バブ63~65
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バブ63
「バレーか死か」
誰よりも早くバレーボールの練習する男達の様子に、葵達は驚きを隠せなかった。
――…な、一体何が…?
「遅ぇぞ、邦枝!!さっさとコートに上がれっ!!」
姫川が動揺する葵達に気づいて怒鳴る。
「どうした、練習するのだろう?奴らも待ちかねておるぞ」
「ほら!葵さん、あたし達も練習しましょう!」
呆然と突っ立つ葵達を、見兼ねた響古とヒルダが声をかけ、
「おらーー、声だせやーー」
男達は気合いを入れるために、声出しを始める。
「なんなの?あなた…いくら響古の助けを借りたとはいえ、どうやってこんな事を…」
どうやってやる気を焚きつけたのか訊ねると、響古は意味深めな笑みを漏らして、ヒルダは話を振る。
「さぁな。奴らに直接、聞いたらどうだ?」
「んふふふ」
その話題が出た途端、男達は浮かない表情になり、揃って重い口を開いた。
――1日前――…!!
これは響古とヒルダの説得の裏で起こった、涙なしでは語れないある少年達の物語。
目が覚めた彼らは、真っ白な空間にいた。
カタカタと動くウサギのおもちゃが目の前にあるだけで、周囲の全ては白い。
ただ白いだけの空間が地平線の果てまで続いている。
「おい」
「…あ?」
見渡す限りの白い空間で、神崎と姫川は黒い革で全身を縛られていた。
逃げようにも、身動きが取れない。
「なんだ、ここは?」
「ってゆーか、なんだこの状態は!?さっきまで、オレ家で晩飯食ってたよな?!なぁっ!!?」
「………オレが知るかよ…」
か細い囁きでたしなめると、真っ白な空間に誘拐されてきた経緯を告げる。
「テレビ見てたらいきなり目の前にでかい、おっさんと女が現れて…」
「お前もか!?」
「その女に殴られて、気がついた時にはこの状態に…」
「それってヒゲと黒髪の!?」
「あぁ…しかも、気のせーか割れたような。いきなり……だったさ」
姫川は当時の出来事を思い返すように目をつぶる。
「そうだ。裾の長い服を着ていた気がする。でも顔を見る間もなく、気がついた時、オレはもう床に突っ伏していたんだ……それも首を押さえられていたせいで、振り返る事も……振り返る事すらもできなかった」
「そんで?」
「言われたんだ……」
「言われた?」
有無を言わせない口調だった。
いつの間にか部屋に入ってきて、訳がわからない。
混乱する姫川に対し、女は問答無用で床に押し倒し首を押さえていた。
ぼんやりとだが、艶やかな黒髪、雪のように白く透き通った肌、意志の強そうな瞳の凛々しい相貌をもつ少女が飛び込んできた。
ところが、今の彼女は露骨に不機嫌な顔で姫川を睨みつけている。
「ああ一言……『黙って大人しく小汚いツラ引き下げてついてきなさい』って」
放つ言葉が、もう刃。
その冷徹な視線と罵倒を一身に浴びた姫川は、恐怖に硬直すると同時に、何故か頬が紅潮。
「その時、オレは……もう興奮したさ。割れたおっさんなんて、どうでもいいんだ。あれだけの事をされて、あれだけの罵声を浴びて、興奮した……興奮したオレの、オレの魂が許せないんだっ」
男としてのプライドを打ち砕かれた姫川が、呆気に取られる神崎の前でむせび泣く。
「オレは……断じてマゾじゃない!」
悔しさのあまり涙目になって姫川は身体を曲げた。
心の中で暴れる悔しさを吐き出す。
そして、また新たな被害者が現れた。
「どうやらオレ達、拉致られたようーだね…」
「夏目!!」
視線を向ければ、湯気を立てる上半身裸の夏目に愕然としてつっこむ。
「――って、なんだ、その格好!!」
「フロに入ってたら…かろうじてタオルは巻けたけど…」
さらに、その隣からショックで肩を落とす古市も現れた。
「そんなん、まだマシっスよ!!オレなんか脱糞してるトコ、ケツも拭かずに連れてこられたんスよ?もう尊厳とかねースよ」
悲壮感たっぷりな顔つきで悲惨な状況を述べると、さすがの神崎も同情する。
「古市…てめーもか…」
「その後『乙女に不快なモン見せんなぁぁ!!』とか怒鳴られて、思い切り殴られましたけどね……そこに東条さんもいますよ。寝てますケド」
そこには、動物の柄がプリントされた可愛らしいパジャマを着て爆睡している東条。
「――ちっ…大物ぶりやがって……」
「てゆーか、あれ寝巻か…?」
「よーするに、退学組が集められたってわけか」
真っ白な場所に誘拐されてきても爆睡している東条に、肝が据わっているのか鈍感なのか、戸惑う神崎と姫川。
「男鹿は、どーした、男鹿は!?」
「あぁ、男鹿ならそこに…黒コゲてます」
そこで、全身黒焦げで倒れ伏す男鹿を発見した。
「アー」
黒焦げの原因はやはり、ペチペチと叩くベル坊の電撃。
「一体、何が――…っ!!?」
ただ、どこか恍惚とされた男鹿の表情だけが、事の顛末を知らしめる。
「耳たぶが、ハミハミされ、て……カミカミ、され、て………レロレロされて……」
「男鹿、しっかりしろ!!」
「何、訳のわかんねー事言ってやがる!!」
古市と神崎が必死に呼びかけるが、掌で顔を覆ってしくしくと泣いている。
「さんざん焦らして、もてあそんで、たっぷり濡らした後、舌が差しこまれて、そのまま……」
「だからしっかりしろ!!」
「見るな、汚れたオレを、見ないでくれ………」
か細い声で男鹿が言う。
台詞の割には、若干嬉しそうな気がしなくもない。
「もう、お嫁にいけない……耳だけが、大人の階段を五段飛ばしくらいで駆け上がってしまった……」
しまらない遺言を残し、男鹿は気を失った。
心なしか、顔は幸せそうだ。
「全員、集まったようだな…」
甲高いヒールの音を響かせて、黒いゴスロリ服のヒルダが茶封筒を持ってやって来た。
「――では、本題に入るとしよう」
「愛人!!」
退学組が集まったのを確認して進行するヒルダに、男達は一斉に抗議する。
「てめぇの仕業か、このやろうっっ!!」
「そーいや、あの、おっさんも見た事あんぞ。どーゆーつもりだ、こらっ!!」
「ケツふかせてー」
「さっさと帰らせろや、ブスッ!!」
最後の神崎の一言で、彼女の堪忍袋の緒が切れ、
「騒ぐな」
強烈な前蹴りを食らわせることで周囲を黙らせる。
「私は唯 の使いだ。貴様らを集めた、ある、お方のな…」
(あるお方?)
ヒルダの言葉から、古市はある人物を思い至る。
侍女悪魔の彼女の主人であり、ベル坊の本当の親・大魔王である。
――って、おいおい、まさか、大魔王!?
「このディスクにその方の言葉が入っておる。まずは、それを見て貰おーか」
おもちゃと思われたウサギの口にDVDを埋め込み、準備完了。
後は起動するだけ。
「あ、それ、プロジェクターなんだ…」
――えぇーっ!?
――いやいやいや、まじか!?
古市は、その言葉の意味が理解できず、ただただ呆然とする。
――映ってんのか!?
――ついに大魔王登場か!!?
――こんな、ふざけたイベントで!!?
黒幕の大魔王の登場に胸中で驚きに叫んでいると、空間が暗くなる。
ウサギの両目がスクリーンとなって映し出されたのは、高級そうなソファに座り、黒いスーツを身に纏ったアランドロンであった。
背景がやたら豪奢で、凄みとヤクザくささが渾然一体となっている。
≪ようこそ、諸君。私の名はMr.バレーボール≫
『さっきのおっさんじゃねえかっっ!!』
嘘くさい偽名を使うアランドロンに、先程の拉致した犯人と一致した。
≪その隣にいるのが、私の娘のバレーだ≫
≪…始めまして、愚民ども。バレーよ≫
『さっきの女じゃねえかっっ!!』
娘として紹介された、長い黒髪をお団子に結わえた少女――響古は、何故か真っ赤なチャイナドレスを着ていた。
金糸で縫われた竜が踊るその胸元はふくよかな丸みを際立たせ、ざっくりと切り上がったスリットからは太ももをこれでもかと晒し、そこから伸びる生足はドレスの色に合わせたヒールと相まって、普段よりも白く綺麗に映えた。
制服姿の時とは一味違う魅力があって、直視できずに顔を赤らめる男達。
一瞬見惚れ……そして、そのことに気づくと、真っ赤な顔で舌打ちを鳴らす。
まじまじと観察した後、我に返った男達は怒りに吠えくり返る。
「なんで、モニター越し!?」
「黒幕気取りか!!」
「ってか、あの女、どー見ても"黒雪姫"じゃね!?」
続いて、バレーの娘と紹介された少女が響古だと知る者やコスプレ姿に興奮気味な者もいる。
「ムダに3Dだ!!」
「メッタに見れない響古のコスプレ、イイ!!」
「直接来い、直接!!」
「てゆーか、横のマスコットもかなりあやしいぞ」
「何、この茶番!!」
次々と炸裂する鋭いツッコミの中、ヒルダはそれらを無視して説明を始める。
「Mr.バレーボールは戦時下よりバレーボールの普及につとめ、その功績を」
「いいよ、そんな設定!!用件だけ言え!!」
≪「左手はそえるだけ」≫
言いながら、アランドロンは両手を挙げてジェスチャーをする。
ところが、それはどう見てもバスケットボールの動作。
「バスケットボールだ、それは!!」
「おちょくってんのか、てめー、殺すぞ」
どストレートに罵倒・批判する男達に、アランドロンは言う。
≪フフフ…いいね。その若さ、負けん気。そんな君達を集めたのは他でもない、ある映像を見て貰うためだ≫
「映像?」
≪フフフ…VolleyballのVは、VictoryのV!!≫
≪それじゃ、スタート≫
アランドロンのくだらない発言を紛らわすように、響古が実質的に取り仕切る。
――何?
映像の前置きを終えた後、男達は彼の意味不明な発言に呆然とした。
映像が替わると同時に、目の前の光景が一変した。
今、彼らが見ているのは市民体育館である。
「なんだ、ここ?」
「あ、オレ知ってます。市民体育館っスね」
≪――そう。ここは聖石矢魔から徒歩5分の石矢魔体育館。六騎聖が秘密の特訓をしている場所だ≫
中へと進むと、そこでは六騎聖と大学生の練習試合がされていた。
≪まぁ、見たまえ≫
ボールを床にバウンドさせ、そこから静が高く上げてジャンプしながら強くサーブを打つ。
強い返球を、後衛の選手はなんとか受けようとするが、
「くっ」
見事にコートに入った。
卓越した運動センスに男達は唖然と見つめ、
「オガ」
復活した男鹿も加わる。
「バレーか死か」
誰よりも早くバレーボールの練習する男達の様子に、葵達は驚きを隠せなかった。
――…な、一体何が…?
「遅ぇぞ、邦枝!!さっさとコートに上がれっ!!」
姫川が動揺する葵達に気づいて怒鳴る。
「どうした、練習するのだろう?奴らも待ちかねておるぞ」
「ほら!葵さん、あたし達も練習しましょう!」
呆然と突っ立つ葵達を、見兼ねた響古とヒルダが声をかけ、
「おらーー、声だせやーー」
男達は気合いを入れるために、声出しを始める。
「なんなの?あなた…いくら響古の助けを借りたとはいえ、どうやってこんな事を…」
どうやってやる気を焚きつけたのか訊ねると、響古は意味深めな笑みを漏らして、ヒルダは話を振る。
「さぁな。奴らに直接、聞いたらどうだ?」
「んふふふ」
その話題が出た途端、男達は浮かない表情になり、揃って重い口を開いた。
――1日前――…!!
これは響古とヒルダの説得の裏で起こった、涙なしでは語れないある少年達の物語。
目が覚めた彼らは、真っ白な空間にいた。
カタカタと動くウサギのおもちゃが目の前にあるだけで、周囲の全ては白い。
ただ白いだけの空間が地平線の果てまで続いている。
「おい」
「…あ?」
見渡す限りの白い空間で、神崎と姫川は黒い革で全身を縛られていた。
逃げようにも、身動きが取れない。
「なんだ、ここは?」
「ってゆーか、なんだこの状態は!?さっきまで、オレ家で晩飯食ってたよな?!なぁっ!!?」
「………オレが知るかよ…」
か細い囁きでたしなめると、真っ白な空間に誘拐されてきた経緯を告げる。
「テレビ見てたらいきなり目の前にでかい、おっさんと女が現れて…」
「お前もか!?」
「その女に殴られて、気がついた時にはこの状態に…」
「それってヒゲと黒髪の!?」
「あぁ…しかも、気のせーか割れたような。いきなり……だったさ」
姫川は当時の出来事を思い返すように目をつぶる。
「そうだ。裾の長い服を着ていた気がする。でも顔を見る間もなく、気がついた時、オレはもう床に突っ伏していたんだ……それも首を押さえられていたせいで、振り返る事も……振り返る事すらもできなかった」
「そんで?」
「言われたんだ……」
「言われた?」
有無を言わせない口調だった。
いつの間にか部屋に入ってきて、訳がわからない。
混乱する姫川に対し、女は問答無用で床に押し倒し首を押さえていた。
ぼんやりとだが、艶やかな黒髪、雪のように白く透き通った肌、意志の強そうな瞳の凛々しい相貌をもつ少女が飛び込んできた。
ところが、今の彼女は露骨に不機嫌な顔で姫川を睨みつけている。
「ああ一言……『黙って大人しく小汚いツラ引き下げてついてきなさい』って」
放つ言葉が、もう刃。
その冷徹な視線と罵倒を一身に浴びた姫川は、恐怖に硬直すると同時に、何故か頬が紅潮。
「その時、オレは……もう興奮したさ。割れたおっさんなんて、どうでもいいんだ。あれだけの事をされて、あれだけの罵声を浴びて、興奮した……興奮したオレの、オレの魂が許せないんだっ」
男としてのプライドを打ち砕かれた姫川が、呆気に取られる神崎の前でむせび泣く。
「オレは……断じてマゾじゃない!」
悔しさのあまり涙目になって姫川は身体を曲げた。
心の中で暴れる悔しさを吐き出す。
そして、また新たな被害者が現れた。
「どうやらオレ達、拉致られたようーだね…」
「夏目!!」
視線を向ければ、湯気を立てる上半身裸の夏目に愕然としてつっこむ。
「――って、なんだ、その格好!!」
「フロに入ってたら…かろうじてタオルは巻けたけど…」
さらに、その隣からショックで肩を落とす古市も現れた。
「そんなん、まだマシっスよ!!オレなんか脱糞してるトコ、ケツも拭かずに連れてこられたんスよ?もう尊厳とかねースよ」
悲壮感たっぷりな顔つきで悲惨な状況を述べると、さすがの神崎も同情する。
「古市…てめーもか…」
「その後『乙女に不快なモン見せんなぁぁ!!』とか怒鳴られて、思い切り殴られましたけどね……そこに東条さんもいますよ。寝てますケド」
そこには、動物の柄がプリントされた可愛らしいパジャマを着て爆睡している東条。
「――ちっ…大物ぶりやがって……」
「てゆーか、あれ寝巻か…?」
「よーするに、退学組が集められたってわけか」
真っ白な場所に誘拐されてきても爆睡している東条に、肝が据わっているのか鈍感なのか、戸惑う神崎と姫川。
「男鹿は、どーした、男鹿は!?」
「あぁ、男鹿ならそこに…黒コゲてます」
そこで、全身黒焦げで倒れ伏す男鹿を発見した。
「アー」
黒焦げの原因はやはり、ペチペチと叩くベル坊の電撃。
「一体、何が――…っ!!?」
ただ、どこか恍惚とされた男鹿の表情だけが、事の顛末を知らしめる。
「耳たぶが、ハミハミされ、て……カミカミ、され、て………レロレロされて……」
「男鹿、しっかりしろ!!」
「何、訳のわかんねー事言ってやがる!!」
古市と神崎が必死に呼びかけるが、掌で顔を覆ってしくしくと泣いている。
「さんざん焦らして、もてあそんで、たっぷり濡らした後、舌が差しこまれて、そのまま……」
「だからしっかりしろ!!」
「見るな、汚れたオレを、見ないでくれ………」
か細い声で男鹿が言う。
台詞の割には、若干嬉しそうな気がしなくもない。
「もう、お嫁にいけない……耳だけが、大人の階段を五段飛ばしくらいで駆け上がってしまった……」
しまらない遺言を残し、男鹿は気を失った。
心なしか、顔は幸せそうだ。
「全員、集まったようだな…」
甲高いヒールの音を響かせて、黒いゴスロリ服のヒルダが茶封筒を持ってやって来た。
「――では、本題に入るとしよう」
「愛人!!」
退学組が集まったのを確認して進行するヒルダに、男達は一斉に抗議する。
「てめぇの仕業か、このやろうっっ!!」
「そーいや、あの、おっさんも見た事あんぞ。どーゆーつもりだ、こらっ!!」
「ケツふかせてー」
「さっさと帰らせろや、ブスッ!!」
最後の神崎の一言で、彼女の堪忍袋の緒が切れ、
「騒ぐな」
強烈な前蹴りを食らわせることで周囲を黙らせる。
「私は
(あるお方?)
ヒルダの言葉から、古市はある人物を思い至る。
侍女悪魔の彼女の主人であり、ベル坊の本当の親・大魔王である。
――って、おいおい、まさか、大魔王!?
「このディスクにその方の言葉が入っておる。まずは、それを見て貰おーか」
おもちゃと思われたウサギの口にDVDを埋め込み、準備完了。
後は起動するだけ。
「あ、それ、プロジェクターなんだ…」
――えぇーっ!?
――いやいやいや、まじか!?
古市は、その言葉の意味が理解できず、ただただ呆然とする。
――映ってんのか!?
――ついに大魔王登場か!!?
――こんな、ふざけたイベントで!!?
黒幕の大魔王の登場に胸中で驚きに叫んでいると、空間が暗くなる。
ウサギの両目がスクリーンとなって映し出されたのは、高級そうなソファに座り、黒いスーツを身に纏ったアランドロンであった。
背景がやたら豪奢で、凄みとヤクザくささが渾然一体となっている。
≪ようこそ、諸君。私の名はMr.バレーボール≫
『さっきのおっさんじゃねえかっっ!!』
嘘くさい偽名を使うアランドロンに、先程の拉致した犯人と一致した。
≪その隣にいるのが、私の娘のバレーだ≫
≪…始めまして、愚民ども。バレーよ≫
『さっきの女じゃねえかっっ!!』
娘として紹介された、長い黒髪をお団子に結わえた少女――響古は、何故か真っ赤なチャイナドレスを着ていた。
金糸で縫われた竜が踊るその胸元はふくよかな丸みを際立たせ、ざっくりと切り上がったスリットからは太ももをこれでもかと晒し、そこから伸びる生足はドレスの色に合わせたヒールと相まって、普段よりも白く綺麗に映えた。
制服姿の時とは一味違う魅力があって、直視できずに顔を赤らめる男達。
一瞬見惚れ……そして、そのことに気づくと、真っ赤な顔で舌打ちを鳴らす。
まじまじと観察した後、我に返った男達は怒りに吠えくり返る。
「なんで、モニター越し!?」
「黒幕気取りか!!」
「ってか、あの女、どー見ても"黒雪姫"じゃね!?」
続いて、バレーの娘と紹介された少女が響古だと知る者やコスプレ姿に興奮気味な者もいる。
「ムダに3Dだ!!」
「メッタに見れない響古のコスプレ、イイ!!」
「直接来い、直接!!」
「てゆーか、横のマスコットもかなりあやしいぞ」
「何、この茶番!!」
次々と炸裂する鋭いツッコミの中、ヒルダはそれらを無視して説明を始める。
「Mr.バレーボールは戦時下よりバレーボールの普及につとめ、その功績を」
「いいよ、そんな設定!!用件だけ言え!!」
≪「左手はそえるだけ」≫
言いながら、アランドロンは両手を挙げてジェスチャーをする。
ところが、それはどう見てもバスケットボールの動作。
「バスケットボールだ、それは!!」
「おちょくってんのか、てめー、殺すぞ」
どストレートに罵倒・批判する男達に、アランドロンは言う。
≪フフフ…いいね。その若さ、負けん気。そんな君達を集めたのは他でもない、ある映像を見て貰うためだ≫
「映像?」
≪フフフ…VolleyballのVは、VictoryのV!!≫
≪それじゃ、スタート≫
アランドロンのくだらない発言を紛らわすように、響古が実質的に取り仕切る。
――何?
映像の前置きを終えた後、男達は彼の意味不明な発言に呆然とした。
映像が替わると同時に、目の前の光景が一変した。
今、彼らが見ているのは市民体育館である。
「なんだ、ここ?」
「あ、オレ知ってます。市民体育館っスね」
≪――そう。ここは聖石矢魔から徒歩5分の石矢魔体育館。六騎聖が秘密の特訓をしている場所だ≫
中へと進むと、そこでは六騎聖と大学生の練習試合がされていた。
≪まぁ、見たまえ≫
ボールを床にバウンドさせ、そこから静が高く上げてジャンプしながら強くサーブを打つ。
強い返球を、後衛の選手はなんとか受けようとするが、
「くっ」
見事にコートに入った。
卓越した運動センスに男達は唖然と見つめ、
「オガ」
復活した男鹿も加わる。