バブ80
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「どうだったかね?蠅の王の末っ子は…」
魔王の末っ子の親候補として選考された人材について早々に訊ねられ、早乙女は一瞬たりとも迷わず、即答した。
「んー…全然ダメッスわ。やばくね?」
「………ふむ」
校長はそれを認めつつコーヒーを淹 れ、早乙女はぶつぶつとつぶやく。
「しかし、じーさん。あんたも思いきった事をする。この学校には一体何人の悪魔がいるんだよ。お、大福いっこもらい」
「――…来ると思うかね…?」
校長の細められた視線が、早乙女を射抜く。
まるで、彼が抱いた本意を見抜きでもしているかのように。
「まぁ、来るでしょうな…」
ガリガリと豆を挽く音と、ブクブクとお湯が沸騰する音が早乙女の耳に小さく届く。
「あまっ、じーさん、オレの分のコーヒーも淹れてくれ!!」
「フェッフェッ」
早乙女の分のコーヒーを追加ながら、校長は遠い目をしながら思い出す。
「蠅の王 …超てきとーだからな…」
うすうす把握している魔王の適当な性格に、やれやれと肩をすくめた。
空はいつしか、夕に迫っていた。
フェンスに朱が射し込んで、時の寂寥 を否応なく感じさせる。
二人の行く手を遮るように、葵は立っていた。
「答えて――…」
表情に多少の険しさはあるものの、静かに聞いてきた。
「――その子、一体何者なの?」
それが響古には、場所のせいか自分がピリピリしているせいか、普段とは少し違う彼女に感じられる。
葵の『何者?』が何を差しているのかはわからなかったが、二人は自分達なりに判断をして、重い口調で言った。
「…何者…?」
「葵さん、あの…言ってる意味がよくわからないんですが…もしかして、ベル坊があたしと辰巳の子供だと勘違いしてるんじゃ……」
「そういう事じゃないわ、響古。勿論、二人の子じゃないって事はわかってる。隠さないで、話してちょうだい」
元より隠しているわけではなかったが、まさか悪魔の血筋を引く赤ん坊とは言えるわけがない。
だが、本人が追求する以上、この場を誤魔化さなければいけない。
よって、男鹿は慎重に言葉を選ぶ。
――うーん…と…どっから説明すればいいんだ…?
――まず名前か?
――うん、名前は重要だな、よしっ。
いくら魔王の子供だからとはいって、名乗りを無視していい道理はない。
――えーと、ベル坊だから…ベル…あれ?なんだっけ?こいつ…ベルマーク?ちがうな…。
記憶を手繰り寄せてベル坊の本名を思い出そうとするが、なかなか出てこない。
頭を抱え、あたふたとするように慌てふためき、同時に頭脳は高速で回転する。
――確か、すげー長い名前だったんだよ。
――ウンタラカンタラベルウンタラみたいな…思い出せオレ!!
――ベル…ベル…ベルリン!?
「すごい…辰巳が自分で頭を使って考えてる……」
ぐるぐると思考の渦に陥ってしまった男鹿の隣で、響古が何気に失礼な発言を口にする。
何故か押し黙ってしまった男鹿に、葵は疑問符を浮かべる。
が、すぐに真剣な表情になった。
――…二人の子じゃないって事は分かってる。
――かといってヒルダさんの子供でもない。
聞くべきではない。
聞いたらまずい。
そんな予感をひしひしと感じながら、葵は答えを待つ。
――じゃあ、この子は一体、何?
――どうしてあなた達が面倒をみてるの…!?
「坊っちゃまって言ってたし」
赤ん坊に対する呼び方としては、ひどく異例だろう。
しかし、実際に目にした以上、葵はいつになく真剣な表情で二人を見据える。
――…てゆーかそもそも、裸で背中にしがみついてるってのが根本的に、おかしいし。
――さぁ、白状しなさい!!
――男鹿、響古!!
容量の少ない脳をフル回転で動かし、考えすぎてプスプスと知恵熱が出る。
「辰巳、とりあえずはあたしが話すから少し休んで」
柔らかな笑みで言われて、男鹿は頭を掻いた。
こういう時の響古はこちらを気遣ってくれる。
それが照れくさくもあり、そしてありがたい。
「葵さん。ここからはあたしから事情を説明します」
響く凛々しい声。
男鹿はほっとした。
やはり彼女に発言を任せて正解だと、勇気づけられる。
「すごく信用できない、虚偽に満ちた言い訳に聞こえるかもしれませんけど、あたし達は最初、ベル坊を育てる事には消極的でした」
凜とした響古の声が、実に頼もしい。
清澄な鐘の音を聞きでもしたかのように、葵も彼女の顔を注視する。
「ですが、この間、あたしはベル坊に対して宣誓しました――『血の繋がりなどなくとも、あなたの親として力になると誓います…困ったらあたしを呼んで下さい、あたしの何に代えても必ず守ります』と。あたしは、あの時の自分の言葉に嘘はなかったと断言できます」
一月前、男鹿が東条に勝利した直後。
東条と対峙、告白された瞬間に暴走した"蠅王紋"のリンクを無意識に断ち切ったベル坊に対し、自分自身の力で抑えることができたと響古は主張。
しまいには命を懸けた誓いまでした。
この甲斐あって、ベル坊は響古の言い分を認めてくれた。
「確かに、ベル坊はあたし達の子ではありません。ですが、もしベル坊がいなかったら、あたしは同じ過 ちを繰り返してしまうかもしれません」
「それって……響古が私達のもとからいなくなった事よね…?」
「はい。あたしの隠し事が原因で……身勝手に別れて、後で相手の心を知り、後悔に苛まれながらも、逃げてしまう。辰巳と初めてケンカした時もそうでした。今はすっかりラブラブですけど」
響古の弁護が続く……いや、これは弁護なのか。
ちっともピンチを脱した気がない。
「最近ではベル坊も日に日に成長の兆しが見て取れて、ますます可愛くなって、あたしは嬉しいです」
ここでようやく、男鹿は自分の犯したミスが何かを明確に悟った。
援軍を呼ぶ発想は間違ってなかった。
言葉を飾らず、どこまでも誠実に物事を語ろうとする響古が、このケースの援軍にふさわしいか否か。
問題はそこにあったのだ。
「どうですか?これでベル坊の事がよくわかりましたか?」
真摯な眼差しで問う響古に、葵は頷いた。
ついでに男鹿の方には、軽い侮蔑と皮肉に満ちた視線を向けてくる。
「……ま、それでもツッコミどころはやたら多いけど」
男鹿と響古、そしてベル坊を、葵は皮肉っぽく眺めながら言う。
「でも、一番のツッコミどころはね、どうして響古がそんな事を赤ん坊に誓ったのか、なのよ。二人と赤ん坊はどういう関係なのよ?」
「え!?ただの親代わり……ですよ?それ以上でも、それ以下でも――」
まさか人間を滅ぼす魔王の末っ子と、それを支える親候補だとは説明できまい。
そこを誤魔化すアドリブはやはり無理だった。
「ふうん。さっきの言葉、親代わりとは思えない……まるで主人に忠誠を誓う騎士みたいだったけど。まさかその赤ん坊、どこかの国の王子だったりして……」
「なっ!?何を言うんですか、葵さん!!」
(オイオイ、なんかヤベーぞ…)
妙にやさぐれた感じの葵に言われて、響古は狼狽し、男鹿は顔をしかめた。
「でも、それだけの証言じゃ納得しないわ」
葵の追及に二人が窮地に立つ中、校舎の壁から古市が顔を覗かせる。
三人と間近に接近した彼は、驚愕の表情で胸中で叫んだ。
――…これは、えらい所に居合わせてしまった――…!!
そして、放課後の校舎の裏に呼び寄せるというシチュエーションから告白を連想する。
――告白か?告白なのか!?
――百歩譲って告白という名のあれか!?
(どれだ)
古市は自ら思いついた可能性を捨て、話に耳を傾ける。
――いや…違うな…。
深呼吸して耳を澄ませば、葵の詰問する声が聞こえてくる。
「どうしたの?ただの赤ん坊じゃないでしょ…?」
落ち着いて目を閉じれば、告白ではないことを感じる。
:古市イヤー:注意して聞くとよく聞こえる。
――これは…ベル坊の事を聞いてんのか…。
男鹿の背中にしがみつく緑髪の赤ん坊。
その小さな身体から放たれた信じられない規模の、体育館を覆う帝毛の男達を丸ごと焼き尽くすほどに莫大な電撃が、まさにその瞬間、爆発した。
――そーか…昨日あれだけ派手にやったもんなぁ…怪しんで当然だよな…。
霧矢の足元を突き破り迫った紫電、影組を一挙に飲み込んだ稲妻、全てを同時に一撃のもと行ったそれは、電撃による怒涛。
様々な感情のこもった視線を受けながら、体育館中の視線を一身に浴びながら、男鹿と響古は破裂の中心にあって堂々と屹立する。
「よかったよかった。告白とかじゃなくて…」
安堵の表情を浮かべ、古市は納得する。
ただ、同時に気づいてしまった。
れはほとんど直感に近い、ひらめきの声で、外に溢れんとする奔流のような内心を、必死に押し止めた。
――って、まずくね!?
――おいおいおい!!どーすんだ男鹿、響古!!
――ついに秘密をバラすのか!?悪魔だの魔王だの言っちゃうのか!?
ベル坊はただの人間じゃない。
人間界を滅ぼすために侍女悪魔のヒルダ・次元転送悪魔のアランドロンと共にやって来た、魔王の子供だ。
――…てゆーか、お前、ちゃんと説明出来んのか…?
彼が、他人のために動く、という単純な思惑で動くような人物ではないことは、直接の面識がある者なら、すぐにわかる。
彼が、人に説明するのが苦手であることも、同じく。
何かしら自分の中で結論が出たようで、男鹿は説明を放棄した。
「だぁあっ!!面倒くせぇっ!!ベル坊っ!!お前、自分で答えろ!!」
「えぇっ!?」
「ニョ!?」
急遽、追求された正体の説明を無責任に投げられ、響古とベル坊は仰天する。
――…ベル坊にぶんなげた…。
こういう時、彼はついつい他人任せにしてしまう。
「ちょっと辰巳、いくらなんでもベル坊に押しつけるのはよくないよ!?」
「しょうがねーだろ!オレが説明苦手なの知ってるだろ!」
「だからって…!」
喧嘩腰で吐き捨てる男鹿に負けじと、響古も声をあげて見つめ返す。
「うるせー!口ふさぐぞ!」
「く、口っ……!」
(あ、いけねっ……!)
漆黒の瞳を見開いて固まった響古を見て、男鹿は慌てて自分の口を押さえる。
「く、口、ふさ……!」
「わ、悪かった響古。忘れろ。今のはオレが悪かった」
どうやら嫉妬した男鹿にキスされたことを思い出して、固まってしまった。
魔王の末っ子の親候補として選考された人材について早々に訊ねられ、早乙女は一瞬たりとも迷わず、即答した。
「んー…全然ダメッスわ。やばくね?」
「………ふむ」
校長はそれを認めつつコーヒーを
「しかし、じーさん。あんたも思いきった事をする。この学校には一体何人の悪魔がいるんだよ。お、大福いっこもらい」
「――…来ると思うかね…?」
校長の細められた視線が、早乙女を射抜く。
まるで、彼が抱いた本意を見抜きでもしているかのように。
「まぁ、来るでしょうな…」
ガリガリと豆を挽く音と、ブクブクとお湯が沸騰する音が早乙女の耳に小さく届く。
「あまっ、じーさん、オレの分のコーヒーも淹れてくれ!!」
「フェッフェッ」
早乙女の分のコーヒーを追加ながら、校長は遠い目をしながら思い出す。
「
うすうす把握している魔王の適当な性格に、やれやれと肩をすくめた。
空はいつしか、夕に迫っていた。
フェンスに朱が射し込んで、時の
二人の行く手を遮るように、葵は立っていた。
「答えて――…」
表情に多少の険しさはあるものの、静かに聞いてきた。
「――その子、一体何者なの?」
それが響古には、場所のせいか自分がピリピリしているせいか、普段とは少し違う彼女に感じられる。
葵の『何者?』が何を差しているのかはわからなかったが、二人は自分達なりに判断をして、重い口調で言った。
「…何者…?」
「葵さん、あの…言ってる意味がよくわからないんですが…もしかして、ベル坊があたしと辰巳の子供だと勘違いしてるんじゃ……」
「そういう事じゃないわ、響古。勿論、二人の子じゃないって事はわかってる。隠さないで、話してちょうだい」
元より隠しているわけではなかったが、まさか悪魔の血筋を引く赤ん坊とは言えるわけがない。
だが、本人が追求する以上、この場を誤魔化さなければいけない。
よって、男鹿は慎重に言葉を選ぶ。
――うーん…と…どっから説明すればいいんだ…?
――まず名前か?
――うん、名前は重要だな、よしっ。
いくら魔王の子供だからとはいって、名乗りを無視していい道理はない。
――えーと、ベル坊だから…ベル…あれ?なんだっけ?こいつ…ベルマーク?ちがうな…。
記憶を手繰り寄せてベル坊の本名を思い出そうとするが、なかなか出てこない。
頭を抱え、あたふたとするように慌てふためき、同時に頭脳は高速で回転する。
――確か、すげー長い名前だったんだよ。
――ウンタラカンタラベルウンタラみたいな…思い出せオレ!!
――ベル…ベル…ベルリン!?
「すごい…辰巳が自分で頭を使って考えてる……」
ぐるぐると思考の渦に陥ってしまった男鹿の隣で、響古が何気に失礼な発言を口にする。
何故か押し黙ってしまった男鹿に、葵は疑問符を浮かべる。
が、すぐに真剣な表情になった。
――…二人の子じゃないって事は分かってる。
――かといってヒルダさんの子供でもない。
聞くべきではない。
聞いたらまずい。
そんな予感をひしひしと感じながら、葵は答えを待つ。
――じゃあ、この子は一体、何?
――どうしてあなた達が面倒をみてるの…!?
「坊っちゃまって言ってたし」
赤ん坊に対する呼び方としては、ひどく異例だろう。
しかし、実際に目にした以上、葵はいつになく真剣な表情で二人を見据える。
――…てゆーかそもそも、裸で背中にしがみついてるってのが根本的に、おかしいし。
――さぁ、白状しなさい!!
――男鹿、響古!!
容量の少ない脳をフル回転で動かし、考えすぎてプスプスと知恵熱が出る。
「辰巳、とりあえずはあたしが話すから少し休んで」
柔らかな笑みで言われて、男鹿は頭を掻いた。
こういう時の響古はこちらを気遣ってくれる。
それが照れくさくもあり、そしてありがたい。
「葵さん。ここからはあたしから事情を説明します」
響く凛々しい声。
男鹿はほっとした。
やはり彼女に発言を任せて正解だと、勇気づけられる。
「すごく信用できない、虚偽に満ちた言い訳に聞こえるかもしれませんけど、あたし達は最初、ベル坊を育てる事には消極的でした」
凜とした響古の声が、実に頼もしい。
清澄な鐘の音を聞きでもしたかのように、葵も彼女の顔を注視する。
「ですが、この間、あたしはベル坊に対して宣誓しました――『血の繋がりなどなくとも、あなたの親として力になると誓います…困ったらあたしを呼んで下さい、あたしの何に代えても必ず守ります』と。あたしは、あの時の自分の言葉に嘘はなかったと断言できます」
一月前、男鹿が東条に勝利した直後。
東条と対峙、告白された瞬間に暴走した"蠅王紋"のリンクを無意識に断ち切ったベル坊に対し、自分自身の力で抑えることができたと響古は主張。
しまいには命を懸けた誓いまでした。
この甲斐あって、ベル坊は響古の言い分を認めてくれた。
「確かに、ベル坊はあたし達の子ではありません。ですが、もしベル坊がいなかったら、あたしは同じ
「それって……響古が私達のもとからいなくなった事よね…?」
「はい。あたしの隠し事が原因で……身勝手に別れて、後で相手の心を知り、後悔に苛まれながらも、逃げてしまう。辰巳と初めてケンカした時もそうでした。今はすっかりラブラブですけど」
響古の弁護が続く……いや、これは弁護なのか。
ちっともピンチを脱した気がない。
「最近ではベル坊も日に日に成長の兆しが見て取れて、ますます可愛くなって、あたしは嬉しいです」
ここでようやく、男鹿は自分の犯したミスが何かを明確に悟った。
援軍を呼ぶ発想は間違ってなかった。
言葉を飾らず、どこまでも誠実に物事を語ろうとする響古が、このケースの援軍にふさわしいか否か。
問題はそこにあったのだ。
「どうですか?これでベル坊の事がよくわかりましたか?」
真摯な眼差しで問う響古に、葵は頷いた。
ついでに男鹿の方には、軽い侮蔑と皮肉に満ちた視線を向けてくる。
「……ま、それでもツッコミどころはやたら多いけど」
男鹿と響古、そしてベル坊を、葵は皮肉っぽく眺めながら言う。
「でも、一番のツッコミどころはね、どうして響古がそんな事を赤ん坊に誓ったのか、なのよ。二人と赤ん坊はどういう関係なのよ?」
「え!?ただの親代わり……ですよ?それ以上でも、それ以下でも――」
まさか人間を滅ぼす魔王の末っ子と、それを支える親候補だとは説明できまい。
そこを誤魔化すアドリブはやはり無理だった。
「ふうん。さっきの言葉、親代わりとは思えない……まるで主人に忠誠を誓う騎士みたいだったけど。まさかその赤ん坊、どこかの国の王子だったりして……」
「なっ!?何を言うんですか、葵さん!!」
(オイオイ、なんかヤベーぞ…)
妙にやさぐれた感じの葵に言われて、響古は狼狽し、男鹿は顔をしかめた。
「でも、それだけの証言じゃ納得しないわ」
葵の追及に二人が窮地に立つ中、校舎の壁から古市が顔を覗かせる。
三人と間近に接近した彼は、驚愕の表情で胸中で叫んだ。
――…これは、えらい所に居合わせてしまった――…!!
そして、放課後の校舎の裏に呼び寄せるというシチュエーションから告白を連想する。
――告白か?告白なのか!?
――百歩譲って告白という名のあれか!?
(どれだ)
古市は自ら思いついた可能性を捨て、話に耳を傾ける。
――いや…違うな…。
深呼吸して耳を澄ませば、葵の詰問する声が聞こえてくる。
「どうしたの?ただの赤ん坊じゃないでしょ…?」
落ち着いて目を閉じれば、告白ではないことを感じる。
:古市イヤー:注意して聞くとよく聞こえる。
――これは…ベル坊の事を聞いてんのか…。
男鹿の背中にしがみつく緑髪の赤ん坊。
その小さな身体から放たれた信じられない規模の、体育館を覆う帝毛の男達を丸ごと焼き尽くすほどに莫大な電撃が、まさにその瞬間、爆発した。
――そーか…昨日あれだけ派手にやったもんなぁ…怪しんで当然だよな…。
霧矢の足元を突き破り迫った紫電、影組を一挙に飲み込んだ稲妻、全てを同時に一撃のもと行ったそれは、電撃による怒涛。
様々な感情のこもった視線を受けながら、体育館中の視線を一身に浴びながら、男鹿と響古は破裂の中心にあって堂々と屹立する。
「よかったよかった。告白とかじゃなくて…」
安堵の表情を浮かべ、古市は納得する。
ただ、同時に気づいてしまった。
れはほとんど直感に近い、ひらめきの声で、外に溢れんとする奔流のような内心を、必死に押し止めた。
――って、まずくね!?
――おいおいおい!!どーすんだ男鹿、響古!!
――ついに秘密をバラすのか!?悪魔だの魔王だの言っちゃうのか!?
ベル坊はただの人間じゃない。
人間界を滅ぼすために侍女悪魔のヒルダ・次元転送悪魔のアランドロンと共にやって来た、魔王の子供だ。
――…てゆーか、お前、ちゃんと説明出来んのか…?
彼が、他人のために動く、という単純な思惑で動くような人物ではないことは、直接の面識がある者なら、すぐにわかる。
彼が、人に説明するのが苦手であることも、同じく。
何かしら自分の中で結論が出たようで、男鹿は説明を放棄した。
「だぁあっ!!面倒くせぇっ!!ベル坊っ!!お前、自分で答えろ!!」
「えぇっ!?」
「ニョ!?」
急遽、追求された正体の説明を無責任に投げられ、響古とベル坊は仰天する。
――…ベル坊にぶんなげた…。
こういう時、彼はついつい他人任せにしてしまう。
「ちょっと辰巳、いくらなんでもベル坊に押しつけるのはよくないよ!?」
「しょうがねーだろ!オレが説明苦手なの知ってるだろ!」
「だからって…!」
喧嘩腰で吐き捨てる男鹿に負けじと、響古も声をあげて見つめ返す。
「うるせー!口ふさぐぞ!」
「く、口っ……!」
(あ、いけねっ……!)
漆黒の瞳を見開いて固まった響古を見て、男鹿は慌てて自分の口を押さえる。
「く、口、ふさ……!」
「わ、悪かった響古。忘れろ。今のはオレが悪かった」
どうやら嫉妬した男鹿にキスされたことを思い出して、固まってしまった。