バブ28
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なかなか完治しないベル坊の風邪。
ヒルダには病気の治療回復の専門を持たないため、判断の的確性には自信がない。
「坊っちゃまの症状は、私には判断がつかんのでな、やはり、専門の者を連れてくる事にしたのだ」
なので、魔界でも高名な医者を連れてきた。
「粗相のないように気をつけろ、魔界でも高名な医者だ」
「ムー」
そこで紹介されたのが、ムーミンの世界に出てくるような雰囲気の白いお化け。
――医者?こいつが…?
「Lv1.で倒せそーだぞ?」
「わぁ、カワイイ」
正真正銘の医者かと疑う男鹿と、好奇心ありまくりな響古。
「…………」
二人が密着している時間をひそかに計っているヒルダから、注視が向けられた。
「何だよ、変な目つきして」
彼女の詮索するような視線にさらされて、男鹿は狼狽する。
無表情なヒルダの面差しに、疑惑と敵意と苛立ちが渾然 一体となった、複雑な表情だ。
「響古を介抱するのはよい事だが…少し顔と顔の距離が近すぎではないか?貴様と響古が付き合っているのは知っているが、このような場合、もっと手短にすませてもよいはずで――」
「何言ってんだ、お前?」
「そ-だよ。辰巳はふらついて動けないあたしを、ここまで抱えて歩いてきたんだから」
「だったら…無事、家に来たのだから密着しなくてもいいだろう!」
悲壮感たっぷりに言い放ち、今の二人の状態を指摘する。
響古の肩に腕を回した男鹿が抱き寄せる格好で部屋にいるのだ。
「しょーがねーだろ。こいつはケガ人なんだから」
ところが男鹿は不審そうな顔で侍女悪魔をみつめた。
「何をしている、早く入りなさい」
白いお化けから部屋に入るよう促される。
視線を向けると、椅子を回転させ、白衣を着た幼い少女がふんぞり返っていた。
「――まったく、こんな、せまい所でベルゼ様を育てていたのね。あきれちゃった」
「んぁ?」
「誰?」
新たな人物の登場に二人は驚いた。
バブ28
医者が来ました
見た目は小学生さえ怪しい少女の、いかにも小馬鹿にしたような様子に、二人は怪訝な顔つきになる。
「――おいおいおいおい…医者ってまさか…この、ガキの事かよ?えらい小 っせーぞ。小4ってとこか…」
「――ということは、この子も悪魔?ヒルダが連れて来たんだよね?」
「迷子の子とかじゃねーの?」
見た目小学生の少女は、フンと鼻息を荒くした。
その視線は厳しく鋭く、何故か男鹿を睨みつけている。
「………」
じろじろと眺めていると、少女は突然、男鹿の股間を蹴り上げた。
「無礼者っ!!!」
「の゙っ」
思わぬ方向からの攻撃を受けた男鹿は、前傾姿勢になる。
「なっ!」
この光景を間近で見た響古も、驚きの声をあげるしかできなかった。
「――わっ」
男鹿に抱き寄せられていた響古は後ろに倒れる前に、誰かの腕の中にいた。
「……ヒ、ヒルダ……?」
驚く響古の眼前、ヒルダは安心させるように笑みを向ける。
「大丈夫か、響古」
「へ…平気――だけど、泥とか血とかで汚れてるよ。そんなにくっつかない方が…」
響古はヒルダに後ろから抱えられていることに気づくと、困ったような笑みを浮かべる。
腰をがっちり掴んでいるヒルダの腕には、なんの反応もなかった。
代わりに、顔を近づけ、何やら少しばかり甘えるような雰囲気を漂わせてくる。
「そんな事は気にしない……それより、こんなにくっついていて、少し、ドキドキしてこないか?」
「ヒ、ヒルダ、何?ちょ、ちょっと」
響古を真剣な面持ちで見つめるヒルダが、もじもじとしている。
「響古、相変わらず、綺麗な顔をしているな…」
「にぎゃあああ!!」
次の瞬間、ヒルダは響古を真正面からがっしり抱きしめる。
「わぷっ、ヒルダ、苦し、ううう、む、胸が!」
響古がヒルダの胸に押しつけられている頃、少女は腕を組んで前傾姿勢で膝をつく男鹿を見下していた。
「ふーん、なるほどね。あんたが男鹿?噂どーり、使えない男…」
少女の物言いは、妙に攻撃的だった。
「きーた、東条より重い一撃」
知ってますか?
股間って内臓なんですよ?
精子が熱に弱いから身体の外に出てるだけなんですよ、だから股間を蹴られた男は悶絶するんですよ?
「クソガキ…てめぇ、いきなりなんて事しやがる…!!」
「そーよ!よりにもよって、辰巳の――って、あああっ!!」
なんというか……変な沈黙が流れた。
多分、ヒルダの抱擁から逃れ、少女を叱ろうとしたんじゃないかとは思うのだけれど。
怒りに打ち震え、目つきをつり上げた響古が、身体の力が抜けていることも忘れて盛大に転んでいた。
響古は涙目になりつつ、必死に怒鳴る。
「いい!?辰巳は、あたしの最も大切な人よ」
一生懸命なのは伝わってくるのだけれど、転んだままでは――なんとなく、変な悲壮感はあったけど。
「それ以上の暴言は、あたしが許さない…!」
だが、少女は腕を組んだまま、響古の険しい眼差しを平然と受け止めている。
「そして、あなたが響古?確かに、こいつにはもったいない程の美人ね」
顎で差す、その仕草は、前傾姿勢で痛みを堪える男鹿を差していた。
少女は鼻をつまみ、男鹿を見て不機嫌丸出しで続ける。
「おまけに、貧乏くさい。一緒に暮らしてるヒルダ姉様がかわいそう。あと、なんか生ぐさい」
「まァ、そう言うな、ラミア。生ぐさいのは川に落ちたからだ」←否定しない
「ぶっ殺す!!」
「大体、大魔王様も大魔王様よ」
「このっ!!」
キレた男鹿は殴りかかるが、ちょこまかと逃げる少女――ラミアに苦戦する。
「人間なんかに、魔王の親が務まるわけないじゃない」
「ぬおっ」
「医者の立場から言わせてもらえばね、今回の事は、目に見えてた事なのよ。フフン、遅い遅い」
余裕の笑みで逃げ回るラミアの後頭部を、背後から白いお化けが叩いた。
「少し黙れ」
「ぎゃんっ」
改めて、ヒルダが白いお化け――フォルカスと叱られて正座するラミアを紹介する。
「――では、改めて紹介しよう。宮廷薬師、フォルカス・ラフマフマニノフ先生と」
「もとね」
ヒルダの説明に、フォルカスが付け加える。
「その助手のラミアだ」
「ムー」
頭を叩かれて恥ずかしそうにうつむくラミアの代わりに、隣にいる小さな白いお化けが答える。
「よっ」
医者に見えない……せいぜいマスコットのようなフォルカスに、男鹿は呆れ五割五分、心配三割、優しさ一割五分の顔。
響古は驚き三割、興味四割、優しさ三割の顔。
特に男鹿、その割合は何気に酷くないですか?
半分は優しさで、できてほしいです。
――やっぱ、こっちが医者か…ったく、てめーもまぎらわしいんだよ、ボケが。
白いお化けと見た目小学生の少女の組み合わせ。
男鹿は驚きと共に二人を見つめる。
「……最初にしゃべれや」
「口ないけど、どこでしゃべってるんだろうね?」
じっくりとフォルカスの上から下まで、微に入り細に入り、全身を観察して、やはり思った。
――つーか、このキャラもどーなの?
――ねーだろ、デザイン的に…。
「てきとーか」
すると、男鹿の心を読んだのか、フォルカスがいきなり声を張り上げた。
「…てきとーじゃ、ないっ」
(うおっ…しかも心読みやがる)
男鹿は警戒心を強めた。
さらにフォルカスは語気強く言う。
「読んでないっ!!」
「ワォ!読心術だ!」
相手の心を読む能力を目の当たりにした響古は目を輝かせる。
「…いいか、最初に一つだけ言っておくぞ。私は本当は、めちゃくちゃかっこいいぞ。お嬢さん、惚れるでないぞ」
「え?あたし?でも……」
響古は途中で言葉を切ると、笑顔で振った。
「彼氏がいるんです、ごめんなさい」
「はっはっ、お嬢さん、すでに恋人がいるのか。すまなかったな」
可愛らしいマスコットな外見の割に、紳士という形容がぴったりくる口調である。
「師匠は極度の人間界嫌いでね、ムームーの体を使って来てるのよ」
ムームーというのは、ラミアの頭に乗っているスライム。
「仮の姿というやつさ」
「ふ…ふーん?」
自己紹介も終わり、フォルカスは核心に踏み入ることにした。
「――さて、というわけで私は、医者なのだが、かけつけてみれば、患者がいないとはこれいかに?」
「「うっ」」
二人は同時に呻いた。
あの暴走は、若さに影響された結果だと信じたい。
口づけの最中、自分と響古は相当に倒錯した状態だったように思える。
男鹿は焦りを隠しながら答えた。
「知らねーよ。朝起きたらもう、いなかったんだし」
フォルカスはヒルダに視線を向けて、ベル坊の病気の詳細を語る。
「まぁ、ヒルダ殿の話でおおよその見当はついてるがね…ベルゼ様の症状は、王熱病。王族など、潜在魔力の高い者程、かかりやすい知恵熱のようなものだな」
生後1年以内の乳児が出す熱で、運動機能や知的な発達が目覚ましい時期に起こる謎の発熱だ。
「「知恵熱?」」
「うむ。幼児が成長する際に起こす発熱だ。ベルゼ様の場合、既に何度か経験されておられるのだろう。それで、ヒルダ殿も油断したのだろーが。今回ばかりは少しばかり事情が違う」
忘れてはならない。
自分達が暮らしている日常のすぐ傍にあるものを。
巻き込まれて、その中にある時も。
「なんせ、ここは人間界だ。ベルゼ様が魔力を発散させるには人間の手助けが必要となる。ところが、成長したベルゼ様の魔力は、君には大きすぎた」
この世の歩いてゆけない隣……"魔界"から渡り来た悪魔だということを、つくづく思い知らされた。
「あまりに膨大な魔力が流れ込もうとした為、ベルゼ様は無意識に君とのリンクを切ってしまったのだ。そうしなければ、君を殺しかねないからね」
「――つまりあんたが、ベルゼ様の成長に追いついてないのが、全ての原因なのよ!!わかったか、ボケ」
ラミアが非情なくらい簡潔に、謎の発熱と蠅王紋が消えた原因を言い放つ。
「――で、ベル坊は、新しい親を求めて東条の方に行ったってわけか」
「――だとしたら、あたしと東条が親って事になるの?」
二人の確認するかのような、平静な声、ただし、そう聞こえるだけの、突つけば灼熱の溶岩が溢れ出す、そうとわかる、平静な声だった。
「冗談じゃない」
響古は激怒し、憤怒していた。
今までになく、彼女は怒りを露にする。
ヒルダとラミアは、心底からの寒さに震えた。
まさか今、感じるとは思ってもいなかったそれは、恐怖だった。
やがて、平静を取り戻したヒルダが、その発言を否定する。
「…いや、それはない。もし、あの男が坊っちゃまの親となりうるなら、既に坊っちゃまは魔力を解放し、熱も下がって然 るべきだ」
虚ろな目はそのままに、意識が朦朧としているベル坊の状態は正常ではないことが一目でわかる。
さらに、ヒルダは続ける。
「何よりも、あの男、悪意というものが感じられん。強さだけなら、申し分ないのだが…おそらく、資質だけの問題なのだろうな」
「見てたのかよ」
「もしかして、あたしと東条のケンカも?」
「あぁ、しかと見た」
ヒルダには病気の治療回復の専門を持たないため、判断の的確性には自信がない。
「坊っちゃまの症状は、私には判断がつかんのでな、やはり、専門の者を連れてくる事にしたのだ」
なので、魔界でも高名な医者を連れてきた。
「粗相のないように気をつけろ、魔界でも高名な医者だ」
「ムー」
そこで紹介されたのが、ムーミンの世界に出てくるような雰囲気の白いお化け。
――医者?こいつが…?
「Lv1.で倒せそーだぞ?」
「わぁ、カワイイ」
正真正銘の医者かと疑う男鹿と、好奇心ありまくりな響古。
「…………」
二人が密着している時間をひそかに計っているヒルダから、注視が向けられた。
「何だよ、変な目つきして」
彼女の詮索するような視線にさらされて、男鹿は狼狽する。
無表情なヒルダの面差しに、疑惑と敵意と苛立ちが
「響古を介抱するのはよい事だが…少し顔と顔の距離が近すぎではないか?貴様と響古が付き合っているのは知っているが、このような場合、もっと手短にすませてもよいはずで――」
「何言ってんだ、お前?」
「そ-だよ。辰巳はふらついて動けないあたしを、ここまで抱えて歩いてきたんだから」
「だったら…無事、家に来たのだから密着しなくてもいいだろう!」
悲壮感たっぷりに言い放ち、今の二人の状態を指摘する。
響古の肩に腕を回した男鹿が抱き寄せる格好で部屋にいるのだ。
「しょーがねーだろ。こいつはケガ人なんだから」
ところが男鹿は不審そうな顔で侍女悪魔をみつめた。
「何をしている、早く入りなさい」
白いお化けから部屋に入るよう促される。
視線を向けると、椅子を回転させ、白衣を着た幼い少女がふんぞり返っていた。
「――まったく、こんな、せまい所でベルゼ様を育てていたのね。あきれちゃった」
「んぁ?」
「誰?」
新たな人物の登場に二人は驚いた。
バブ28
医者が来ました
見た目は小学生さえ怪しい少女の、いかにも小馬鹿にしたような様子に、二人は怪訝な顔つきになる。
「――おいおいおいおい…医者ってまさか…この、ガキの事かよ?えらい
「――ということは、この子も悪魔?ヒルダが連れて来たんだよね?」
「迷子の子とかじゃねーの?」
見た目小学生の少女は、フンと鼻息を荒くした。
その視線は厳しく鋭く、何故か男鹿を睨みつけている。
「………」
じろじろと眺めていると、少女は突然、男鹿の股間を蹴り上げた。
「無礼者っ!!!」
「の゙っ」
思わぬ方向からの攻撃を受けた男鹿は、前傾姿勢になる。
「なっ!」
この光景を間近で見た響古も、驚きの声をあげるしかできなかった。
「――わっ」
男鹿に抱き寄せられていた響古は後ろに倒れる前に、誰かの腕の中にいた。
「……ヒ、ヒルダ……?」
驚く響古の眼前、ヒルダは安心させるように笑みを向ける。
「大丈夫か、響古」
「へ…平気――だけど、泥とか血とかで汚れてるよ。そんなにくっつかない方が…」
響古はヒルダに後ろから抱えられていることに気づくと、困ったような笑みを浮かべる。
腰をがっちり掴んでいるヒルダの腕には、なんの反応もなかった。
代わりに、顔を近づけ、何やら少しばかり甘えるような雰囲気を漂わせてくる。
「そんな事は気にしない……それより、こんなにくっついていて、少し、ドキドキしてこないか?」
「ヒ、ヒルダ、何?ちょ、ちょっと」
響古を真剣な面持ちで見つめるヒルダが、もじもじとしている。
「響古、相変わらず、綺麗な顔をしているな…」
「にぎゃあああ!!」
次の瞬間、ヒルダは響古を真正面からがっしり抱きしめる。
「わぷっ、ヒルダ、苦し、ううう、む、胸が!」
響古がヒルダの胸に押しつけられている頃、少女は腕を組んで前傾姿勢で膝をつく男鹿を見下していた。
「ふーん、なるほどね。あんたが男鹿?噂どーり、使えない男…」
少女の物言いは、妙に攻撃的だった。
「きーた、東条より重い一撃」
知ってますか?
股間って内臓なんですよ?
精子が熱に弱いから身体の外に出てるだけなんですよ、だから股間を蹴られた男は悶絶するんですよ?
「クソガキ…てめぇ、いきなりなんて事しやがる…!!」
「そーよ!よりにもよって、辰巳の――って、あああっ!!」
なんというか……変な沈黙が流れた。
多分、ヒルダの抱擁から逃れ、少女を叱ろうとしたんじゃないかとは思うのだけれど。
怒りに打ち震え、目つきをつり上げた響古が、身体の力が抜けていることも忘れて盛大に転んでいた。
響古は涙目になりつつ、必死に怒鳴る。
「いい!?辰巳は、あたしの最も大切な人よ」
一生懸命なのは伝わってくるのだけれど、転んだままでは――なんとなく、変な悲壮感はあったけど。
「それ以上の暴言は、あたしが許さない…!」
だが、少女は腕を組んだまま、響古の険しい眼差しを平然と受け止めている。
「そして、あなたが響古?確かに、こいつにはもったいない程の美人ね」
顎で差す、その仕草は、前傾姿勢で痛みを堪える男鹿を差していた。
少女は鼻をつまみ、男鹿を見て不機嫌丸出しで続ける。
「おまけに、貧乏くさい。一緒に暮らしてるヒルダ姉様がかわいそう。あと、なんか生ぐさい」
「まァ、そう言うな、ラミア。生ぐさいのは川に落ちたからだ」←否定しない
「ぶっ殺す!!」
「大体、大魔王様も大魔王様よ」
「このっ!!」
キレた男鹿は殴りかかるが、ちょこまかと逃げる少女――ラミアに苦戦する。
「人間なんかに、魔王の親が務まるわけないじゃない」
「ぬおっ」
「医者の立場から言わせてもらえばね、今回の事は、目に見えてた事なのよ。フフン、遅い遅い」
余裕の笑みで逃げ回るラミアの後頭部を、背後から白いお化けが叩いた。
「少し黙れ」
「ぎゃんっ」
改めて、ヒルダが白いお化け――フォルカスと叱られて正座するラミアを紹介する。
「――では、改めて紹介しよう。宮廷薬師、フォルカス・ラフマフマニノフ先生と」
「もとね」
ヒルダの説明に、フォルカスが付け加える。
「その助手のラミアだ」
「ムー」
頭を叩かれて恥ずかしそうにうつむくラミアの代わりに、隣にいる小さな白いお化けが答える。
「よっ」
医者に見えない……せいぜいマスコットのようなフォルカスに、男鹿は呆れ五割五分、心配三割、優しさ一割五分の顔。
響古は驚き三割、興味四割、優しさ三割の顔。
特に男鹿、その割合は何気に酷くないですか?
半分は優しさで、できてほしいです。
――やっぱ、こっちが医者か…ったく、てめーもまぎらわしいんだよ、ボケが。
白いお化けと見た目小学生の少女の組み合わせ。
男鹿は驚きと共に二人を見つめる。
「……最初にしゃべれや」
「口ないけど、どこでしゃべってるんだろうね?」
じっくりとフォルカスの上から下まで、微に入り細に入り、全身を観察して、やはり思った。
――つーか、このキャラもどーなの?
――ねーだろ、デザイン的に…。
「てきとーか」
すると、男鹿の心を読んだのか、フォルカスがいきなり声を張り上げた。
「…てきとーじゃ、ないっ」
(うおっ…しかも心読みやがる)
男鹿は警戒心を強めた。
さらにフォルカスは語気強く言う。
「読んでないっ!!」
「ワォ!読心術だ!」
相手の心を読む能力を目の当たりにした響古は目を輝かせる。
「…いいか、最初に一つだけ言っておくぞ。私は本当は、めちゃくちゃかっこいいぞ。お嬢さん、惚れるでないぞ」
「え?あたし?でも……」
響古は途中で言葉を切ると、笑顔で振った。
「彼氏がいるんです、ごめんなさい」
「はっはっ、お嬢さん、すでに恋人がいるのか。すまなかったな」
可愛らしいマスコットな外見の割に、紳士という形容がぴったりくる口調である。
「師匠は極度の人間界嫌いでね、ムームーの体を使って来てるのよ」
ムームーというのは、ラミアの頭に乗っているスライム。
「仮の姿というやつさ」
「ふ…ふーん?」
自己紹介も終わり、フォルカスは核心に踏み入ることにした。
「――さて、というわけで私は、医者なのだが、かけつけてみれば、患者がいないとはこれいかに?」
「「うっ」」
二人は同時に呻いた。
あの暴走は、若さに影響された結果だと信じたい。
口づけの最中、自分と響古は相当に倒錯した状態だったように思える。
男鹿は焦りを隠しながら答えた。
「知らねーよ。朝起きたらもう、いなかったんだし」
フォルカスはヒルダに視線を向けて、ベル坊の病気の詳細を語る。
「まぁ、ヒルダ殿の話でおおよその見当はついてるがね…ベルゼ様の症状は、王熱病。王族など、潜在魔力の高い者程、かかりやすい知恵熱のようなものだな」
生後1年以内の乳児が出す熱で、運動機能や知的な発達が目覚ましい時期に起こる謎の発熱だ。
「「知恵熱?」」
「うむ。幼児が成長する際に起こす発熱だ。ベルゼ様の場合、既に何度か経験されておられるのだろう。それで、ヒルダ殿も油断したのだろーが。今回ばかりは少しばかり事情が違う」
忘れてはならない。
自分達が暮らしている日常のすぐ傍にあるものを。
巻き込まれて、その中にある時も。
「なんせ、ここは人間界だ。ベルゼ様が魔力を発散させるには人間の手助けが必要となる。ところが、成長したベルゼ様の魔力は、君には大きすぎた」
この世の歩いてゆけない隣……"魔界"から渡り来た悪魔だということを、つくづく思い知らされた。
「あまりに膨大な魔力が流れ込もうとした為、ベルゼ様は無意識に君とのリンクを切ってしまったのだ。そうしなければ、君を殺しかねないからね」
「――つまりあんたが、ベルゼ様の成長に追いついてないのが、全ての原因なのよ!!わかったか、ボケ」
ラミアが非情なくらい簡潔に、謎の発熱と蠅王紋が消えた原因を言い放つ。
「――で、ベル坊は、新しい親を求めて東条の方に行ったってわけか」
「――だとしたら、あたしと東条が親って事になるの?」
二人の確認するかのような、平静な声、ただし、そう聞こえるだけの、突つけば灼熱の溶岩が溢れ出す、そうとわかる、平静な声だった。
「冗談じゃない」
響古は激怒し、憤怒していた。
今までになく、彼女は怒りを露にする。
ヒルダとラミアは、心底からの寒さに震えた。
まさか今、感じるとは思ってもいなかったそれは、恐怖だった。
やがて、平静を取り戻したヒルダが、その発言を否定する。
「…いや、それはない。もし、あの男が坊っちゃまの親となりうるなら、既に坊っちゃまは魔力を解放し、熱も下がって
虚ろな目はそのままに、意識が朦朧としているベル坊の状態は正常ではないことが一目でわかる。
さらに、ヒルダは続ける。
「何よりも、あの男、悪意というものが感じられん。強さだけなら、申し分ないのだが…おそらく、資質だけの問題なのだろうな」
「見てたのかよ」
「もしかして、あたしと東条のケンカも?」
「あぁ、しかと見た」