バブ114
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「だから言っただろーが」
灰皿に煙草を押しつけ、早乙女は腕を組んで肩をすくめる。
ようやく元の身体に戻ることができた男鹿は響古と共にスーパーミルクタイムの副作用について、この教師に訊ねていた。
「あの技はあまり使うなって――…そもそも、技なんて呼べる代物じゃねーんだよ、あれは…」
第三者が聞けば半端なく奇怪な単語の数々に困惑してしまうだろうが、幸いにも彼らの会話を聞いている者は周囲に誰もいない。
職員室には男鹿と響古、早乙女の三人だけで完全に人払いがされていた。
「使用後に、半日も入れ替わったのがいい証拠だ。つーか、それだけで済んだのはラッキーだったんだぞ?思い出してみろよ」
「あぁ?」
「どーいう事?」
「お前が、最初にベル坊のミルクを飲んじまった時の事」
途端、男鹿はやや憮然とした表情になり、響古は苦笑いを浮かべる。
「あー…アレねー…」
「うっ。実はビミョーに憶えてない」
大きな羽を生やして変貌した分身の羽をむしって見事、大人しくさせた二人はベル坊のミルクをつくっていた。
お湯が沸くのを待つ間、しばらくベル坊と分身の遊び相手となる。
お湯が沸騰し、少し冷まして哺乳瓶に注ぐ。
「辰巳~?」
声をかけられ、顔を向けると、響古が出来上がった哺乳瓶を手にこちらを見ていた。
「ん?――ん」
「ん♪」
右手でベル坊をあやしながら左手を出すと、笑顔で応えて哺乳瓶を渡す響古。
哺乳瓶を受け取り、男鹿は感謝の意を込めてフッと笑うと響古は頬を赤く染め、恍惚とした表情になった。
「ーーん」
「ーーんんっ!!」
その様子をじっと見つめる二人のベル坊。
これは別に二人の阿吽の呼吸が合いすぎて驚いているのではなく、哺乳瓶に注がれている。
「おーし、ベル坊。ちょっと待てよー。今、ミルク冷ましてっからなー」
「アー」
哺乳瓶を頬に当てて温度を確かめていると、分身が近寄ってきた。
「ん?」
「₴₶」
「ブラックベル坊も飲みたいの?」
「∈」
響古が目をまばたきさせて聞くと、分身はコクコクと頷く。
「どうする、辰巳?」
待ちくたびれたベル坊がむぅっと頬を膨らませて急かす。
「ブーダッ。ブーダッ」
すると、何かを思いついたらしく、じーっと響古の胸部を見つめた。
袴の裾を引っ張って別のミルクを要求する。
「アーダ。アーダ」
「出ないから!!まだ出ないからっ!!」
台詞だけなら大した意味はなかったが、そう言いながら顔を真っ赤にして胸を隠していたりするものだから、男鹿は固まってしまった。
「……………」
うらやまけしからんすぎるでしょう。
それにしても出ないって、何が出ないんですか!!
もっと具体的に!!
はっ!?
…………すいません、取り乱してしまいました。
居心地の悪い沈黙が二人を覆う。
白装束越しでもはっきりわかる胸を見て意識してしまい、男鹿は顔を微かに赤らめた。
すると同じことを考えたのか、響古も恥ずかしげにうつむいてしまった。
気まずい空気を振り払うべく、男鹿は嘆息する。
「しゃーねーな」
ベル坊に飲ませるはずだったミルクを分身に差し出した。
「つーか、お前、ハラへんのか?」
「∞∫」
お腹が空いて苛立ちを募らせたベル坊が男鹿の手から無理矢理、哺乳瓶を奪い取った。
「ダブッ」
「「あっ」」
二人が声をかける間もなく、そのまま逃げ去る。
「ベル坊……!!」
「どこ行くの!?」
怪しく目を光らせる分身は思い切りジャンプした。
「おお!?」
「飛んだ!?」
ベル坊の頭上を飛び越え、踏み切った時点から十数メートルほど跳んでみせた。
「ニョーッ!!!」
ベル坊は後方を振り返る。
追いかけてくる分身に悲鳴をあげ、おしゃぶりを口から外して急いでミルクを飲む。
「アウ、アウ」
ゆっくりミルクを飲む暇もなく、山間に鈍い打撃音が響いた。
「ԉQ」
急上昇からの急降下に伴った分身がベル坊に突貫し、地面に転がった哺乳瓶へと手を伸ばす。
「フミーッ!!」
「ƱƳƤ」
勢いよく起き上がったベル坊は怒り、分身へと飛びつく。
取っ組み合いの喧嘩を止めたのは、こめかみに青筋を立てた男鹿のげんこつ。
「ケンカ、すんじゃねーよっ!!」
赤ん坊同士の喧嘩を止めた男鹿は哺乳瓶を取り上げ、厳しく叱りつける。
「いいか、お前らっ。仲良く飲まねーならオレが飲んじまうぞっ!!オラッ、二人共、おすわりっ!!」
「Ԡ」
「アイッ」
男鹿に怒られた二人のベル坊は言われた通りに正座する。
すると、ベル坊が分身を肘で小突いた。
すぐさま非難の眼差しを向けるが、白々しく目線を逸らす。
やられて黙ってるほど大人しい性格でもないので、分身は仕返しとしてベル坊の太ももをつねる。
「ខ」
「ミ"ッ」
たちまち勃発する喧嘩。
互いの両手をがっちり組んでの力比べが始まる。
「ミ"ャー~」
「ɲɐ~~」
あわわ…と響古がおろおろ戸惑う中、意を決した男鹿は哺乳瓶へと口をつけて一気飲みする。
「よぉしオレが飲むっっ!!!」
「ニ"ャーッ」
「₭~っっ」
男鹿のひどい仕打ちに、ベル坊と分身から絶叫があがる。
瞬間、彼の身体の中で魔力が脈動した。
要所を省いての二人の説明に、早乙女は頷きも返せず押し黙った。
「――てなカンジだな。その後は気がついたら三人に止められてた」
「まさか、ミルクを飲んであれほど魔力が暴走するなんて思わなかったよ……たぶん、あたしが使う"力"よりも凄まじいかも」
一息ついて正面を見れば、早乙女が二人を見て複雑な顔をしていた。
具体的には――諦めの顔に、驚きと呆れが少しずつ混ざったような。
「……お前ら、どーいう関係だ?」
「「彼氏と彼女の関係だけど?」」
「……いや、そういう話じゃなく」
分かり切った質問に対してノータイムで答えると、さらに頭が痛そうな顔になった。
「……お前らも知ってるだろうが、六騎聖とのバレー勝負以来、生徒達からは仲が良すぎるバカップルと認知されているが――普段、どういう生活してるんだ……」
話の内容は至極真っ当な生活調査なのに、妙に歯切れが悪い……と思ったところで、何を言っているか気づいた。
隣の響古も、どうやら同じ結論に至った様子。
「「ああ、そういう事。お互いの家を行き来しているけど」」
「オイオイ、ウソだろ!!高校生で同棲してるのかよ!?」
さらりと答えた二人に、頬を引きつらせながら言う早乙女。
「――っつっても、響古の実家が石矢魔より遠いからアパート借りて一人暮らしだぜ……しっかし、なんでまた急に?」
「ねー?清く正しいお付き合いしてるよねー」
『清く』はともかく『正しい』かどうかは審議の余地がある気もするが。
「……なめてたぜ。こいつらがバカップルなのはわかってはいたが、ここまで仲が良すぎるバカップルだとは……」
早乙女はげんなりと顔を歪ませ、さらには重たい溜め息を吐いた。
「………………やっぱ意識すっとんでたのか。そんなもんをよく本番で使ったもんだな」
「いやー。珍しく、アンタが傷負ってるからさ。こいつは、いけるなーと」
「――ったく。あんときゃ、止めるのに苦労したぜ」
ついぺースに呑まれかけていた早乙女は大きく息を吐いて、かろうじて教師の体面を取り戻す。
煙草を取り出し、威厳をたっぷりに意識した声を出した。
「――まぁ、いい。とにかくこれで分かったろ」
「あん?」
「これからお前らがやるべき事。その、スーパーミルクタイムを完成させる事だ」
芯に響くような低い声音で告げると、男鹿は目を見開く。
響古が素早く思考を巡らせると、先回りするかのように早乙女は続ける。
「今度はベヘモットも全軍率いて攻めてくんだろ。戦いのたんびに意識がとんでたんじゃ、話にならねー。ちゃんと制御出来るとこまで仕上げていかねーとな」
火のついた煙草の一本を、凄みの効いた口の端にくわえ取る。
「それに、強くなってるのはお前らだけじゃねぇ」
柱師団との戦闘に向けて修業しているのは二人だけではないと口にした。
東条と出馬もまた、相手が悪魔という観点で実力が自分達より遥かに格上の相手との戦いを、限界ぎりぎりまで繰り返してやっていた。
「東条と出馬。あいつらも悪魔との戦いに備えてどんどん力をつけている。うかうかしてっと――…特に男鹿、おいてかれっぞ」
男鹿の気を引き締めるように、早乙女が警告する。
――…あいつらが…。
「――…入れ替わりの副作用は?」
「あ?ありゃ、オメーが警告、無視して飲みすぎたせいだろ。そんなトコまで面倒みれっか。自分の彼女にでも……」
「ぜ、ぜぜぜぜ絶対ムリ!!あの時は相当、なりふり構わずだったし、またやれって言われてもムリだから!!」
突然、響古が椅子から立ち上がって叫んだ。
顔を真っ赤にして肩で息をしながらぷるぷる震えている。
魔力の昂ぶりを和合の心で鎮め、様々な神秘と怪異を沈静化させる『御霊鎮め』。
いくら術をかけるとはいえ、ベル坊と唇を重ねてしまったことを思い出し赤面している響古に対し、いくら自分の身体とはいえベル坊と彼女が唇を重ねていた光景を思い出し不機嫌丸出しで舌打ちする男鹿。
「いや…まぁ、とはいえ、不測の事態は起こるもんだ。数分で戻れる程度には訓練しねーとな…」
対照的な二人の反応に困惑しつつ、早乙女は嘆息して続ける。
「――ったく、ブラックベル坊の事といい、本当、素直に動かねーやろうで泣けてくるぜ…」
「お。そーいや、あれからブラックベル坊、どーしたんだ?消えたのか?」
「あたしも気になった」
「何言ってんだ。そこにいんだろが」
机の下に視線を移すと、そこには綺麗な正座で将棋をする分身がいた。
将棋の入門書を片手に熟読し、碁盤に飴玉を、ピシャ、と置く。
「え…何してんの?」
「アー」
唖然としつつ机の下を覗き込むと、早乙女から意外な答えが返ってきた。
「将棋。おしえてんだよ」
「そーじゃなくて、なんで、こいつがここにいんの!?」
「しょーがねーだろ。お前らが倒さねーんだ。山に置いてくるわけにもいかねーし、連れて歩いてんだよ」
三人が話している間、暇つぶしとして早乙女に将棋を教えてもらった分身は早くも飽きたのか、ゴロンゴロンと床を転がる。
「「まじで!?」」
「心配すんな。オレの前じゃ大人しいもんだ」
机の下にいる分身を抱き上げ、修業の時のような凶暴性はないと説明するが、煙草を鼻にぐいぐい押しつけられ、
「たばこ、めっ」
やめなさい、とたしなめる。
「そーは見えねーけど」
すると、ベル坊が分身の姿を見つけた途端、顔を綻ばせる。
「アーダ。ダ-ブーダッ」
「∈?」
声をかけられた分身も、本体の姿を見つけた途端、早乙女から離れるや否やまっすぐに駆け寄る。
「ほらほら、こいつもベル坊に会いたがってたしな」
「そ…そーか?」
男鹿の背中から降りたベル坊は、まっすぐ駆け寄ってきた分身の一本背負いによって宙へと投げ飛ばされた。
目を白黒させるベル坊だが、ちゃんと加減はしてある。
その光景を男鹿と響古は動揺した面持ちで見ていた。
あれから、早乙女の話が終わって教室へと戻ってだけだったが、男鹿が不意に足を止めて空き教室へと入っていった。
そして、尋問が始まった。
灰皿に煙草を押しつけ、早乙女は腕を組んで肩をすくめる。
ようやく元の身体に戻ることができた男鹿は響古と共にスーパーミルクタイムの副作用について、この教師に訊ねていた。
「あの技はあまり使うなって――…そもそも、技なんて呼べる代物じゃねーんだよ、あれは…」
第三者が聞けば半端なく奇怪な単語の数々に困惑してしまうだろうが、幸いにも彼らの会話を聞いている者は周囲に誰もいない。
職員室には男鹿と響古、早乙女の三人だけで完全に人払いがされていた。
「使用後に、半日も入れ替わったのがいい証拠だ。つーか、それだけで済んだのはラッキーだったんだぞ?思い出してみろよ」
「あぁ?」
「どーいう事?」
「お前が、最初にベル坊のミルクを飲んじまった時の事」
途端、男鹿はやや憮然とした表情になり、響古は苦笑いを浮かべる。
「あー…アレねー…」
「うっ。実はビミョーに憶えてない」
大きな羽を生やして変貌した分身の羽をむしって見事、大人しくさせた二人はベル坊のミルクをつくっていた。
お湯が沸くのを待つ間、しばらくベル坊と分身の遊び相手となる。
お湯が沸騰し、少し冷まして哺乳瓶に注ぐ。
「辰巳~?」
声をかけられ、顔を向けると、響古が出来上がった哺乳瓶を手にこちらを見ていた。
「ん?――ん」
「ん♪」
右手でベル坊をあやしながら左手を出すと、笑顔で応えて哺乳瓶を渡す響古。
哺乳瓶を受け取り、男鹿は感謝の意を込めてフッと笑うと響古は頬を赤く染め、恍惚とした表情になった。
「ーーん」
「ーーんんっ!!」
その様子をじっと見つめる二人のベル坊。
これは別に二人の阿吽の呼吸が合いすぎて驚いているのではなく、哺乳瓶に注がれている。
「おーし、ベル坊。ちょっと待てよー。今、ミルク冷ましてっからなー」
「アー」
哺乳瓶を頬に当てて温度を確かめていると、分身が近寄ってきた。
「ん?」
「₴₶」
「ブラックベル坊も飲みたいの?」
「∈」
響古が目をまばたきさせて聞くと、分身はコクコクと頷く。
「どうする、辰巳?」
待ちくたびれたベル坊がむぅっと頬を膨らませて急かす。
「ブーダッ。ブーダッ」
すると、何かを思いついたらしく、じーっと響古の胸部を見つめた。
袴の裾を引っ張って別のミルクを要求する。
「アーダ。アーダ」
「出ないから!!まだ出ないからっ!!」
台詞だけなら大した意味はなかったが、そう言いながら顔を真っ赤にして胸を隠していたりするものだから、男鹿は固まってしまった。
「……………」
うらやまけしからんすぎるでしょう。
それにしても出ないって、何が出ないんですか!!
もっと具体的に!!
はっ!?
…………すいません、取り乱してしまいました。
居心地の悪い沈黙が二人を覆う。
白装束越しでもはっきりわかる胸を見て意識してしまい、男鹿は顔を微かに赤らめた。
すると同じことを考えたのか、響古も恥ずかしげにうつむいてしまった。
気まずい空気を振り払うべく、男鹿は嘆息する。
「しゃーねーな」
ベル坊に飲ませるはずだったミルクを分身に差し出した。
「つーか、お前、ハラへんのか?」
「∞∫」
お腹が空いて苛立ちを募らせたベル坊が男鹿の手から無理矢理、哺乳瓶を奪い取った。
「ダブッ」
「「あっ」」
二人が声をかける間もなく、そのまま逃げ去る。
「ベル坊……!!」
「どこ行くの!?」
怪しく目を光らせる分身は思い切りジャンプした。
「おお!?」
「飛んだ!?」
ベル坊の頭上を飛び越え、踏み切った時点から十数メートルほど跳んでみせた。
「ニョーッ!!!」
ベル坊は後方を振り返る。
追いかけてくる分身に悲鳴をあげ、おしゃぶりを口から外して急いでミルクを飲む。
「アウ、アウ」
ゆっくりミルクを飲む暇もなく、山間に鈍い打撃音が響いた。
「ԉQ」
急上昇からの急降下に伴った分身がベル坊に突貫し、地面に転がった哺乳瓶へと手を伸ばす。
「フミーッ!!」
「ƱƳƤ」
勢いよく起き上がったベル坊は怒り、分身へと飛びつく。
取っ組み合いの喧嘩を止めたのは、こめかみに青筋を立てた男鹿のげんこつ。
「ケンカ、すんじゃねーよっ!!」
赤ん坊同士の喧嘩を止めた男鹿は哺乳瓶を取り上げ、厳しく叱りつける。
「いいか、お前らっ。仲良く飲まねーならオレが飲んじまうぞっ!!オラッ、二人共、おすわりっ!!」
「Ԡ」
「アイッ」
男鹿に怒られた二人のベル坊は言われた通りに正座する。
すると、ベル坊が分身を肘で小突いた。
すぐさま非難の眼差しを向けるが、白々しく目線を逸らす。
やられて黙ってるほど大人しい性格でもないので、分身は仕返しとしてベル坊の太ももをつねる。
「ខ」
「ミ"ッ」
たちまち勃発する喧嘩。
互いの両手をがっちり組んでの力比べが始まる。
「ミ"ャー~」
「ɲɐ~~」
あわわ…と響古がおろおろ戸惑う中、意を決した男鹿は哺乳瓶へと口をつけて一気飲みする。
「よぉしオレが飲むっっ!!!」
「ニ"ャーッ」
「₭~っっ」
男鹿のひどい仕打ちに、ベル坊と分身から絶叫があがる。
瞬間、彼の身体の中で魔力が脈動した。
要所を省いての二人の説明に、早乙女は頷きも返せず押し黙った。
「――てなカンジだな。その後は気がついたら三人に止められてた」
「まさか、ミルクを飲んであれほど魔力が暴走するなんて思わなかったよ……たぶん、あたしが使う"力"よりも凄まじいかも」
一息ついて正面を見れば、早乙女が二人を見て複雑な顔をしていた。
具体的には――諦めの顔に、驚きと呆れが少しずつ混ざったような。
「……お前ら、どーいう関係だ?」
「「彼氏と彼女の関係だけど?」」
「……いや、そういう話じゃなく」
分かり切った質問に対してノータイムで答えると、さらに頭が痛そうな顔になった。
「……お前らも知ってるだろうが、六騎聖とのバレー勝負以来、生徒達からは仲が良すぎるバカップルと認知されているが――普段、どういう生活してるんだ……」
話の内容は至極真っ当な生活調査なのに、妙に歯切れが悪い……と思ったところで、何を言っているか気づいた。
隣の響古も、どうやら同じ結論に至った様子。
「「ああ、そういう事。お互いの家を行き来しているけど」」
「オイオイ、ウソだろ!!高校生で同棲してるのかよ!?」
さらりと答えた二人に、頬を引きつらせながら言う早乙女。
「――っつっても、響古の実家が石矢魔より遠いからアパート借りて一人暮らしだぜ……しっかし、なんでまた急に?」
「ねー?清く正しいお付き合いしてるよねー」
『清く』はともかく『正しい』かどうかは審議の余地がある気もするが。
「……なめてたぜ。こいつらがバカップルなのはわかってはいたが、ここまで仲が良すぎるバカップルだとは……」
早乙女はげんなりと顔を歪ませ、さらには重たい溜め息を吐いた。
「………………やっぱ意識すっとんでたのか。そんなもんをよく本番で使ったもんだな」
「いやー。珍しく、アンタが傷負ってるからさ。こいつは、いけるなーと」
「――ったく。あんときゃ、止めるのに苦労したぜ」
ついぺースに呑まれかけていた早乙女は大きく息を吐いて、かろうじて教師の体面を取り戻す。
煙草を取り出し、威厳をたっぷりに意識した声を出した。
「――まぁ、いい。とにかくこれで分かったろ」
「あん?」
「これからお前らがやるべき事。その、スーパーミルクタイムを完成させる事だ」
芯に響くような低い声音で告げると、男鹿は目を見開く。
響古が素早く思考を巡らせると、先回りするかのように早乙女は続ける。
「今度はベヘモットも全軍率いて攻めてくんだろ。戦いのたんびに意識がとんでたんじゃ、話にならねー。ちゃんと制御出来るとこまで仕上げていかねーとな」
火のついた煙草の一本を、凄みの効いた口の端にくわえ取る。
「それに、強くなってるのはお前らだけじゃねぇ」
柱師団との戦闘に向けて修業しているのは二人だけではないと口にした。
東条と出馬もまた、相手が悪魔という観点で実力が自分達より遥かに格上の相手との戦いを、限界ぎりぎりまで繰り返してやっていた。
「東条と出馬。あいつらも悪魔との戦いに備えてどんどん力をつけている。うかうかしてっと――…特に男鹿、おいてかれっぞ」
男鹿の気を引き締めるように、早乙女が警告する。
――…あいつらが…。
「――…入れ替わりの副作用は?」
「あ?ありゃ、オメーが警告、無視して飲みすぎたせいだろ。そんなトコまで面倒みれっか。自分の彼女にでも……」
「ぜ、ぜぜぜぜ絶対ムリ!!あの時は相当、なりふり構わずだったし、またやれって言われてもムリだから!!」
突然、響古が椅子から立ち上がって叫んだ。
顔を真っ赤にして肩で息をしながらぷるぷる震えている。
魔力の昂ぶりを和合の心で鎮め、様々な神秘と怪異を沈静化させる『御霊鎮め』。
いくら術をかけるとはいえ、ベル坊と唇を重ねてしまったことを思い出し赤面している響古に対し、いくら自分の身体とはいえベル坊と彼女が唇を重ねていた光景を思い出し不機嫌丸出しで舌打ちする男鹿。
「いや…まぁ、とはいえ、不測の事態は起こるもんだ。数分で戻れる程度には訓練しねーとな…」
対照的な二人の反応に困惑しつつ、早乙女は嘆息して続ける。
「――ったく、ブラックベル坊の事といい、本当、素直に動かねーやろうで泣けてくるぜ…」
「お。そーいや、あれからブラックベル坊、どーしたんだ?消えたのか?」
「あたしも気になった」
「何言ってんだ。そこにいんだろが」
机の下に視線を移すと、そこには綺麗な正座で将棋をする分身がいた。
将棋の入門書を片手に熟読し、碁盤に飴玉を、ピシャ、と置く。
「え…何してんの?」
「アー」
唖然としつつ机の下を覗き込むと、早乙女から意外な答えが返ってきた。
「将棋。おしえてんだよ」
「そーじゃなくて、なんで、こいつがここにいんの!?」
「しょーがねーだろ。お前らが倒さねーんだ。山に置いてくるわけにもいかねーし、連れて歩いてんだよ」
三人が話している間、暇つぶしとして早乙女に将棋を教えてもらった分身は早くも飽きたのか、ゴロンゴロンと床を転がる。
「「まじで!?」」
「心配すんな。オレの前じゃ大人しいもんだ」
机の下にいる分身を抱き上げ、修業の時のような凶暴性はないと説明するが、煙草を鼻にぐいぐい押しつけられ、
「たばこ、めっ」
やめなさい、とたしなめる。
「そーは見えねーけど」
すると、ベル坊が分身の姿を見つけた途端、顔を綻ばせる。
「アーダ。ダ-ブーダッ」
「∈?」
声をかけられた分身も、本体の姿を見つけた途端、早乙女から離れるや否やまっすぐに駆け寄る。
「ほらほら、こいつもベル坊に会いたがってたしな」
「そ…そーか?」
男鹿の背中から降りたベル坊は、まっすぐ駆け寄ってきた分身の一本背負いによって宙へと投げ飛ばされた。
目を白黒させるベル坊だが、ちゃんと加減はしてある。
その光景を男鹿と響古は動揺した面持ちで見ていた。
あれから、早乙女の話が終わって教室へと戻ってだけだったが、男鹿が不意に足を止めて空き教室へと入っていった。
そして、尋問が始まった。