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――前回までの、あらすじ。
――合体した男鹿坊の超必殺技により、姫川先輩の「こっから上、全部オレの部屋だ」とか言ってた部分がきれいさっぱり爆発した。
大魔王の必殺技によって、姫川が所有する高層マンションの一部が崩壊、焔王とのゲーム勝負に挑んでいた古市達も巻き込まれてしまった。
――なんだか、すっきりしたとは口がさけても言えないが、まぁ、それはそれとして。
――こっちはもっと大変な事に。
そして、瓦礫からラミアをかばった古市。
二人が折り重なる光景を焔王に見られてしまう。
「全面戦争じゃあっっ!!!」
――なっとるがですよ…。
怒りの矛先が自分へと向かれ、さらには標的にされて、困惑するしかなかった。
その場から素早く離れるように、ヒルダはラミアを、アランドロンは古市を抱えて飛び上がる。
「響古っ!!」
古市の声が届く時には既に響古は急発進した。
マンションの屋上に陣取る少年に憑依した魔王の末子に向けて突き進む。
ベル坊は己に向かってくるちっぽけな人間にゆるりと首を巡らせ、一瞥する。
瞬間、その周囲に光の弾が無数に生まれ、一斉に飛び出した。
先の戦いでナーガが見せた魔力の塊、その十倍はあろうかという弾数だった。
「話してわからない相手は、とりあえずぶん殴って言う事きかす!!」
もはや塊、というより満天をふさぐ流星群のような攻撃が、それぞれ複雑な軌道を描いて絡み合い、殺到する。
響古はまず鋭い螺旋で、次に一直線に突き抜けてこれをかわし、浮遊するビルの残骸を器用に飛び跳ねる。
速度は全く落ちない。
むしろ加速し続けていた。
流星群はその後を追ってビルの残骸に群がる。
いくつかが当たって爆発し、破片を周囲に撒き散らした。
その破片に他の弾が誘爆を起こし、残骸を連鎖的に砕いていく。
身体中に破片がいくつも当たるが、そんなの気にしていられない。
「響古!」
「古市殿!!あまり暴れては…あなたの方が危ないですぞ!」
「オレなんかより響古がもっと危ない!!」
湧き上がる噴煙さえ純白に染めて、また次の弾幕が前からくる。
やり過ごした弾も、彼女を周囲から押し包むように迫っていた。
響古は瞬きにも満たない間で判断する。
上昇に十分な加速はある。
周囲の弾幕に隙は少ない。
爆発するから受け止めるのは無理。
かわせば弾と瓦礫との爆圧で軌道が逸らされてしまう。
これをかわせば当面なし。
もっとも適切な間を計る。
そして――。
「今!」
左手の蝿王紋に魔力を込めると、自分を守る最低限の結界を展開、邪魔する弾だけを消し飛ばした。
流星群を斬り、かわし続けて稼いだ速度は、そのまま彼女を押し上げる。
流星群の弾幕を、全く呆気なく、響古は抜けた。
「――よしっ!!」
結界が解かれた。
背後で響古を押し包むはずだった流星群が一転で激突、大爆発を起こす。
その爆風さえ前への手助けとし、再びの跳躍を始める。
その行く手に、白い球体に包まれる二人を見つけた。
「辰巳!!ベル坊!!」
裸身を丸めるベル坊と、四肢を投げ出して眠ったように目を閉じる男鹿を発見する。
「いけない、ベル坊に身体を乗っ取られたせいで魔力が枯渇してる。このままじゃ、辰巳が危ない……」
すると、いきなり響古は顔を強張らせた。
男鹿の危険な状態が視えたのだ。
限界までベル坊の体内に宿る莫大な力を使うのは、やはり相当な負担なのだろう。
このままだと体力と魔力を使い果たし、廃人と化してしまう。
「魔王に乗っ取られたからって素直に身体を渡すような人に……あたしの彼氏は務まらないんだから。少なくともベル坊がいる間は、同じ魔王の親代わりとしていてもらわないと!」
あれだけ暴虐のごとく荒れ狂っていた少年も、今は虚しく目を閉じているのみ。
こうなったら、己の全てをかけてでも復活を成就させなくては。
決意と共に響古は男鹿の顔を両手で優しく挟み込み、口づけをした。
「すぐにあなたを――万全の体勢で目覚めさせてみせる。すぐに身体を治して、また三人一緒に過ごそう!」
ひしと抱きつき、唇を押しつけながらの囁き。
「辰巳……死んだりしちゃ、ダメだからね」
男鹿の心にイメージが鮮やかに伝わり始め、頭の中を駆け巡っていく。
「そして、ベル坊の力をあたしにも……辰巳を守るための力を分けてちょうだい!もっと強くなってみせる!」
そして、強く吸う。
さらに舌が差し込まれ、いつにない激しさで舌をまさぐり、絡め取りにかかる。
その瞬間だった。
術の効果が現れる。
極めて強力な鎮静の祈りが濡れた唇、甘やかな吐息を介して男鹿の体内へ流れ込む。
「我の鎮めに応じて御霊 を和し、静謐 を顕し給え……!」
こんな荒技、勿論響古だけの力でかなうはずない。
今、彼女はいじましいほどの必死さで男鹿に口づけている。
そうすることで新たな術をかけ、男鹿から吸収しているのだ。
魔王と契約者だけが体内に宿しうる、莫大な魔力を――。
響古による魔力吸収。
それは既に危険なほどのレベルに達していた。
契約者といえども、こんな量の魔力を体内に貯め込めば即座に体調不良を起こす。
だが、彼女は吸い取る側から『御霊鎮めの法』を強化・維持するために男鹿の魔力を転用し、どうにかしのいでいる。
だとしても、身体には大きな負担がかかるはずなのに……。
しかし、その恩恵は凄まじかった。
渦巻く中でも、三人の周りだけは白き光に守られて静謐そのものだった。
「――ん、ふぅ、ぁ……っ」
ハァハァと息を荒げ、それでも必死に何度も何度も、くちゅっ、とついばむ音が聞こえるほどだ。
かなり苦しいのだろう。
響古はぐっしょりと汗を掻き、朦朧とした目つきだった。
だが、それでも休まず男鹿のために献身を続けてくれて――。
「――辰巳……っ!」
難しい術をいくつも並行して重ねて使う響古。
気力・体力・集中力の全てにおいて限界を超えているはずだ。
その証拠に口づけの仕方が変わっていた。
先程までは気持ちの昂ぶりに任せて情熱的な口づけを繰り返していた。
だが今、響古からの口づけはゆっくり男鹿に吸いつくものになっていた。
しかし、勢いは弱まっても丹念に、そして丁寧に口づけを重ねる。
愛情深く、真心と誠意を込めて男鹿の唇をついばみ、愛しいその名を何度も囁く。
――辰巳、大丈夫?
――目を覚まして、辰巳、辰巳、辰巳……!!
その時、もう立っているのも難しい響古の身体を、男鹿がぎゅっと抱きしめる。
濛々と煙があがり、砕け歪んだ場所で、ヒルダは気を失う少年をじっと見つめる。
あの時の言葉は、取り巻く状況の中、どこまでも静謐に響いた。
――オレとこいつが親だからだ――…ベル坊は人間を滅ぼしたりしねー。
彼がふざけていないのは一目瞭然で、確信も気迫も変わらず、総身に力強く満ちていたからである。
値踏みをするような凶悪な表情での最終宣告。
「――…フン」
鼻で笑いながらも、確かに微笑んだ。
細められた瞳は響古に向けられる。
「お互いボロボロだな。響古」
「あはは…おかげで魔力も空っぽだよ…」
衣服は派手に切り裂かれ、傷ついた肌が大きく露出し、もはや裸一歩手前である。
「しかし、なんという無茶をするんだ……力を得た早々に、坊っちゃまの契約者をなくしてしまうやも知れぬと心配したぞ」
柱師団との戦いから見事勝利を飾った少女に、満足げに文句をつけた。
「無茶しないで勝てる相手でもないでしょ。それに、ベル坊の力がなかったら今頃、二人を助けられなかったかもね」
みんなが批判的する男鹿との熱い口移しへの仕返しして、響古も嬉しそうに口答えする。
「フン……確かに、坊っちゃまの力を引き出せたことが、結果的に最適な手段となったが」
「たまたまうまくいっただけってのは、よくわかってる……うん、でもね、これは愛の力だよ」
響古は、自分が最高の笑顔を浮かべていることを自覚した。
高揚が身体を包んでいる。
熱い感情が疲労を消し飛ばした。
それを思うと、自然と笑みがこぼれていく。
「つくづく、あなたには驚かされるよ、響古…」
つられてヒルダも、口許に淡い笑みを浮かべた。
すると、古市とラミアの切羽詰まった声が聞こえる。
「い…いやいやいやっ、誤解っスよ誤解!!やめて下さいよ、変な想像…!!」
「そ…そうよ!!古市は、瓦礫から私を庇ってくれただけなんだから…」
ただでさえ火照っていた顔が灼熱した。
なんとか無実を認めてもらおうと、身振り手振り説明する。
「二人してとりつくろうところが、ますますあやしいっス…」
「そういえば、買い出しの後ずっといなかった…」
真摯な二人の訴えに、千秋と由加は疑わしい視線を向け続ける。
「天井抜けてんのはっ!?気にならないんスかっっ!!?」
「――…いいからズボンあげなさい」
その時、寧々が平静を装って声をかけた。
ベルトの金具が弾けて古市のズボンは膝下までずり下がり、下着が丸見えになっていた。
ラミアは恥ずかしさを紛らわすように古市を蹴り、
「サイテーー、キモ市シネッ」
「いや、だからなんかひっかかって…」
慌ててズボンを引き上げる間抜けな姿を前に、焔王はぷるぷると怒りに身体を震わせる。
「坊っちゃま、おさえて…っ!!」
痛む身体で周囲を見回した響古は、疑わしい視線を古市に向け続ける旧知の人物に気がついた。
「あれま…」
ここで寧々達も、ボロボロな響古の姿にぎょっとなる。
「響古!?」
「あんた、その格好…」
魔王、悪魔、契約者が一堂に会する、滅多にない瞬間。
そこに立ち会った古市は、波乱の予兆を感じて暗澹 たる気分となった。
「全面戦争か…おもしれぇ」
振り返れば、サングラスの縁を上げる姫川が険しい面持ちで立っていた。
「姫川…!!」
「あぁ。買ってやるよ」
神崎が右腕を振った瞬間、グラフェルが焔王のもとへと投げられる。
「神崎…」
「グラフェル!!」
指先一つ動かさず倒れる部下を見た焔王が顔色を変えた。
「てめぇらが悪魔野学園か…人んちをなんだと思ってんだ。やっぱ隣にいたのかよ」
「正直、あなどってたぜ。まさか、爆弾まで使って宣戦布告してくるとはよ…上等だ」
剣呑な声をあげ、よりいっそう険しくなった顔で睨みつける。
――その勝負…受けてたつぜっっっ!!
見据える二人の瞳には、なんの躊躇も遠慮もなかった。
神崎が発する気配に由加は興奮を隠しきれない。
「うぉぉぉっ、神崎先輩パネェ!!あの時の奴じゃないっスかっっ!!」
「下がってろ、パー子」
――…いや、なんか、あんたらが倒したみたいになってるけど、それやったの男鹿と響古ですから。
怒りを浮かばせる二人を横目で眺める古市は胡乱な表情でつっこんだ。
「爆破したのはオガ…」
弟たるベル坊の配下に包囲されたと見て、渋い顔になったイザベラが囁く。
「ベルゼ様の兵隊達です」
「ウヌヌ~」
――合体した男鹿坊の超必殺技により、姫川先輩の「こっから上、全部オレの部屋だ」とか言ってた部分がきれいさっぱり爆発した。
大魔王の必殺技によって、姫川が所有する高層マンションの一部が崩壊、焔王とのゲーム勝負に挑んでいた古市達も巻き込まれてしまった。
――なんだか、すっきりしたとは口がさけても言えないが、まぁ、それはそれとして。
――こっちはもっと大変な事に。
そして、瓦礫からラミアをかばった古市。
二人が折り重なる光景を焔王に見られてしまう。
「全面戦争じゃあっっ!!!」
――なっとるがですよ…。
怒りの矛先が自分へと向かれ、さらには標的にされて、困惑するしかなかった。
その場から素早く離れるように、ヒルダはラミアを、アランドロンは古市を抱えて飛び上がる。
「響古っ!!」
古市の声が届く時には既に響古は急発進した。
マンションの屋上に陣取る少年に憑依した魔王の末子に向けて突き進む。
ベル坊は己に向かってくるちっぽけな人間にゆるりと首を巡らせ、一瞥する。
瞬間、その周囲に光の弾が無数に生まれ、一斉に飛び出した。
先の戦いでナーガが見せた魔力の塊、その十倍はあろうかという弾数だった。
「話してわからない相手は、とりあえずぶん殴って言う事きかす!!」
もはや塊、というより満天をふさぐ流星群のような攻撃が、それぞれ複雑な軌道を描いて絡み合い、殺到する。
響古はまず鋭い螺旋で、次に一直線に突き抜けてこれをかわし、浮遊するビルの残骸を器用に飛び跳ねる。
速度は全く落ちない。
むしろ加速し続けていた。
流星群はその後を追ってビルの残骸に群がる。
いくつかが当たって爆発し、破片を周囲に撒き散らした。
その破片に他の弾が誘爆を起こし、残骸を連鎖的に砕いていく。
身体中に破片がいくつも当たるが、そんなの気にしていられない。
「響古!」
「古市殿!!あまり暴れては…あなたの方が危ないですぞ!」
「オレなんかより響古がもっと危ない!!」
湧き上がる噴煙さえ純白に染めて、また次の弾幕が前からくる。
やり過ごした弾も、彼女を周囲から押し包むように迫っていた。
響古は瞬きにも満たない間で判断する。
上昇に十分な加速はある。
周囲の弾幕に隙は少ない。
爆発するから受け止めるのは無理。
かわせば弾と瓦礫との爆圧で軌道が逸らされてしまう。
これをかわせば当面なし。
もっとも適切な間を計る。
そして――。
「今!」
左手の蝿王紋に魔力を込めると、自分を守る最低限の結界を展開、邪魔する弾だけを消し飛ばした。
流星群を斬り、かわし続けて稼いだ速度は、そのまま彼女を押し上げる。
流星群の弾幕を、全く呆気なく、響古は抜けた。
「――よしっ!!」
結界が解かれた。
背後で響古を押し包むはずだった流星群が一転で激突、大爆発を起こす。
その爆風さえ前への手助けとし、再びの跳躍を始める。
その行く手に、白い球体に包まれる二人を見つけた。
「辰巳!!ベル坊!!」
裸身を丸めるベル坊と、四肢を投げ出して眠ったように目を閉じる男鹿を発見する。
「いけない、ベル坊に身体を乗っ取られたせいで魔力が枯渇してる。このままじゃ、辰巳が危ない……」
すると、いきなり響古は顔を強張らせた。
男鹿の危険な状態が視えたのだ。
限界までベル坊の体内に宿る莫大な力を使うのは、やはり相当な負担なのだろう。
このままだと体力と魔力を使い果たし、廃人と化してしまう。
「魔王に乗っ取られたからって素直に身体を渡すような人に……あたしの彼氏は務まらないんだから。少なくともベル坊がいる間は、同じ魔王の親代わりとしていてもらわないと!」
あれだけ暴虐のごとく荒れ狂っていた少年も、今は虚しく目を閉じているのみ。
こうなったら、己の全てをかけてでも復活を成就させなくては。
決意と共に響古は男鹿の顔を両手で優しく挟み込み、口づけをした。
「すぐにあなたを――万全の体勢で目覚めさせてみせる。すぐに身体を治して、また三人一緒に過ごそう!」
ひしと抱きつき、唇を押しつけながらの囁き。
「辰巳……死んだりしちゃ、ダメだからね」
男鹿の心にイメージが鮮やかに伝わり始め、頭の中を駆け巡っていく。
「そして、ベル坊の力をあたしにも……辰巳を守るための力を分けてちょうだい!もっと強くなってみせる!」
そして、強く吸う。
さらに舌が差し込まれ、いつにない激しさで舌をまさぐり、絡め取りにかかる。
その瞬間だった。
術の効果が現れる。
極めて強力な鎮静の祈りが濡れた唇、甘やかな吐息を介して男鹿の体内へ流れ込む。
「我の鎮めに応じて
こんな荒技、勿論響古だけの力でかなうはずない。
今、彼女はいじましいほどの必死さで男鹿に口づけている。
そうすることで新たな術をかけ、男鹿から吸収しているのだ。
魔王と契約者だけが体内に宿しうる、莫大な魔力を――。
響古による魔力吸収。
それは既に危険なほどのレベルに達していた。
契約者といえども、こんな量の魔力を体内に貯め込めば即座に体調不良を起こす。
だが、彼女は吸い取る側から『御霊鎮めの法』を強化・維持するために男鹿の魔力を転用し、どうにかしのいでいる。
だとしても、身体には大きな負担がかかるはずなのに……。
しかし、その恩恵は凄まじかった。
渦巻く中でも、三人の周りだけは白き光に守られて静謐そのものだった。
「――ん、ふぅ、ぁ……っ」
ハァハァと息を荒げ、それでも必死に何度も何度も、くちゅっ、とついばむ音が聞こえるほどだ。
かなり苦しいのだろう。
響古はぐっしょりと汗を掻き、朦朧とした目つきだった。
だが、それでも休まず男鹿のために献身を続けてくれて――。
「――辰巳……っ!」
難しい術をいくつも並行して重ねて使う響古。
気力・体力・集中力の全てにおいて限界を超えているはずだ。
その証拠に口づけの仕方が変わっていた。
先程までは気持ちの昂ぶりに任せて情熱的な口づけを繰り返していた。
だが今、響古からの口づけはゆっくり男鹿に吸いつくものになっていた。
しかし、勢いは弱まっても丹念に、そして丁寧に口づけを重ねる。
愛情深く、真心と誠意を込めて男鹿の唇をついばみ、愛しいその名を何度も囁く。
――辰巳、大丈夫?
――目を覚まして、辰巳、辰巳、辰巳……!!
その時、もう立っているのも難しい響古の身体を、男鹿がぎゅっと抱きしめる。
濛々と煙があがり、砕け歪んだ場所で、ヒルダは気を失う少年をじっと見つめる。
あの時の言葉は、取り巻く状況の中、どこまでも静謐に響いた。
――オレとこいつが親だからだ――…ベル坊は人間を滅ぼしたりしねー。
彼がふざけていないのは一目瞭然で、確信も気迫も変わらず、総身に力強く満ちていたからである。
値踏みをするような凶悪な表情での最終宣告。
「――…フン」
鼻で笑いながらも、確かに微笑んだ。
細められた瞳は響古に向けられる。
「お互いボロボロだな。響古」
「あはは…おかげで魔力も空っぽだよ…」
衣服は派手に切り裂かれ、傷ついた肌が大きく露出し、もはや裸一歩手前である。
「しかし、なんという無茶をするんだ……力を得た早々に、坊っちゃまの契約者をなくしてしまうやも知れぬと心配したぞ」
柱師団との戦いから見事勝利を飾った少女に、満足げに文句をつけた。
「無茶しないで勝てる相手でもないでしょ。それに、ベル坊の力がなかったら今頃、二人を助けられなかったかもね」
みんなが批判的する男鹿との熱い口移しへの仕返しして、響古も嬉しそうに口答えする。
「フン……確かに、坊っちゃまの力を引き出せたことが、結果的に最適な手段となったが」
「たまたまうまくいっただけってのは、よくわかってる……うん、でもね、これは愛の力だよ」
響古は、自分が最高の笑顔を浮かべていることを自覚した。
高揚が身体を包んでいる。
熱い感情が疲労を消し飛ばした。
それを思うと、自然と笑みがこぼれていく。
「つくづく、あなたには驚かされるよ、響古…」
つられてヒルダも、口許に淡い笑みを浮かべた。
すると、古市とラミアの切羽詰まった声が聞こえる。
「い…いやいやいやっ、誤解っスよ誤解!!やめて下さいよ、変な想像…!!」
「そ…そうよ!!古市は、瓦礫から私を庇ってくれただけなんだから…」
ただでさえ火照っていた顔が灼熱した。
なんとか無実を認めてもらおうと、身振り手振り説明する。
「二人してとりつくろうところが、ますますあやしいっス…」
「そういえば、買い出しの後ずっといなかった…」
真摯な二人の訴えに、千秋と由加は疑わしい視線を向け続ける。
「天井抜けてんのはっ!?気にならないんスかっっ!!?」
「――…いいからズボンあげなさい」
その時、寧々が平静を装って声をかけた。
ベルトの金具が弾けて古市のズボンは膝下までずり下がり、下着が丸見えになっていた。
ラミアは恥ずかしさを紛らわすように古市を蹴り、
「サイテーー、キモ市シネッ」
「いや、だからなんかひっかかって…」
慌ててズボンを引き上げる間抜けな姿を前に、焔王はぷるぷると怒りに身体を震わせる。
「坊っちゃま、おさえて…っ!!」
痛む身体で周囲を見回した響古は、疑わしい視線を古市に向け続ける旧知の人物に気がついた。
「あれま…」
ここで寧々達も、ボロボロな響古の姿にぎょっとなる。
「響古!?」
「あんた、その格好…」
魔王、悪魔、契約者が一堂に会する、滅多にない瞬間。
そこに立ち会った古市は、波乱の予兆を感じて
「全面戦争か…おもしれぇ」
振り返れば、サングラスの縁を上げる姫川が険しい面持ちで立っていた。
「姫川…!!」
「あぁ。買ってやるよ」
神崎が右腕を振った瞬間、グラフェルが焔王のもとへと投げられる。
「神崎…」
「グラフェル!!」
指先一つ動かさず倒れる部下を見た焔王が顔色を変えた。
「てめぇらが悪魔野学園か…人んちをなんだと思ってんだ。やっぱ隣にいたのかよ」
「正直、あなどってたぜ。まさか、爆弾まで使って宣戦布告してくるとはよ…上等だ」
剣呑な声をあげ、よりいっそう険しくなった顔で睨みつける。
――その勝負…受けてたつぜっっっ!!
見据える二人の瞳には、なんの躊躇も遠慮もなかった。
神崎が発する気配に由加は興奮を隠しきれない。
「うぉぉぉっ、神崎先輩パネェ!!あの時の奴じゃないっスかっっ!!」
「下がってろ、パー子」
――…いや、なんか、あんたらが倒したみたいになってるけど、それやったの男鹿と響古ですから。
怒りを浮かばせる二人を横目で眺める古市は胡乱な表情でつっこんだ。
「爆破したのはオガ…」
弟たるベル坊の配下に包囲されたと見て、渋い顔になったイザベラが囁く。
「ベルゼ様の兵隊達です」
「ウヌヌ~」