バブ91~93
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バブ91
山ごもりです2
――オッス、オレの名前は古市貴之。
――自称イケメン高校生だ。
ある晴れた休日の昼下がり、ご無沙汰だった古市の自己紹介が始まった。
爽やかな笑みを満面に浮かべる。
――おいおい、自称イケメンって悲しすぎるだろだって…?
――いいんだぜ…いつだって自称は外してもらって…君しだいさ!!
その瞬間、我々一同の心情は見事に一致した。
キモイ。
――あ、すみません、待って、本題に入るから。
――もうちょっとだけ聞いて。
おふざけはここまでにしといて、心の奥底に眠っていた気持ちに顔を伏せつつ、本題に切り出す。
――本題。
「最近、オレ影うすくね?」
ベル坊と出会った頃の自分はかなり男鹿と響古に振り回された。
それが、いつ頃からだろう、次々と新キャラが現れるごとに自分の存在が薄くなっていった……そう思うと、怒りとも困惑ともとれない、重くて嫌なものが胸の中に湧き上がってくる。
――なーーんつって!!なんつって!!言ってみただけ!!
――もう一人のちょっぴりすねたオレが言ってみただけでがんす!!
思いの袋小路で足掻くように、大笑いして気持ちを誤魔化す。
「――…ち…」
――ナハハのハーッってかぁぁ!!
「…古市……起きなさい…!」
悲痛なまでの笑いをあげていると、ぼんやりとした意識に声が響く。
古市はその声でうっすら目を開けた。
窓からの陽射しがまぶしくて、布団を頭まで被る。
いつもと変わらない朝、いつも通りの風景。
ただ、その中でいつもと違うのは――。
「古市!!」
古市の上に跨り、白衣を纏ったラミアが見下ろしていた。
「ったく相変わらずキモいわね、何がナハハのハーよ。さっさと起きて支度なさい!!今から私と焔王坊っちゃま捜しに行くんだから」
小柄な体躯、ふわふわとした金髪、いかにも強気そうなつり目。
身も心も思春期の妄想で汚れまくった男子高校生に、性的な趣味など欠片もない。
――夢か…どうせなら、響古かヒルダさん出てきて下さい。
目を閉じ、黒髪美少女と金髪美女とのお目覚めイベントを願う。
――もちろんベストを言えば二人同時に起こしに来るやり方で…!
二度寝を始めた少年に対し、ラミアは怒号と鉄拳で叩き起こした。
「起きろっつってんだろ、キモ男!!」
「がぁああっっ!!」
私服に着替える古市は憂鬱な気分だった。
どうして朝から幼女に殴られているんだろう。
「はぁ!?ベル坊の兄貴を捜す?オレが?なんで!?」
「私一人じゃ無理だからに決まってんでしょ!!」
「いや、だからなんでオレ?つーか、なんで捜すの?ちゃんと説明しろよ」
「――…あなた、何も知らないのね」
呆れと憐憫がミックスした視線が突き刺さって、古市は恐ろしく惨めな気分になった。
「うわっ、傷つく!!なんか、それ傷つくでがんす!!」
束の間、意味不明な状況に置かれることになった古市は、存在感の薄さを危惧して詰め寄る。
「何があったの!?ねぇっ!!オレの影が薄くなってる間に、何が起こったの!?」
「ちょっと!!引っぱらないでよ、キモいわね!!放しなさいっ!!」
古市に必死な表情をずいっと近づけられたラミアは動揺し、一歩踏み出した時、白衣の裾を掴まれてよろけてしまう。
「きゃあぁぁっ!!」
「うぉわぁぁっ!!」
ぶつかった拍子にもつれ合い、勢いよくドアが開けられた。
「お兄ちゃん!!いつまで寝てるのよ!!いくら朝だからって朝ご飯は、片づけてくれないと………」
一歳年下の古市の妹が登場。
妹はドアを開け放った姿勢のまま動きを止めた。
跨る形で幼女を押し倒してしまった兄を眺め、一転して静まり返る。
状況を説明する前に、顔を真っ青にさせて率直に述べる。
「ロリコン…変態…お母さんに……言う!!」
「ちょっ…違っ…これは…てゆーか、リアルなリアクションやめて…!!」
「いくら響古さんが振り向いてくれないとはいえ、幼女に手を出して…」
「なわけないだろ!!オレはロリコンでもないし、平台地(貧乳)よりも山脈(巨乳)を選ぶわーー!!」
古市はその瞳を、ささやかという表現すら過大に思える発展途上の胸元に注ぐ。
すると、その言葉で納得した妹は真面目な顔で携帯を取り出す。
「そ…そうね。まずは110番に…」
「もっとリアルですよー!!!」
警察に通報しようとする妹の記憶を抹消するべく、ラミアが謎の液体が入った注射器を掲げた。
「どいて古市…面倒くさいわね。記憶消しましょ」
「人の妹に何、注射しようとしてんだぁぁっ!!」
危ない薬を使って記憶を消そうとする金髪の幼女に、古市は大量の汗を流して叫んだ。
――その後、小一時間釈明し、古市 妹(ほのか14歳)は渋々、納得した。
「オガんちのしんせきの子でね、ちょっとイタズラ好きってゆーか?」
「えーー…」
妹のほのかは怪訝な表情ながらも、兄の必死な訴えに気圧され、渋々納得したようだ。
閑静な住宅街の通りを歩きながら、ベル坊の兄・焔王の別れ直後に部下に襲撃されたとの話を聞かされ、驚きを隠せないでいた。
「――まじかよ…焔王の部下が男鹿と響古を殺しにきて、ヒルダさんが刺された…?」
あまりにも現実離れした、その現実に、古市は呆然と目を見開いた。
淡々と告げるラミアの表情には、冗談の気配は微塵も感じられない。
「おいおい、オレの知らねーうちになんちゅーシリアスな展開だよ。てゆーか、ヒルダさんは無事なの?」
「私と師匠が来たんだから無事に決まってるでしょ」
ラミアはいらついたように固い声をあげ、噛みつくように眼前の古市を睨みつける。
「そんな事より、焔王様よ!!あんた、会ったんでしょ!?どっか行きそうな場所とか心当たりないの?」
「んー…会ったっつってもなぁ…」
答えに迷う古市はきっとその瞬間、焔王の手がかりを得るべく、必死で頭を巡らせたに違いない。
そして、ゲームに興味津々な少年が行きそうな場所はどこか、口にする。
「――…ゲームセンターとか…?」
「げーむせんたぁ~?」
途端、ラミアは訝しげに眉を寄せ、
「何よそれ」
人間界に詳しくない方面が垣間見える。
古市はふと疑問に思う。
「んー…つーかさ、なんでオレなの?さっきも聞いたけど…」
するとラミアは頬を染めながら、照れくさそうに視線を逸らして告げる。
「……しょ…しょーがないでしょ…?だって…人間界 で知ってる奴なんてアンタしかいないし…つべこべ言わずにつき合いなさいよ」
彼の頭の中にある少女のイメージとは、決定的に何かが違う。
いつもの偉そうな態度は微塵も感じられない。
――あれ――…何これ…?
「ツンデレ?」
照れくさそうにもじもじするラミアを不思議そうな顔で見つめて、吐息をついた。
――…ま…ちょっとくらい協力してやるか…。
(心細いのね、よーするに)
ふと、ラミアの発言におかしな点を見つけた。
「ん?オレしか…?」
少女の言葉の端々から意味深めな単語を感じ取り、思い切って訊ねる。
「まてまて。オレしかって事はないだろ。当の二人はどーしたよ!?」
「――…あんた…本当に何も聞いてないのね…」
意外そうな顔で見つめ返すラミアの説明を聞くこと数分。
「邦枝先輩と…デート……だと…?」
その衝撃的な事実に、思わず劇画チックな絵面になる。
「いや…修業だってば…」
呆れた声音で訂正するが、声を荒げる古市。
有無を言わせぬ形相だ。
「納得いかんぞっ!!なんだ、この差は!!」
「はぁっ!?差!!?どーいう意味よっっ!!」
ラミアはとても不機嫌そうな顔で、侮蔑の念がこもった目をしてつっこんだ。
待ち合わせ場所である駅の構内で、葵は遅れてやって来た男鹿を見つけるや否や、ぴしゃりと叱咤する。
「遅い!!」
気まずそうに頭を掻く男鹿の背中には、ベル坊がすやすやと夢の中。
「――悪い、寝すごした…」
読み取り部にICカードをかざすと自動的に精算され、改札機を通過する。
「遊びに行くんじゃないんだから。シャキっとしなさいよね!!」
「お…おう」
既に響古と祖父は改札機を通過して、向こう側に立っている。
「お前こそ、なんじゃ?そこチャラついた格好は…」
「べ…別に…いつも通りですけど?何いってんのよ」
胡乱な目つきの祖父の詰問に、葵は焦った様子で誤魔化す。
彼女の格好は黒のトップスにファーのついたジャケットを羽織り、白のスカートにブーツ。
「……」
誤魔化す(?)ことに成功した葵は横目で男鹿に駆け寄る響古の私服を見る。
それは白を基調とした長袖ブラウスで腰には可愛らしいリボン、膝上のキュロットスカートが軽い動きにひらりと踊った。
脚線を飾るのは、シンプルなストライプのニーッソクスにスニーカー。
(――響古が着る服だったら何にでも似合うと思ってたけど……何回でも言いたいわ、私服カワイイ!!)
それは男鹿も同じこと。
呆気に取られる男鹿の前で、ふふ、と満面の笑みを浮かべる。
「ある意味、制服よりも緊張するねぇ。なんだか不思議なカンジ」
「うん……」
「誰もが制服="黒雪姫"だって認識してるから、誰も気づかないね」
「うん、それはそうだろうなぁと思った……」
「なんで?あっ、辰巳もあたしが黒以外の服を着ると違和感あると思ってる!?んもー、彼女がせっかく私服を披露してるのにっ。修業のついでに持ってきたこの刀、早速使っちゃうよ?」
「うん――ってちょっと待ておい、なんてもの持ってきてんだ!?響古、落ち着くんだ、それを捨てろ!お前には全然似合わないから!」
でも背筋が震える笑顔とどっちがマシかな、と思わず真剣に考えてしまう。
響古はぷくっとふくれっ面をして、キュロットの裾を引っ張った。
「……だったら、ちゃんと見て。どう?」
「世界で一番かわいい」
それしか言葉が出てこなかった。
彼女は一瞬、驚いたように間を空けたが、すぐにまた笑顔を浮かべる。
何度でも何度でも、笑わせてあげたい。
そう思わせられる、極上の恋人。
「……響古……」
「辰巳、行こ」
どう言葉にしていいかわからず、言い淀んだところで先手を取られる。
「魔二津…?」
修業に出向くこととなった男鹿と響古。
その後見人となった葵の祖父。
「というと、古くから伝わる修験道場ですね。そこへ向かっているのですか?」
「――…うむ。ちと遠いが、身の引きしまる場所じゃ」
何故か随伴することになった影組。
「いいねっ。修業らしくなってきたじゃねぇか」
「天気もいいし、やっぱり外の風景を見ながらは気持ちいいね」
男鹿は口の端をつり上げ、響古は大らかに言いながら、葵手製のおにぎりを食べる。
(てゆーか、なんで、この人達までいるの…?)
うろたえた素振りを見せる葵。
一から鍛え直すと決めた影組も同行し、一同は魔二津へ修業。
「邦枝ちゃん。そのおにぎり、オレも、らっていい?」
電車で往く道中、三鏡がおにぎりを一口食べると、
「ヒョーー、うんめぇーー、超 うめーー」
飛び上がるように大声ではしゃぐ。
「あっ…三鏡!!ズルいぞ。わしも、よこせ!!」
「あたしもあたしも!!」
それを聞きつけて、他の二人もおにぎりに手を伸ばす。
山ごもりです2
――オッス、オレの名前は古市貴之。
――自称イケメン高校生だ。
ある晴れた休日の昼下がり、ご無沙汰だった古市の自己紹介が始まった。
爽やかな笑みを満面に浮かべる。
――おいおい、自称イケメンって悲しすぎるだろだって…?
――いいんだぜ…いつだって自称は外してもらって…君しだいさ!!
その瞬間、我々一同の心情は見事に一致した。
キモイ。
――あ、すみません、待って、本題に入るから。
――もうちょっとだけ聞いて。
おふざけはここまでにしといて、心の奥底に眠っていた気持ちに顔を伏せつつ、本題に切り出す。
――本題。
「最近、オレ影うすくね?」
ベル坊と出会った頃の自分はかなり男鹿と響古に振り回された。
それが、いつ頃からだろう、次々と新キャラが現れるごとに自分の存在が薄くなっていった……そう思うと、怒りとも困惑ともとれない、重くて嫌なものが胸の中に湧き上がってくる。
――なーーんつって!!なんつって!!言ってみただけ!!
――もう一人のちょっぴりすねたオレが言ってみただけでがんす!!
思いの袋小路で足掻くように、大笑いして気持ちを誤魔化す。
「――…ち…」
――ナハハのハーッってかぁぁ!!
「…古市……起きなさい…!」
悲痛なまでの笑いをあげていると、ぼんやりとした意識に声が響く。
古市はその声でうっすら目を開けた。
窓からの陽射しがまぶしくて、布団を頭まで被る。
いつもと変わらない朝、いつも通りの風景。
ただ、その中でいつもと違うのは――。
「古市!!」
古市の上に跨り、白衣を纏ったラミアが見下ろしていた。
「ったく相変わらずキモいわね、何がナハハのハーよ。さっさと起きて支度なさい!!今から私と焔王坊っちゃま捜しに行くんだから」
小柄な体躯、ふわふわとした金髪、いかにも強気そうなつり目。
身も心も思春期の妄想で汚れまくった男子高校生に、性的な趣味など欠片もない。
――夢か…どうせなら、響古かヒルダさん出てきて下さい。
目を閉じ、黒髪美少女と金髪美女とのお目覚めイベントを願う。
――もちろんベストを言えば二人同時に起こしに来るやり方で…!
二度寝を始めた少年に対し、ラミアは怒号と鉄拳で叩き起こした。
「起きろっつってんだろ、キモ男!!」
「がぁああっっ!!」
私服に着替える古市は憂鬱な気分だった。
どうして朝から幼女に殴られているんだろう。
「はぁ!?ベル坊の兄貴を捜す?オレが?なんで!?」
「私一人じゃ無理だからに決まってんでしょ!!」
「いや、だからなんでオレ?つーか、なんで捜すの?ちゃんと説明しろよ」
「――…あなた、何も知らないのね」
呆れと憐憫がミックスした視線が突き刺さって、古市は恐ろしく惨めな気分になった。
「うわっ、傷つく!!なんか、それ傷つくでがんす!!」
束の間、意味不明な状況に置かれることになった古市は、存在感の薄さを危惧して詰め寄る。
「何があったの!?ねぇっ!!オレの影が薄くなってる間に、何が起こったの!?」
「ちょっと!!引っぱらないでよ、キモいわね!!放しなさいっ!!」
古市に必死な表情をずいっと近づけられたラミアは動揺し、一歩踏み出した時、白衣の裾を掴まれてよろけてしまう。
「きゃあぁぁっ!!」
「うぉわぁぁっ!!」
ぶつかった拍子にもつれ合い、勢いよくドアが開けられた。
「お兄ちゃん!!いつまで寝てるのよ!!いくら朝だからって朝ご飯は、片づけてくれないと………」
一歳年下の古市の妹が登場。
妹はドアを開け放った姿勢のまま動きを止めた。
跨る形で幼女を押し倒してしまった兄を眺め、一転して静まり返る。
状況を説明する前に、顔を真っ青にさせて率直に述べる。
「ロリコン…変態…お母さんに……言う!!」
「ちょっ…違っ…これは…てゆーか、リアルなリアクションやめて…!!」
「いくら響古さんが振り向いてくれないとはいえ、幼女に手を出して…」
「なわけないだろ!!オレはロリコンでもないし、平台地(貧乳)よりも山脈(巨乳)を選ぶわーー!!」
古市はその瞳を、ささやかという表現すら過大に思える発展途上の胸元に注ぐ。
すると、その言葉で納得した妹は真面目な顔で携帯を取り出す。
「そ…そうね。まずは110番に…」
「もっとリアルですよー!!!」
警察に通報しようとする妹の記憶を抹消するべく、ラミアが謎の液体が入った注射器を掲げた。
「どいて古市…面倒くさいわね。記憶消しましょ」
「人の妹に何、注射しようとしてんだぁぁっ!!」
危ない薬を使って記憶を消そうとする金髪の幼女に、古市は大量の汗を流して叫んだ。
――その後、小一時間釈明し、古市 妹(ほのか14歳)は渋々、納得した。
「オガんちのしんせきの子でね、ちょっとイタズラ好きってゆーか?」
「えーー…」
妹のほのかは怪訝な表情ながらも、兄の必死な訴えに気圧され、渋々納得したようだ。
閑静な住宅街の通りを歩きながら、ベル坊の兄・焔王の別れ直後に部下に襲撃されたとの話を聞かされ、驚きを隠せないでいた。
「――まじかよ…焔王の部下が男鹿と響古を殺しにきて、ヒルダさんが刺された…?」
あまりにも現実離れした、その現実に、古市は呆然と目を見開いた。
淡々と告げるラミアの表情には、冗談の気配は微塵も感じられない。
「おいおい、オレの知らねーうちになんちゅーシリアスな展開だよ。てゆーか、ヒルダさんは無事なの?」
「私と師匠が来たんだから無事に決まってるでしょ」
ラミアはいらついたように固い声をあげ、噛みつくように眼前の古市を睨みつける。
「そんな事より、焔王様よ!!あんた、会ったんでしょ!?どっか行きそうな場所とか心当たりないの?」
「んー…会ったっつってもなぁ…」
答えに迷う古市はきっとその瞬間、焔王の手がかりを得るべく、必死で頭を巡らせたに違いない。
そして、ゲームに興味津々な少年が行きそうな場所はどこか、口にする。
「――…ゲームセンターとか…?」
「げーむせんたぁ~?」
途端、ラミアは訝しげに眉を寄せ、
「何よそれ」
人間界に詳しくない方面が垣間見える。
古市はふと疑問に思う。
「んー…つーかさ、なんでオレなの?さっきも聞いたけど…」
するとラミアは頬を染めながら、照れくさそうに視線を逸らして告げる。
「……しょ…しょーがないでしょ…?だって…
彼の頭の中にある少女のイメージとは、決定的に何かが違う。
いつもの偉そうな態度は微塵も感じられない。
――あれ――…何これ…?
「ツンデレ?」
照れくさそうにもじもじするラミアを不思議そうな顔で見つめて、吐息をついた。
――…ま…ちょっとくらい協力してやるか…。
(心細いのね、よーするに)
ふと、ラミアの発言におかしな点を見つけた。
「ん?オレしか…?」
少女の言葉の端々から意味深めな単語を感じ取り、思い切って訊ねる。
「まてまて。オレしかって事はないだろ。当の二人はどーしたよ!?」
「――…あんた…本当に何も聞いてないのね…」
意外そうな顔で見つめ返すラミアの説明を聞くこと数分。
「邦枝先輩と…デート……だと…?」
その衝撃的な事実に、思わず劇画チックな絵面になる。
「いや…修業だってば…」
呆れた声音で訂正するが、声を荒げる古市。
有無を言わせぬ形相だ。
「納得いかんぞっ!!なんだ、この差は!!」
「はぁっ!?差!!?どーいう意味よっっ!!」
ラミアはとても不機嫌そうな顔で、侮蔑の念がこもった目をしてつっこんだ。
待ち合わせ場所である駅の構内で、葵は遅れてやって来た男鹿を見つけるや否や、ぴしゃりと叱咤する。
「遅い!!」
気まずそうに頭を掻く男鹿の背中には、ベル坊がすやすやと夢の中。
「――悪い、寝すごした…」
読み取り部にICカードをかざすと自動的に精算され、改札機を通過する。
「遊びに行くんじゃないんだから。シャキっとしなさいよね!!」
「お…おう」
既に響古と祖父は改札機を通過して、向こう側に立っている。
「お前こそ、なんじゃ?そこチャラついた格好は…」
「べ…別に…いつも通りですけど?何いってんのよ」
胡乱な目つきの祖父の詰問に、葵は焦った様子で誤魔化す。
彼女の格好は黒のトップスにファーのついたジャケットを羽織り、白のスカートにブーツ。
「……」
誤魔化す(?)ことに成功した葵は横目で男鹿に駆け寄る響古の私服を見る。
それは白を基調とした長袖ブラウスで腰には可愛らしいリボン、膝上のキュロットスカートが軽い動きにひらりと踊った。
脚線を飾るのは、シンプルなストライプのニーッソクスにスニーカー。
(――響古が着る服だったら何にでも似合うと思ってたけど……何回でも言いたいわ、私服カワイイ!!)
それは男鹿も同じこと。
呆気に取られる男鹿の前で、ふふ、と満面の笑みを浮かべる。
「ある意味、制服よりも緊張するねぇ。なんだか不思議なカンジ」
「うん……」
「誰もが制服="黒雪姫"だって認識してるから、誰も気づかないね」
「うん、それはそうだろうなぁと思った……」
「なんで?あっ、辰巳もあたしが黒以外の服を着ると違和感あると思ってる!?んもー、彼女がせっかく私服を披露してるのにっ。修業のついでに持ってきたこの刀、早速使っちゃうよ?」
「うん――ってちょっと待ておい、なんてもの持ってきてんだ!?響古、落ち着くんだ、それを捨てろ!お前には全然似合わないから!」
でも背筋が震える笑顔とどっちがマシかな、と思わず真剣に考えてしまう。
響古はぷくっとふくれっ面をして、キュロットの裾を引っ張った。
「……だったら、ちゃんと見て。どう?」
「世界で一番かわいい」
それしか言葉が出てこなかった。
彼女は一瞬、驚いたように間を空けたが、すぐにまた笑顔を浮かべる。
何度でも何度でも、笑わせてあげたい。
そう思わせられる、極上の恋人。
「……響古……」
「辰巳、行こ」
どう言葉にしていいかわからず、言い淀んだところで先手を取られる。
「魔二津…?」
修業に出向くこととなった男鹿と響古。
その後見人となった葵の祖父。
「というと、古くから伝わる修験道場ですね。そこへ向かっているのですか?」
「――…うむ。ちと遠いが、身の引きしまる場所じゃ」
何故か随伴することになった影組。
「いいねっ。修業らしくなってきたじゃねぇか」
「天気もいいし、やっぱり外の風景を見ながらは気持ちいいね」
男鹿は口の端をつり上げ、響古は大らかに言いながら、葵手製のおにぎりを食べる。
(てゆーか、なんで、この人達までいるの…?)
うろたえた素振りを見せる葵。
一から鍛え直すと決めた影組も同行し、一同は魔二津へ修業。
「邦枝ちゃん。そのおにぎり、オレも、らっていい?」
電車で往く道中、三鏡がおにぎりを一口食べると、
「ヒョーー、うんめぇーー、
飛び上がるように大声ではしゃぐ。
「あっ…三鏡!!ズルいぞ。わしも、よこせ!!」
「あたしもあたしも!!」
それを聞きつけて、他の二人もおにぎりに手を伸ばす。