週末は忙しくなると狂死郎に断られ、
「どうせワリカンだろ。おごりならいってもいいけどよ」
金銭不足を理由に長谷川に断られ、
「さちえです。じゃあ、どのプレイを?チカンプレイとかありますけど」
イメクラに足を踏み入れた東城に、従業員の女性が胸元をはだけさせてサービス内容を訊ねる。
「いいけどよォ。ババアは、いんのか。ババアは」
年齢的に、若い女性よりも熟女を好む源外に断られ、
「なんで無視するんですか、ちょっと!ちょっとォォ!!」
ヘドロが経営する花屋に通りかかると、神楽は顔の向きを真正面に固定して速足で歩く。
ヘドロから遠雷のような重い声をかけられるが、そのまま一声も発さずに通り過ぎる。
東城はイメクラで発散した後、次の店へと足を踏み入れる。
「シャチョサン、アンタも好キネ」
布団に寝転ぶ女性は東城の顔を一目見た途端、常連客だと気づいてサービスする。
人脈をフルに使って色々な人を当たったが、誰も参加できる人間はいなかった。
三人が真面目に取り組む中、一人だけ風俗店で楽しむ東城。
「だーから、さっきからテメーは何してんだァァァァ!!」
「お前だけ普通にいやらしい店いってるだけだろーが!!」
「何一仕事しましたみたいな顔してんだァァ!!」
風俗店で発散する東城へと三人は詰め寄り、怒りをぶつけるように蹴り始めた。