バブ88
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アランドロンが連れてきた医師の登場で、響古は傷の手当てを受けていた。
「お姉様、遅れて大変申し訳ありませんでした」
「あ、いえ…こちらこそ、手当てしていただいてありがとう」
いきなり謝罪されたので、響古は反射的にお礼を述べて頭を下げた。
「それでは、他にお怪我はございませんか?」
「えっと…槍の軌道を、受け流すよう誘ったから、あたしには軽くかすっただけ」
「一応、確認するぞ」
フォルカスは少女の右腕を、機械を点検するように無造作な手つきで持ち上げて、内出血や打撲傷の有無を確認する。
見た目ではわからなかったので、突いた。
「ひゃんっ!?」
思わず叫んで飛び退った響古に問いただす。
「ホントは痛いのでは?」
「そ、そんなところ触られたら、ビックリするに決まってるでしょ!」
真っ赤になって怒鳴る響古の剣幕にも涼しい顔で返す。
「では、とりあえず手当ては終わったと判断するぞ」
ラミアは、失礼しますと断わってから、包帯を持ってきて腕を少し持ち上げ、優しく巻く。
「っ!」
「痣が残らないよう応急処置です。しばらく巻いておいてください」
「う、うん…」
フォルカスは黒いカバンを持ってきて中身を広げた。
中には救急セットが入っていて、テキパキと道具をしまう。
(なんて無駄の無い動きだ…)
などと感心していると、フォルカスはカバンを閉じた。
「……それより身体に何か気になる所はあるか、お嬢さん?」
「?大丈夫です。体調はいいですし、二人の治療のおかげですよ」
「…ならばいいんじゃが」
その後、ラミアによってボロボロになった制服を全部剥ぎ取られ、身体を丁寧に拭かれた後、ほぼ全身を包帯でグルグル巻きにされてしまった。
胸も包帯で覆うという、ほとんど裸同然の格好の上から制服を着る。
静かな嵐の如き襲撃を乗り越え、やっとのことで帰宅した男鹿を待っていたのは、
「いでででででっ!!」
ラミアのきついお叱りと荒々しい手当てだった。
「ちょっと!!動くんじゃないわよっあんたの手当てしてやってるだけでも、ありがたく思いなさいよ!!」
「首…っ、首しまってる…」
ボロボロになった制服を全部剥ぎ取られ、手荒く身体を拭かれた後、ほぼ全身を包帯でグルグル巻きにされている。
顔に巻かれた包帯を引っ張って、男鹿の首が締まる。
一方の響古といえば、
「ラミアちゃん、もうそれくらいにして…」
あんまりな処置であったが、文句を言える雰囲気ではなかったし、ただあたふたしていた。
「本当に信じられないっ!!アランドロンに言われるまま来てみたら、お姉様とヒルダ姉様、めちゃくちゃ重傷じゃないっ!!死ねっ、この甲斐性なしっ!!」
「あとはあたしがやっておくから…とりあえず、手を…手を…」
すると、ラミアによる乱暴な手当てを傍で見ていた葵が遠慮がちに声をかける。
「あの…あと私がやっとこうか?」
親切心から手伝おうとした葵を、ややうっとうしげにラミアは退けた。
「何?誰あんた!!すっこんでなさいよ、ブス!!」
部外者はひっこんでろ、と吐き捨てたラミアの台詞と態度に、笑顔を浮かべて固まる、と次の瞬間には青筋を浮かべる。
「いやいや、私のせいでこうなったみたいなトコあるから。ねっ」
「はぁ?だから誰よ」
「あなたこそ何?悪魔?また悪魔なの?もう、いい加減驚くのにも飽きてきたんですけど…」
首を傾げ、問いを重ねる。
唇には微笑み。
ただし、目が笑っていない。
絞首刑のように吊られ、口から泡を吹く男鹿の危機に、
「辰巳ーっ」
「アーッ」
響古とベル坊が助けようとして、必死に身体を揺さぶっている。
「何その失礼なリアクション!!」
「やれやれ、お騒がせしてすみませんな」
本来ならば静かにしなければならない傷の手当てにもかかわらず、騒がしい雰囲気。
「あ、すぐ帰りますんでおかまいなく」
状況が理解できない男鹿の母親に真面目な顔、渋い声で話しかける早乙女の向かい側には、アランドロンが茶を啜っている。
「フー、やれやれ」
すると、居間にフォルカスが一仕事終えた様子でやって来た。
「フォルカスさん!!」
「フォルカス先生!!」
「師匠!!」
響古も葵もラミアも、フォルカスが居間に入ってくると一斉に顔を上げた。
「ヒルダ姉様は!?」
「ヒルダさんは大丈夫なんですか…!?」
葵とラミアが急に立ち上がって男鹿を突き飛ばし、
「きゃっ」
そして当然というか、響古の胸に顔面から飛び込んだ。
(なんでこう、オレは響古の胸に向かって見事に突き飛ばされるんだろうか。しかし相変わらずの大きさとやわらかさ、ありがとうございます)
男鹿は顔面で愛しい彼女のふくらみを味わう。
――この大きさ、やわらかさ……ぬっ!?
――ち、違う!
――若干大きすぎるし、やわらかすぎる!
「……響古、少しだけ、離れてくれ」
「や♪」
(………『や♪』なんて言われちゃー、しょうがねぇや)
「どうしたの?辰巳ってば、むっつりだから抵抗しないのに。ほら、こうやって」
男鹿は響古の谷間でもみくちゃにされる。
その光景を間近にしながら、ベル坊はイチャイチャ耐性がついて寛容になり、早乙女は呆れた眼差しを向けている。
アランドロンは苦笑気味に、フォルカスはやはり無表情。
葵とラミアは顔を真っ赤にして唖然としている。
あわ、あわわと言う感じで。
「あっ、ちょっ、あんまり動かないで……声が出ちゃう……やっ、辰巳、そこは――あはぁんっ」
ただ離れようともがいただけだったのだが、シャツの隙間から手が滑り込んでしまったらしく、思い切り響古の胸を揉んでしまった。
手から伝わるやたらと至福な感触に焦って引き抜こうとして、男鹿は気づいた。
(まさか――ノーブラ!?)
むっつりという響古の見解が間違いではないことを証明する思考だった。
イチャつく二人を完全に無視して、帽子の鍔を僅かに伏せ、フォルカスは早々に伝える。
「――ふむ…あまり、いい状態とは言えんが、命に別状はないだろう。あと少し遅ければ、危なかったがな…そこのお嬢さんの的確な応急処置のおかげだな」
声もなく、葵とラミアが安堵の吐息をつき、ヒルダの無事を感謝する。
「つーか、お前順応しすぎ…」
「!!だ…だって、しょうがないじゃない。こうなったらやけくそにもなるわよ。ヒルダさんは私を助けて、あんな大ケガしたんでしょ?放ってなんか帰れないわよ」
「――…」
「葵さん…」
「お前の気持ちも分かるがな…邦枝。もう、夜も遅い。侍女悪魔ちゃんの容体も分かったんだそろそろおいとまするぞ。それに、もとはと言えばこいつが弱いだしな」
早乙女は立ち上がり、男鹿の頭を小突く。
「で」
「む」
いきなりの不意討ちに男鹿は眉をピクリと跳ね、響古は唸った。
「おい、こら、明日も学校来いよ、くそったれ。ちゃーんと授業してやっからな」
「あ゙ぁっ!?」
そのまま頭をぐりぐりとされ、顔をしかめる。
帰り際に、扉の前に立つフォルカスと目が合い、冷たく、平滑な声音で忠告する。
「困りますな、早乙女殿…あまり、ベルゼ様一人に肩入れされては…」
「分かってるよ、くそったれ。校長のじじいに頼まれたんだ、しょーがねーだろ」
その思考を正確に推測していたが、わかっていたからこそ、彼は何も言わなかった。
アランドロンの次元転送を使い、響古はアパートの自室で、今から着ていく服を選んでいた。
(スカートだと、気楽に来たように思われるかも)
そう思って却下したワンピースやスカートが、ベッドの上に散らかっている。
(こんなのを着ていくってのも、変だしな)
そう思って、ジャージの入った引き出しを戻す。
いい加減決めないと、もうこの季節、カッターシャツに下着姿では風邪をひいてしまう。
思わず腰を抱いて震えた中で、
(あっ、そうだ!あれなら――)
ようやく『張りすぎではないが、不真面目でもない服』を決めて、引き出しに手をかけた。
早乙女が明確に告げた言葉に、戸惑いを見せる。
「――…弱い…か」
ベヘモット柱師団との熾烈な激突から、敵の目論みは失敗したものの、こちら側の敗北は明らかであった。
(あいつらは、今まで戦ってきた相手よりずっと強い)
だが、響古とベヘモット柱師団では決定的に違う概念がある。
響古が学んだ"武"は、人を護るための技。
対して彼らは人外の悪魔、主人の焔王を邪魔するなら、殺すことさえ躊躇しない。
当然、強さは人を超越している。
「…このままじゃ、ダメだ……」
独りきりになると、笑顔も自信も、何もかも潰(ツイ)えた。
――人はあまりにも、もろくて弱くて、すぐに壊れる。
――1人で戦い続けられるなんて、1人だっていない。
――でも……それが人間だから…だからどうか、どうかあたしに、ほんの少しの勇気を……。
その時、ガタ、と重苦しい音が響き、響古は驚いて振り向く。
物の落ちるような、倒れ込むような、不穏な音があまりに近くから聞こえたのだ。
窓にはレースのカーテンがかかっていて、細く開いた隙間からは月明かりと、真っ黒い、影。
――誰かいる。
次の瞬間、真後ろから腕を掴まれた。
「――ッ!!」
そのまま、暗闇に引きずり込まれる。
夜の闇と同化して見えたのは、不揃いの黒髪だった。
「辰…っ!?」
悲鳴をあげそうになった口元を手でふさがれる。
至近距離から覗き込むようにして、響古を黙らせたのは男鹿だった。
「少し、静かにしろ」
「お姉様、遅れて大変申し訳ありませんでした」
「あ、いえ…こちらこそ、手当てしていただいてありがとう」
いきなり謝罪されたので、響古は反射的にお礼を述べて頭を下げた。
「それでは、他にお怪我はございませんか?」
「えっと…槍の軌道を、受け流すよう誘ったから、あたしには軽くかすっただけ」
「一応、確認するぞ」
フォルカスは少女の右腕を、機械を点検するように無造作な手つきで持ち上げて、内出血や打撲傷の有無を確認する。
見た目ではわからなかったので、突いた。
「ひゃんっ!?」
思わず叫んで飛び退った響古に問いただす。
「ホントは痛いのでは?」
「そ、そんなところ触られたら、ビックリするに決まってるでしょ!」
真っ赤になって怒鳴る響古の剣幕にも涼しい顔で返す。
「では、とりあえず手当ては終わったと判断するぞ」
ラミアは、失礼しますと断わってから、包帯を持ってきて腕を少し持ち上げ、優しく巻く。
「っ!」
「痣が残らないよう応急処置です。しばらく巻いておいてください」
「う、うん…」
フォルカスは黒いカバンを持ってきて中身を広げた。
中には救急セットが入っていて、テキパキと道具をしまう。
(なんて無駄の無い動きだ…)
などと感心していると、フォルカスはカバンを閉じた。
「……それより身体に何か気になる所はあるか、お嬢さん?」
「?大丈夫です。体調はいいですし、二人の治療のおかげですよ」
「…ならばいいんじゃが」
その後、ラミアによってボロボロになった制服を全部剥ぎ取られ、身体を丁寧に拭かれた後、ほぼ全身を包帯でグルグル巻きにされてしまった。
胸も包帯で覆うという、ほとんど裸同然の格好の上から制服を着る。
静かな嵐の如き襲撃を乗り越え、やっとのことで帰宅した男鹿を待っていたのは、
「いでででででっ!!」
ラミアのきついお叱りと荒々しい手当てだった。
「ちょっと!!動くんじゃないわよっあんたの手当てしてやってるだけでも、ありがたく思いなさいよ!!」
「首…っ、首しまってる…」
ボロボロになった制服を全部剥ぎ取られ、手荒く身体を拭かれた後、ほぼ全身を包帯でグルグル巻きにされている。
顔に巻かれた包帯を引っ張って、男鹿の首が締まる。
一方の響古といえば、
「ラミアちゃん、もうそれくらいにして…」
あんまりな処置であったが、文句を言える雰囲気ではなかったし、ただあたふたしていた。
「本当に信じられないっ!!アランドロンに言われるまま来てみたら、お姉様とヒルダ姉様、めちゃくちゃ重傷じゃないっ!!死ねっ、この甲斐性なしっ!!」
「あとはあたしがやっておくから…とりあえず、手を…手を…」
すると、ラミアによる乱暴な手当てを傍で見ていた葵が遠慮がちに声をかける。
「あの…あと私がやっとこうか?」
親切心から手伝おうとした葵を、ややうっとうしげにラミアは退けた。
「何?誰あんた!!すっこんでなさいよ、ブス!!」
部外者はひっこんでろ、と吐き捨てたラミアの台詞と態度に、笑顔を浮かべて固まる、と次の瞬間には青筋を浮かべる。
「いやいや、私のせいでこうなったみたいなトコあるから。ねっ」
「はぁ?だから誰よ」
「あなたこそ何?悪魔?また悪魔なの?もう、いい加減驚くのにも飽きてきたんですけど…」
首を傾げ、問いを重ねる。
唇には微笑み。
ただし、目が笑っていない。
絞首刑のように吊られ、口から泡を吹く男鹿の危機に、
「辰巳ーっ」
「アーッ」
響古とベル坊が助けようとして、必死に身体を揺さぶっている。
「何その失礼なリアクション!!」
「やれやれ、お騒がせしてすみませんな」
本来ならば静かにしなければならない傷の手当てにもかかわらず、騒がしい雰囲気。
「あ、すぐ帰りますんでおかまいなく」
状況が理解できない男鹿の母親に真面目な顔、渋い声で話しかける早乙女の向かい側には、アランドロンが茶を啜っている。
「フー、やれやれ」
すると、居間にフォルカスが一仕事終えた様子でやって来た。
「フォルカスさん!!」
「フォルカス先生!!」
「師匠!!」
響古も葵もラミアも、フォルカスが居間に入ってくると一斉に顔を上げた。
「ヒルダ姉様は!?」
「ヒルダさんは大丈夫なんですか…!?」
葵とラミアが急に立ち上がって男鹿を突き飛ばし、
「きゃっ」
そして当然というか、響古の胸に顔面から飛び込んだ。
(なんでこう、オレは響古の胸に向かって見事に突き飛ばされるんだろうか。しかし相変わらずの大きさとやわらかさ、ありがとうございます)
男鹿は顔面で愛しい彼女のふくらみを味わう。
――この大きさ、やわらかさ……ぬっ!?
――ち、違う!
――若干大きすぎるし、やわらかすぎる!
「……響古、少しだけ、離れてくれ」
「や♪」
(………『や♪』なんて言われちゃー、しょうがねぇや)
「どうしたの?辰巳ってば、むっつりだから抵抗しないのに。ほら、こうやって」
男鹿は響古の谷間でもみくちゃにされる。
その光景を間近にしながら、ベル坊はイチャイチャ耐性がついて寛容になり、早乙女は呆れた眼差しを向けている。
アランドロンは苦笑気味に、フォルカスはやはり無表情。
葵とラミアは顔を真っ赤にして唖然としている。
あわ、あわわと言う感じで。
「あっ、ちょっ、あんまり動かないで……声が出ちゃう……やっ、辰巳、そこは――あはぁんっ」
ただ離れようともがいただけだったのだが、シャツの隙間から手が滑り込んでしまったらしく、思い切り響古の胸を揉んでしまった。
手から伝わるやたらと至福な感触に焦って引き抜こうとして、男鹿は気づいた。
(まさか――ノーブラ!?)
むっつりという響古の見解が間違いではないことを証明する思考だった。
イチャつく二人を完全に無視して、帽子の鍔を僅かに伏せ、フォルカスは早々に伝える。
「――ふむ…あまり、いい状態とは言えんが、命に別状はないだろう。あと少し遅ければ、危なかったがな…そこのお嬢さんの的確な応急処置のおかげだな」
声もなく、葵とラミアが安堵の吐息をつき、ヒルダの無事を感謝する。
「つーか、お前順応しすぎ…」
「!!だ…だって、しょうがないじゃない。こうなったらやけくそにもなるわよ。ヒルダさんは私を助けて、あんな大ケガしたんでしょ?放ってなんか帰れないわよ」
「――…」
「葵さん…」
「お前の気持ちも分かるがな…邦枝。もう、夜も遅い。侍女悪魔ちゃんの容体も分かったんだそろそろおいとまするぞ。それに、もとはと言えばこいつが弱いだしな」
早乙女は立ち上がり、男鹿の頭を小突く。
「で」
「む」
いきなりの不意討ちに男鹿は眉をピクリと跳ね、響古は唸った。
「おい、こら、明日も学校来いよ、くそったれ。ちゃーんと授業してやっからな」
「あ゙ぁっ!?」
そのまま頭をぐりぐりとされ、顔をしかめる。
帰り際に、扉の前に立つフォルカスと目が合い、冷たく、平滑な声音で忠告する。
「困りますな、早乙女殿…あまり、ベルゼ様一人に肩入れされては…」
「分かってるよ、くそったれ。校長のじじいに頼まれたんだ、しょーがねーだろ」
その思考を正確に推測していたが、わかっていたからこそ、彼は何も言わなかった。
アランドロンの次元転送を使い、響古はアパートの自室で、今から着ていく服を選んでいた。
(スカートだと、気楽に来たように思われるかも)
そう思って却下したワンピースやスカートが、ベッドの上に散らかっている。
(こんなのを着ていくってのも、変だしな)
そう思って、ジャージの入った引き出しを戻す。
いい加減決めないと、もうこの季節、カッターシャツに下着姿では風邪をひいてしまう。
思わず腰を抱いて震えた中で、
(あっ、そうだ!あれなら――)
ようやく『張りすぎではないが、不真面目でもない服』を決めて、引き出しに手をかけた。
早乙女が明確に告げた言葉に、戸惑いを見せる。
「――…弱い…か」
ベヘモット柱師団との熾烈な激突から、敵の目論みは失敗したものの、こちら側の敗北は明らかであった。
(あいつらは、今まで戦ってきた相手よりずっと強い)
だが、響古とベヘモット柱師団では決定的に違う概念がある。
響古が学んだ"武"は、人を護るための技。
対して彼らは人外の悪魔、主人の焔王を邪魔するなら、殺すことさえ躊躇しない。
当然、強さは人を超越している。
「…このままじゃ、ダメだ……」
独りきりになると、笑顔も自信も、何もかも潰(ツイ)えた。
――人はあまりにも、もろくて弱くて、すぐに壊れる。
――1人で戦い続けられるなんて、1人だっていない。
――でも……それが人間だから…だからどうか、どうかあたしに、ほんの少しの勇気を……。
その時、ガタ、と重苦しい音が響き、響古は驚いて振り向く。
物の落ちるような、倒れ込むような、不穏な音があまりに近くから聞こえたのだ。
窓にはレースのカーテンがかかっていて、細く開いた隙間からは月明かりと、真っ黒い、影。
――誰かいる。
次の瞬間、真後ろから腕を掴まれた。
「――ッ!!」
そのまま、暗闇に引きずり込まれる。
夜の闇と同化して見えたのは、不揃いの黒髪だった。
「辰…っ!?」
悲鳴をあげそうになった口元を手でふさがれる。
至近距離から覗き込むようにして、響古を黙らせたのは男鹿だった。
「少し、静かにしろ」