バブ3~4
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――前回までのあらすじ、男鹿辰巳は魔王の親に選ばれてしまった。
ズーン、ズーン、という音を立てて向かってくる何かに皆、呆然と眺める。
「はーい。よしよし」
男鹿はベル坊を背負って歩く。
それはそれは、スクスクと成長したベル坊……いや、今はもう見た目は立派な魔王である。
というより、もはや怪物に近い。
「――ったく、お前は、日ましに成長しやがって…」
ありえないサイズの巨体にまで成長したベル坊は、まだ言葉にならない声を発する。
「ダ」
「え?何?ハラへった?」
「ダ」
「しょーがねーなー」
というわけで、定食屋に入ろうとするが、
「すいません、お客様。魔王連れの方はちょっと…」
「えー。まじで?」
断られた。
そして、ラーメン屋に入ろうとするが、
「うちもねー。魔王は、かんべんして欲しいんだわ」
「おいおい」
断られた。
「あー、ダメダメ!!魔王なんて。他のお客さん、こなくなっちゃうよ」
「なにー」
さらには、レストランまでも断られる始末。
「ヴ~~~~」
お腹を空かせたベル坊――魔王は勿論、ご機嫌斜めである。
凄まじい勢いで真っ青になる男鹿の後ろからは、バチバチと爆ぜる音が背中から直接、身体へと伝わってきた。
「ビエエエエエエ」
刹那、雪崩を打つように街一つ、丸ごと包み込むような爆発が起こった。
こうして、世界が終わる光景を垣間見た。
「はい、全滅ううぅぅ」
そして、このまま滅亡した世界で自分も死ぬのかと戦慄した時、男鹿は目を覚ました。
――夢…。
気づけば全身、汗ぐっしょりで濡れていた。
ぽたぽたと流れ落ちるくらい、いっぱいに掻いた汗が、その髪の毛を、頬や額にぺたぺたと張りつけている。
「――……」
悪夢を見てうなされていた男鹿が荒い息をつく横で、ベル坊は微かな寝息を立てている。
――いや…これは警告!!
夢で起きた惨劇を回避するべく、男鹿は考え込む。
(なんとかしなければ……)
一方、ベル坊は呑気に熟睡していた。
バブ3
強くて凶悪でクソヤロー
朝、登校しようと靴を履く男鹿に声がかけられる。
「――おい、聞いているのか?」
気だるげに振り返ると、剣呑そうに目を細めたヒルダが見下ろしている。
「聞ーてるよ。食事は一日5回だろ?」
「そうだ、ここに3回分ある。忘れるなよ」
彼女の手には、ベル坊の食事――粉ミルクの入ったビニール袋が提げられ、これを怠らないようきつく言い聞かせる。
「けっ、てめーの乳でもしぼったか?」
セクハラ染みた発言をした瞬間、頭に靴の踵がグッサリ刺さった。
「……………………」
絶句する男鹿の頭からは血が流れ、その光景にベル坊も顔を青ざめる。
「また、学校とやらに行くのであろう?半日は戻ってこんのなら、貴様がやるしかない。響古にもそう伝えておけ。王族専用粉ミルクだ」
制裁を加えた後、一言付け加えた。
「――それとも、私も一緒に行ってやろーか」
真顔で冗談か本気かわからないヒルダの発言に対し、右手で靴を抜きながら手を握る。
「ばかやろう。俺と響古に任せろよ」
「………」
すると、ヒルダは無言で後ずさる。
「あん?」
男鹿は訝しんだ。
ベル坊が目に涙を浮かべている。
「ヴー」
何故なら、先程の制裁で血が流れていたからで。
そして、当然――。
「ビェエエエエエン!!」
「どばぁっっっ!!」
ベル坊の身体から放たれた電撃が男鹿を襲い、バチバチ、と弾ける音。
男鹿は身体を痙攣させ、電撃は玄関から道路へと吹き飛んだ。
その時、男鹿と一緒に通学しようと、たまたま通りかかった響古が派手な音と遭遇。
「――たっ……辰巳ィィィィ!!」
大声と同時に飛び込んだ響古は慌てふためく。
「な、な、な……何事、今の!!さっき、辰巳の家から雷が見えたんだけど!!今のベル坊……の……」
視線を下に向けると、身体中を煤で汚した男鹿がうつ伏せの状態で倒れていた。
「響古、おはよう」
うっすらと微笑みながら挨拶するヒルダ。
「あ、おはよう、ヒルダ……じゃなくて、どういうこと!?なんで辰巳がこんな朝から倒れてるの!?なんで?なんで、なんで、どうしてーーっ!?」
響古はヒルダの胸ぐらを掴むと、今にも泣き出しそうな顔で――というより既に半泣きになって――揺さぶりながら叫んだ。
「響古、とりあえず落ち着け。実はな――」
軽いめまいを起こしそうになりながらも、ヒルダは朝の出来事を話す。
「――な、成る程…それは辰巳が悪いわね」
顎に手を当てて納得した響古に、ヒルダは意外感を表すように目を丸くする。
「驚いたな。響古が奴が悪いと言うとは…」
「ちょっとヒルダ。それ、どーゆう意味?あたしだって、女の子にデリカシーのない奴は許さないんだからね」
響古はムッとして反論する。
「それに……どうして、あたしに言ってくれないの!辰巳のセクハラ発言だったら、逆に大歓迎よ!」
さすが響古、怒る視点がずれている。
ここまで結構な時間が経ったので、響古はしゃがみ込んで男鹿を揺する。
「辰巳~、起きて~。学校に遅れちゃうよ~」
しばらくして、ぐらんぐらんと揺れる頭を押さえながら、男鹿が目を開けた。
すぐ傍に、響古の白い脚があった。
それを辿って視線を上げていくと、やがて太ももよりもさらに上、純白が視界に入って――。
「……白……」
「えっ?」
「白が見える……」
そう、今の彼の目線の位置からは、丈の短いスカートから覗く――響古の下着がちょっとだけ見えちゃうのだった。
「な――」
響古は一瞬で顔を真っ赤にすると、
「何、どさくさに紛れて見てんの、エッチーー!!」
脳天に踵落としを食らわした。
「ぐっはぁ」
再び、男鹿は気絶した。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
傍目には、響古が勝利の図と見えるだろうが、この場に敗者はいない。
気を失った男鹿も、下着を見られてしまった響古も、共に色々な意味で敗者だった。
「……響古」
「えっとね、違う違うの。さっきの発言はホントだよ。あんなの、ただの初歩だからね?初級編は卒業して、応用編に進みたいよ。二人で愛を育 む時間をもっと増やすべきだから。でもね、こういう不意討ちは、心の準備が必要だから」
何を言っているのかよくわからない上に、尋常じゃない慌て方をして、顔を一気に赤らめた。
「学校に遅れるぞ」
「えっ?」
響古は、観念の内にないことを指摘され、思考が真っ白になった。
理解を追いつかせた瞬間、もう余裕を持てる時間ではなくなっている。
朝の時間密度は高い。
響古の頭の中には、始業のチャイムをタイムリミットとした、精緻なスケジュールが存在している。
スケジュールの滞りは、即遅刻につながる。
「あっ、学校ね――アハハ……って、呑気に笑ってる場合じゃない!じゃ、ヒルダ、行ってきます!」
気絶する男鹿の制服の裾を掴んで、ずるずる引きずりながら響古は学校に向かい、ヒルダは手を振って見送った。
重い気持ちを抱いて、男鹿と響古は石矢魔高校に到着した。
「――で」
晴れた空の屋上で、携帯をいじる古市が訊ねる。
「――一応、聞いとくけど、大丈夫か?」
男鹿はうつ伏せの状態で倒れ、身体からは湯気が出ている。
隣にしゃがみ込む響古の手には救急箱。
ちなみに、脳天には響古に踵落としされた、たんこぶがのっけられていた。
「大丈夫に見えるか?今日だけでもう、6回だ」
なんだかんだで生き延びている、その生命力の凄さには驚きだ。
「………………」
さすがに若干引き気味の古市は、うつ伏せで痙攣する男鹿を見下ろしながら、深い溜め息をついた。
(つーか、男鹿じゃなかったら死んでるよな…ってか、あのたんこぶは何だ?)
響古から訳を聞こうにも彼女は困惑した顔で、男鹿の手当てで手一杯だ。
「…やべェぞ。響古、古市…このままじゃ、まじで、あの夢の様になる…死ぬ…確実にオレ、死ぬ…っっ、なんとかしなければ」
うつむけた顔を僅かに上げ、恐れを含んだ声を漏らす。
「「夢?」」
「ああ…恐ろしい悪夢だ…」
僅かに残っている体力で、男鹿は今朝の悪夢を語った。
話を聞き終え、響古は長い黒髪に指を絡め、古市は屋上の手摺に手をかけ、率直に述べる。
「――フーン…そりゃあ、また…」
「何一つ、そーならないと断言出来ない所が恐ろしいね…」
悪夢を深刻に捉える二人に、男鹿は迷いなく頷く。
「だろ?」
「それ、オレも死ぬよな」
「うむ。バッチリ死ぬ」
古市は改めて、響古の腕の中にいるベル坊を観察する。
――…そーだよな。
――この子は、人間を滅ぼしに来た魔王で、
「ダ?」
ベル坊はじっと見つめる古市の視線に気づいて、顔を上げる。
(パッと見、ただの赤ん坊だけど)
――いつどこで、どんな風に成長するのか、まだ何もわかってないんだよな。
ベル坊は魔王の跡継ぎである。
いずれ立派に成長し、地上に生きる全ての人類を滅ぼすために。
それが何年、何十年となるのか、それは誰にもわからない。
「ヒルダさんは、なんて?」
「正夢になるよう、頑張れって…」
「……」
金髪の悪魔が無表情で応援する――その情景を、鮮やかに思い描くことができた。
「――つーか改めて考えてみると、もしかして人類の未来って…お前らの肩にかかってる?」
多分に誇大な表現を含んではいるが、彼の言葉に嘘はない。
魔王の育て親に選ばれてしまった二人の選択肢によって、人類の運命が決められてしまう。
『………』
かなり危険な事態に思い至った沈黙を破るように、古市が冗談だと口許を緩める。
「フ…なーんてね」
「ハハ…」
つられて、男鹿も笑い出す。
「ハハ…」
「フフフフ」
「アハハハハ」
もう、笑うしかないらしい。
三人は豪快に、あーっはっはっはっはっ、と笑い出した。
古市は男鹿の肩を叩く。
そして、男鹿の隣には謎の男がいて一緒に笑い、また彼の肩を叩いていた。
『――って、誰だーーーっ!!!!』
いきなり現れた男は、飛びのく三人の絶叫に構わず、呑気に笑い声をあげる。
妙な男だった。
ズーン、ズーン、という音を立てて向かってくる何かに皆、呆然と眺める。
「はーい。よしよし」
男鹿はベル坊を背負って歩く。
それはそれは、スクスクと成長したベル坊……いや、今はもう見た目は立派な魔王である。
というより、もはや怪物に近い。
「――ったく、お前は、日ましに成長しやがって…」
ありえないサイズの巨体にまで成長したベル坊は、まだ言葉にならない声を発する。
「ダ」
「え?何?ハラへった?」
「ダ」
「しょーがねーなー」
というわけで、定食屋に入ろうとするが、
「すいません、お客様。魔王連れの方はちょっと…」
「えー。まじで?」
断られた。
そして、ラーメン屋に入ろうとするが、
「うちもねー。魔王は、かんべんして欲しいんだわ」
「おいおい」
断られた。
「あー、ダメダメ!!魔王なんて。他のお客さん、こなくなっちゃうよ」
「なにー」
さらには、レストランまでも断られる始末。
「ヴ~~~~」
お腹を空かせたベル坊――魔王は勿論、ご機嫌斜めである。
凄まじい勢いで真っ青になる男鹿の後ろからは、バチバチと爆ぜる音が背中から直接、身体へと伝わってきた。
「ビエエエエエエ」
刹那、雪崩を打つように街一つ、丸ごと包み込むような爆発が起こった。
こうして、世界が終わる光景を垣間見た。
「はい、全滅ううぅぅ」
そして、このまま滅亡した世界で自分も死ぬのかと戦慄した時、男鹿は目を覚ました。
――夢…。
気づけば全身、汗ぐっしょりで濡れていた。
ぽたぽたと流れ落ちるくらい、いっぱいに掻いた汗が、その髪の毛を、頬や額にぺたぺたと張りつけている。
「――……」
悪夢を見てうなされていた男鹿が荒い息をつく横で、ベル坊は微かな寝息を立てている。
――いや…これは警告!!
夢で起きた惨劇を回避するべく、男鹿は考え込む。
(なんとかしなければ……)
一方、ベル坊は呑気に熟睡していた。
バブ3
強くて凶悪でクソヤロー
朝、登校しようと靴を履く男鹿に声がかけられる。
「――おい、聞いているのか?」
気だるげに振り返ると、剣呑そうに目を細めたヒルダが見下ろしている。
「聞ーてるよ。食事は一日5回だろ?」
「そうだ、ここに3回分ある。忘れるなよ」
彼女の手には、ベル坊の食事――粉ミルクの入ったビニール袋が提げられ、これを怠らないようきつく言い聞かせる。
「けっ、てめーの乳でもしぼったか?」
セクハラ染みた発言をした瞬間、頭に靴の踵がグッサリ刺さった。
「……………………」
絶句する男鹿の頭からは血が流れ、その光景にベル坊も顔を青ざめる。
「また、学校とやらに行くのであろう?半日は戻ってこんのなら、貴様がやるしかない。響古にもそう伝えておけ。王族専用粉ミルクだ」
制裁を加えた後、一言付け加えた。
「――それとも、私も一緒に行ってやろーか」
真顔で冗談か本気かわからないヒルダの発言に対し、右手で靴を抜きながら手を握る。
「ばかやろう。俺と響古に任せろよ」
「………」
すると、ヒルダは無言で後ずさる。
「あん?」
男鹿は訝しんだ。
ベル坊が目に涙を浮かべている。
「ヴー」
何故なら、先程の制裁で血が流れていたからで。
そして、当然――。
「ビェエエエエエン!!」
「どばぁっっっ!!」
ベル坊の身体から放たれた電撃が男鹿を襲い、バチバチ、と弾ける音。
男鹿は身体を痙攣させ、電撃は玄関から道路へと吹き飛んだ。
その時、男鹿と一緒に通学しようと、たまたま通りかかった響古が派手な音と遭遇。
「――たっ……辰巳ィィィィ!!」
大声と同時に飛び込んだ響古は慌てふためく。
「な、な、な……何事、今の!!さっき、辰巳の家から雷が見えたんだけど!!今のベル坊……の……」
視線を下に向けると、身体中を煤で汚した男鹿がうつ伏せの状態で倒れていた。
「響古、おはよう」
うっすらと微笑みながら挨拶するヒルダ。
「あ、おはよう、ヒルダ……じゃなくて、どういうこと!?なんで辰巳がこんな朝から倒れてるの!?なんで?なんで、なんで、どうしてーーっ!?」
響古はヒルダの胸ぐらを掴むと、今にも泣き出しそうな顔で――というより既に半泣きになって――揺さぶりながら叫んだ。
「響古、とりあえず落ち着け。実はな――」
軽いめまいを起こしそうになりながらも、ヒルダは朝の出来事を話す。
「――な、成る程…それは辰巳が悪いわね」
顎に手を当てて納得した響古に、ヒルダは意外感を表すように目を丸くする。
「驚いたな。響古が奴が悪いと言うとは…」
「ちょっとヒルダ。それ、どーゆう意味?あたしだって、女の子にデリカシーのない奴は許さないんだからね」
響古はムッとして反論する。
「それに……どうして、あたしに言ってくれないの!辰巳のセクハラ発言だったら、逆に大歓迎よ!」
さすが響古、怒る視点がずれている。
ここまで結構な時間が経ったので、響古はしゃがみ込んで男鹿を揺する。
「辰巳~、起きて~。学校に遅れちゃうよ~」
しばらくして、ぐらんぐらんと揺れる頭を押さえながら、男鹿が目を開けた。
すぐ傍に、響古の白い脚があった。
それを辿って視線を上げていくと、やがて太ももよりもさらに上、純白が視界に入って――。
「……白……」
「えっ?」
「白が見える……」
そう、今の彼の目線の位置からは、丈の短いスカートから覗く――響古の下着がちょっとだけ見えちゃうのだった。
「な――」
響古は一瞬で顔を真っ赤にすると、
「何、どさくさに紛れて見てんの、エッチーー!!」
脳天に踵落としを食らわした。
「ぐっはぁ」
再び、男鹿は気絶した。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
傍目には、響古が勝利の図と見えるだろうが、この場に敗者はいない。
気を失った男鹿も、下着を見られてしまった響古も、共に色々な意味で敗者だった。
「……響古」
「えっとね、違う違うの。さっきの発言はホントだよ。あんなの、ただの初歩だからね?初級編は卒業して、応用編に進みたいよ。二人で愛を
何を言っているのかよくわからない上に、尋常じゃない慌て方をして、顔を一気に赤らめた。
「学校に遅れるぞ」
「えっ?」
響古は、観念の内にないことを指摘され、思考が真っ白になった。
理解を追いつかせた瞬間、もう余裕を持てる時間ではなくなっている。
朝の時間密度は高い。
響古の頭の中には、始業のチャイムをタイムリミットとした、精緻なスケジュールが存在している。
スケジュールの滞りは、即遅刻につながる。
「あっ、学校ね――アハハ……って、呑気に笑ってる場合じゃない!じゃ、ヒルダ、行ってきます!」
気絶する男鹿の制服の裾を掴んで、ずるずる引きずりながら響古は学校に向かい、ヒルダは手を振って見送った。
重い気持ちを抱いて、男鹿と響古は石矢魔高校に到着した。
「――で」
晴れた空の屋上で、携帯をいじる古市が訊ねる。
「――一応、聞いとくけど、大丈夫か?」
男鹿はうつ伏せの状態で倒れ、身体からは湯気が出ている。
隣にしゃがみ込む響古の手には救急箱。
ちなみに、脳天には響古に踵落としされた、たんこぶがのっけられていた。
「大丈夫に見えるか?今日だけでもう、6回だ」
なんだかんだで生き延びている、その生命力の凄さには驚きだ。
「………………」
さすがに若干引き気味の古市は、うつ伏せで痙攣する男鹿を見下ろしながら、深い溜め息をついた。
(つーか、男鹿じゃなかったら死んでるよな…ってか、あのたんこぶは何だ?)
響古から訳を聞こうにも彼女は困惑した顔で、男鹿の手当てで手一杯だ。
「…やべェぞ。響古、古市…このままじゃ、まじで、あの夢の様になる…死ぬ…確実にオレ、死ぬ…っっ、なんとかしなければ」
うつむけた顔を僅かに上げ、恐れを含んだ声を漏らす。
「「夢?」」
「ああ…恐ろしい悪夢だ…」
僅かに残っている体力で、男鹿は今朝の悪夢を語った。
話を聞き終え、響古は長い黒髪に指を絡め、古市は屋上の手摺に手をかけ、率直に述べる。
「――フーン…そりゃあ、また…」
「何一つ、そーならないと断言出来ない所が恐ろしいね…」
悪夢を深刻に捉える二人に、男鹿は迷いなく頷く。
「だろ?」
「それ、オレも死ぬよな」
「うむ。バッチリ死ぬ」
古市は改めて、響古の腕の中にいるベル坊を観察する。
――…そーだよな。
――この子は、人間を滅ぼしに来た魔王で、
「ダ?」
ベル坊はじっと見つめる古市の視線に気づいて、顔を上げる。
(パッと見、ただの赤ん坊だけど)
――いつどこで、どんな風に成長するのか、まだ何もわかってないんだよな。
ベル坊は魔王の跡継ぎである。
いずれ立派に成長し、地上に生きる全ての人類を滅ぼすために。
それが何年、何十年となるのか、それは誰にもわからない。
「ヒルダさんは、なんて?」
「正夢になるよう、頑張れって…」
「……」
金髪の悪魔が無表情で応援する――その情景を、鮮やかに思い描くことができた。
「――つーか改めて考えてみると、もしかして人類の未来って…お前らの肩にかかってる?」
多分に誇大な表現を含んではいるが、彼の言葉に嘘はない。
魔王の育て親に選ばれてしまった二人の選択肢によって、人類の運命が決められてしまう。
『………』
かなり危険な事態に思い至った沈黙を破るように、古市が冗談だと口許を緩める。
「フ…なーんてね」
「ハハ…」
つられて、男鹿も笑い出す。
「ハハ…」
「フフフフ」
「アハハハハ」
もう、笑うしかないらしい。
三人は豪快に、あーっはっはっはっはっ、と笑い出した。
古市は男鹿の肩を叩く。
そして、男鹿の隣には謎の男がいて一緒に笑い、また彼の肩を叩いていた。
『――って、誰だーーーっ!!!!』
いきなり現れた男は、飛びのく三人の絶叫に構わず、呑気に笑い声をあげる。
妙な男だった。