第百二十六訓
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神楽は早朝の江戸を、定春を連れて散歩に出かけていた。
交通量の少ない歩道を横断して、公園の並木道を歩く。
そんな時、不意に定春が立ち止まった。
「ん?定春、どうしたネ。ウンコアルか?」
突然立ち止まり、ついには座り込む定春の様子を訝しむ神楽。
すると、前方から散歩連れの男がやって来た。
「あ、おはよーございますヨ~」
「おはよーさん。デカイ、ワンちゃんやな~」
朝の清々しい挨拶を交わし、二人の飼い主はすれ違う。
定春は、すれちがった男の……いや、男の連れていた小型犬へと熱い視線を注いでいた。
夕食後、定春専用の皿に微量のドッグフードの食べ残しがあった。
「んーー。また残してるアル」
いつもなら一粒残さずたいらげるだけに、神楽の顔に不安げな色が浮かぶ。
「銀ちゃん、響古、定春このごろ、食欲ないネ。具合が悪いのかもしれないヨ」
「ドッグフード5袋もたいらげる奴を具合が悪いとはいわねー、頭が悪いっていうんだ」
「いつもは7袋ネ」
「夏バテじゃねーの。顔にまで毛が生えてるからな」
気だるげに言う銀時に、見るからに涼しげな膝丈の浴衣を緩く着た響古が呆れた口調でつっこむ。
「犬だからね。顔に毛が生えてるのが普通だからね」
「そういえば最近、定春、ファッション雑誌ばっかり読んでるネ」
「なんで犬がファッション雑誌?」
その言葉に、響古はますます眉間の皺を深くして定春を眺める。
「定春だってオシャレしたい年頃ヨ。衣更 えしたいのかもしれないヨ」
「確かに暑そうだもんね。思いきってカットしちゃいましょうか?」
「じゃあ、私がやるネ。定春ぅ~、いい男にしてあげるからネ」
神楽の独走、発生。
うきうきとした表情で、どこからともなくハサミを取り出した。
その様子は愛犬の容態を気遣うように見えて、自分自身も楽しんでいる。
翌日、またしても神楽の口から心配そうな声音が漏れた。
「んーー。また残してるアル」
その視線の先には、前日と同じく食べ残した餌。
「銀ちゃん、響古、やっぱり定春食欲ないネ。具合悪いんだヨ、きっと」
そして定春は――神楽によって頭と手足の毛を刈り上げられていた。
毛をカットしてキレイに整えるトリミングのようなものだが、バリカンで見事に刈られている。
「お前が、とんでもねーヘアースタイルに刈るからだろ。落ちこんでんじゃねーの?」
「そんなことないヨ。カッコイイヨ~定春。『クールビズ』ネ」
「そんなプロレスラーみたいな髪型した犬、見たことないわ」
平静を保とうとしてはいるが、自制しきれず諦念が滲み出ている。
そんな雰囲気でつぶやくと、銀時がキリッと表情を引き締めて響古に向き直る。
「響古、俺はどんな髪型のお前でも愛してるから。ポニーテールも勿論だが、バレッタでまとめ上げた髪型も似合ってるぞ。特にその髪からチラチラと見えるうなじがいい」
「アンタがあんな髪型になった日にはあたしが介錯してあげる」
表情一つ変えることなく放たれた言葉に、銀時はがっくりとうなだれて呻く。
「え、死ななきゃいけねーの?そんな俺でも愛せって」
「…そーね。初めから銀の外見なんか、気にしたことないもんね」
肩をすくめて皮肉げな笑みを浮かべる響古を前に、銀時は諦めることなく歯の浮いた台詞を言わせようとする。
「そーゆうのじゃなくてさ、例えば『銀時がのっぺらぼうでもハゲでも、その内面が変わらないのなら、ずっと愛してる』的な…」
「たとえ銀時の顔がよくならなくても今のままでも、あたしは別に構わないから気にしないで」
響古はにっこり笑って言った。
それはとても可憐で印象的な、さすがと賞賛すべき華やかな笑顔だった。
しかし銀時には、妙に悪魔的な笑みに思えてしまった。
「おかしい!おかしいから!逆だろ!!なんかすでにダメからのスタートなんだよ。それじゃまるで、今の時点ですでに俺の顔が悪いみてーじゃねーか!」
「そーでしょ」
「あっ、そっか…ってコラァァァ!!そこはお前だけでもカッコイイと言えェェェ!!」
「ハイハイ」
なんとしてでもかっこいいと言わせたい銀時の熱意を、響古は適当な返事で受け流す。
「はい、銀時カッコイイって言いなさい」
「カッコイイカッコイイ……ウソだけど」
「ウソだけどは余計」
「正直でごめん」
どこまでも冷たい恋人に、銀時は急に疲労が走り肩を落とす。
その反応に満足し、響古はけらけらと笑った。
全く甘い雰囲気を感じさせない二人だが、幼馴染みで恋人同士、長い付き合い。
頭に『熟年』とかついたりしそうな雰囲気である。
ここに、二人だけのラブラブフィールドが展開されました。
これを突破できるのは空気の読めない人間と……。
「銀ちゃんの顔なんかどうでもいいアル」
辛辣な言葉を浴びせるチャイナ少女くらいですよ。
神楽ちゃん、フィールド突破お疲れ様です。
「そういえば最近、定春、マッチョ雑誌ばかり読んでるネ」
ラブラブフィールドを突破されてしまってはさすがに無視できないので、二人は神楽の話を聞く。
「今度はマッチョ!?」
「夏にむけてプロレスラーみたいに肉体改造したいのかもしれないヨ」
「もう改造されたよーなもんだろ。お前という狂科学者 に」
銀時のツッコミなど聞く耳持たず、神楽は頭を悩ませ続ける。
「プロレスラーかァ……」
「いや…やんなくていいって」
「どうしたらいいんだろ」
「どーもしなくてもいいって」
なんと、常識人の新八までこんなことを言い出す始末である。
「新八、アンタ唯一のツッコミでしょーが。何、神楽と一緒に考えこんでんのよ」
神妙な表情で考え込む新八と神楽に、二人は嫌な予感を覚えた。
「んーー。また残してるアル」
三日連続でエサを食べ残した定春。
元気のない彼の顔は覆面レスラーと変貌し、異様な威圧感を放っている。
「ダメなのはお前らだろ」
これまで傍観を続けていた銀時も、ここへきて頭を抱える。
それ全て、二人の心配という名の暴走を目の当たりにしたからだ。
響古も言葉が出ないようで、美貌を痙攣させている。
「なんで犬が犬のマスク被ってんだよ、チャーハンの上にチャーハンをかけて食べてるような暴挙だよ、コレは!」
「チャーハンはチャーハンでも、五目チャーハンの上に海鮮チャーハンよ!」
よくわからない例えで、犬のマスクをかぶる定春の姿に違和感を覚える二人。
「犬じゃないネ『ウルフザマスク』ネ。得意技は毒霧ネ」
悪役レスラーのような名前を命名し、得意技までも決める。
「オイオイオイオイ、毒霧出てるぞォ!!新八ぃ、雑巾もってこい雑巾!」
定春がその場で漏らしてしまい、銀時は慌てて雑巾を持ってくるよう大声を出す。
「ウルフザマスク、どうしちゃったアルか?元気だしてヨォ」
元気を出して、と愛犬に声をかけるが、雑誌を読みふけっている。
「ダメアル、最近はホットドッグプレスにご執心ネ。『この夏、あの娘をおとしちゃえよ』特集ネ」
バブル期には、クリスマスやバレンタインデーなどのイベントを中心とした若者のデートマニュアルとして発行された雑誌。
気になる女の子をおとす方法と書かれた記事に目を通す定春の姿を見て、ようやく合点がいった。
「……オイ、コイツ、ひょっとして」
「――発情期?」
銀時と響古は顔を見合わせる。
「どうもそーらしいな」
「アンタと一緒ね」
「…犬と一緒にすんな」
眉をしかめて彼女の方を見ると、バレッタでまとめた髪を掻き上げ挑発的に漆黒の瞳を細めていた。
「そんなこと言ったら定春がかわいそうね。アンタは年中発情期だからね」
「俺は犬以下か。俺は響古にしか発情しませーん」
えっへん、と腰に手を当てて胸を張る。
「自慢するな…」
銀時の得意げな笑顔につっこむ気力すら失せた響古は冷ややかに言い放った。
のどかな昼下がりの公園。
そこには多くの女性達が愛犬を抱えながら世間話に花を咲かせていた。
「アラ、しばらく見ないうちにまた大きくなって~。今、何歳ですの?」
「2歳よォ。も~、手のかかる子で」
「この間、大会で優勝したっておききしましたわよ」
「ホホホ、違うのよ。アレは、ほんのまぐれで。ねっ、ベディちゃん?」
会話の内容から、既におわかりいただけるだろうか。
犬の遊び場であると同時に、この社交場は愛犬家の自慢話の場なのであった。
初めて参加した人達は遠慮がちで遠巻きに眺める。
「まァ、カワイイわんこちゃんばかり」
「どの子と仲良くなろうか、めろんちゃん…」
そこに猛然と突入したのは、神楽を乗せたウルフザマスク――つまりは、プロレスラーばりの仮装をされた定春である。
「ギャアアアアア!!化け物ォォォ!!」
和やかな雰囲気だった社交場には悲鳴が溢れ、逃げ惑う愛犬家達。
「ワォ。大騒ぎになってるけど」
気合いが入り過ぎて周囲をパニックにさせる飼い犬の後ろ姿を見て嘆息する。
「要するに、何この会合、犬のねるとんパーティ?」
結婚または交際を希望する男女が一堂に会してカップル成立を目指すパーティーを引き合いに出す銀時。
お見合いパーティーという言葉を口にすると、新八は解説を加える。
「家犬って出会いの場があんまりないでしょ、犬の社交界みたいなもんです。子犬を生ませたい人とかは、ここで愛犬のパートナーを見つけたりするんです」
「ウチの発情犬に見合う相手はいるのかね?」
「あの見た目じゃ…犬がっていうより、飼い主から反感買いそうねェ」
二人の間に漂う空気を読んだのか、新八は苦笑しながらもせめて友達くらいは……とつぶやく。
「…無理っぽいですけど友達位は、つくってあげたいですね」
さすがに規格外の大きさである定春のお嫁さんを選ぶのは無理だろう。
そう思いながらも、新八は談笑する愛犬家の光景を見て補足する。
「でも実際はペットそっちのけで愛犬家が、おしゃべりするだけの場合も多いらしいですからね。ペット自慢したり。あっ、中には男女の出会いを求めてくる人もいるらしいですよ」
これを聞いた銀時は皮肉げに言い放つ。
「ペットをエサにマダムが愛人漁りってか。どっちの見合いだかわかりゃしねェ」
なんて話しながら歩いていると、一人の男が婦人を誘っていた。
「あっ、奥さん」
交通量の少ない歩道を横断して、公園の並木道を歩く。
そんな時、不意に定春が立ち止まった。
「ん?定春、どうしたネ。ウンコアルか?」
突然立ち止まり、ついには座り込む定春の様子を訝しむ神楽。
すると、前方から散歩連れの男がやって来た。
「あ、おはよーございますヨ~」
「おはよーさん。デカイ、ワンちゃんやな~」
朝の清々しい挨拶を交わし、二人の飼い主はすれ違う。
定春は、すれちがった男の……いや、男の連れていた小型犬へと熱い視線を注いでいた。
夕食後、定春専用の皿に微量のドッグフードの食べ残しがあった。
「んーー。また残してるアル」
いつもなら一粒残さずたいらげるだけに、神楽の顔に不安げな色が浮かぶ。
「銀ちゃん、響古、定春このごろ、食欲ないネ。具合が悪いのかもしれないヨ」
「ドッグフード5袋もたいらげる奴を具合が悪いとはいわねー、頭が悪いっていうんだ」
「いつもは7袋ネ」
「夏バテじゃねーの。顔にまで毛が生えてるからな」
気だるげに言う銀時に、見るからに涼しげな膝丈の浴衣を緩く着た響古が呆れた口調でつっこむ。
「犬だからね。顔に毛が生えてるのが普通だからね」
「そういえば最近、定春、ファッション雑誌ばっかり読んでるネ」
「なんで犬がファッション雑誌?」
その言葉に、響古はますます眉間の皺を深くして定春を眺める。
「定春だってオシャレしたい年頃ヨ。
「確かに暑そうだもんね。思いきってカットしちゃいましょうか?」
「じゃあ、私がやるネ。定春ぅ~、いい男にしてあげるからネ」
神楽の独走、発生。
うきうきとした表情で、どこからともなくハサミを取り出した。
その様子は愛犬の容態を気遣うように見えて、自分自身も楽しんでいる。
翌日、またしても神楽の口から心配そうな声音が漏れた。
「んーー。また残してるアル」
その視線の先には、前日と同じく食べ残した餌。
「銀ちゃん、響古、やっぱり定春食欲ないネ。具合悪いんだヨ、きっと」
そして定春は――神楽によって頭と手足の毛を刈り上げられていた。
毛をカットしてキレイに整えるトリミングのようなものだが、バリカンで見事に刈られている。
「お前が、とんでもねーヘアースタイルに刈るからだろ。落ちこんでんじゃねーの?」
「そんなことないヨ。カッコイイヨ~定春。『クールビズ』ネ」
「そんなプロレスラーみたいな髪型した犬、見たことないわ」
平静を保とうとしてはいるが、自制しきれず諦念が滲み出ている。
そんな雰囲気でつぶやくと、銀時がキリッと表情を引き締めて響古に向き直る。
「響古、俺はどんな髪型のお前でも愛してるから。ポニーテールも勿論だが、バレッタでまとめ上げた髪型も似合ってるぞ。特にその髪からチラチラと見えるうなじがいい」
「アンタがあんな髪型になった日にはあたしが介錯してあげる」
表情一つ変えることなく放たれた言葉に、銀時はがっくりとうなだれて呻く。
「え、死ななきゃいけねーの?そんな俺でも愛せって」
「…そーね。初めから銀の外見なんか、気にしたことないもんね」
肩をすくめて皮肉げな笑みを浮かべる響古を前に、銀時は諦めることなく歯の浮いた台詞を言わせようとする。
「そーゆうのじゃなくてさ、例えば『銀時がのっぺらぼうでもハゲでも、その内面が変わらないのなら、ずっと愛してる』的な…」
「たとえ銀時の顔がよくならなくても今のままでも、あたしは別に構わないから気にしないで」
響古はにっこり笑って言った。
それはとても可憐で印象的な、さすがと賞賛すべき華やかな笑顔だった。
しかし銀時には、妙に悪魔的な笑みに思えてしまった。
「おかしい!おかしいから!逆だろ!!なんかすでにダメからのスタートなんだよ。それじゃまるで、今の時点ですでに俺の顔が悪いみてーじゃねーか!」
「そーでしょ」
「あっ、そっか…ってコラァァァ!!そこはお前だけでもカッコイイと言えェェェ!!」
「ハイハイ」
なんとしてでもかっこいいと言わせたい銀時の熱意を、響古は適当な返事で受け流す。
「はい、銀時カッコイイって言いなさい」
「カッコイイカッコイイ……ウソだけど」
「ウソだけどは余計」
「正直でごめん」
どこまでも冷たい恋人に、銀時は急に疲労が走り肩を落とす。
その反応に満足し、響古はけらけらと笑った。
全く甘い雰囲気を感じさせない二人だが、幼馴染みで恋人同士、長い付き合い。
頭に『熟年』とかついたりしそうな雰囲気である。
ここに、二人だけのラブラブフィールドが展開されました。
これを突破できるのは空気の読めない人間と……。
「銀ちゃんの顔なんかどうでもいいアル」
辛辣な言葉を浴びせるチャイナ少女くらいですよ。
神楽ちゃん、フィールド突破お疲れ様です。
「そういえば最近、定春、マッチョ雑誌ばかり読んでるネ」
ラブラブフィールドを突破されてしまってはさすがに無視できないので、二人は神楽の話を聞く。
「今度はマッチョ!?」
「夏にむけてプロレスラーみたいに肉体改造したいのかもしれないヨ」
「もう改造されたよーなもんだろ。お前という
銀時のツッコミなど聞く耳持たず、神楽は頭を悩ませ続ける。
「プロレスラーかァ……」
「いや…やんなくていいって」
「どうしたらいいんだろ」
「どーもしなくてもいいって」
なんと、常識人の新八までこんなことを言い出す始末である。
「新八、アンタ唯一のツッコミでしょーが。何、神楽と一緒に考えこんでんのよ」
神妙な表情で考え込む新八と神楽に、二人は嫌な予感を覚えた。
「んーー。また残してるアル」
三日連続でエサを食べ残した定春。
元気のない彼の顔は覆面レスラーと変貌し、異様な威圧感を放っている。
「ダメなのはお前らだろ」
これまで傍観を続けていた銀時も、ここへきて頭を抱える。
それ全て、二人の心配という名の暴走を目の当たりにしたからだ。
響古も言葉が出ないようで、美貌を痙攣させている。
「なんで犬が犬のマスク被ってんだよ、チャーハンの上にチャーハンをかけて食べてるような暴挙だよ、コレは!」
「チャーハンはチャーハンでも、五目チャーハンの上に海鮮チャーハンよ!」
よくわからない例えで、犬のマスクをかぶる定春の姿に違和感を覚える二人。
「犬じゃないネ『ウルフザマスク』ネ。得意技は毒霧ネ」
悪役レスラーのような名前を命名し、得意技までも決める。
「オイオイオイオイ、毒霧出てるぞォ!!新八ぃ、雑巾もってこい雑巾!」
定春がその場で漏らしてしまい、銀時は慌てて雑巾を持ってくるよう大声を出す。
「ウルフザマスク、どうしちゃったアルか?元気だしてヨォ」
元気を出して、と愛犬に声をかけるが、雑誌を読みふけっている。
「ダメアル、最近はホットドッグプレスにご執心ネ。『この夏、あの娘をおとしちゃえよ』特集ネ」
バブル期には、クリスマスやバレンタインデーなどのイベントを中心とした若者のデートマニュアルとして発行された雑誌。
気になる女の子をおとす方法と書かれた記事に目を通す定春の姿を見て、ようやく合点がいった。
「……オイ、コイツ、ひょっとして」
「――発情期?」
銀時と響古は顔を見合わせる。
「どうもそーらしいな」
「アンタと一緒ね」
「…犬と一緒にすんな」
眉をしかめて彼女の方を見ると、バレッタでまとめた髪を掻き上げ挑発的に漆黒の瞳を細めていた。
「そんなこと言ったら定春がかわいそうね。アンタは年中発情期だからね」
「俺は犬以下か。俺は響古にしか発情しませーん」
えっへん、と腰に手を当てて胸を張る。
「自慢するな…」
銀時の得意げな笑顔につっこむ気力すら失せた響古は冷ややかに言い放った。
のどかな昼下がりの公園。
そこには多くの女性達が愛犬を抱えながら世間話に花を咲かせていた。
「アラ、しばらく見ないうちにまた大きくなって~。今、何歳ですの?」
「2歳よォ。も~、手のかかる子で」
「この間、大会で優勝したっておききしましたわよ」
「ホホホ、違うのよ。アレは、ほんのまぐれで。ねっ、ベディちゃん?」
会話の内容から、既におわかりいただけるだろうか。
犬の遊び場であると同時に、この社交場は愛犬家の自慢話の場なのであった。
初めて参加した人達は遠慮がちで遠巻きに眺める。
「まァ、カワイイわんこちゃんばかり」
「どの子と仲良くなろうか、めろんちゃん…」
そこに猛然と突入したのは、神楽を乗せたウルフザマスク――つまりは、プロレスラーばりの仮装をされた定春である。
「ギャアアアアア!!化け物ォォォ!!」
和やかな雰囲気だった社交場には悲鳴が溢れ、逃げ惑う愛犬家達。
「ワォ。大騒ぎになってるけど」
気合いが入り過ぎて周囲をパニックにさせる飼い犬の後ろ姿を見て嘆息する。
「要するに、何この会合、犬のねるとんパーティ?」
結婚または交際を希望する男女が一堂に会してカップル成立を目指すパーティーを引き合いに出す銀時。
お見合いパーティーという言葉を口にすると、新八は解説を加える。
「家犬って出会いの場があんまりないでしょ、犬の社交界みたいなもんです。子犬を生ませたい人とかは、ここで愛犬のパートナーを見つけたりするんです」
「ウチの発情犬に見合う相手はいるのかね?」
「あの見た目じゃ…犬がっていうより、飼い主から反感買いそうねェ」
二人の間に漂う空気を読んだのか、新八は苦笑しながらもせめて友達くらいは……とつぶやく。
「…無理っぽいですけど友達位は、つくってあげたいですね」
さすがに規格外の大きさである定春のお嫁さんを選ぶのは無理だろう。
そう思いながらも、新八は談笑する愛犬家の光景を見て補足する。
「でも実際はペットそっちのけで愛犬家が、おしゃべりするだけの場合も多いらしいですからね。ペット自慢したり。あっ、中には男女の出会いを求めてくる人もいるらしいですよ」
これを聞いた銀時は皮肉げに言い放つ。
「ペットをエサにマダムが愛人漁りってか。どっちの見合いだかわかりゃしねェ」
なんて話しながら歩いていると、一人の男が婦人を誘っていた。
「あっ、奥さん」