バブ84~87
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バブ84
対決!!
授業が通常通り行われている昼間ならともかく、今は夜中。
聖石矢魔学園は完全に人通りがなくなる、はずだった。
だがこの夜、黒檀の執務机に座る校長の姿があった。
不意に感じた異常な気配に意識を奪われ、勢いよく振り向く。
「――…この気配…いよいよ来おったな…頼むぞ、早乙女君…!!」
鋭い視線の向こう、ベヘモット柱師団を待つ早乙女に託す。
吹きさらしの建設中の建物に座り込んでいた早乙女の姿はなく、カップラーメンだけが置かれていた。
出馬が力の集中を始め、活性化した魔力が渦巻き始める。
「な…」
「いくで、東条英虎君」
闘志に火がつくのを感じながら、東条は問いかける。
「――~…っ、なんだ、そりゃ」
「出馬君…」
黙って見守る静、対峙する東条は、異様な者を目の当たりにする。
「これが僕の…全力や」
そうして、力の予兆を自らの意思で現実に引き込み、東条を倒すだけの力を得たと感じるや、出馬は飛びかかった。
不敵な笑みをこぼしながら現れたベヘモット柱師団――ヘカドスの隣には、黒い影に捕まった葵が気を失っていた。
「――貴様ら、人間が悪魔と契約するには何が必要か、知っているか…?」
ヘカドスがいきなり言った。
責めているのではない。
むしろからかうような口ぶりで、男鹿と響古に向けて問う。
「あ…?」
「何の事……?」
――なんだ、こいつ…あれか…焔王とかいうガキが言ってた部下か、オレと響古を殺しに来るっつー…。
男鹿はたいした深刻な色も表さずに考え込み、強く気を張って、眉をつり上げる。
――悪魔との契約に必要な物だぁ?
――ここでナメられたら終わりだぜ!!
「――…おいおい、こちとら半年も魔王、背中に背負 ってんだぜ?知ってるに決まってんだろ」
「当然でしょ。それを知らないまま魔王の親として力になると誓ったバカがどこにいるの」
響古が細やかな働きを利かせて男鹿に追従 する。
「ほう」
知る素振りから一転、顎に手を当てて黙り込む二人。
「「――…」」
怪しくなりかけた雰囲気を気にしてか、ヒルダは訝しさを覚える。
漂い始めた暗雲を吹き飛ばす勢いで二人は力説した。
「笑顔だ」
「絆」
「血だ」
バラバラな二人の回答を、ヘカドスがあっさり斬り捨てる。
「――…」
その隣で絶句するヒルダ。
「血の契約…古来より、人間の血を取り込む事で悪魔は人間を従えてきた」
ヘカドスが暗い声音で答える。
「知ってるよ!!笑顔という名の血って意味だ!!ナメんな!!――って血ぃ!?」
「文化レベルが違いすぎて難易度高いんだけど!」
「貴様らとて、末子殿になんらかの形で血を捧げていよう…」
この話は初耳だったと見えて、男鹿が首を傾げる。
――…したか、んな事…?
――返り血ならいっぱい浴びせて来たけど…。
顎に手を当てる男鹿の隣で響古がウンウン唸っているのは、やはりこの話が初耳だったせいだろう。
――人間の血を取り込むって、一体どういう事?
――飲ませるの、見せるの?
響古は妖しげな呪文を唱え、邪術の儀式によって血を取り込むカルト的な宗教を想像する。
――……それ以前に、ベル坊に血なんか見せたら、かんしゃくが起きてそれどころじゃないし。
「――…」
無意識の内にヘカドスの撃退を図っていたヒルダは、
「男鹿、響古…」
強張った顔で声をひそめる。
「奴に契約させたら終わりだ。なんとか注意を引きつけておいてくれ。私が、邦枝を取り返す」
ヒルダは特に思わせぶりな目配せをしたわけでも意味ありげなジェスチャーを見せたわけでもない。
だがヘカドスは聴覚が鋭いのか、あっさりと作戦を聞き分けてしまった。
「おいおい、そりゃあどういう意味だ?侍女悪魔。オレが契約さえしなけりゃ、てめぇといい勝負って事か?おもしろい、やってみろよ。格の違いを見せてやる」
事がここまで進んでしまった以上、やはりヘカドスとの対決は避けがたいのだ。
そうであるなら――すると、響古はヒルダに目配せした。
「ヒルダ、悪いんだけど焔王君が言ってた部下……目の前にいるあいつって何者?」
聡明な話しぶりの響古に、ヒルダが素早く説明してくれた。
「――…ベヘモット34柱師団。王宮直属の武装集団……奴らは邪竜族という魔界屈指の戦闘部族。しかも、恐らく柱将クラスか」
いつもは横柄な侍女悪魔も、この場合では補佐役に徹するつもりのようだ。
――チャンスだ…!!
――今なら奴は、まだ油断している…!!
「行くぞ」
ただヒルダの言葉では、男鹿を完全には納得させることはできなかった。
「やだ」
明確な拒絶に、響古とヒルダは顔色を変えた。
「なっ」
「辰巳っ」
事情は納得できても心情的には納得できない、という様子だ。
「注意を引きつけるだけなんて、やだね。せっかくおいでなすったんだ。ガチで戦って返りうちにしてやんぜ」
その途端、男鹿の表情から軽薄さが消え、荒々しい眼差しで正面を見据える。
(……っていうか辰巳、物凄くカッコイイ。素敵すぎて直視するのが厳しい)
その姿がカッコよすぎて惚れ直しただなんて、こんな状況で何を考えてるんですか。
「なぁ、ベル坊」
「ダッ」
「バカ者!!貴様にどうこう出来るレベルの相手ではないと言っているのだ!!」
狼狽のせいか、思わず声を張り上げて言い放つ。
すると、やる気満々だったベル坊が落ち込み、慌てて弁解する。
「あっ…いや、別に坊っちゃまに言ったわけでは…」
一方、売られた喧嘩はなんでも利用する彼氏に、響古は苦笑した。
「みみっちく強さ弱さを気にする人に、魔王の親がつとまるわけないもんね」
「お願いだ、響古だけは正常でいてくれ!」
能力的に相性の悪い敵に苦戦するのは、バトル物の定番だよね~とか思っていると、何故かヒルダが彼女の肩を掴みながら必死にそう叫んできた。
「強くても、勝てないと決まってるわけじゃねーし、そこはあまり重要じゃない気もするしな」
「…………」
ヒルダはこれ以上は何も言えず黙るが、沈黙を破ったのは意外にもヘカドスだった。
「作戦会議は終わったか…?さっさとこねーと契約しちゃうぞ」
「…………っ」
あえて挑発的に放たれた台詞に、ヒルダは歯噛みする。
「とにかく、一定距離以上近づくな。その上で引きつけろ。貴様は死んでも構わん。坊っちゃまの安全が第一だ、分かったな!!」
本音があからさますぎる彼女の物言いに、胸ぐらを掴まれた男鹿は軽く舌打ちし、仕方なく承諾した。
「ちっ…分かったよ…囮でもなんでもやってやる。その代わり、邦枝を頼んだぞ。響古が悲しむからな」
「辰巳…とってもカッコイイよ!」
「え、マジで?」
褒めると、さらに上機嫌になったみたい。
「――フン。貴様こそ…死ぬなよ…響古が悲しむ」
「どっちだよ…」
そのやり取りに顔を綻ばせた後、響古は凛々しい微笑みで『やりますか』と目で促す。
男鹿はにやっと笑い、ヒルダもフッと笑って応えてくれる。
三人は既に臨戦態勢だった。
闘志を全身にみなぎらせ、三人は屹立する。
「…そーいや、てめーと一緒に戦うのは初めてか…」
「それがどうかしたか?足手まといは許さんぞ」
「はいはい、おしゃべりはそこまで。今は葵さんを助けるのが先だよ」
気を失った葵は、ヘカドスが生み出す黒い影の中にいる。
彼女が悪魔と契約し、下僕のように従う姿など見たくない。
契約させないため、男鹿と響古は囮、ヒルダが本命という形でヘカドスと向き合う。
「――…言っておくが、貴様らの作戦はつつ抜けだぞ?」
「――…だろうな」
「そんな余裕でいて、後でびーびー泣いても知らないよ」
攻撃は届かない距離。
であるにもかかわらず、男鹿はゆっくりと右手を上にかざし、響古は右手を脇の奥に引き込んでいる。
「いくぜ、響古、ベル坊」
「あいよ」
「ダッ」
それぞれ男鹿の左と背中に陣取り、響古とベル坊は相槌を打つ。
次の瞬間、二人の拳から力がみなぎり――それは稲妻となって、ヘカドスめがけて撃ち放つ。
――ゼブル、ブラストォォォッ!!!
突き出した腕から雷光と衝撃を迸らせて、稲妻が落ちる轟音。
「ほう」
ヘカドスは感心した体 でつぶやいた。
そして、炸裂する稲妻を片手で受け止める。
「――驚いたぞ、貴様ら…末子殿の力を操れるのか………!!」
「――はっ!!意識して使った事なんてねーけどな!!」
「ウィーーッ!!」
「やってみるもんだね、なんでもっ!!」
「そのままつぶれちまえ!!」
先制攻撃を食らわせ、共に気合を入れて、互いの身体に力を注ぎ込む。
「かっ!!」
その直後、かけ声と共に地面に手をかざして全周から迫りくる攻撃を防ぐ。
内に破壊力を躍らせる怒涛へと見る間に膨張した稲妻の中心には、全く無傷のヘカドスが……まだ健在な敵が余裕そうに笑っていた。
「だが、粗いな…その程度では虫もつぶせんぞ」
――…まじかよ…。
――ワォ、強敵だね……。
男鹿が驚く横で、響古も唖然としていた。
二人に気を取られている間に、
「――いや、十分だ」
魔力を纏うヒルダが飛びかかる。
突然の奇襲にヘカドスは後ろを振り返るが、それは彼を飛び越えて背後に回っていた。
「遅い…」
葵を捕らえる影の端を断ち切る。
魔力を消して着地したヒルダは早々に振り向く。
「男鹿っ」
彼女には悠長に呆けている暇は与えられなかった。
「おうっ!!」
促された男鹿は、頷くや大きく低く前方へと跳び、宙を描き落ちてくる葵を受け止める。
「葵さんっ!!」
「よぉし、やるじゃねーか、ヒルダ…!!てめぇ、見直し…」
途端、鋭い痛みが走った。
槍。
背後、全く唐突に、ヘカドスの握る槍が、ヒルダの腹部を貫いていた。
背後から伸びている槍は、彫像のように静止している。
「――…貴様…最初から、これが…」
口の端から血をこぼし、そう冷静に判断しつつ、かろうじて保っていた均衡を一撃で崩された己の不甲斐なさに、怒りを覚える。
「女などくれてやる。一番邪魔なのはお前だ」
ヘカドスがヒルダの声を切らせる。
「――…っ」
「「ヒルダッ」」
意識が遠のきかけ倒れるヒルダを、二人は緊張したような、呆然としたような面持ちで見つめる。
「全ては、焔王様の為に」
――その頃の焔王。
「ぬぉーー~っ。また全滅じゃーっ」
ゲームセンターに寄り道し、筺体 の前に座り、焔王は真剣にゲームをする。
「サテュラ!!金っ!!」
「もうねぇっスよ…」
散々小銭と時間を浪費した辺りで、サテュラはがま口財布を逆さまにした。
対決!!
授業が通常通り行われている昼間ならともかく、今は夜中。
聖石矢魔学園は完全に人通りがなくなる、はずだった。
だがこの夜、黒檀の執務机に座る校長の姿があった。
不意に感じた異常な気配に意識を奪われ、勢いよく振り向く。
「――…この気配…いよいよ来おったな…頼むぞ、早乙女君…!!」
鋭い視線の向こう、ベヘモット柱師団を待つ早乙女に託す。
吹きさらしの建設中の建物に座り込んでいた早乙女の姿はなく、カップラーメンだけが置かれていた。
出馬が力の集中を始め、活性化した魔力が渦巻き始める。
「な…」
「いくで、東条英虎君」
闘志に火がつくのを感じながら、東条は問いかける。
「――~…っ、なんだ、そりゃ」
「出馬君…」
黙って見守る静、対峙する東条は、異様な者を目の当たりにする。
「これが僕の…全力や」
そうして、力の予兆を自らの意思で現実に引き込み、東条を倒すだけの力を得たと感じるや、出馬は飛びかかった。
不敵な笑みをこぼしながら現れたベヘモット柱師団――ヘカドスの隣には、黒い影に捕まった葵が気を失っていた。
「――貴様ら、人間が悪魔と契約するには何が必要か、知っているか…?」
ヘカドスがいきなり言った。
責めているのではない。
むしろからかうような口ぶりで、男鹿と響古に向けて問う。
「あ…?」
「何の事……?」
――なんだ、こいつ…あれか…焔王とかいうガキが言ってた部下か、オレと響古を殺しに来るっつー…。
男鹿はたいした深刻な色も表さずに考え込み、強く気を張って、眉をつり上げる。
――悪魔との契約に必要な物だぁ?
――ここでナメられたら終わりだぜ!!
「――…おいおい、こちとら半年も魔王、背中に
「当然でしょ。それを知らないまま魔王の親として力になると誓ったバカがどこにいるの」
響古が細やかな働きを利かせて男鹿に
「ほう」
知る素振りから一転、顎に手を当てて黙り込む二人。
「「――…」」
怪しくなりかけた雰囲気を気にしてか、ヒルダは訝しさを覚える。
漂い始めた暗雲を吹き飛ばす勢いで二人は力説した。
「笑顔だ」
「絆」
「血だ」
バラバラな二人の回答を、ヘカドスがあっさり斬り捨てる。
「――…」
その隣で絶句するヒルダ。
「血の契約…古来より、人間の血を取り込む事で悪魔は人間を従えてきた」
ヘカドスが暗い声音で答える。
「知ってるよ!!笑顔という名の血って意味だ!!ナメんな!!――って血ぃ!?」
「文化レベルが違いすぎて難易度高いんだけど!」
「貴様らとて、末子殿になんらかの形で血を捧げていよう…」
この話は初耳だったと見えて、男鹿が首を傾げる。
――…したか、んな事…?
――返り血ならいっぱい浴びせて来たけど…。
顎に手を当てる男鹿の隣で響古がウンウン唸っているのは、やはりこの話が初耳だったせいだろう。
――人間の血を取り込むって、一体どういう事?
――飲ませるの、見せるの?
響古は妖しげな呪文を唱え、邪術の儀式によって血を取り込むカルト的な宗教を想像する。
――……それ以前に、ベル坊に血なんか見せたら、かんしゃくが起きてそれどころじゃないし。
「――…」
無意識の内にヘカドスの撃退を図っていたヒルダは、
「男鹿、響古…」
強張った顔で声をひそめる。
「奴に契約させたら終わりだ。なんとか注意を引きつけておいてくれ。私が、邦枝を取り返す」
ヒルダは特に思わせぶりな目配せをしたわけでも意味ありげなジェスチャーを見せたわけでもない。
だがヘカドスは聴覚が鋭いのか、あっさりと作戦を聞き分けてしまった。
「おいおい、そりゃあどういう意味だ?侍女悪魔。オレが契約さえしなけりゃ、てめぇといい勝負って事か?おもしろい、やってみろよ。格の違いを見せてやる」
事がここまで進んでしまった以上、やはりヘカドスとの対決は避けがたいのだ。
そうであるなら――すると、響古はヒルダに目配せした。
「ヒルダ、悪いんだけど焔王君が言ってた部下……目の前にいるあいつって何者?」
聡明な話しぶりの響古に、ヒルダが素早く説明してくれた。
「――…ベヘモット34柱師団。王宮直属の武装集団……奴らは邪竜族という魔界屈指の戦闘部族。しかも、恐らく柱将クラスか」
いつもは横柄な侍女悪魔も、この場合では補佐役に徹するつもりのようだ。
――チャンスだ…!!
――今なら奴は、まだ油断している…!!
「行くぞ」
ただヒルダの言葉では、男鹿を完全には納得させることはできなかった。
「やだ」
明確な拒絶に、響古とヒルダは顔色を変えた。
「なっ」
「辰巳っ」
事情は納得できても心情的には納得できない、という様子だ。
「注意を引きつけるだけなんて、やだね。せっかくおいでなすったんだ。ガチで戦って返りうちにしてやんぜ」
その途端、男鹿の表情から軽薄さが消え、荒々しい眼差しで正面を見据える。
(……っていうか辰巳、物凄くカッコイイ。素敵すぎて直視するのが厳しい)
その姿がカッコよすぎて惚れ直しただなんて、こんな状況で何を考えてるんですか。
「なぁ、ベル坊」
「ダッ」
「バカ者!!貴様にどうこう出来るレベルの相手ではないと言っているのだ!!」
狼狽のせいか、思わず声を張り上げて言い放つ。
すると、やる気満々だったベル坊が落ち込み、慌てて弁解する。
「あっ…いや、別に坊っちゃまに言ったわけでは…」
一方、売られた喧嘩はなんでも利用する彼氏に、響古は苦笑した。
「みみっちく強さ弱さを気にする人に、魔王の親がつとまるわけないもんね」
「お願いだ、響古だけは正常でいてくれ!」
能力的に相性の悪い敵に苦戦するのは、バトル物の定番だよね~とか思っていると、何故かヒルダが彼女の肩を掴みながら必死にそう叫んできた。
「強くても、勝てないと決まってるわけじゃねーし、そこはあまり重要じゃない気もするしな」
「…………」
ヒルダはこれ以上は何も言えず黙るが、沈黙を破ったのは意外にもヘカドスだった。
「作戦会議は終わったか…?さっさとこねーと契約しちゃうぞ」
「…………っ」
あえて挑発的に放たれた台詞に、ヒルダは歯噛みする。
「とにかく、一定距離以上近づくな。その上で引きつけろ。貴様は死んでも構わん。坊っちゃまの安全が第一だ、分かったな!!」
本音があからさますぎる彼女の物言いに、胸ぐらを掴まれた男鹿は軽く舌打ちし、仕方なく承諾した。
「ちっ…分かったよ…囮でもなんでもやってやる。その代わり、邦枝を頼んだぞ。響古が悲しむからな」
「辰巳…とってもカッコイイよ!」
「え、マジで?」
褒めると、さらに上機嫌になったみたい。
「――フン。貴様こそ…死ぬなよ…響古が悲しむ」
「どっちだよ…」
そのやり取りに顔を綻ばせた後、響古は凛々しい微笑みで『やりますか』と目で促す。
男鹿はにやっと笑い、ヒルダもフッと笑って応えてくれる。
三人は既に臨戦態勢だった。
闘志を全身にみなぎらせ、三人は屹立する。
「…そーいや、てめーと一緒に戦うのは初めてか…」
「それがどうかしたか?足手まといは許さんぞ」
「はいはい、おしゃべりはそこまで。今は葵さんを助けるのが先だよ」
気を失った葵は、ヘカドスが生み出す黒い影の中にいる。
彼女が悪魔と契約し、下僕のように従う姿など見たくない。
契約させないため、男鹿と響古は囮、ヒルダが本命という形でヘカドスと向き合う。
「――…言っておくが、貴様らの作戦はつつ抜けだぞ?」
「――…だろうな」
「そんな余裕でいて、後でびーびー泣いても知らないよ」
攻撃は届かない距離。
であるにもかかわらず、男鹿はゆっくりと右手を上にかざし、響古は右手を脇の奥に引き込んでいる。
「いくぜ、響古、ベル坊」
「あいよ」
「ダッ」
それぞれ男鹿の左と背中に陣取り、響古とベル坊は相槌を打つ。
次の瞬間、二人の拳から力がみなぎり――それは稲妻となって、ヘカドスめがけて撃ち放つ。
――ゼブル、ブラストォォォッ!!!
突き出した腕から雷光と衝撃を迸らせて、稲妻が落ちる轟音。
「ほう」
ヘカドスは感心した
そして、炸裂する稲妻を片手で受け止める。
「――驚いたぞ、貴様ら…末子殿の力を操れるのか………!!」
「――はっ!!意識して使った事なんてねーけどな!!」
「ウィーーッ!!」
「やってみるもんだね、なんでもっ!!」
「そのままつぶれちまえ!!」
先制攻撃を食らわせ、共に気合を入れて、互いの身体に力を注ぎ込む。
「かっ!!」
その直後、かけ声と共に地面に手をかざして全周から迫りくる攻撃を防ぐ。
内に破壊力を躍らせる怒涛へと見る間に膨張した稲妻の中心には、全く無傷のヘカドスが……まだ健在な敵が余裕そうに笑っていた。
「だが、粗いな…その程度では虫もつぶせんぞ」
――…まじかよ…。
――ワォ、強敵だね……。
男鹿が驚く横で、響古も唖然としていた。
二人に気を取られている間に、
「――いや、十分だ」
魔力を纏うヒルダが飛びかかる。
突然の奇襲にヘカドスは後ろを振り返るが、それは彼を飛び越えて背後に回っていた。
「遅い…」
葵を捕らえる影の端を断ち切る。
魔力を消して着地したヒルダは早々に振り向く。
「男鹿っ」
彼女には悠長に呆けている暇は与えられなかった。
「おうっ!!」
促された男鹿は、頷くや大きく低く前方へと跳び、宙を描き落ちてくる葵を受け止める。
「葵さんっ!!」
「よぉし、やるじゃねーか、ヒルダ…!!てめぇ、見直し…」
途端、鋭い痛みが走った。
槍。
背後、全く唐突に、ヘカドスの握る槍が、ヒルダの腹部を貫いていた。
背後から伸びている槍は、彫像のように静止している。
「――…貴様…最初から、これが…」
口の端から血をこぼし、そう冷静に判断しつつ、かろうじて保っていた均衡を一撃で崩された己の不甲斐なさに、怒りを覚える。
「女などくれてやる。一番邪魔なのはお前だ」
ヘカドスがヒルダの声を切らせる。
「――…っ」
「「ヒルダッ」」
意識が遠のきかけ倒れるヒルダを、二人は緊張したような、呆然としたような面持ちで見つめる。
「全ては、焔王様の為に」
――その頃の焔王。
「ぬぉーー~っ。また全滅じゃーっ」
ゲームセンターに寄り道し、
「サテュラ!!金っ!!」
「もうねぇっスよ…」
散々小銭と時間を浪費した辺りで、サテュラはがま口財布を逆さまにした。