第九十八訓
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「ほォ、桂と高杉がねェ」
とある定食屋の座席に黒い隊服を纏う土方と山崎がいた。
二人の間で繰り広げられる内容は、先日勃発した攘夷浪士同士での戦い。
「過激派だった桂の野郎も、今ではすっかり穏健派になり変わり、とかく暴走しがちな攘夷浪士達をおさえるブレーキ役となっているとききます。バリバリの武闘派である高杉一派とぶつかり合うのは目に見えていました」
自分が持つ報告書を読み上げる山崎の前、土方が頼んだ品を見つめる。
丼の上にマヨネーズが一本分投入されていた。
「両陣営とも被害は甚大な模様で死者、行方不明者、五十数名。あの人斬り似蔵も行方不明とか…これでしばらく奴らも動けないでしょう」
吐き気をおさえる山崎をよそに、構わず話を続けた。
「しかし解せねェ。岡田、河上ら猛者を擁する高杉に比べ、桂は、ロクな手駒を持っていなかったはず。一体どうやって、高杉達と互角にはり合ったんてんだ?」
「それなんですがね、気になる情報が。桂側に妙な連中が助っ人についていたらしくて、そいつが…妙なガキを二人連れた、バカ強い、白髪頭の侍と黒髪の女らしいんです」
割り箸を口で割り、食べようとした土方の動きが止まった。
「…副長。こいつぁ、もしかして」
「…野郎らか」
「でも…まさか響古さんに限って、そんな…」
「確か、あの二人は以前、池田屋の一件の時も桂と関わっている風だったが、うまい事逃げられたんだったな」
各々、沈意すること数秒。
土方は懐からライターと煙草を取り出した。
火をつけ、紫煙を吐く。
「洗うか」
「副長」
「元々うさん臭ェ野郎だ。探れば何か出てくる奴らだってのはお前も前からわかってただろ。派手な動きもせなんだから捨て置いたが…潮時かもな」
まるで自分に言い聞かせるように紡がれた言葉。
その中に含まれた想いを十分に理解していた山崎は、焦りを隠せずにいた。
真選組は自分や土方も含め、全員と言っていいほどに響古を慕っている。
絶世の佳人と呼ぶに足る……それだけではない。
彼女の強さ、生き様、風格、全てに惹かれて――あの沖田でさえ。
そんな響古が、犯罪者。
山崎の中に、込み上げる焦りと恐怖が襲ってきた。
「これで、もし旦那と響古さんが攘夷活動に関わっていた場合は」
「んなもん、決まってるだろ」
山崎の願いも虚しく、土方は宣言する。
「穏健派だろーが過激派だろーが、俺達の敵には違いねェ。斬れ…野郎の方は、テメーに任せる」
「任せる」ということは、銀時の粛清の判断を自分に任せるということ。
――なら、響古さんは…あの人は斬らなくていいんですか?
もし、そうなった場合は、最悪でも斬らなくてはならない。
警察にあるまじき私情とわかっていても、響古にだけは手をかけたくなかった。
山崎の縋るような視線を浴びる土方。
「もし、そう判断された場合……俺が斬る」
それは、様々な葛藤の末に導き出した決断だった。
恒道館道場の屋敷の塀に、山崎は忍び込んだ。
口を覆うマスクつきの黒い忍装束を着ている。
「……ここか………意外に広いな」
屋敷の内部を観察しながら、今までの調査を思い出す。
二人の素性などを様々な人物から調査していったのだが、難航というか迷走。
誰に聞いても同じことしか言わない。
(――「あ?銀時と響古?あの二人なら、ケガしたとかで新八んちで療養中だよ」――)
一階のスナックのお登勢に訊ねてみたところ、そんな答えが返ってきた。
着目する点は、怪我を負ったということ。
ますます深くなる黒の線。
気持ちが引き締まると同時に、憂鬱になってくる。
――いよいよ怪しい。
――怪我とは、例の一件で負ったものでは…しかし、斬れとは…副長も無茶を言う。
僅かな音すら立てず、屋敷に侵入し、部屋の明かりを捉えた。
――自分も旦那に負けたくせに、俺が勝てるワケないだろ、何考えてんだ…幸い、響古さんの方は自分が斬るとか言ってたけど、無理だろ。
――副長は響古さんに告白したって言うし、彼女の強さは旦那並みだ。
――単純に考えても、旦那に負けた副長が勝てるとは思えない。
――というか、響古さんに刃を向けれるとは思えない。
――仮に、向けられるだけ向けるとして…最悪、沖田さんと局長がブチ切れる。
人を疑うことを知らない、お人好しすぎる近藤が反対するのはわかるとして、一番危険なのは沖田だ。
響古を粛清する土方に恐れもなく剣尖を向け、邪悪で残酷な笑みを貼りつけて襲いかかるだろう。
「何奴っ!!」
突然の声に、山崎の肩が大きく跳ね上がった。
――バレた!?
声の主は、まるで山崎が来ることを見透かしていたかのようにほくそ笑む。
「おやおや、お前さんですか。クックックッ、来ると思っていましたよ」
――なんてこった、さすが旦那だ。
――全部、お見通しってわけか。
口許のマスクを外して素顔を露にし、観念する。
焦燥に駆られる彼の思いに、声が噛み合わない答えを返す。
「死んだ仲間仇討ちというわけですか。マスカットよ」
――は?
――マスカット?
すると、親友の死のきっかけで激昂する主人公は第二段階に覚醒する。
「『マリリンのことかァァァ!!プリーザぁぁ!!』」
有名な格闘漫画を朗読している神楽は、この後に続く怒涛のバトルを実況し始める。
「どかぁぁぁん、ビシバシビシ。『ぐふっ』どぉぉん!!ガラガラ、プリプリ、テンッ、プリッ」
だが、拳と拳がぶつかり合ったり衝撃波が発する擬音だけで、肝心の内容が頭に入ってこない。
山崎は思わずコケた。
――ジャンプの朗読…まぎらわしいマネを。
開きっぱなしになっている障子から部屋を覗き、安堵と呆れが混ざった視線を向ける。
「プリプリ、ブシャアアアア、ガラガラゴシゴシ。『あっ、また血ィついてる』」
銀時のために読んでいるようだが、内容が頭に入ってこないので顔をしかめる。
「オイ…もう、なんか訳わかんねーよ。ちょっ貸せ、もう自分で読むから」
「ダメアル、怪我人にジャンプは刺激的過ぎネ。私が読んであげるネ」
――とにかく、軒下へもぐろう。
山崎は縁側の下へ潜り込み、身を隠す場所を確保する。
「だったら、もうちょっと状況がわかるように読んでくれや」
言われた神楽はパラパラとページをめくり、別の漫画を選んだ。
「『あはん、真中殿。電気を消してくだされ』そんな西野の言葉も無視して、真中はおもむろに西野にまたがり獣の如く…」
いきなり濃密なラブシーンを読み上げたのだ。
顔を歪める銀時に構わず、淡々と恥ずかしい言葉を紡ぐ。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!いい!もういいって!お前にはまだ…」
子供にはまだ早い漫画のチョイスに、思わず布団から跳ね上がる。
「何、勝手に動いとんじゃあああ!!」
次の瞬間、妙が鬼のような形相で突進、薙刀を振り下ろしてきた。
切っ先が銀時の顔面ギリギリを通り過ぎて床をぶち抜き、
「「ぎゃああああああ!!」」
山崎のいる軒下まで突き刺さる。
「もぉー。銀さんったら、何度言ったらわかるの。そんな怪我で動いたら今度こそ死にますよ。殺しますよ」
前回の看病からさらに苛烈になっている妙の忠告。
身の危険を感じ、銀時は訴えた。
「すいませんけど、病院に入院させてもらえませんか。幻聴がきこえるんですけど。君の声がね、ダブって殺すとかきこえるんだけど」
ただし、病院のベッドの上ではなく志村邸で。
大怪我を負って、本来なら病院に入院するはずだった銀時だったが、妙の強引な説得で志村邸で治療することとなった。
「いやいや、君が悪いんじゃないんだよ、俺が悪いのさ」
「ダメですよ。入院なんてしたら、どーせスグ逃げ出すでしょ、ここならすぐしとめられるもの」
「ホラッ!今もまたきこえた、しとめるなんてありえないもの!言う訳ないもの!」
かたくなに首を振って否定する銀時に、隣の部屋でテーブルに頬杖をつき、雑誌を読みながらせんべいをバリバリ食べている新八がつっこむ。
「銀さん、幻聴じゃありませんよ」
「あたしも確かにきこえたよ」
数日前の戦いで奮闘した響古も、安静ということで大人しくしている。
見張りには神楽と妙が控え、一歩たりとも部屋から出られない。
銀時に至っては絶対安静を義務づけられ、ちょっとでも動こうものなら薙刀を持った妙が物凄い形相で飛んで来るありさまだ。
――あっ…あぶねェェェ!!
――串刺しになるところだった。
軒下に潜む山崎は、思わず悲鳴をあげてしまった口を手で塞ぎ、突然降ってきた薙刀に戦慄する。
――しかし、おかげでのぞき穴が。
――これで部屋の様子が見てとれるぞ。
ちらつく死の恐怖に戦慄するも、穴が空いたおかげで部屋の様子が窺うことができた。
「銀、さっきの朗読、あたしに任せなさい。こーゆーのは得意だから」
すると、響古が口を挟んできた。
意気揚々と、ちょっとHな漫画のページをめくる。
「いいって!お前に読まれたら変な気分に…」
「さ、力を抜いて。えーと、どこからだっけ?」
「お前、まさかここでするつもりか!?」
そして響古は、銀時に抱きついてきた。
驚くほど豊満な胸の弾力と、そのくせ華奢な肢体の柔らかさが密着する。
「ええ。善は急げよ。銀の気が変わらないうちに……」
「変わるも何も、こんなことをする気はもともとない……」
響古の要求を突っぱねている時だった。
顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした妙の姿があった。
こんな体勢、こんな会話をしている姿を見られるなんて!
「響古さん!あなたも怪我人なんですから、おとなしくしてください!それに、その格好は一体…!」
ところが、響古は極上の笑顔で切り返すのだから恐れ入る。
もしかしたら、しばらく銀髪の恋人に会えなかったので甘えてるかもしれない。
「んっふふ。妙はコレが気に入らないの、奥ゆかしいわね――あたしがしたくなったんだから、それに応えるのは当然でしょ?」
情熱的に身体を押しつけてくる響古の感触はたまらなく心地よいが、銀時は爆弾を抱えている気分だった。
とある定食屋の座席に黒い隊服を纏う土方と山崎がいた。
二人の間で繰り広げられる内容は、先日勃発した攘夷浪士同士での戦い。
「過激派だった桂の野郎も、今ではすっかり穏健派になり変わり、とかく暴走しがちな攘夷浪士達をおさえるブレーキ役となっているとききます。バリバリの武闘派である高杉一派とぶつかり合うのは目に見えていました」
自分が持つ報告書を読み上げる山崎の前、土方が頼んだ品を見つめる。
丼の上にマヨネーズが一本分投入されていた。
「両陣営とも被害は甚大な模様で死者、行方不明者、五十数名。あの人斬り似蔵も行方不明とか…これでしばらく奴らも動けないでしょう」
吐き気をおさえる山崎をよそに、構わず話を続けた。
「しかし解せねェ。岡田、河上ら猛者を擁する高杉に比べ、桂は、ロクな手駒を持っていなかったはず。一体どうやって、高杉達と互角にはり合ったんてんだ?」
「それなんですがね、気になる情報が。桂側に妙な連中が助っ人についていたらしくて、そいつが…妙なガキを二人連れた、バカ強い、白髪頭の侍と黒髪の女らしいんです」
割り箸を口で割り、食べようとした土方の動きが止まった。
「…副長。こいつぁ、もしかして」
「…野郎らか」
「でも…まさか響古さんに限って、そんな…」
「確か、あの二人は以前、池田屋の一件の時も桂と関わっている風だったが、うまい事逃げられたんだったな」
各々、沈意すること数秒。
土方は懐からライターと煙草を取り出した。
火をつけ、紫煙を吐く。
「洗うか」
「副長」
「元々うさん臭ェ野郎だ。探れば何か出てくる奴らだってのはお前も前からわかってただろ。派手な動きもせなんだから捨て置いたが…潮時かもな」
まるで自分に言い聞かせるように紡がれた言葉。
その中に含まれた想いを十分に理解していた山崎は、焦りを隠せずにいた。
真選組は自分や土方も含め、全員と言っていいほどに響古を慕っている。
絶世の佳人と呼ぶに足る……それだけではない。
彼女の強さ、生き様、風格、全てに惹かれて――あの沖田でさえ。
そんな響古が、犯罪者。
山崎の中に、込み上げる焦りと恐怖が襲ってきた。
「これで、もし旦那と響古さんが攘夷活動に関わっていた場合は」
「んなもん、決まってるだろ」
山崎の願いも虚しく、土方は宣言する。
「穏健派だろーが過激派だろーが、俺達の敵には違いねェ。斬れ…野郎の方は、テメーに任せる」
「任せる」ということは、銀時の粛清の判断を自分に任せるということ。
――なら、響古さんは…あの人は斬らなくていいんですか?
もし、そうなった場合は、最悪でも斬らなくてはならない。
警察にあるまじき私情とわかっていても、響古にだけは手をかけたくなかった。
山崎の縋るような視線を浴びる土方。
「もし、そう判断された場合……俺が斬る」
それは、様々な葛藤の末に導き出した決断だった。
恒道館道場の屋敷の塀に、山崎は忍び込んだ。
口を覆うマスクつきの黒い忍装束を着ている。
「……ここか………意外に広いな」
屋敷の内部を観察しながら、今までの調査を思い出す。
二人の素性などを様々な人物から調査していったのだが、難航というか迷走。
誰に聞いても同じことしか言わない。
(――「あ?銀時と響古?あの二人なら、ケガしたとかで新八んちで療養中だよ」――)
一階のスナックのお登勢に訊ねてみたところ、そんな答えが返ってきた。
着目する点は、怪我を負ったということ。
ますます深くなる黒の線。
気持ちが引き締まると同時に、憂鬱になってくる。
――いよいよ怪しい。
――怪我とは、例の一件で負ったものでは…しかし、斬れとは…副長も無茶を言う。
僅かな音すら立てず、屋敷に侵入し、部屋の明かりを捉えた。
――自分も旦那に負けたくせに、俺が勝てるワケないだろ、何考えてんだ…幸い、響古さんの方は自分が斬るとか言ってたけど、無理だろ。
――副長は響古さんに告白したって言うし、彼女の強さは旦那並みだ。
――単純に考えても、旦那に負けた副長が勝てるとは思えない。
――というか、響古さんに刃を向けれるとは思えない。
――仮に、向けられるだけ向けるとして…最悪、沖田さんと局長がブチ切れる。
人を疑うことを知らない、お人好しすぎる近藤が反対するのはわかるとして、一番危険なのは沖田だ。
響古を粛清する土方に恐れもなく剣尖を向け、邪悪で残酷な笑みを貼りつけて襲いかかるだろう。
「何奴っ!!」
突然の声に、山崎の肩が大きく跳ね上がった。
――バレた!?
声の主は、まるで山崎が来ることを見透かしていたかのようにほくそ笑む。
「おやおや、お前さんですか。クックックッ、来ると思っていましたよ」
――なんてこった、さすが旦那だ。
――全部、お見通しってわけか。
口許のマスクを外して素顔を露にし、観念する。
焦燥に駆られる彼の思いに、声が噛み合わない答えを返す。
「死んだ仲間仇討ちというわけですか。マスカットよ」
――は?
――マスカット?
すると、親友の死のきっかけで激昂する主人公は第二段階に覚醒する。
「『マリリンのことかァァァ!!プリーザぁぁ!!』」
有名な格闘漫画を朗読している神楽は、この後に続く怒涛のバトルを実況し始める。
「どかぁぁぁん、ビシバシビシ。『ぐふっ』どぉぉん!!ガラガラ、プリプリ、テンッ、プリッ」
だが、拳と拳がぶつかり合ったり衝撃波が発する擬音だけで、肝心の内容が頭に入ってこない。
山崎は思わずコケた。
――ジャンプの朗読…まぎらわしいマネを。
開きっぱなしになっている障子から部屋を覗き、安堵と呆れが混ざった視線を向ける。
「プリプリ、ブシャアアアア、ガラガラゴシゴシ。『あっ、また血ィついてる』」
銀時のために読んでいるようだが、内容が頭に入ってこないので顔をしかめる。
「オイ…もう、なんか訳わかんねーよ。ちょっ貸せ、もう自分で読むから」
「ダメアル、怪我人にジャンプは刺激的過ぎネ。私が読んであげるネ」
――とにかく、軒下へもぐろう。
山崎は縁側の下へ潜り込み、身を隠す場所を確保する。
「だったら、もうちょっと状況がわかるように読んでくれや」
言われた神楽はパラパラとページをめくり、別の漫画を選んだ。
「『あはん、真中殿。電気を消してくだされ』そんな西野の言葉も無視して、真中はおもむろに西野にまたがり獣の如く…」
いきなり濃密なラブシーンを読み上げたのだ。
顔を歪める銀時に構わず、淡々と恥ずかしい言葉を紡ぐ。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!いい!もういいって!お前にはまだ…」
子供にはまだ早い漫画のチョイスに、思わず布団から跳ね上がる。
「何、勝手に動いとんじゃあああ!!」
次の瞬間、妙が鬼のような形相で突進、薙刀を振り下ろしてきた。
切っ先が銀時の顔面ギリギリを通り過ぎて床をぶち抜き、
「「ぎゃああああああ!!」」
山崎のいる軒下まで突き刺さる。
「もぉー。銀さんったら、何度言ったらわかるの。そんな怪我で動いたら今度こそ死にますよ。殺しますよ」
前回の看病からさらに苛烈になっている妙の忠告。
身の危険を感じ、銀時は訴えた。
「すいませんけど、病院に入院させてもらえませんか。幻聴がきこえるんですけど。君の声がね、ダブって殺すとかきこえるんだけど」
ただし、病院のベッドの上ではなく志村邸で。
大怪我を負って、本来なら病院に入院するはずだった銀時だったが、妙の強引な説得で志村邸で治療することとなった。
「いやいや、君が悪いんじゃないんだよ、俺が悪いのさ」
「ダメですよ。入院なんてしたら、どーせスグ逃げ出すでしょ、ここならすぐしとめられるもの」
「ホラッ!今もまたきこえた、しとめるなんてありえないもの!言う訳ないもの!」
かたくなに首を振って否定する銀時に、隣の部屋でテーブルに頬杖をつき、雑誌を読みながらせんべいをバリバリ食べている新八がつっこむ。
「銀さん、幻聴じゃありませんよ」
「あたしも確かにきこえたよ」
数日前の戦いで奮闘した響古も、安静ということで大人しくしている。
見張りには神楽と妙が控え、一歩たりとも部屋から出られない。
銀時に至っては絶対安静を義務づけられ、ちょっとでも動こうものなら薙刀を持った妙が物凄い形相で飛んで来るありさまだ。
――あっ…あぶねェェェ!!
――串刺しになるところだった。
軒下に潜む山崎は、思わず悲鳴をあげてしまった口を手で塞ぎ、突然降ってきた薙刀に戦慄する。
――しかし、おかげでのぞき穴が。
――これで部屋の様子が見てとれるぞ。
ちらつく死の恐怖に戦慄するも、穴が空いたおかげで部屋の様子が窺うことができた。
「銀、さっきの朗読、あたしに任せなさい。こーゆーのは得意だから」
すると、響古が口を挟んできた。
意気揚々と、ちょっとHな漫画のページをめくる。
「いいって!お前に読まれたら変な気分に…」
「さ、力を抜いて。えーと、どこからだっけ?」
「お前、まさかここでするつもりか!?」
そして響古は、銀時に抱きついてきた。
驚くほど豊満な胸の弾力と、そのくせ華奢な肢体の柔らかさが密着する。
「ええ。善は急げよ。銀の気が変わらないうちに……」
「変わるも何も、こんなことをする気はもともとない……」
響古の要求を突っぱねている時だった。
顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした妙の姿があった。
こんな体勢、こんな会話をしている姿を見られるなんて!
「響古さん!あなたも怪我人なんですから、おとなしくしてください!それに、その格好は一体…!」
ところが、響古は極上の笑顔で切り返すのだから恐れ入る。
もしかしたら、しばらく銀髪の恋人に会えなかったので甘えてるかもしれない。
「んっふふ。妙はコレが気に入らないの、奥ゆかしいわね――あたしがしたくなったんだから、それに応えるのは当然でしょ?」
情熱的に身体を押しつけてくる響古の感触はたまらなく心地よいが、銀時は爆弾を抱えている気分だった。