バブ1
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滑走路を滑りながら速度を上げて、飛行機が飛んでいく。
――むかしむかし、あるところに、それはそれはハンサムで、かっこよくて、モテモテで、
それは、普段となんら変わりのない出来事だった。
尽きることのない高音を響かせる野原の真下からは、男達の荒い息遣いが聞こえる。
皆、身体のあちこちを押さえながら呻く。
その中心に佇むのは、一人の少年と少女。
――みんなに尊敬されまくっている、
「うぅ…」
「死ね……男鹿…」
そんな品性の欠片も知性の片鱗 も感じられない暴言を吐いた途端、プロレス技をかけられる。
「◎△×□卍△!!」
「ちんぴらとしか言いようがないわね、もう少し言葉をひねりなさいよ」
少女が呆れたように、長い髪に指を絡ませて言う。
――尊敬されまくっている、
「……」
「ひでぇ…」
ひねりがないと断言された男達は、台詞だけでなく服装にもひねりがなかった。
さらには、吹き飛び方にもひねりがなかった。
ついでに言うなら、地面に這いつくばる姿にさえひねりがなかった。
彼らはどう見ても、ちんぴらとしか評せないような小物っぷりを全身から発散しまくっていた。
「くっ……ちくしょう」
――そして、キューティーで、プリティーで、ビューティーで、みんなにモテはやされている、
「クソが、女のくせにふざけやがって」
どうにか身を起こした男が、無駄に大きな動きで突進してくる。
少女は、男を完全に見下した表情で侮蔑する。
「女のくせに?それを言っちゃ、お終いでしょう」
刹那、少女は流れるような美しい動作で身体を捻り、男めがけて後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐふぁ」
もろに顔面に食らい、男は派手に吹っ飛ぶ。
ごろごろと三回転ぐらいして、ようやく停止。
気がつけば、大の字になって空を仰いだ。
学生服着て、夕方に土手かなんかでこうなっていればとても青春なのだが、うらぶれた野原では、ただの人生ロードの落伍者 だ。
――心優しい若者達がおりました。
少年は丈の短い学ランを肩にかけ、振り返った少女の、艶やかな黒髪と短いスカートが風に揺れる。
周りには、顔から口許から血を滴らせ、倒れるちんぴら達の姿。
「全員土下座」
「跪きなさい」
その瞳は、傲岸不遜に全てを見下し、睥睨していた。
彼らは全員、土下座をした。
先程の強気の姿勢が全くなくなっている。
さすがに、これ以上足掻くとまずいということに、遅ればせながら気がついたらしい。
これが、数時間前の出来事……冒頭でちょっと、いやかなりバイオレンスに登場した主人公とヒロインに、ツッコミが入った。
「まてまてまて」
「む?」
「へ?」
それまで淡々と話していた二人は、ぴたりと動きを止めた。
「『む』でも『へ』でもねーよ。誰が心優しくてモテモテだ。いや、響古は別だけどさ」
ピンセットで身だしなみを整える少年――古市が腰まであるまっすぐな黒髪の少女――響古に話しかける。
「ありがと。古市」
「おい、グダグダしてっぞ」
そこに、不揃いの黒髪で目つきが悪い少年――男鹿が割り込む。
「グダグダさせたのはお前だろ!開口一番『全員土下座』と『跪きなさい』って、お前ら、暴君じゃねーか」
ただ今、男鹿と響古は古市の部屋でショートケーキを食べていた。
男鹿は突き刺した苺ごとフォークで差す。
「ばかめ。古市、お前、ばかめ。お前の母ちゃん、でべそ!」
「でべそじゃねーよ」
「っていうか、人様のお母さんに失礼でしょ。辰巳」
最後の苺を食べ終えた響古がつっこむ。
つっこむところ、そこ?
「いいか?よく考えてみろ。オレが理由もなく、人を土下座させる様な男だと思うか?」
まぐまぐ、と言葉の端々に、ケーキを咀嚼する音が混じる。
「うん」
「ワォ。即答」
ピンセットで睫毛を抜いて即答すると、男鹿はその首を両腕で絞め上げる。
「そうかそうか、続きが聞きたいか!!」
「いででで、ギブキブッ」
時は遡り、情けない五人の男達が未だ土下座をしながら謝罪する。
「…いや、本当 、さっきは調子こいてすみませんでした」
「石高の無敗伝説、男鹿くんが、同じく石高一の美女で"黒雪姫"の篠木さんの膝枕で、あまりにも無防備に寝てるもんだから…」
「つい、チャンスかと思って…」
「チャンスじゃねーよ。お前、あれオレらじゃなかったら死んでっぞ」
「そーだよ。ついあたしも、うとうとしちゃってんだから」
腰を手に当てて、ぷんぷんと怒る響古、しかし似合ってるところが恐ろしい。
先程までの暴君はどこへやら、全く威厳が感じられない。
「いやー、本当にねぇ~」
ハハハハ、と男達は笑う。
二人がいたと思われる場所には、鉄骨が突き刺さっていた。
傍に置いていた二人のカバンが、その衝撃を物語っている。
「死ねばよかったのに…」
一人の男が本音をこぼした途端、男鹿の表情が笑顔で固まった。
「あーあ…ご愁傷様」
彼の中でスイッチが入る音が聞こえ、響古は心の中で合掌する。
――心優しい若者は、川に洗濯に行きました。
「落ちるのかなー。この汚れ」
「ちょっ、ゲボゴボボ。ガボッ、ゴボッ…死ぬっ」
両足を掴み、逆さまで川の中にIN!
落ちるわけがない。
普通に死ねる。
(悪魔だ)
(ひでぇ…)
(アクマ)
噂通りの悪魔の所業に、ちんぴら達は恐怖に怯える。
すると、男鹿に声をかけながら響古が近寄ってくる。
「あはは!面白ーい。辰巳、あたしもやりたーい!」
(こっちも悪魔だー!!)
可愛らしくお願いするには恐ろしい言い草に、とうとう半泣きでぷるぷる震える。
その時、川上の方から何かが流れてきた。
――すると、川上の方から、大きな…大きなおっさんが、どんぶらこっこ、どんぶらこ。
古市は顔色を変え、すぐさま二人の語りを遮った。
「はい、ストーーーーップ!!」
「どーしたの、古市?」
響古が首を傾げて訊ねる。
艶やかな黒髪が肩を滑り落ちていく様子は、サラサラと音が聞こえてくるかのようだった。
これだけは慣れない少女の美貌にドキドキしながらも、古市は訊ねる。
「えーーーと…何?この話…どこへもっていきたいの?つーか何だ!?大きなおっさんって…」
ケーキを食べ終えた二人はカップを持ち上げ、コーヒーを飲む。
「流れてきたんだから、仕方あるまい…」
「だよね~」
「流れてこねーよ、そんなもんっ!!!」
常識で考えれば、明らかにおかしいことだと突っぱねるが、目撃者は真面目な顔つきで語る。
「いや、確かにあれは、俺らも超ひびったよ」
「実際、他の人達は一目散に逃げてたからね」
「そりゃ、逃げるだろ。普通…いやいや、てゆーかマジなの?これ…ついてかなきゃいけないの?」
「おう、しっかりついてこい。つづきいくぞ」
「くっ。待てっギリギリのリアリティーをもさくする」
常識で考えれば、明らかにおかしいことは一目瞭然だ。
異常な状況を易々と受け入れたりはしないのである。
感覚は明らかに、これは『おかしい』だと告げている。
「いい感じでもさくしてね!その後の反応、楽しみにしてるから!!」
「オイ、そこ!笑顔で人の反応楽しむな!!」
とりあえず落ち着こうと吐息をつき、必死に脳内をフル回転し、話の内容から導き出す。
(おっさん…川原…)
そして古市は、川から流れてきたおっさんをホームレスだと結論づけた。
――ホームレス…!!
――橋の下に住んでたホームレスが、何かのひょうしに流された。
(これだ!!)
なんとか理屈をつけて、古市は声を張り上げる。
「よしっ、こい!!」
目の前の奇妙さを、少しでも和らげるために。
「うむ…」
コーヒーを飲んで、男鹿は話を続けた。
――心優しい若者達は、たった二人で大きなおっさんを引きあげた。
(そして―――…二つに割ると、中から元気な男の子が)
「割るなーーーーーーっ!!!!」
絶叫が轟いた。
目を剥いて絶叫する古市の形相に、男鹿は押し黙る。
今度は、響古が口を開いた。
「…二つに割ると、中から元気な男の子が」
「割、る、なーーーーーっ!!」
響古の言葉を遮って、今度は大きく息を吸って叫んだ。
(あの時、びっくりしたよ。だって、古市の口からもう一人の古市がいたんだもん。マトリョーシカかと思ったよ。by.響古)
この反応に対し、男鹿は涼しい顔で無理矢理話を続ける。
「…若者は言いました。『おおっ、なんてかわいい赤ん坊』」
「もういいよっ!!無理無理、誰もついてこねーよ、そんな話!!読者なめんな!!」
「誰が見てるかわからないような読者、なめますか!」
(響古、それは読者に対して失礼じゃないですか。by.管理人)
「――ったく、まじめに聞いて損したぜ。お前が珍しく相談があるとか言うから…わざわざ時間さいてんのに」
もう聞く気なし、という感じに古市は着替え始めた。
「いやいや、まだ続きがあるんだって」
「知るかっ!!オレは、これからデートなんだよ!!お茶飲んだらさっさと帰れ」
デート、という言葉に、思わず声が漏れる。
「えぇっ!?いいなぁ」
「じゃあ、今度オレとデートするか?」
「オイ、人の彼女をデートに誘うな。つーか、お前、彼女いるだろ?」
「響古に勝る女の子なんていねーよ…ってか、ホント信じられねぇな…」
「「何が?」」
そう言うと、古市は盛大に溜め息をつく。
「お前らが付き合ってるなんてよォ…」
まずは、何が彼を落胆させたのかを説明するために、この二人を簡単に説明しよう。
最凶と誉れ高いヤンキー、男鹿 辰巳。
不揃いな短い黒髪、つり上がりできつめの瞳。
どちらかというと、カッコイイというカテゴリーにどうにかこうにか引っかかりそうな感じ。
中学の頃から暴れ回り、ついたあだ名が"デーモン"だの"アバレオーガ"。
そして、最強と謳 われる篠木 響古。
腰まである艶やかな黒髪、雪のように白い肌、長い睫毛に縁取られた瞳。
その顔は美しく気高く、凛々しさに満ちている。
まさに美少女という印象を与えるが、その外見とは裏腹に、武闘派鉄拳で喧嘩では男鹿に負けないほどの実力。
黒一色の容姿から、ついたあだ名が"黒雪姫"。
一見、美女と野獣のような、この凸凹コンビ、否、カップルはその容姿から目立つこともあり『最凶彼氏と最強彼女』と呼ばれて恐れられている。
「しょーがねーだろ」
「そこがおかしーんだよ、何でお前じゃなくて響古なんだ!」
「しょーがないじゃない、好きになっちゃったもん。好きになるのに理由がいるの!?」
響古は、恋する乙女のごとく、ぐっと拳を握りしめる。
好意一直線の言葉に、当の本人は、ここ何カ月の付き合いで確信している。
この少女の押しの強さにも慣れた。
あちらのペースに巻き込まれてはいけない。
「話、戻すぞ。こっからが大事なんだから」
「そうだよー。まだ相談の本題にかすりもしてないんだから」
構わず話を進め、彼氏の反応に慣れたものなのか、響古も話に加わる。
「てめーらのヲタ話につき合ってるヒマはねーつってんだろ!!そんなに続けたけりゃ、その赤ん坊連れてきてから言ってろやボケッ」
「連れてきていいのか?」
「おお、連れてこれるもんならなぁっ!!」
――むかしむかし、あるところに、それはそれはハンサムで、かっこよくて、モテモテで、
それは、普段となんら変わりのない出来事だった。
尽きることのない高音を響かせる野原の真下からは、男達の荒い息遣いが聞こえる。
皆、身体のあちこちを押さえながら呻く。
その中心に佇むのは、一人の少年と少女。
――みんなに尊敬されまくっている、
「うぅ…」
「死ね……男鹿…」
そんな品性の欠片も知性の
「◎△×□卍△!!」
「ちんぴらとしか言いようがないわね、もう少し言葉をひねりなさいよ」
少女が呆れたように、長い髪に指を絡ませて言う。
――尊敬されまくっている、
「……」
「ひでぇ…」
ひねりがないと断言された男達は、台詞だけでなく服装にもひねりがなかった。
さらには、吹き飛び方にもひねりがなかった。
ついでに言うなら、地面に這いつくばる姿にさえひねりがなかった。
彼らはどう見ても、ちんぴらとしか評せないような小物っぷりを全身から発散しまくっていた。
「くっ……ちくしょう」
――そして、キューティーで、プリティーで、ビューティーで、みんなにモテはやされている、
「クソが、女のくせにふざけやがって」
どうにか身を起こした男が、無駄に大きな動きで突進してくる。
少女は、男を完全に見下した表情で侮蔑する。
「女のくせに?それを言っちゃ、お終いでしょう」
刹那、少女は流れるような美しい動作で身体を捻り、男めがけて後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐふぁ」
もろに顔面に食らい、男は派手に吹っ飛ぶ。
ごろごろと三回転ぐらいして、ようやく停止。
気がつけば、大の字になって空を仰いだ。
学生服着て、夕方に土手かなんかでこうなっていればとても青春なのだが、うらぶれた野原では、ただの人生ロードの
――心優しい若者達がおりました。
少年は丈の短い学ランを肩にかけ、振り返った少女の、艶やかな黒髪と短いスカートが風に揺れる。
周りには、顔から口許から血を滴らせ、倒れるちんぴら達の姿。
「全員土下座」
「跪きなさい」
その瞳は、傲岸不遜に全てを見下し、睥睨していた。
彼らは全員、土下座をした。
先程の強気の姿勢が全くなくなっている。
さすがに、これ以上足掻くとまずいということに、遅ればせながら気がついたらしい。
これが、数時間前の出来事……冒頭でちょっと、いやかなりバイオレンスに登場した主人公とヒロインに、ツッコミが入った。
「まてまてまて」
「む?」
「へ?」
それまで淡々と話していた二人は、ぴたりと動きを止めた。
「『む』でも『へ』でもねーよ。誰が心優しくてモテモテだ。いや、響古は別だけどさ」
ピンセットで身だしなみを整える少年――古市が腰まであるまっすぐな黒髪の少女――響古に話しかける。
「ありがと。古市」
「おい、グダグダしてっぞ」
そこに、不揃いの黒髪で目つきが悪い少年――男鹿が割り込む。
「グダグダさせたのはお前だろ!開口一番『全員土下座』と『跪きなさい』って、お前ら、暴君じゃねーか」
ただ今、男鹿と響古は古市の部屋でショートケーキを食べていた。
男鹿は突き刺した苺ごとフォークで差す。
「ばかめ。古市、お前、ばかめ。お前の母ちゃん、でべそ!」
「でべそじゃねーよ」
「っていうか、人様のお母さんに失礼でしょ。辰巳」
最後の苺を食べ終えた響古がつっこむ。
つっこむところ、そこ?
「いいか?よく考えてみろ。オレが理由もなく、人を土下座させる様な男だと思うか?」
まぐまぐ、と言葉の端々に、ケーキを咀嚼する音が混じる。
「うん」
「ワォ。即答」
ピンセットで睫毛を抜いて即答すると、男鹿はその首を両腕で絞め上げる。
「そうかそうか、続きが聞きたいか!!」
「いででで、ギブキブッ」
時は遡り、情けない五人の男達が未だ土下座をしながら謝罪する。
「…いや、
「石高の無敗伝説、男鹿くんが、同じく石高一の美女で"黒雪姫"の篠木さんの膝枕で、あまりにも無防備に寝てるもんだから…」
「つい、チャンスかと思って…」
「チャンスじゃねーよ。お前、あれオレらじゃなかったら死んでっぞ」
「そーだよ。ついあたしも、うとうとしちゃってんだから」
腰を手に当てて、ぷんぷんと怒る響古、しかし似合ってるところが恐ろしい。
先程までの暴君はどこへやら、全く威厳が感じられない。
「いやー、本当にねぇ~」
ハハハハ、と男達は笑う。
二人がいたと思われる場所には、鉄骨が突き刺さっていた。
傍に置いていた二人のカバンが、その衝撃を物語っている。
「死ねばよかったのに…」
一人の男が本音をこぼした途端、男鹿の表情が笑顔で固まった。
「あーあ…ご愁傷様」
彼の中でスイッチが入る音が聞こえ、響古は心の中で合掌する。
――心優しい若者は、川に洗濯に行きました。
「落ちるのかなー。この汚れ」
「ちょっ、ゲボゴボボ。ガボッ、ゴボッ…死ぬっ」
両足を掴み、逆さまで川の中にIN!
落ちるわけがない。
普通に死ねる。
(悪魔だ)
(ひでぇ…)
(アクマ)
噂通りの悪魔の所業に、ちんぴら達は恐怖に怯える。
すると、男鹿に声をかけながら響古が近寄ってくる。
「あはは!面白ーい。辰巳、あたしもやりたーい!」
(こっちも悪魔だー!!)
可愛らしくお願いするには恐ろしい言い草に、とうとう半泣きでぷるぷる震える。
その時、川上の方から何かが流れてきた。
――すると、川上の方から、大きな…大きなおっさんが、どんぶらこっこ、どんぶらこ。
古市は顔色を変え、すぐさま二人の語りを遮った。
「はい、ストーーーーップ!!」
「どーしたの、古市?」
響古が首を傾げて訊ねる。
艶やかな黒髪が肩を滑り落ちていく様子は、サラサラと音が聞こえてくるかのようだった。
これだけは慣れない少女の美貌にドキドキしながらも、古市は訊ねる。
「えーーーと…何?この話…どこへもっていきたいの?つーか何だ!?大きなおっさんって…」
ケーキを食べ終えた二人はカップを持ち上げ、コーヒーを飲む。
「流れてきたんだから、仕方あるまい…」
「だよね~」
「流れてこねーよ、そんなもんっ!!!」
常識で考えれば、明らかにおかしいことだと突っぱねるが、目撃者は真面目な顔つきで語る。
「いや、確かにあれは、俺らも超ひびったよ」
「実際、他の人達は一目散に逃げてたからね」
「そりゃ、逃げるだろ。普通…いやいや、てゆーかマジなの?これ…ついてかなきゃいけないの?」
「おう、しっかりついてこい。つづきいくぞ」
「くっ。待てっギリギリのリアリティーをもさくする」
常識で考えれば、明らかにおかしいことは一目瞭然だ。
異常な状況を易々と受け入れたりはしないのである。
感覚は明らかに、これは『おかしい』だと告げている。
「いい感じでもさくしてね!その後の反応、楽しみにしてるから!!」
「オイ、そこ!笑顔で人の反応楽しむな!!」
とりあえず落ち着こうと吐息をつき、必死に脳内をフル回転し、話の内容から導き出す。
(おっさん…川原…)
そして古市は、川から流れてきたおっさんをホームレスだと結論づけた。
――ホームレス…!!
――橋の下に住んでたホームレスが、何かのひょうしに流された。
(これだ!!)
なんとか理屈をつけて、古市は声を張り上げる。
「よしっ、こい!!」
目の前の奇妙さを、少しでも和らげるために。
「うむ…」
コーヒーを飲んで、男鹿は話を続けた。
――心優しい若者達は、たった二人で大きなおっさんを引きあげた。
(そして―――…二つに割ると、中から元気な男の子が)
「割るなーーーーーーっ!!!!」
絶叫が轟いた。
目を剥いて絶叫する古市の形相に、男鹿は押し黙る。
今度は、響古が口を開いた。
「…二つに割ると、中から元気な男の子が」
「割、る、なーーーーーっ!!」
響古の言葉を遮って、今度は大きく息を吸って叫んだ。
(あの時、びっくりしたよ。だって、古市の口からもう一人の古市がいたんだもん。マトリョーシカかと思ったよ。by.響古)
この反応に対し、男鹿は涼しい顔で無理矢理話を続ける。
「…若者は言いました。『おおっ、なんてかわいい赤ん坊』」
「もういいよっ!!無理無理、誰もついてこねーよ、そんな話!!読者なめんな!!」
「誰が見てるかわからないような読者、なめますか!」
(響古、それは読者に対して失礼じゃないですか。by.管理人)
「――ったく、まじめに聞いて損したぜ。お前が珍しく相談があるとか言うから…わざわざ時間さいてんのに」
もう聞く気なし、という感じに古市は着替え始めた。
「いやいや、まだ続きがあるんだって」
「知るかっ!!オレは、これからデートなんだよ!!お茶飲んだらさっさと帰れ」
デート、という言葉に、思わず声が漏れる。
「えぇっ!?いいなぁ」
「じゃあ、今度オレとデートするか?」
「オイ、人の彼女をデートに誘うな。つーか、お前、彼女いるだろ?」
「響古に勝る女の子なんていねーよ…ってか、ホント信じられねぇな…」
「「何が?」」
そう言うと、古市は盛大に溜め息をつく。
「お前らが付き合ってるなんてよォ…」
まずは、何が彼を落胆させたのかを説明するために、この二人を簡単に説明しよう。
最凶と誉れ高いヤンキー、男鹿 辰巳。
不揃いな短い黒髪、つり上がりできつめの瞳。
どちらかというと、カッコイイというカテゴリーにどうにかこうにか引っかかりそうな感じ。
中学の頃から暴れ回り、ついたあだ名が"デーモン"だの"アバレオーガ"。
そして、最強と
腰まである艶やかな黒髪、雪のように白い肌、長い睫毛に縁取られた瞳。
その顔は美しく気高く、凛々しさに満ちている。
まさに美少女という印象を与えるが、その外見とは裏腹に、武闘派鉄拳で喧嘩では男鹿に負けないほどの実力。
黒一色の容姿から、ついたあだ名が"黒雪姫"。
一見、美女と野獣のような、この凸凹コンビ、否、カップルはその容姿から目立つこともあり『最凶彼氏と最強彼女』と呼ばれて恐れられている。
「しょーがねーだろ」
「そこがおかしーんだよ、何でお前じゃなくて響古なんだ!」
「しょーがないじゃない、好きになっちゃったもん。好きになるのに理由がいるの!?」
響古は、恋する乙女のごとく、ぐっと拳を握りしめる。
好意一直線の言葉に、当の本人は、ここ何カ月の付き合いで確信している。
この少女の押しの強さにも慣れた。
あちらのペースに巻き込まれてはいけない。
「話、戻すぞ。こっからが大事なんだから」
「そうだよー。まだ相談の本題にかすりもしてないんだから」
構わず話を進め、彼氏の反応に慣れたものなのか、響古も話に加わる。
「てめーらのヲタ話につき合ってるヒマはねーつってんだろ!!そんなに続けたけりゃ、その赤ん坊連れてきてから言ってろやボケッ」
「連れてきていいのか?」
「おお、連れてこれるもんならなぁっ!!」