バブ13
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――ここは、ケンカ上等暴力の楽園。
――不良率120%のチンピラ校。
先日から"女王"と名乗る女子生徒が石矢魔に帰ってきた、との噂が学校中に飛び交っていた。
それは、三人の耳にも入る。
「「女王?」」
「ああ、なんか噂でさ、石矢魔の女王が帰ってくるって。響古に負けず劣らずで、すんげー美人らしーぞ」
嬉しさを表して話す古市に対し、男鹿と響古はあまり興味がない様子。
「なんでも、ウチの女子、全員連れて遠征に行ってたとか…」
「フーン。女王ねー」
「あたしの他に、女の子いたんだ…」
二人は他人事のように言う。
『最凶彼氏と最強彼女』と石矢魔の女王。
そして響古と石矢魔の女王。
この二つの出会いが、やがて石矢魔高校を震撼させる事態に発展していくのだが――今はまだ、不良共での一幕に過ぎなかった。
バブ13
再び出会った二人と女
ここは、総合病院のとある一室。
見舞い品の果物が並べられた籠へ手が伸ばされ、バナナを取ろうとするが、横から伸びてきた手が先に取った。
左側のベッドには神崎が、右側のベッドには姫川が、全身包帯でぐるぐる巻きという痛々しい姿で横たわっている。
「こら。手ぇどけろや、メガネ。こいつはオレの見舞いだろーが」
「ハァ?何、小 せー事言ってんの、お前」
どちらも『最凶彼氏と最強彼女』を自分の傘下に引き入れるため、神崎は交換条件を持ちかけて、姫川はあらゆる策を用いて対峙した。
結果的に、ボコボコにされて病院送りにされた二人。
運の悪いことに、同じ病室に入院となった。
「バナナの一本くらい、いいだろが」
「あ?いーわけねーだろ。どたまかち割るぞ、ハゲ」
「ハゲてねーし、よく見ろ、フッサフサだろーが」
「つーか、病院でまで、その、クソ目障りなリーゼントしてんじゃねーよ。定規で計んぞコラ」
眉間に皺を寄せ、憤怒の混じった低い声でバナナを譲ることなく睨み合う。
すると、姫川は忌々しそうに舌打ちすると手法を変えた。
「いくらだ」
「あ゙ぁ!?」
「いくら出しゃ、このバナナくれんのかって聞ーてんだよ」
お得意の金をちらつかせる取り引きを持ちかけた。
ところが、神崎は攻撃的な表情を崩さずことなく、姫川に破格の金額を突きつけた。
「300万円」
法外な料金を取るにしてはあまりにも暴利すぎる金額に、姫川は激しく拒否。
「ハァ!?ぼりすぎだろ!!フザけんなよ!!」
「うるせー、社長の息子がセコイ事、言ってんじゃねーよ」
拒否した途端に、ひどい答えを返された。
当然、喧嘩が始まる。
「………」
「あらあら」
果物やら雑誌やら飛び交う病室に、呑気に眺める夏目と汗を一筋垂らす城山が見舞いにやって来た。
「つーか、そもそも、なんでてめーと同じ病室!?」
その後、二人になだめられ、ようやく気も落ち着いた神崎と姫川は仕方なくバナナを分け合って食べる。
「邦枝?」
「戻ってきたのか。あの女」
現在、石矢魔に戻ってきた東邦神姫の一人、邦枝 葵の名前に驚きを露にする。
「えぇ。昨日、北関東制圧を終えて」
「また、勢力、増えてるらしーっスよーー」
城山も見舞い品のバナナを食べ、夏目は逆の姿勢で椅子に座りながら話す。
「フン。所詮、女の集まりだろ」
「あぁ、女に石矢魔は獲れねーよ」
「いやいや。実際、邦枝はやりづれーっすよ?強ーし、人望はあついし。なんせ、1年にして石矢魔女子をまとめあげたカリスマだ」
所詮は女だと鼻で笑う二人に対し、夏目は彼女の強さとカリスマ性を高く評価していた。
「残るは、あと一人だけですけどね」
その美貌と道場で鍛え上げた無類の強さ。
ヤンキーの女子達を従えるカリスマ性。
そんな資質の持ち主が本気を出せば、敵などいない――ただ一人を除いて。
表面の凛々しさ可憐さだけではない、深さ強さを感じさせる貫禄をもつ少女を思い出し、苦笑いを浮かべる。
「ククッ…確かに」
「ガチでやりゃ、てめーは勝てねーだろーな」
「あ?おめーも一回、やられてんだろ。知ってんぞ」
「いやぁ…オレは、ほらフェミニストだから。女相手に本気出せねーの」
途端、姫川は気まずげに目を逸らし、戸惑い気味に答える。
「ぬかせ。言いよってぶっとばされたって、もっぱらの噂だぜ」
「あ゙!?」
「っだ、コラ」
言い合う内に、二人は真正面から睨み合っていた。
「――ま、それは、ともかく東条一派は、正直石矢魔統一なんて興味ないだろーし」
不良共が集まる石矢魔のトップに君臨するのは果たして誰か。
そんな二人の様子を眺めていた夏目はおもむろに立ち上がり、爆弾を落とした。
「こうなると、男鹿ちゃんと篠木ちゃんに頑張ってもらっとくしかねーっすからねー」
夏目は髪を掻き上げながら、どの派閥にも属さない二人の名前を出す。
自分達を倒した、憎い二人の名前を聞いた直後、こめかみに青筋が立ち、表情が憤怒へと激変した。
「――っざけんな!!"黒雪姫"ならともかく、あんな1年坊に…」
「治す!!3日で治す!!」
「ちょっとアンタ達、また、ケンカ!?」
凄まじい勢いで破壊活動を始める病室へ、偶然通りかかった看護婦が怒鳴る。
「たーのしーなー」
「………夏目…お前」
思い切り棒読みで状況を愉しむ夏目を、城山は恐ろしい物を見るような眼差しを送った。
その頃、石矢魔高校ではもっぱら女王の噂で持ちきりだった。
男鹿は自動販売機の前で手を止め、素っ頓狂な声をあげる。
「は?」
辺りを見回せば、ギャハハ、と耳障りな笑い声をあげる不良共が目に入るが、今回ばかりは違った。
きゃっきゃっうふふとおしゃべりに戯れる女子生徒。
「でさー」
楽しそうに話しながら彼女達が通り過ぎる姿を凝視する古市は、勢いよく振り向く。
「『は?』じゃねーよ!!」
「お…おう。え?何が?」
「古市……なんでそんなにテンション高いの?」
響古が困ったように苦笑すると、古市は柄になく真剣な表情で力強く言い放つ。
「だーかーらーっ、女王見に行こうっつってんだろ!!何、聞ーてたんだ、お前は!!」
「あ…ああ」
男鹿は古市の熱さについていけず、呆れたような表情になる。
とりあえず他人事だった。
全く無関係とは行かないだろうが、自分の方から関わる意思もない。
「そして、なんだ、そのテンションは!!」
敏感にそれを察知した古市はさらに声を張り上げる。
「いいか、男鹿!!お前は、事の重大さがまるでわかっとらん!!まわりを見ろ!!女子!!女子!!女子!!石矢魔に、こんなに女子がいたんたぞ!?」
「いや、だって、うち共学だろ?」
唐突に始まった古市の熱弁。
無駄に大仰な理屈を、男鹿は率直な発言でつっこみ、
「女子少ねーけど…」
硬貨を入れて、目当ての飲み物のボタンを押す。
ガコン、と音がして受け取り口にジュースが降りてきた。
だが、男鹿はそれを拾わず、横目で響古の姿を流し見ている
「辰巳?」
「響古…夏服、似合ってるよ。髪型とかも。すげェ可愛い」
「……っ、え」
その時のうろたえぶりは凄まじかった。
彼女は今日から、高校の制服を夏服に替えていた。
自分の新しい服を、響古は意識して見下ろす。
黒の装飾はスカートだけとなり、それ以外はまぶしいほどの白。
スカートもデザイン的には同じものだが、生地は薄手のものになっている。
勿論、男鹿や古市も夏服――といっても、男子の場合は学ランを脱いで、半袖シャツになっただけだが――に変わっている。
「……ほら、夏って暑いじゃん。汗のせいで髪の毛が首元に貼りつくの、嫌だから」
腰まである艶やかな黒い髪も、耳の両脇で二つに結っている。
やっと自分の飲み物を受け取り口から取り出し、響古に顔を向ける。
「そうだった、響古…何がいい?」
「あ、えっと……ココア。冷たいの」
漆黒の瞳に動揺を浮かべつつ、表情だけは何食わぬ顔でリクエストする。
可愛い、と思いつつ、失笑にならないよう気をつけて頷いた。
「ココア好きだなー、お前」
「えへへ」
「おいコラそこのバカップル、いちゃつくなぁー!!」
隙あらば、思春期真っ盛りとしか思えない惚気に浸る二人へと『お一人様』の古市は怒鳴る。
「そんな設定、誰も知らねーよ!!つーか、今まで男子校だと思ってた奴、管理人含めて多数ですよ!!正味 な話!!」
これまで描写されてきたのは、どれも気合いの入った不良ばかり。
荒々しい男達の中に、ただ一人だけ紅一点の響古ばかりだと思い込んでいたのは管理人だけではない。
――寒かった…寒かったっすよ…。
――アホな不良男子のみに囲まれて送る、灰色高校生活。
極寒の南極に、新聞紙一枚で生活する古市の周りには、
「コロス」
「ブッコロス」
「コロッセオ」
物騒な言葉を並べては喧嘩に明け暮れる不良共(ペンギン)がひしめき合っていた。
「え、じゃあ何かな古市君。あたしは今まで、男子として見られていたの?」
明るい声なのに、妙に暗くも聞こえる声に、古市はぞくりと身を震わせる。
おそるおそる振り向くと、見惚れるほどの笑顔の響古……しかし背後には真っ黒オーラ。
「あ、いや、そーゆーわけではなく…」
「それと、辰巳に変な教えを吹き込まないでちょうだい」
いつの間にか、手首が取られていた。
軽く添えただけのような、その細く優美な指は、しかし万力のような力で古市の腕を押さえ、身動きを許さない。
「いででででっっ!?スッ…スミマセン、スミマセン、気をつけます!」
「全く……」
響古は古市の手を放した。
しかし、往生際が悪いことに未だ熱弁する。
「だが、しかぁしっ!!これからは違うぜ!!なぁ、男鹿!!恋しちゃっていいかい!?」
このあきらめない姿勢は長所と言ってもよいかもしれなかった。
さすがは古市、女好きに関しては右に出る者がいないかもしれない。
「ウゼェ…大体、オレには響古がいるから、どーでもいいし」
うんざり気味に顔を引きつらせる男鹿はジュースのプルを開けて溜め息をつく。
呆れた表情の響古もココアのプルを開けようとしたところで、
「ん?」
視線を感じて振り向いた。
同じ1年生らしい女子生徒達が、何人か固まって騒いでいる。
女子生徒達のその会話内容が、耳に入ったからだった。
「こ、これってマジ?」
「ちょっと、話しかけてみよーよ」
「え?無理だよ……恥ずかしいよ……」
「何言ってんの!憧れの"黒雪姫"が、あんな近くにいるのよ」
「"黒雪姫"?」
呼び名に反応すると、その声が届いたらしい。
女子生徒達が一斉に振り返って、響古の美貌をまじまじと見た。
『っ、く、くくく"黒雪姫"ぇぇ!?』
動揺に上擦った声で、異様に盛り上がる。
「……え、えと。あ……ハイ、そうですけど」
それに響古が緊張を示したのも、錯覚ではなかった。
――不良率120%のチンピラ校。
先日から"女王"と名乗る女子生徒が石矢魔に帰ってきた、との噂が学校中に飛び交っていた。
それは、三人の耳にも入る。
「「女王?」」
「ああ、なんか噂でさ、石矢魔の女王が帰ってくるって。響古に負けず劣らずで、すんげー美人らしーぞ」
嬉しさを表して話す古市に対し、男鹿と響古はあまり興味がない様子。
「なんでも、ウチの女子、全員連れて遠征に行ってたとか…」
「フーン。女王ねー」
「あたしの他に、女の子いたんだ…」
二人は他人事のように言う。
『最凶彼氏と最強彼女』と石矢魔の女王。
そして響古と石矢魔の女王。
この二つの出会いが、やがて石矢魔高校を震撼させる事態に発展していくのだが――今はまだ、不良共での一幕に過ぎなかった。
バブ13
再び出会った二人と女
ここは、総合病院のとある一室。
見舞い品の果物が並べられた籠へ手が伸ばされ、バナナを取ろうとするが、横から伸びてきた手が先に取った。
左側のベッドには神崎が、右側のベッドには姫川が、全身包帯でぐるぐる巻きという痛々しい姿で横たわっている。
「こら。手ぇどけろや、メガネ。こいつはオレの見舞いだろーが」
「ハァ?何、
どちらも『最凶彼氏と最強彼女』を自分の傘下に引き入れるため、神崎は交換条件を持ちかけて、姫川はあらゆる策を用いて対峙した。
結果的に、ボコボコにされて病院送りにされた二人。
運の悪いことに、同じ病室に入院となった。
「バナナの一本くらい、いいだろが」
「あ?いーわけねーだろ。どたまかち割るぞ、ハゲ」
「ハゲてねーし、よく見ろ、フッサフサだろーが」
「つーか、病院でまで、その、クソ目障りなリーゼントしてんじゃねーよ。定規で計んぞコラ」
眉間に皺を寄せ、憤怒の混じった低い声でバナナを譲ることなく睨み合う。
すると、姫川は忌々しそうに舌打ちすると手法を変えた。
「いくらだ」
「あ゙ぁ!?」
「いくら出しゃ、このバナナくれんのかって聞ーてんだよ」
お得意の金をちらつかせる取り引きを持ちかけた。
ところが、神崎は攻撃的な表情を崩さずことなく、姫川に破格の金額を突きつけた。
「300万円」
法外な料金を取るにしてはあまりにも暴利すぎる金額に、姫川は激しく拒否。
「ハァ!?ぼりすぎだろ!!フザけんなよ!!」
「うるせー、社長の息子がセコイ事、言ってんじゃねーよ」
拒否した途端に、ひどい答えを返された。
当然、喧嘩が始まる。
「………」
「あらあら」
果物やら雑誌やら飛び交う病室に、呑気に眺める夏目と汗を一筋垂らす城山が見舞いにやって来た。
「つーか、そもそも、なんでてめーと同じ病室!?」
その後、二人になだめられ、ようやく気も落ち着いた神崎と姫川は仕方なくバナナを分け合って食べる。
「邦枝?」
「戻ってきたのか。あの女」
現在、石矢魔に戻ってきた東邦神姫の一人、邦枝 葵の名前に驚きを露にする。
「えぇ。昨日、北関東制圧を終えて」
「また、勢力、増えてるらしーっスよーー」
城山も見舞い品のバナナを食べ、夏目は逆の姿勢で椅子に座りながら話す。
「フン。所詮、女の集まりだろ」
「あぁ、女に石矢魔は獲れねーよ」
「いやいや。実際、邦枝はやりづれーっすよ?強ーし、人望はあついし。なんせ、1年にして石矢魔女子をまとめあげたカリスマだ」
所詮は女だと鼻で笑う二人に対し、夏目は彼女の強さとカリスマ性を高く評価していた。
「残るは、あと一人だけですけどね」
その美貌と道場で鍛え上げた無類の強さ。
ヤンキーの女子達を従えるカリスマ性。
そんな資質の持ち主が本気を出せば、敵などいない――ただ一人を除いて。
表面の凛々しさ可憐さだけではない、深さ強さを感じさせる貫禄をもつ少女を思い出し、苦笑いを浮かべる。
「ククッ…確かに」
「ガチでやりゃ、てめーは勝てねーだろーな」
「あ?おめーも一回、やられてんだろ。知ってんぞ」
「いやぁ…オレは、ほらフェミニストだから。女相手に本気出せねーの」
途端、姫川は気まずげに目を逸らし、戸惑い気味に答える。
「ぬかせ。言いよってぶっとばされたって、もっぱらの噂だぜ」
「あ゙!?」
「っだ、コラ」
言い合う内に、二人は真正面から睨み合っていた。
「――ま、それは、ともかく東条一派は、正直石矢魔統一なんて興味ないだろーし」
不良共が集まる石矢魔のトップに君臨するのは果たして誰か。
そんな二人の様子を眺めていた夏目はおもむろに立ち上がり、爆弾を落とした。
「こうなると、男鹿ちゃんと篠木ちゃんに頑張ってもらっとくしかねーっすからねー」
夏目は髪を掻き上げながら、どの派閥にも属さない二人の名前を出す。
自分達を倒した、憎い二人の名前を聞いた直後、こめかみに青筋が立ち、表情が憤怒へと激変した。
「――っざけんな!!"黒雪姫"ならともかく、あんな1年坊に…」
「治す!!3日で治す!!」
「ちょっとアンタ達、また、ケンカ!?」
凄まじい勢いで破壊活動を始める病室へ、偶然通りかかった看護婦が怒鳴る。
「たーのしーなー」
「………夏目…お前」
思い切り棒読みで状況を愉しむ夏目を、城山は恐ろしい物を見るような眼差しを送った。
その頃、石矢魔高校ではもっぱら女王の噂で持ちきりだった。
男鹿は自動販売機の前で手を止め、素っ頓狂な声をあげる。
「は?」
辺りを見回せば、ギャハハ、と耳障りな笑い声をあげる不良共が目に入るが、今回ばかりは違った。
きゃっきゃっうふふとおしゃべりに戯れる女子生徒。
「でさー」
楽しそうに話しながら彼女達が通り過ぎる姿を凝視する古市は、勢いよく振り向く。
「『は?』じゃねーよ!!」
「お…おう。え?何が?」
「古市……なんでそんなにテンション高いの?」
響古が困ったように苦笑すると、古市は柄になく真剣な表情で力強く言い放つ。
「だーかーらーっ、女王見に行こうっつってんだろ!!何、聞ーてたんだ、お前は!!」
「あ…ああ」
男鹿は古市の熱さについていけず、呆れたような表情になる。
とりあえず他人事だった。
全く無関係とは行かないだろうが、自分の方から関わる意思もない。
「そして、なんだ、そのテンションは!!」
敏感にそれを察知した古市はさらに声を張り上げる。
「いいか、男鹿!!お前は、事の重大さがまるでわかっとらん!!まわりを見ろ!!女子!!女子!!女子!!石矢魔に、こんなに女子がいたんたぞ!?」
「いや、だって、うち共学だろ?」
唐突に始まった古市の熱弁。
無駄に大仰な理屈を、男鹿は率直な発言でつっこみ、
「女子少ねーけど…」
硬貨を入れて、目当ての飲み物のボタンを押す。
ガコン、と音がして受け取り口にジュースが降りてきた。
だが、男鹿はそれを拾わず、横目で響古の姿を流し見ている
「辰巳?」
「響古…夏服、似合ってるよ。髪型とかも。すげェ可愛い」
「……っ、え」
その時のうろたえぶりは凄まじかった。
彼女は今日から、高校の制服を夏服に替えていた。
自分の新しい服を、響古は意識して見下ろす。
黒の装飾はスカートだけとなり、それ以外はまぶしいほどの白。
スカートもデザイン的には同じものだが、生地は薄手のものになっている。
勿論、男鹿や古市も夏服――といっても、男子の場合は学ランを脱いで、半袖シャツになっただけだが――に変わっている。
「……ほら、夏って暑いじゃん。汗のせいで髪の毛が首元に貼りつくの、嫌だから」
腰まである艶やかな黒い髪も、耳の両脇で二つに結っている。
やっと自分の飲み物を受け取り口から取り出し、響古に顔を向ける。
「そうだった、響古…何がいい?」
「あ、えっと……ココア。冷たいの」
漆黒の瞳に動揺を浮かべつつ、表情だけは何食わぬ顔でリクエストする。
可愛い、と思いつつ、失笑にならないよう気をつけて頷いた。
「ココア好きだなー、お前」
「えへへ」
「おいコラそこのバカップル、いちゃつくなぁー!!」
隙あらば、思春期真っ盛りとしか思えない惚気に浸る二人へと『お一人様』の古市は怒鳴る。
「そんな設定、誰も知らねーよ!!つーか、今まで男子校だと思ってた奴、管理人含めて多数ですよ!!
これまで描写されてきたのは、どれも気合いの入った不良ばかり。
荒々しい男達の中に、ただ一人だけ紅一点の響古ばかりだと思い込んでいたのは管理人だけではない。
――寒かった…寒かったっすよ…。
――アホな不良男子のみに囲まれて送る、灰色高校生活。
極寒の南極に、新聞紙一枚で生活する古市の周りには、
「コロス」
「ブッコロス」
「コロッセオ」
物騒な言葉を並べては喧嘩に明け暮れる不良共(ペンギン)がひしめき合っていた。
「え、じゃあ何かな古市君。あたしは今まで、男子として見られていたの?」
明るい声なのに、妙に暗くも聞こえる声に、古市はぞくりと身を震わせる。
おそるおそる振り向くと、見惚れるほどの笑顔の響古……しかし背後には真っ黒オーラ。
「あ、いや、そーゆーわけではなく…」
「それと、辰巳に変な教えを吹き込まないでちょうだい」
いつの間にか、手首が取られていた。
軽く添えただけのような、その細く優美な指は、しかし万力のような力で古市の腕を押さえ、身動きを許さない。
「いででででっっ!?スッ…スミマセン、スミマセン、気をつけます!」
「全く……」
響古は古市の手を放した。
しかし、往生際が悪いことに未だ熱弁する。
「だが、しかぁしっ!!これからは違うぜ!!なぁ、男鹿!!恋しちゃっていいかい!?」
このあきらめない姿勢は長所と言ってもよいかもしれなかった。
さすがは古市、女好きに関しては右に出る者がいないかもしれない。
「ウゼェ…大体、オレには響古がいるから、どーでもいいし」
うんざり気味に顔を引きつらせる男鹿はジュースのプルを開けて溜め息をつく。
呆れた表情の響古もココアのプルを開けようとしたところで、
「ん?」
視線を感じて振り向いた。
同じ1年生らしい女子生徒達が、何人か固まって騒いでいる。
女子生徒達のその会話内容が、耳に入ったからだった。
「こ、これってマジ?」
「ちょっと、話しかけてみよーよ」
「え?無理だよ……恥ずかしいよ……」
「何言ってんの!憧れの"黒雪姫"が、あんな近くにいるのよ」
「"黒雪姫"?」
呼び名に反応すると、その声が届いたらしい。
女子生徒達が一斉に振り返って、響古の美貌をまじまじと見た。
『っ、く、くくく"黒雪姫"ぇぇ!?』
動揺に上擦った声で、異様に盛り上がる。
「……え、えと。あ……ハイ、そうですけど」
それに響古が緊張を示したのも、錯覚ではなかった。