バブ2
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――ここは県下再凶、ヤンキー率120%と呼ばれる不良校。
――石矢魔高校。
石矢魔高校校門前。
ボロボロのコンクリート壁は、とても口から言えないようなマークやら単語やらが書かれ、もう凄いことになっている。
遠目に見る校舎のガラスの窓は、割れていない方が珍しい。
そしてすれ違うのは、気合の入った不良ばかり。
そんな一般人の近寄らない異空間、その廊下を男鹿と響古が歩くので、目立って目立って仕方がない。
「おい、見ろ」
「男鹿と篠木だ」
「オガ…あの伝説の…」
170センチの長身と軽く眉間に皺を寄せたきつめの顔立ち。
その目つきの悪さは、周りの不良達を傲然と見下す。
対する少女の背丈は160センチ程度で、自分達が立てば、その胸ほどまでしかないだろう。
だが、その整った顔立ちには、あどけなさが微塵も感じられない。
無表情だが、それは硬直の類ではなく、強い意志によって引き締められたものだと、一目でわかる。
「硬中のデーモンアバレオーガ…皇架中の"黒雪姫"…」
「いつ見ても美しいぜ、"黒雪姫"」
「しっ。聞こえるぞ」
「今日はいつにもまして、キゲン悪そーだ」
男鹿が眼光鋭く睨みつけると、男達の顔に怯えと動揺が駆け抜け、すぐさま目を逸らす。
隣の響古は、彼らの好奇心など知ったことかと言わんばかりの凛然とした表情で、背筋をまっすぐ伸ばして足を動かしている。
漆黒の髪を揺らし、校内でも際立った美貌で名高い、石矢魔唯一の女子生徒。
気づけば、男達は彼女に釘づけだ。
これは、毎朝のことだ。
彼女の通学を、歩く姿を、多くの生徒が見つめる。
ある者は歩を止めて、ある者はおしゃべりを止めて、誰もが振り向いてしまう。
男鹿も例外ではなく、その美貌に見惚れて、はっ、と我に返る。
すると、勇敢なのか無謀なのか、話しかけてきた。
「よう、男鹿。いつもいつも"黒雪姫"と一緒に登校しやがって」
「へへっ、てめー調子こいてんじゃねーぞ?今日こそ殺して、"黒雪姫"を奪ってやる」
「「………………」」
そのあからさまな挑発にも反応せず、鞄から何かを取り出す。
「ひっ」
「刃物かっ!?バカッ、それは校則違反だぞ!!」
しかし、二人が取り出したものは、ガラガラとぬいぐるみだった。
――ガ…ガラガラとぬいぐるみ……!?
(OH)
(KUMACHAN)
途端、響古がぬいぐるみを振りかぶって、通行の邪魔だと殴る。
「邪魔」
呆気に取られて見る、もう一人も、
「どけ」
男鹿のガラガラによって殴られた。
二人の手によれば、ガラガラとぬいぐるみでさえ凶器にしてしまうのだ。
「へぶっ」
吹き飛ばされる意識の中で、疑問が浮かぶ。
――…な…何故にガラガラとぬいぐるみ…!?
不良校にはそぐわない道具を持つ二人は歩みを再開し、やれやれ、と肩をすくめる。
「――ったく」
「スピーー」
「ベル坊が起きたら、どーすんのよ」
「アブ…」
男鹿の背中には、余りにも似つかわしくない赤ん坊がしがみついて眠っていた。
二人は校舎を出て、中庭へと行き、ある少年のもとへと向かう。
――オッス、オレの名前は男鹿辰巳。
――ひょんなことから、一児の父となってしまった、どこにでもいる普通の高校生だ。
少年は二人を見ると、勢い、牛乳パックを強く握ったため、中身が噴いた。
霧状の牛乳は、モロに顔にかかる。
「――お前ら、なんで、つれてきてんの?魔王…」
胡乱な眼差しで二人を凝視する。
――こいつはアホの古市。
心の中でバカにしながらも一切、面 には出さず、男鹿は笑顔で声をかける。
「よっ」
――見るからにアホだ、アホアホアーホ。
だが、古市にはしっかりと伝わったようで、青筋を立てる。
「今、失礼な事、考えてるだろ?」
「古市、おはよっ」
響古も笑顔で古市に挨拶する。
彼女は決して、誰にでも人当たりのいい人間ではない。
事実、他の男達の前では、やたらと尊大で冷淡な態度であった。
――んで、オレの隣にいるのは、篠木響古。
――こいつもオレと同じく、ひょんなことから一児の母になってしまった。
すると、古市は笑みを浮かべて明るい声で返す。
「おぅ、響古。今日も可愛いな」
「やだ、もう~。古市ったら」
まんざらでもなさそうに照れる響古。
何日か前にも見たやり取りに、うんざり気味にぼやく。
「…おまえ、毎日毎日飽きねーな、それ」
「うるせー。響古に会うために、わざわざこんな学校に来てるんだよ」
石矢魔高校では、響古が唯一の女子である。
その美貌と喧嘩の強さで、男鹿を上回る学校一の有名人。
"黒雪姫"と呼ばれ、武闘派鉄拳、容姿も超がつく美人――石矢魔高校の生徒全員の憧れと畏怖の対象なのだ。
「――じゃなくてっ!!なんで学校にそいつ、つれてきてんだって聞 ーてんだよ!!」
そこで、ハッと思い出したように、古市は背中にしがみついている緑髪の赤ん坊を指差す
「古市…聞いてくれ。オレんちはもうダメだ」
ずぅーんと暗くうなだれる男鹿へ、古市は怒りで裏返った声を出す。
「あ゙ぁ!?」
「悪魔に――…のっとられた…」
「ふざけんな、オレんちのがもっとダメだ、おとといから半壊してんだよ!!おい、聞け、こら」
怒り混じりの抗議の声も届かぬまま、問答無用に回想が始まる。
問答無用に回想――…その夜、男鹿家は微妙な緊迫の雰囲気に包まれていた。
新聞を読んだままの父、夕食を作る母、ソファに座ってくつろぐ姉が視線を向ける先、正座したまま、三つ指をついて深々と頭を下げるヒルダが真っ裸のベル坊を連れて告げる。
「――と、いうわけでございまして。今日から、この子、共々お世話になります」
「アダ」
「ヒルデガルダと申します。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
いきなりの問題発言に、Tシャツに半ズボンとラフな格好の男鹿は硬直した。
「おいっ。まてまて、何だ、その誤解をまねく言い方は…」
「ん?何か問題でも?」
「大アリだ、見ろ!!全員もれなく固まってんじゃねーか!!」
見れば、両親も姉も大口を開いて目を剥いていた。
家族から注がれる視線が痛かった。
「――しかし…この国ではこうするものだとききました…」
「誰情報だ、こらっ!!前提から、もう間違ってんだよ」
どこから仕入れてきた情報なのか、一切不明だが、男鹿の両親はヒルダの容姿に圧倒される。
(この国…?外国の人ですか?)
(たつみが響古ちゃん以外の女の子をつれてくるなんて…しかもキンパツ美人)
「乳デカ」
目つきが悪く喧嘩っ早い息子が、艶やかな黒髪の美少女を家に連れてきたことは今でも鮮明に覚えている。
そしたら今度は鮮やかな金髪に、厚みとメリハリが段違いのスタイル抜群な美女を連れて来た。
――いや、それよりも、あの子供は…。
次に、疑惑の視線は緑髪の赤ん坊に向けられる。
「だから、言ってんだろ!!オレは親だなんて認めてねーっつの!!」
大声をあげて男鹿は断言するが、ヒルダは、フフフ…と余裕の笑みで言い放つ。
「何を今さら…」
――親…!!
この一言に、両親はさらに驚愕、ヒルダは追い討ちのように続ける。
「あんな事までしておいて…」
――あんな事…!!?
「本当、すごかった…」
肝心の続きを言いかけ、ふと外を仰ぎ見た。
男鹿が怪訝そうに眉を寄せると、彼女は落ち着いて、窓の外を見ている。
「どうやら、来たみたいだな…」
「?それ、どういう意味…」
「思ったより早かったな。来たみたいだ、彼女」
その時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「ああっと!誰か来た!」
慌てて(この場から逃げるように)男鹿は玄関に行くと、どんどんどんっ!と激しくノックされる。
否、鍵がかかってぎしぎしと軋み、玄関が震えるそれは、既にノックという範疇を超越して打撃の領域に足を踏み入れていた。
男鹿は表情を恐怖に引きつらせる。
凄まじいノックに合わせて、その声が届いた。
「辰巳、さっきヒルダから電話がきたけど、同居するってホント!?」
そこへ、ベル坊を抱いたヒルダが居間から顔を覗かせる。
「何だ、貴様。急にガクガク震え出して、気持ち悪い」
「マズイ……来た……」
「来た?」
絶望の表情に揺れる男鹿に首を傾げ、ヒルダは言った。
「あぁ…響古!すまないが、リビングの方に来てくれないか?」
「はぁ!?」
刹那、金切り声のような激音を立てて何かが居間に飛び込んでくる。
居間に到着した男鹿が、驚く間もなかった。
「……! !? !?」
初めは、なんなのかわからなかった。
次に、聞き慣れた声が届く。
「お待ちなさーーい!!」
黒髪を白いリボンでポニーテールにし、白衣に緋袴という戦装束を纏った響古が登場する。
男鹿と家族は驚きすぎて、その場で固まっていた。
ヒルダはたいして驚いた様子もなく、正座したまま。
突然現れた彼女に変わらない表情を向けたヒルダは、平然と話しかける。
「早かったな。もう少しかかるとは思っていたが」
「……どういうつもりか、納得のいく説明をしてちょうだい」
ここまで猛突進してきたらしい響古は荒い息をついて、こめかみを引くつかせながら両腕を胸の前で組み、鬼も裸足で逃げ出しそうな目つきでヒルダを睨んでいる。
「黙っていれば……このあたしを怒らせたいのかしら?」
響古は腰に差した刀の柄に手を置き、抜いた。
刀身が一瞬、見るからに危険な輝きを発する。
居間で繰り広げられる一触即発の光景に、男鹿とその家族は俄然 と見つめる。
(は、なになにアレ、本物?なんか明らかに千人ぐらい斬ってそうな怪しい光を発してるんだが!?)
(模造刀とかじゃなくて!?)
(リアル昼ドラ…)
(ナマ修羅場…)
とんでもないものを見た、という感じで驚いていたり、ひそひそ話したり。
今にも抜刀せんばかりの響古の怒気を、ヒルダはさらりと受け流す。
「怒らせるなどと…あなたも親でしょうに」
頬を赤く染めると、悩ましげに自分を抱きしめた。
「あんなに激しく…」
「ちょっ、誤解を招くような発言しないでよ!!ってか、なに顔赤くしてんの!?」
すると、我に返った父親が両手をテーブルに叩きつける。
「貴様というヤツは…あんな事やそんな事を、響古ちゃんに…っ。しかも、ここ…子供まで作っておいて、あげくのはてにそれを、認めないだとーーっっ!!?」
「なっ、いや、まてっ!!それは違うから」
さすがにそこまではいっていない、と男鹿は慌てて手を振り、響古は頭から湯気が出るくらい真っ赤になる。
「何が違うかーっっ!!見ろ、この子を!!どーみても、お前の子じゃないか!!目もとなんか、そっくりだぞ!」
「そっくりじゃねーよっ!!よく見ろ!!」
「あら本当、そっくり」
「みせてみせて」
息子と父親が口喧嘩する中、母親と姉は受け入れるのが早く、楽しそうに会話したり、戯れたりしていた。
「………………っ」
母親はベル坊を抱き上げ、
「アハハハ、本当、ふてぶてしー。小さい頃のたつみ、思い出すわー」
「ブー」
姉はヒルダに質問する。
「あんた、ドコの国の人?」
「魔界です。坊っちゃまの悪魔侍女です」
「マカオ?へーー。日本語、上手ねー」
女性陣の順応性の早さに唖然とし、男共は絶句する。
――うちの女どもは…。
「あーでも、これでアタシもおばちゃんかー」
「アタシなんて、おばーちゃんよー」
(受け入れんの、はやっ)
男鹿は戸惑うしかない。
「あはは……」
響古も非常に複雑で曖昧な笑みを浮かべざるを得しかなかった。
「ヒッ…ヒッ、ヒルデカルダ…さん!?」
外国人の名前にどもりながらも、父親はどこか不安と動揺を隠せない表情で向き合う。
「響古ちゃん!!本当に、いたらん息子で申し訳ない。こいつには、責任もって育てさせますので」
――石矢魔高校。
石矢魔高校校門前。
ボロボロのコンクリート壁は、とても口から言えないようなマークやら単語やらが書かれ、もう凄いことになっている。
遠目に見る校舎のガラスの窓は、割れていない方が珍しい。
そしてすれ違うのは、気合の入った不良ばかり。
そんな一般人の近寄らない異空間、その廊下を男鹿と響古が歩くので、目立って目立って仕方がない。
「おい、見ろ」
「男鹿と篠木だ」
「オガ…あの伝説の…」
170センチの長身と軽く眉間に皺を寄せたきつめの顔立ち。
その目つきの悪さは、周りの不良達を傲然と見下す。
対する少女の背丈は160センチ程度で、自分達が立てば、その胸ほどまでしかないだろう。
だが、その整った顔立ちには、あどけなさが微塵も感じられない。
無表情だが、それは硬直の類ではなく、強い意志によって引き締められたものだと、一目でわかる。
「硬中のデーモンアバレオーガ…皇架中の"黒雪姫"…」
「いつ見ても美しいぜ、"黒雪姫"」
「しっ。聞こえるぞ」
「今日はいつにもまして、キゲン悪そーだ」
男鹿が眼光鋭く睨みつけると、男達の顔に怯えと動揺が駆け抜け、すぐさま目を逸らす。
隣の響古は、彼らの好奇心など知ったことかと言わんばかりの凛然とした表情で、背筋をまっすぐ伸ばして足を動かしている。
漆黒の髪を揺らし、校内でも際立った美貌で名高い、石矢魔唯一の女子生徒。
気づけば、男達は彼女に釘づけだ。
これは、毎朝のことだ。
彼女の通学を、歩く姿を、多くの生徒が見つめる。
ある者は歩を止めて、ある者はおしゃべりを止めて、誰もが振り向いてしまう。
男鹿も例外ではなく、その美貌に見惚れて、はっ、と我に返る。
すると、勇敢なのか無謀なのか、話しかけてきた。
「よう、男鹿。いつもいつも"黒雪姫"と一緒に登校しやがって」
「へへっ、てめー調子こいてんじゃねーぞ?今日こそ殺して、"黒雪姫"を奪ってやる」
「「………………」」
そのあからさまな挑発にも反応せず、鞄から何かを取り出す。
「ひっ」
「刃物かっ!?バカッ、それは校則違反だぞ!!」
しかし、二人が取り出したものは、ガラガラとぬいぐるみだった。
――ガ…ガラガラとぬいぐるみ……!?
(OH)
(KUMACHAN)
途端、響古がぬいぐるみを振りかぶって、通行の邪魔だと殴る。
「邪魔」
呆気に取られて見る、もう一人も、
「どけ」
男鹿のガラガラによって殴られた。
二人の手によれば、ガラガラとぬいぐるみでさえ凶器にしてしまうのだ。
「へぶっ」
吹き飛ばされる意識の中で、疑問が浮かぶ。
――…な…何故にガラガラとぬいぐるみ…!?
不良校にはそぐわない道具を持つ二人は歩みを再開し、やれやれ、と肩をすくめる。
「――ったく」
「スピーー」
「ベル坊が起きたら、どーすんのよ」
「アブ…」
男鹿の背中には、余りにも似つかわしくない赤ん坊がしがみついて眠っていた。
二人は校舎を出て、中庭へと行き、ある少年のもとへと向かう。
――オッス、オレの名前は男鹿辰巳。
――ひょんなことから、一児の父となってしまった、どこにでもいる普通の高校生だ。
少年は二人を見ると、勢い、牛乳パックを強く握ったため、中身が噴いた。
霧状の牛乳は、モロに顔にかかる。
「――お前ら、なんで、つれてきてんの?魔王…」
胡乱な眼差しで二人を凝視する。
――こいつはアホの古市。
心の中でバカにしながらも一切、
「よっ」
――見るからにアホだ、アホアホアーホ。
だが、古市にはしっかりと伝わったようで、青筋を立てる。
「今、失礼な事、考えてるだろ?」
「古市、おはよっ」
響古も笑顔で古市に挨拶する。
彼女は決して、誰にでも人当たりのいい人間ではない。
事実、他の男達の前では、やたらと尊大で冷淡な態度であった。
――んで、オレの隣にいるのは、篠木響古。
――こいつもオレと同じく、ひょんなことから一児の母になってしまった。
すると、古市は笑みを浮かべて明るい声で返す。
「おぅ、響古。今日も可愛いな」
「やだ、もう~。古市ったら」
まんざらでもなさそうに照れる響古。
何日か前にも見たやり取りに、うんざり気味にぼやく。
「…おまえ、毎日毎日飽きねーな、それ」
「うるせー。響古に会うために、わざわざこんな学校に来てるんだよ」
石矢魔高校では、響古が唯一の女子である。
その美貌と喧嘩の強さで、男鹿を上回る学校一の有名人。
"黒雪姫"と呼ばれ、武闘派鉄拳、容姿も超がつく美人――石矢魔高校の生徒全員の憧れと畏怖の対象なのだ。
「――じゃなくてっ!!なんで学校にそいつ、つれてきてんだって
そこで、ハッと思い出したように、古市は背中にしがみついている緑髪の赤ん坊を指差す
「古市…聞いてくれ。オレんちはもうダメだ」
ずぅーんと暗くうなだれる男鹿へ、古市は怒りで裏返った声を出す。
「あ゙ぁ!?」
「悪魔に――…のっとられた…」
「ふざけんな、オレんちのがもっとダメだ、おとといから半壊してんだよ!!おい、聞け、こら」
怒り混じりの抗議の声も届かぬまま、問答無用に回想が始まる。
問答無用に回想――…その夜、男鹿家は微妙な緊迫の雰囲気に包まれていた。
新聞を読んだままの父、夕食を作る母、ソファに座ってくつろぐ姉が視線を向ける先、正座したまま、三つ指をついて深々と頭を下げるヒルダが真っ裸のベル坊を連れて告げる。
「――と、いうわけでございまして。今日から、この子、共々お世話になります」
「アダ」
「ヒルデガルダと申します。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
いきなりの問題発言に、Tシャツに半ズボンとラフな格好の男鹿は硬直した。
「おいっ。まてまて、何だ、その誤解をまねく言い方は…」
「ん?何か問題でも?」
「大アリだ、見ろ!!全員もれなく固まってんじゃねーか!!」
見れば、両親も姉も大口を開いて目を剥いていた。
家族から注がれる視線が痛かった。
「――しかし…この国ではこうするものだとききました…」
「誰情報だ、こらっ!!前提から、もう間違ってんだよ」
どこから仕入れてきた情報なのか、一切不明だが、男鹿の両親はヒルダの容姿に圧倒される。
(この国…?外国の人ですか?)
(たつみが響古ちゃん以外の女の子をつれてくるなんて…しかもキンパツ美人)
「乳デカ」
目つきが悪く喧嘩っ早い息子が、艶やかな黒髪の美少女を家に連れてきたことは今でも鮮明に覚えている。
そしたら今度は鮮やかな金髪に、厚みとメリハリが段違いのスタイル抜群な美女を連れて来た。
――いや、それよりも、あの子供は…。
次に、疑惑の視線は緑髪の赤ん坊に向けられる。
「だから、言ってんだろ!!オレは親だなんて認めてねーっつの!!」
大声をあげて男鹿は断言するが、ヒルダは、フフフ…と余裕の笑みで言い放つ。
「何を今さら…」
――親…!!
この一言に、両親はさらに驚愕、ヒルダは追い討ちのように続ける。
「あんな事までしておいて…」
――あんな事…!!?
「本当、すごかった…」
肝心の続きを言いかけ、ふと外を仰ぎ見た。
男鹿が怪訝そうに眉を寄せると、彼女は落ち着いて、窓の外を見ている。
「どうやら、来たみたいだな…」
「?それ、どういう意味…」
「思ったより早かったな。来たみたいだ、彼女」
その時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「ああっと!誰か来た!」
慌てて(この場から逃げるように)男鹿は玄関に行くと、どんどんどんっ!と激しくノックされる。
否、鍵がかかってぎしぎしと軋み、玄関が震えるそれは、既にノックという範疇を超越して打撃の領域に足を踏み入れていた。
男鹿は表情を恐怖に引きつらせる。
凄まじいノックに合わせて、その声が届いた。
「辰巳、さっきヒルダから電話がきたけど、同居するってホント!?」
そこへ、ベル坊を抱いたヒルダが居間から顔を覗かせる。
「何だ、貴様。急にガクガク震え出して、気持ち悪い」
「マズイ……来た……」
「来た?」
絶望の表情に揺れる男鹿に首を傾げ、ヒルダは言った。
「あぁ…響古!すまないが、リビングの方に来てくれないか?」
「はぁ!?」
刹那、金切り声のような激音を立てて何かが居間に飛び込んでくる。
居間に到着した男鹿が、驚く間もなかった。
「……! !? !?」
初めは、なんなのかわからなかった。
次に、聞き慣れた声が届く。
「お待ちなさーーい!!」
黒髪を白いリボンでポニーテールにし、白衣に緋袴という戦装束を纏った響古が登場する。
男鹿と家族は驚きすぎて、その場で固まっていた。
ヒルダはたいして驚いた様子もなく、正座したまま。
突然現れた彼女に変わらない表情を向けたヒルダは、平然と話しかける。
「早かったな。もう少しかかるとは思っていたが」
「……どういうつもりか、納得のいく説明をしてちょうだい」
ここまで猛突進してきたらしい響古は荒い息をついて、こめかみを引くつかせながら両腕を胸の前で組み、鬼も裸足で逃げ出しそうな目つきでヒルダを睨んでいる。
「黙っていれば……このあたしを怒らせたいのかしら?」
響古は腰に差した刀の柄に手を置き、抜いた。
刀身が一瞬、見るからに危険な輝きを発する。
居間で繰り広げられる一触即発の光景に、男鹿とその家族は
(は、なになにアレ、本物?なんか明らかに千人ぐらい斬ってそうな怪しい光を発してるんだが!?)
(模造刀とかじゃなくて!?)
(リアル昼ドラ…)
(ナマ修羅場…)
とんでもないものを見た、という感じで驚いていたり、ひそひそ話したり。
今にも抜刀せんばかりの響古の怒気を、ヒルダはさらりと受け流す。
「怒らせるなどと…あなたも親でしょうに」
頬を赤く染めると、悩ましげに自分を抱きしめた。
「あんなに激しく…」
「ちょっ、誤解を招くような発言しないでよ!!ってか、なに顔赤くしてんの!?」
すると、我に返った父親が両手をテーブルに叩きつける。
「貴様というヤツは…あんな事やそんな事を、響古ちゃんに…っ。しかも、ここ…子供まで作っておいて、あげくのはてにそれを、認めないだとーーっっ!!?」
「なっ、いや、まてっ!!それは違うから」
さすがにそこまではいっていない、と男鹿は慌てて手を振り、響古は頭から湯気が出るくらい真っ赤になる。
「何が違うかーっっ!!見ろ、この子を!!どーみても、お前の子じゃないか!!目もとなんか、そっくりだぞ!」
「そっくりじゃねーよっ!!よく見ろ!!」
「あら本当、そっくり」
「みせてみせて」
息子と父親が口喧嘩する中、母親と姉は受け入れるのが早く、楽しそうに会話したり、戯れたりしていた。
「………………っ」
母親はベル坊を抱き上げ、
「アハハハ、本当、ふてぶてしー。小さい頃のたつみ、思い出すわー」
「ブー」
姉はヒルダに質問する。
「あんた、ドコの国の人?」
「魔界です。坊っちゃまの悪魔侍女です」
「マカオ?へーー。日本語、上手ねー」
女性陣の順応性の早さに唖然とし、男共は絶句する。
――うちの女どもは…。
「あーでも、これでアタシもおばちゃんかー」
「アタシなんて、おばーちゃんよー」
(受け入れんの、はやっ)
男鹿は戸惑うしかない。
「あはは……」
響古も非常に複雑で曖昧な笑みを浮かべざるを得しかなかった。
「ヒッ…ヒッ、ヒルデカルダ…さん!?」
外国人の名前にどもりながらも、父親はどこか不安と動揺を隠せない表情で向き合う。
「響古ちゃん!!本当に、いたらん息子で申し訳ない。こいつには、責任もって育てさせますので」